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キャリアオーナーシップとは?意味・取り組みの例・メリット・デメリットを紹介

キャリアオーナーシップとは?意味・取り組みの例・メリット・デメリットを紹介

企業が社員を守ってきた時代はもう古く、現代では、企業は社員のキャリアを支援する役割を担うようになったのです。そこで注目されているのが、「キャリアオーナーシップ」です。

本記事では、キャリアオーナーシップの本質に迫り、企業が担うべき役割を解説します。メリットとデメリット、具体的な取り組みの例も紹介していますので、実践への活用にもお役立てください。

キャリアオーナーシップとは?

キャリアオーナーシップとは、主体的に自身のキャリアと向き合い行動することを指します。「キャリア」と「オーナーシップ」を組み合わせた造語であり、「キャリア自律」と同義で扱われます。

「キャリア」と「オーナーシップ」の意味を深掘りしていき、キャリアオーナーシップの定義について理解を深めていきましょう。

キャリアとは?

そもそも「キャリア」とは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すと、厚生労働省が定義しています。つまり、仕事における過去の経験から将来の計画までの継続的な「職務経歴」という意味を持ちます。

<参照>【厚生労働省】施策紹介「キャリアコンサルティング」について

オーナーシップとは?

次に「オーナーシップ」とは、直訳すると所有権という意味があります。ビジネスシーンでは、個人が“当事者意識”を持って物事に取り組む姿勢を指しています。

キャリアオーナーシップの意味

この2つの造語であるキャリアオーナーシップの意味を改めて定義すると下記のように言えます。

“これまでに培ってきたスキルや職務経験を活かして、将来的にどのような業務をしたいか、どのように貢献できるか、さらには、どの環境であれば実現できるのかを自分事で考え、納得のいく仕事人生を自分で見つけていくこと”

何が起こっても不思議ではないVUCAの時代において、キャリア自律という考え方が浸透してきているのです。

キャリアオーナーシップが注目される背景

キャリアオーナーシップという考え方が提唱されている背景には、3つの変化が関係しています。

終身雇用からの脱却

終身雇用制度は、これまでの日本企業の特徴の1つです。企業が倒産しない限りは定年まで雇用され続ける終身雇用は、いわば雇い続けることで社員を守る制度と言えます。しかし、急激な変化を伴う現代の競争環境で企業を成長させるには、終身雇用制度では対応が難しく、社員は雇用を保障されるよりも柔軟なキャリアの支援を望んでいるのです。

このような社会情勢から、同一企業に勤め続ける人の割合は減少傾向にあり、終身雇用を前提とした企業経営は困難になってきています。

年功序列からの脱却

終身雇用制度が崩れると、年齢や勤続年数で役職・賃金が決まる年功序列の考え方は通用しなくなります。同一企業に勤め続ける人が減少傾向にある中では、各分野の専門性や成果に基づいた評価制度を運用していく必要があるのです。

自分に求められているスキルは何か、どのスキルを身に着ければ会社に貢献できるのか、どの環境であれば実力が発揮できるのかといった、社員自らがキャリアを考えることの重要性が高まっています。

ジョブ型雇用の定着

企業が必要とする職務を遂行するのに適したスキル・経験を持った人材を採用する“ジョブ型雇用”を推進する動きが加速しています。経団連が導入・活用を提起し、政府がジョブ型雇用と相性の良い関連法を整備するなど、雇用システムの改革を積極的に進めていることも、キャリアオーナーシップの考え方を後押ししています。

“メンバーシップ型雇用”のように、一括採用から雇用し続けて社員を守るという雇用システムは限界を迎えました。今や、それぞれの社員が時代の変化に対応し、どこでも活躍できるような自律的なキャリアを企業が支援するという考え方が求められています。

<参照>【日本経済新聞】経団連、ジョブ型雇用「検討必要」 春季交渉方針/2022年1月18日付

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企業が担うべき役割

2018年、経済産業省は「キャリア教育推進に向けた経済産業省の取組み」の中で、キャリアオーナーシップに基づいた自律的なキャリア形成とそれを支援する職場・教育環境の充実が不可欠であると公表しました。

<参照>【経済産業省】キャリア教育推進に向けた経済産業省の取組み

このように、社員の雇用に対する価値観が変化してきた今、終身雇用と年功序列からの脱却と併せて、どのような取り組みを実行すれば良いのでしょうか。本章では、キャリアオーナーシップの考え方を促進するための企業の役割を3つ紹介します。

