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大手企業で導入が進む「副業解禁」!メリット・デメリット、運用事例をご紹介

大手企業で導入が進む「副業解禁」!メリット・デメリット、運用事例をご紹介

次々と進んでいる大企業の副業解禁。企業側は少子高齢化による労働力不足、労働者側は多様な働き方を望むことから、副業解禁の流れは止まりそうにありません。副業解禁の可否は企業の魅力を図る一つの物差しとなりつつあり、日本の職場を変える契機になり得ます。

今回は、副業解禁の背景と現在の動向や解禁がもたらすメリットとデメリット、運用事例をご紹介します。

副業解禁の背景と現在の動向

いつから副業解禁の流れが大きくなったのでしょうか?その背景と現在の動向について解説します。

副業解禁の背景

株式会社リクルートキャリアが2016年に公表した「副業・兼業に係る取組み実態調査事業報告書」によると、副業・兼業を認めていない企業の割合は85.3%という結果が出ており、副業を解禁していたのは日産自動車や花王など数少ない大手企業でした。

しかし「少子高齢化を背景とする構造的な人手不足への対応」や「多様な働き方を求める労働者の増加」という課題を解決するため、2017年にテレワークや副業・兼業と言った柔軟な働き方の実現を目標とする「働き方改革実行計画」が閣議決定されました。

さらに2018年1月、「モデル就業規則(企業が就業規則を作るための指針)」が改定。公務員を除き「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定が「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」に変更されました。

こうした流れを受け、2018年4月に新生銀行が大手銀行としては初めて「副業」(本業のかたわらに行うアルバイトやクラウドソーシングなど)と「兼業」(本業に重ねて行う事業や仕事)をともに解禁。続いてセガサミーホールディングスやユニ・チャーム、ソフトバンクといった大手企業も続々「副業」を解禁しました。2018年はまさに「副業元年」と呼ばれることもあり、副業解禁の背景には「働き方改革」が大きくかかわっていることがわかります。

参考:株式会社リクルートキャリア 副業・兼業に係る取組み実態調査事業報告書

副業解禁 現在の動向

2016年では85.3%の企業が副業を認めていませんでしたが、その後、経団連が発表した「2020年労働時間等実態調査」では、副業・兼業を認めている企業はまだ22%にとどまり、副業解禁の流れは大半の企業へはに及んでいないことがわかります。

また、認めていると回答した企業を業種別にみていくと、1位は情報通信業、2位は電気・ガス・熱供給・水道業、3位はその他業種、4位は金融業・保険業、製造業、5位は卸売業・小売業となっており、1位の情報通信業は52%の企業が副業を認めているという結果になりました。

さらに従業員規模別にみると、従業員規模が多ければ多いほど副業が解禁されており、少ない企業では副業解禁が進んでいないという結果も出ています。

2020年労働時間等実態調査 副業兼業①全体②従業員規模別

2020年労働時間等実態調査 副業兼業③業種別
「2020年労働時間等実態調査」の結果から、「働き方改革」の一環でモデル就業規則の改定がなされましたが、副業が解禁されていない企業が圧倒的に多く、浸透しているとは言いにくいのが現状です。現在、副業解禁は義務化されておらず各企業の判断に委ねられています。そうした背景も副業が解禁されない原因の一つです。

参考:日本経済団体連合会 2020年労働時間等実態調査の集計結果

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副業解禁のメリット・デメリット

副業解禁となると、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。企業側、従業員側それぞれの視点から解説します。

副業解禁のメリット

<企業側のメリット>
① 従業員のスキルアップ
副業先で働くことで、本業でのスキルや知識、経験を活かしながら新たな経験を得ることもあるため、本業でそれらを活かすことができ従業員の質が高まる可能性があります。

② 企業の魅力アップ
企業の魅力の一つとして多様な働き方を認めていることをアピールできるため、採用時に他の企業よりも優位になる可能性があります。

③ 事業機会の拡大
副業先で生まれた人脈や関係性を活用し、新たな事業機会の拡大につながる可能性があります。

<従業員側のメリット>
① 自身のスキルアップ
副業先で得たスキルや知識、経験を本業で活かすことができ、キャリア形成に活用できる可能性があります。

② 収入アップ
本業だけでなく、副業からの収入も入ってくるため今までよりも収入増加が見込めます。

③ やりたいことにチャレンジできる
本業ではできない業務を、副業先で行うことでよりモチベーションアップに繋がる可能性があります。

副業解禁のデメリット

<企業側のデメリット>
① 生産性低下のリスク
本業の終了後や休日、祝日に副業を行う人が多いため、なかなか休む時間を取ることができず、本業に支障が出てしまい生産性が低下するリスクがあります。副業を行うにあたり、事前に副業で働くことのできる時間を社内ルールや規程で定めることによって、本業に支障が出ることを回避することができます。

