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自律型人材とは?育成方法10選と育成事例を解説。組織にもたらすメリット・デメリットも分かる!

自律型人材とは?育成方法10選と育成事例を解説。組織にもたらすメリット・デメリットも分かる!

変化が激しく、将来の予測が難しい現代社会において、企業は取り巻く環境の変化に迅速かつ柔軟に対応しなければなりません。そのなかで注目されているのが、「自律型人材」の育成です。

今回は、自律型人材の意味と特徴を解説し、自律型人材が組織にもたらすメリットとデメリットを紹介します。最後には、企業が取り組むべき自律型人材の育成方法とあるべき組織体制、企業事例について言及していますので、知識のインプットから実践への活用にもお役立てください。

自律型人材とは?

自律型人材とは、自身で考え主体的かつ能動的に業務を遂行できる人材を意味します。自律型人材の対義語は依存型人材であり、上司や同僚から指示された行動しかできない受動的な人材を指します。

自律とは?

そもそも「自律」とは、どのような意味を持つでしょうか。「自律」は自分自身で立てた規範に従って行動することを指す言葉です。

異なる漢字を使った「自立」との違いも説明します。「自立」とは、他への従属から離れて独り立ちすることです。つまり、「自立」は外的影響力からの独り立ちを意味するのに対し、「自律」は外的影響力に関わらず自らの精神面を律することを指しています。

自律性と自主性の違い

「自律性」と「自主性」という言葉。どちらも組織からは重宝される特性ですが、意味合いは少し異なってきます。「自律性」とは、自分自身で計画を立てて自らの考えで目的達成に向けて行動することを指します。

一方の「自主性」とは、自ら率先して行動する性質を指します。したがって、「自律性」は率先して行動する「自主性」に加えて、自らが考えて描いた筋道に沿って行動することを意味します。

このような観点から、自律した行動には“考えて行動する力”が備わっていることが伺えます。

自律型人材の特徴

自律した行動をとる男性
自律型人材は組織にとってプラスになる性質を多く持っています。本章では、自律型人材に共通する特徴を紹介します。

◆期待役割や課題を把握し、自らの意思で考えて行動できる

◆成果にコミットして、責任を持って行動できる

◆一般常識や習慣に囚われない、独自性を業務に反映できる

◆自分自身のスキルに自信を持ち、周囲に流されず行動できる

◆期待役割や課題を把握し、自らの意思で考えて行動できる

自律型人材は自分自身で課題や期待役割を把握し、ルールに従って行動できます。状況判断にも優れており、目標達成に向けた必要な取り組みを理解し、行動に繋げることができ

◆成果にコミットして、責任を持って行動できる

自律型人材は、自らの意思で行動をするため、自身の行動に対する責任感が強いです。自分の業務に責任感が伴うと、最後まで粘り強く取り組む姿勢が芽生えます。また、目標が未達成に終わっても、結果を真摯に受け止めて同じ失敗を繰り返さないための改善策を考えます。自身の行動に責任を持つことで、業務の質が向上するのは間違いないでしょう。

◆一般常識や習慣に囚われない、独自性を業務に反映できる

自律性が高い人材は、目標達成に向けて創意工夫しながら業務を進めます。そのため、一般常識や習慣に囚われない、独自性に富んだアイデアや意見を生み出すことができるのです。自律型人材は、新規事業の創出やプロジェクト発案、課題解決の提案など、企業にとってターニングポイントとなる場面で活躍しやすい特徴を持ちます。

◆自分自身のスキルに自信を持ち、周囲に流されず行動できる

前述したとおり、自身で考えて行動する自律型人材は責任感が強く、簡単には周りの雰囲気や意見に左右されません。自身の行動に自信を持つのは良いことで、集団で話し合いを行い意思決定する場では、自分の意見を積極的に発言します。

ただし、会社の方針や周囲の意見を尊重しない訳ではありません。常に周りの意見も取り入れながら、自身の意見もしっかりと主張するアサーティブなコミュニケーションを意識し、全員が納得できる答えに辿り着くよう意見交換をするため、目標達成に向けた最善の行動を探求することもできるのです。

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なぜ自律型人材が必要とされているのか?

