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「働き方改革」で日本の採用はいったいどう変わるのか?

「働き方改革」で日本の採用はいったいどう変わるのか?

2018年6月に「働き方改革」関連法が成立し、2019年4月から順次導入されることが決まりました。これで日本の採用はいったいどう変わるのでしょうか? 法律の内容と日本企業の現状から想定してみたいと思います。

働き方改革は「現場のマネジメント」を大きく変える

結論からいえば、働き方改革関連法が導入されることで、日本の採用は確実に変わっていくでしょう。実は、すでにその動きは起き始めています。例えば、ヤフーは新卒一括採用を廃止し、新卒や既卒、第二新卒などにかかわらず、30歳以下の方を対象とした「ポテンシャル採用」を行っています。また、サイボウズは、自社のオウンドメディア「サイボウズ式」を採用ツールの1つとして位置づけ、積極的に活用しています。今後、新卒採用・キャリア採用ともに、こうした採用方法の進化が加速するでしょう。

なぜかといえば、それは働き方改革が、現場のマネジメントを大きく変えるからです。もう少し具体的に言うと、働き方改革と並行して、これからの日本企業は、「マネジメント改革(ジョブアサイン)」「ダイバーシティ&インクルージョン」「プロフェッショナル人材育成」を進める必要があります。そうした改革の進み具合が、人材採用にも大きく関わってくるのです。

今回の働き方改革関連法の大項目は、「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金」「多様な働き方改革の推進」の3つです。「長時間労働の是正」では、具体的には、残業時間の上限規制、有給取得の義務化、勤務間インターバル制度などが実施されます。「同一労働同一賃金」は、仕事内容が同じもしくは同等の労働者には同じ賃金を支払うという考え方で、これが導入されれば、非正規社員の待遇が改善されるだろうと言われています。「多様な働き方改革の推進」では、テレワークや副業・兼業などを推進したり、年収が高い一部の専門職の労働時間規制をなくす「高度プロフェッショナル制度」を導入したりして、働き方の制限を減らしていきます。

この法案の背景には、人口減少による人手不足があります。女性社員活躍推進や高齢者雇用などの「ダイバーシティ経営」が進むのも、その大きな原因の1つは人手不足です。また、AI・IoT・ビッグデータなどの「第四次産業革命」が進んでいることが、テレワークなどを加速していることも無視できません。これらがすべて、現場のマネジメント改革に大きく関係しています。

「ジョブアサイン」の仕方が従来と大きく変わってくる

以上のことを、もう少しわかりやすくお話ししたいと思います。なお、以下の説明は、大久保幸夫・皆月みゆき『働き方改革 個を活かすマネジメント』(日本経済新聞出版社)を参考にしています。

働き方改革が進む日本企業でいま起こっているのは、第一に、職場のメンバーの多様化です。ひと昔前は、フルタイムで働き、残業の無理が利く正社員メンバーが大多数という職場が多かったですが、そうした職場は急速に減りつつあります。その代わりに、育児との両立を抱えた女性メンバー、介護との両立を抱えたベテランメンバー、自身が病気を抱えるシニア社員、何らかの障害を持つメンバー、日本人以外のメンバーなどがチームに混じるのが、これからの当たり前です。新たに設定される上限まで残業できるメンバーだけでなく、まったく残業できないメンバーや短時間勤務のメンバー、週の何日かはテレワークになるメンバーなどがいるのです。もちろん、考え方や価値観の多様性も増しています。その一方で、同一労働同一賃金によって、正社員・非正規社員の壁は低くなります。

そうすると、当然ながら、「ジョブアサイン(仕事の割り当て)」の仕方は、従来と大きく変わってきます。端的に言えば、これからのマネジャーは、彼らの働き方や勤務条件をよく踏まえた上で、いかにチーム全体の生産性を高めるかを考えて、柔軟に仕事を割り振らなくてはならないのです。また、そもそも残業時間が減る上に、残業できるメンバーが限られていますから、緊急事態にどう対応するかといったこともよく考えなくてはなりません。もちろん、メンバー一人ひとりの話に耳を傾けて、彼らの悩みや問題に踏み込んでいく姿勢も求められます。最近、RPA(ルールエンジンやAIなどを使った業務の自動化・効率化)が注目されていますが、こうしたテクノロジーの導入を検討したほうがよいかもしれません。さらにいえば、当然、単にマネジメントを変えるだけでなく、採算性を見越したビジネスそのものの見直しや再構築、利益構造の見直しなどが必要になるケースも多いはずです。

加えて、一人ひとりの「強み」にフォーカスしたプロフェッショナル人材育成もマネジャーの重要な仕事です。ジョブアサインの際には、一人ひとりの働き方だけでなく、適性・能力・人生なども見据えて、彼・彼女がどういったスキルを伸ばしたらよいか、そのためにいま、どのような仕事にチャレンジするのがよいかも考えることも求められるのです。彼らを付加価値のある人材に育てるのは、マネジャーの責任です。

働き方改革とダイバーシティ経営に力を入れた企業は採用方法の進化をリードしていく

働き方改革によって、現場のマネジメントがこれほど大きく変わるのですから、採用も変わって当然です。おそらく今後は、「多様なメンバーが有意義に楽しく働ける職場かどうか」が、企業の採用力に大きく関わってくるでしょう。つまり、マネジメント改革、ダイバーシティ&インクルージョン、プロフェッショナル人材育成がうまくいっている会社に、優れた人材が集中する可能性が高いのです。逆に、現場のマネジメント改革が十分に進んでいない会社は、慢性的な人材不足に陥る恐れがあります。特に、建設・運輸・情報通信・不動産・医療などの業界は、長時間労働体質の改善と現場マネジメントの改革が急務でしょう。

冒頭で紹介したサイボウズのオウンドメディア「サイボウズ式」は、まさに働き方改革やマネジメント改革をアピールする場として機能しています。また、ヤフーのポテンシャル採用は、それ自体が自社のダイバーシティ経営のアピールになっています。このようにして、働き方改革やダイバーシティ経営の進んでいる会社が、採用方法の進化をリードしていくでしょう。これも、これからの日本の採用の大きな特徴です。現状はどうしても転職・求人のためのツールが限られていますから、これらの先進企業や人材ビジネス業界が引っ張る形で、採用方法は多様に進化していくと考えられます。

 

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