①リテンションマネジメント

リテンションマネジメントとは、「今企業にいる必要な人材を保持して、継続的な活躍を促進する取り組み」を意味します。これにより、“離職を防ぐこと”と“社員に長く活躍してもらうこと”を目的としています。

終身雇用を前提とした雇用は減りつつありますが、とはいえ、優秀な人材を自社に留保することは経営戦略上有益です。長く勤務することでメリットを得られる制度であった終身雇用から、長く活躍できる環境を提供するリテンションマネジメントという役割にシフトしているのです。

社員に長く活躍してもらうためには、今後のキャリアを具体的にイメージさせることが重要なポイントです。「今の会社では将来の姿が見えない」「任される業務に一貫性がない」と思っている状態では、高いパフォーマンスは見込めません。新たなキャリアを求めて、新天地へ行ってしまうこともあるでしょう。

まずは社員一人一人と向き合い、キャリアについてヒアリングすることで、キャリアの将来性や会社への貢献度を具体的に提示してみると良いでしょう。例えば、企業が用意できる役割の提供や会社が期待するキャリアビジョンを明確に伝えるなど、社員のモチベーション管理を積極的に実施することが重要なミッションです。

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②副業の解禁

副業を解禁することでキャリアオーナーシップを向上することができます。なぜなら、自身のスキルが貢献できる環境を自分で切り開き、キャリアの選択肢を増やすことができるからです。一方の企業目線では、「自社へのコミットに影響が出てしまう」「人材流出の可能性がある」などの懸念から副業を解禁することを躊躇うこともあるでしょう。

副業が禁止されていた今までは、新たな環境への挑戦や自分のスキルレベルを向上するためには、“転職”という選択肢しかありませんでした。ここに“副業”という選択肢が加わることで、現職を辞めずに挑戦できる環境も整い、社員のキャリア自律を後押しできるような支援を促進することができるのです。

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③成果主義へのシフト

終身雇用と年功序列から脱却することで、「成果」に基づいた評価をする必要があります。成果を出せば賃金が上がる、成果が出なければ賃金は下がるという単純な仕組みです。変化の速い現代において、当然ながら社員に求められる役割やスキルも変化してきます。この変化に対して、社員自身が自律的に取り組んだ結果の会社への貢献度を評価すべきであり、成果主義での人事制度の運用は会社の競争力を高める土台になっているのです。

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キャリアオーナーシップを推進するメリット

ジョブ型雇用が推奨されて以来、個人のキャリアを尊重し支援するという考え方を取り入れている企業も出てきています。それだけのメリットがキャリアオーナーシップには秘められているのです。

★生産性の向上

★離職率の低下

★優秀人材の確保

★生産性の向上

キャリアオーナーシップが推進されると、主体的に業務を遂行できる自律型人材の育成に役立ちます。会社から言われたことだけをやる受け身の人材ではなく、成果を出すためには何が必要かを自律的に考えて実行に移せる人材が多くいれば、スムーズな組織運営に繋がり、会社全体の生産性を高めてくれる存在になるのです。

★離職率の低下

自身のキャリア形成を主体的に考えさせると、転職という選択を助長してしまうのではないかと思われる方も多くいるでしょう。実は逆です。

前提として、“転職させない”という訳ではなく、転職以外のキャリアを提示できる点がメリットに当たります。キャリアオーナーシップを持った社員は、会社からの期待役割を常に意識して業務に取り組んでいます。したがって、今の仕事に誇りを持ち、更なるスキル向上に向けたアクションを取り続けているのです。

そのため、会社は社員の将来的なキャリアを考えた組織運営をしていく必要があります。取り組みの例は後述していますので、参考にしてください。

★優秀人材の確保

キャリアオーナーシップを持つ社員にとっては、社員のキャリアを第一に考えてくれる企業は魅力的に映ります。入社後のスキルアップや新たな知識の習得を支援してくれる環境に身を置くことで、将来のビジョンや目的が明確な状態で仕事に取り組めるため、高いモチベーションを維持してくれるでしょう。

このように、キャリアオーナーシップを推進することで、既存の優秀人材に対する満足度向上と、新たな優秀人材の採用力向上を実現できるのです。

キャリアオーナーシップに関するデメリット

とはいえ、キャリアオーナーシップという考え方が浸透してきたのは最近の話。多くの企業がキャリアオーナーシップの考え方を取り入れ始める中では、様々なデメリットとも向き合う必要があるのです。