② 人材流出のリスク
本業よりも副業の優先度が上がってしまい、副業先に転職されてしまうというリスクがあります。副業に関するルールを作っても、人材流出をおさえることはできません。副業開始前からしっかりと従業員と信頼関係を作り、本業が自分の居場所だと感じてもらえるようにしましょう。

③ 機密情報漏洩リスク
本業で得た情報を副業先に持ち込み活用されてしまうリスクや、本業と副業での情報が混ざってしまいどちらの情報なのかわからなくなってしまうことがあります。会社の機密情報の取り扱いについて事前にしっかりと社内ルールや規程の制定や従業員と誓約書を交わすことで、「秘密保持義務」、「競合避止義務」を確保することができます。

<従業員側のデメリット>
① 「職務専念義務」を遂行できなくなるリスク
職務専念義務とは、仕事中はしっかりと業務に集中しなければならないという義務のことで、労働契約を締結した時点で発生します。本業と副業、休みなく働いていたために本業が疎かになってしまうと「職務専念義務」に触れてしまうことになるので注意が必要です。本業、副業それぞれバランスよく業務をこなし、しっかりと休息時間を取るようにしましょう。

② 雇用保険等の適用対象外となるリスク
1週間の所定労働時間が短時間の業務を複数行うことで、雇用保険が適用されない場合があります。副業を始める前に、しっかりと雇用保険が適用される範囲内か調べてから行うことが理想的です。

副業解禁する際の企業が注意すべきポイント

副業解禁する際、企業側では就業規則の変更や副業に関するルールの設定、労働時間の把握等事前準備が必要です。ここでは副業解禁をする際の企業が注意すべきポイントを解説します。

① 就業規則の変更
副業解禁の背景にも記載をしましたが、就業規則内で「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と記載されている場合「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」に記載を修正するか、文言の削除が必要になります。

また、就業規則内に副業に関する規定を設けることも可能となっており、厚生労働省が出している「モデル就業規則」では以下のようにルールについて例を記載しています。

(副業・兼業)
第●条  労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合

これらを参考に自社に合った内容に修正することも可能です。
また、就業規則は変更があった場合は、労働基準監督署への提出が必要なため、必ず変更した場合は届出を行いましょう。

② ルールの設定
就業規則とは別に副業に関するルールを設け、副業の許可基準を明確にすることが重要です。
<許可基準の例>
・副業を行う際は申請を出すこと
・副業を行う際は24時を過ぎないこと
・競合他社での仕事は控えること
・会社の機密情報の取り扱いについて誓約書を提出すること
・それぞれの勤務時間を本業、副業共に共有すること

参考:厚生労働省 モデル就業規則について

許可基準を明確にすることで、企業側にとっても従業員側にとってもトラブルを回避することができるため、事前にしっかりと基準を設けましょう。

③ 労働時間の把握
副業を解禁した場合、今まで以上に労働時間の把握と管理が必要になります。労働基準法38条1項「時間計算」にある「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」も該当します。つまり、本業と副業の通算で労働時間が計算されることになります。

注意が必要なのが、通算の労働時間が法定労働時間を超えて働いた従業員がいた場合、割増賃金(残業代)の支払いは「後で労働契約を締結した会社」が支払いの義務を負うことになっています。副業よりも本業先で先に労働契約を締結した場合は副業先が支払い、本業よりも副業先で先に労働契約を締結した場合は、本業先が支払います。

また本業、副業での労働時間の管理方法は、勤怠システムやタイムカードへの打刻が多く、副業先から本業先へ、本業先から副業先へ当月のタイムカードや勤怠情報をそれぞれに提出してもらい管理するのが一般的です。副業を行っている従業員からはしっかりと副業先のタイムカードや勤怠情報を提出してもらいましょう。

④ 労災保険の取り扱い
令和2年9月1日労働者災害補償保険法が改定され、それまでは事故が起きた勤務先の賃金額のみを基礎に給付額が決定していましたが、すべての勤務先の賃金を合算した額を基礎に給付額を決定する形に変更となりました。

つまり、副業先で怪我をした際も副業先だけでなく本業でも一部労災の手続きが必要になりました。そのため事故が起こった際は、必ず従業員から報告をもらい、しっかりと労災の手続きを行いましょう。
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副業解禁 運用事例