あらゆる企業が欲しがる自律型人材ですが、なぜ今必要とされているのでしょうか。時代のうねりに伴う主に3つの観点から、自律型人材の注目度が高まっているようです。

①VUCAの時代を勝ち抜くため

現在、グローバル化に伴う国際競争の激化や、消費者ニーズの多様化、IT技術の発展により、ビジネスを取り巻く環境は複雑になっています。予想できない事象が次々と起こり、これまでの常識が通用しなくなる状況、つまり将来を予測するのが困難なVUCA(ブーカ)時代が来ているのです。

急速に変化を続ける社会においては、変化にいち早く気づき、その変化に応じた対応をする必要があります。このとき、受け身な人材が多い組織では変化のスピードについていけず、企業が衰退してしまう恐れがあります。企業が時代のスピードについていくためには、変化があっても主体的・能動的に行動できる自律型人材が必要不可欠なのです。

②雇用方針が変化しているため

2022年9月23日、日本の岸田文雄総理大臣はニューヨーク証券取引所での講演にて、“日本企業にジョブ型の職務給中心の給与体系への移行を促す指針”を2023年春までに官民で策定することを明らかにしました。

これまでの日本企業は、「メンバーシップ型雇用」が一般的でした。新卒一括採用で労働力を確保し、職種やスキルではなく終身雇用を前提とした年功序列の評価を実施してきたのです。しかし今やVUCAの時代。「メンバーシップ型雇用」では専門人材の確保が難しいというデメリットがあります。これから先、国際競争力を高めIT革命の波に乗るためには、「メンバーシップ型雇用」から「ジョブ型雇用」への切り替えが必要になってくるのです。

ジョブ型雇用とは、職種や職務内容など募集ポジションに特化したスキル・知識を持った専門人材を採用することです。専門人材は、その道のプロフェッショナルとして自己研鑽を重ねて成長しており、自律型人材の要素を多く持っています。

ジョブ型雇用へシフトすることに伴い、メンバーシップ型雇用により活躍の場を広げてきたジェネラリスト人材は、特定の専門性を身に着けて自分のスキルで勝負できるスペシャリスト人材へと、自身の特徴を変えていく必要があります。日本国全体が「ジョブ型雇用」にシフトする今、自律型人材の採用・育成をできるか否かに企業の真価が問われているのです。

<参照>【日本経済新聞】ジョブ型へ移行指針、官民で来春までに策定 岸田首相

③働き方が多様化しているため

VUCAの影響を受け、働き方の多様化も進んでいます。例えば、フレックスタイム制やテレワークなど、場所と時間に拘束されずに仕事ができる環境が当たり前になってきました。労働者の働きやすさや生産性の向上が期待できる一方で、社員によって働き方や働く場所が異なるため、管理者側の負担が大きく、マネジメントが難しくなっているという側面もあります。

さまざまな働き方がある中、自ら考えて判断しながら業務を遂行できる自律型人材がいれば、企業や管理職の負担を抑えることができます。指示待ちの人材が減れば、それだけスムーズな組織運営ができるということです。自律型人材が多い組織では、コストの削減やさらなる生産性の向上、業績アップも期待できるでしょう。

自律型人材が企業にもたらすメリット・デメリット

メリットとデメリットの図
自律型人材の定義は各企業によって様々であり、既存の社員を自社の業務内容やカルチャーに合った自律型人材へと育成する必要があります。本章では、自律型人材を育成する4つのメリットと2つのデメリットを解説します。

★メリット

1.業務効率化の実現

2.管理者の負担軽減

3.多様な働き方での組織運営

4.独自性のあるアイデア創出

1.業務効率化の実現

自ら考えて行動できることが自律型人材の特徴であるため、業務の優先順位を決めながら注力すべき仕事に集中して取り組むことができます。上司に言われる前に改善策・代替案を提示することで、上司の指示を待つ時間も減り、効率よく業務を遂行することができるのです。また、イレギュラーな対応やトラブルが発生しても、まずは自身の判断で迅速に動けるため、損失を最小限に抑えることが可能になります。