◆ベテラン社員と若手社員の意識の差が大きい

◆チームプレーに対する意識の希薄化

◆若手社員とベテラン社員の意識の差が大きい

これまで年功序列の仕組みで就業してきたベテラン社員と、ジョブ型雇用に基づいたスペシャリスト志向の若手社員では、キャリアオーナーシップに対する積極性が違います。

社員毎に取り組みや意識に差が出てしまうのは当然のことであり、モチベーションを維持させるためのフォローには難しさも伴います。

企業は、この雇用システムのギャップを埋めることには大きな労力を使うでしょう。一方で、キャリアの選択肢が広がるポテンシャルを秘めているのはベテラン社員の方です。長年培ってきたスキルと経験は何にも代えがたい財産であり、人生100年時代と言われる世の中では、まだまだ活躍のフィールドが広がっているのです。

◆チームプレーに対する意識の希薄化

過度なキャリアオーナーシップは、チームプレーに弊害をもたらす要因になります。自分のキャリアは自分で切り開くという概念は時に、自己中心的なマインドに陥る可能性もあり、これまでは出来ていたチームプレーが機能しなくなることも考えられます。

いかなる仕事も1人では完結しません。さらに言うと、優秀な人材は周囲の人を巻き込んで成果を出し続けるのです。会社運営の肝となる組織のバランスにも気を配りながら、キャリアオーナーシップを推進していくべきでしょう。

取り組み内容の例

最後に、キャリアオーナーシップに関する施策を積極的に取り入れて、「グッドキャリア企業アワード2022」のイノベーション賞を受賞した富士通株式会社の取り組みを参考に、キャリアオーナーシップを促進するための取り組み内容の例を3つ紹介していきます。

社内公募制度

社内公募制度とは、人事異動を決定する制度の1つであり、会社内部で各部署が人材を公募し、社員は自らの意思で応募することができる仕組みです。

この制度は、いわば社内転職と捉えることができます。社員のキャリア形成の支援と部署の更なる組織強化を目的とし、社員の主体性を尊重した制度です。企業にとっては、優秀人材の外部流出を防ぐ仕組みとして有効です。

富士通では、グループ内での募集ポジションが常に公開されている状態であり、キャリア志向に応じて挑戦することができます。富士通社内では、「ポスティング制度」と呼ばれ、社員主体の部署異動が活発に行われています。

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1on1ミーティング/キャリアフォロー面談

上司と部下が1対1で行う対話のことを1on1ミーティングと言います。また、人事やキャリアカウンセラーとの面談を実施する企業もあります。

1on1ミーティングは、話し合いによる人材育成の一手段です。上司が部下の悩みに寄り添い、才能を開花させることができれば、部下のモチベーションが向上して自分のキャリアパスについて考えやすくなります。キャリアについての方向性や希望を伝えられる機会を提供するだけでも大きな効果を発揮するでしょう。

富士通では、1on1ミーティングを月に1回以上実施しています。社員によって1on1の内容は様々で、今後のキャリアに対する想いや希望を伝える場としても活用されます。時には上司以外の社員と実施するケースもあり、社内コミュニケーションの活性化が期待できる有意義な時間となっています。

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リスキリング支援

リスキリングとは、これまでに培ったスキルに加えて、業務上必要となる新たなスキルを獲得することを言います。IT技術革新に伴い、キャリアの幅を広げるには、スキルを再習得することが求められているのです。

企業が積極的に社員のリスキリングを支援していくことで、社員のキャリアオーナーシップに対する意識が変わっていくことでしょう。

富士通では、Fujitsu Learning Experienceという学びのポータルサイトを設置し、社内外の有識者から研修を受けることができます。社員が希望するキャリアの実現を目指し、社員がいつでも学べる環境が整っています。

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<参照>キャリアオーナーシップ支援施策/富士通

まとめ

世の中が変化するに伴って、企業も進化を続けていくのです。様々な変化に対応していく中でも、日本特有ともいえる終身雇用・年功序列からの脱却は一筋縄ではいきません。それでも、キャリアオーナーシップの考え方を軸に、新たな社員との向き合い方・会社の在り方を模索していくべきでしょう。

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