副業導入企業の副業開始の条件や、申請方法、実際に導入して感じた企業側のメリット・デメリットを運用事例と共にご紹介します。

運用事例① サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社では「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」という人事制度の方針のもと、様々な働き方の多様化にチャレンジしており、その一つが副業の解禁です。

副業解禁の背景には、副業だけでなくネットオークションやブログと言ったアフィリエイトで利益を得るものがあるということ、家事・育児、趣味、地域活動と言った収入の有無にかかわらず社会人は誰しも複数の活動をしているが、なぜ本業だけに専念すると言った制限が必要なのか、という疑問が生まれたことでした。そこで副業を解禁。

サイボウズ株式会社では誰でも会社に断りなく副業が可能とし、副業を行う際は副業申請アプリから申請するだけです。また社内の誰もが見ることができる予定表にも、しっかりと本業の予定、副業の予定が記載されており、公明正大であることで周囲との信頼関係もしっかりと築くことができています。

社員からも副業が解禁されたことにより、スキルを高められた、人脈を広げられた、自分の人生で本当にやりたいことを模索できたと好評です。一方で、情報漏洩や企業ブランドの毀損が起きないよう、徹底した管理が必要になるため細心の注意が必要になっているようです。

参考:サイボウズ株式会社 サイボウズにおける副業(複業)の推進事例

運用事例② ロート製薬株式会社

ロート製薬株式会社では2016年「社員の可能性を広げ高めていき優秀な人材を育てる」という目的のもと、「社外チャレンジワーク」という副業制度を作りました。

副業解禁の背景には、国からの積極的な副業解禁の要請や経営状況から年々残業時間が減っており収入が少ないと感じている社員の声、これから日本の制度は副業や働き方改革に前向きになっていくだろうという予想から解禁に舵を切りました。

ロート製薬が決めた副業を始めることができる条件は3つ。
① 勤務年数3年以上
② 本業に支障をきたさない
③ 就業時間外及び休日のみ実施

このルールを守ることができれば副業を行うことができます。副業を行う際は事前に人事部に申請を行い、上長と面談、承認を得るというフローとなっており、社員の成長を見込んだ副業内容ではない、単純作業だけで学びや成し遂げたいことがない場合は却下されます。

副業を行っている社員からは、自分のスキルを必要としてくれている場所と出会えた、学びたいと思っていたことを学ぶことができた、自分の成長を実感できると好意的です。

参考:ロート製薬株式会社 ロートの複業・兼務実践者リアルレポート2021
参考:ロート製薬は新しい働き方に挑戦しています

運用事例③ ユニ・チャーム株式会社

ユニ・チャーム株式会社では、2018年4月に副業を解禁しました。導入の背景には、異なる環境で新たなスキルや専門性を身につけたり、能力を発揮する機会や人脈を広げる機会を得たりすることで、能力を高め、活躍の場を広げると言った社員のさらなる成長を支援するためです。

副業を行うためのルールは4つ。
① 入社4年目以上
② 個人のスキルアップや成長につながる副業が前提
③ 副業を行える時間は就業時間外や休日のみ
④ 健康管理の観点から24時以降の勤務を禁止

副業を希望する場合は、事前に届出書・契約書を上長及び人事本部長に提出するというフローになっています。

副業を始めた社員からは、どのような仕事が新しい価値を生むのか知るきっかけになった、副業をしたかったが探し方がわからなかったときポータルサイトを立ち上げてくれたことによりどのような仕事があるのかわかり仕事へのモチベーションが上がった、外部企業との提携のきっかけを掴めたと好意的です。

参考:ユニ・チャーム株式会社 社員のさらなる成長を支援する「副業制度」の導入

まとめ

副業解禁の背景と現在の動向や解禁がもたらすメリットとデメリット、運用事例をご紹介しました。副業解禁は企業にとって、人材の確保や流出の防止、事業機会の拡大などメリットが大きい一方、実際に導入するとなると機密情報漏洩リスクへの懸念や、労働時間管理の煩雑さと言った手間が発生します。

しかし今後、より多様な働き方を求める労働者の増加や少子高齢化を背景とする構造的な人手不足などが続くと副業を解禁せざるを得ない状況が待っているかもしれません。

デメリットだと感じる部分をしっかりとカバーすることができれば、副業解禁は企業にとってプラスに働く面がとても多く、一度自社に合った副業解禁とはどのような内容なのか、検討してみてはいかがでしょうか。

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