2.管理者の負担軽減

実は自律型人材を育成することで業務を効率化できるのは、管理者側も同様です。自律した行動をとる部下に対して、管理者側が細かくマネジメントする必要がありません。今まで細やかなマネジメントに充てていた時間を、新たなトレンド収集や成長支援に充てることもできるようになります。

現在、たとえ優秀な管理職であっても、1人では日々変化する社会のニーズやトレンド、多様化する価値観への対応が追いつかない時代となっています。管理職の負担を減らし、かつスピード感ある経営を行う場合、自律型人材は欠かせない存在となるでしょう。

3.多様な働き方での組織運営

2000年代に入り発生したデジタルシフトの波は、2020年に起こった新型コロナウイルス感染症の流行でそのスピードを加速させました。中でも、リモートワークに切り替える企業が急増し、オフィス以外での働く事が当たり前の世の中になりました。

リモートワーク下では、管理職の目が届かない範囲が増えますが、自律型人材であれば細かく指示されなくても、自分がなすべき業務を遂行することができます。また、計画的に責任を持って業務を遂行するため、管理職が監視をしなくてもスムーズな組織運営を実現することができます。

4.独自性のあるアイデア創出

企業にとって、競合に勝る、ないしは競合優位性を際立たせるには、独自性のある発想は欠かせない要素と言えるでしょう。しかし、指示された範囲内の行動だけでは新たなイノベーションは起こりにくいです。自分の発想やスキルを仕事に直結できる自律型人材には、会社をより良くするアイデアを創出できる可能性を秘めています。

他社にはない商品やサービス開発ができることはもちろん、自社にコミットメントしたユニークな社内制度や仕組みづくりも期待できます。他社との差別化で競争優位性を確立することができるでしょう。

◆デメリット

1.手間と時間への投資

2.チームプレーへの支障

3.ホウレンソウの連携不足

1.手間と時間への投資

自律型人材の育成は一筋縄ではいきません。なぜなら、協調性・判断力・主体性・能動性など企業によって必要とする能力は異なるため、形式的な研修を受講したからと言って自律型人材になるわけではないからです。自社における自律型人材の定義を明確にし、研修準備に手間や時間をかけてでも自社で工夫した育成をしていく必要があります。育成方法については後述していますので、ぜひ参考にしてください。

2.チームプレーへの支障

自律型人材が育つ中で気を付けなくてはならないのが、チームプレーへの意識です。自律型人材を多く抱えると、自身で考えて業務を進める半面、チームメンバーとのナレッジの共有不足やコミュニケーション機会の損失が目立ち、チームの統率が取れない組織になってしまう恐れもあります。

自分で判断して行動できることは、周りの力を必要としていない訳ではありません。自律型人材の育成において、“自走すること=1人で業務を進めること”という考え方は控えましょう。まずは自分自身を理解し、“できる業務”、“任せるべき業務”、“一緒に取り組むべき業務”の判断を促すことが重要です。自律型人材の育成に努める組織の管理職は、チームプレーへの意識醸成が組織マネジメントの重要部分を占めることになるでしょう。

3.ホウレンソウの連携不足

自律型人材は自身の考えで業務を遂行できるがゆえに、上司への「報告」「連絡」「相談」が疎かになってしまうリスクがあります。特に注意すべきは、クレームやトラブルなどのネガティブなやり取りが、上司が知らない間に自己解決されていたり、取り返しのつかない状況で報告を受けたりすることです。

自律型人材におけるホウレンソウの連携不足は、単にミスを報告するのを恐れているのではなく、自分で解決できる能力を持っているために起こってしまう事例です。「事後報告はしない」「イレギュラー対応時は連絡する」「自己解決する場合にもプロセスは共有する」など、自律型人材との連携にはルールを決めて共通認識のもと業務に取り組むと良いでしょう。

自律型人材の育成方法

自律型人材の育成方法として、具体的な方法10選を紹介します。自社の組織運営に適した育成方法を実践し、自律型人材が活躍できる組織環境の構築を進めましょう。

自律型人材の育成方法10選

①自社における自律型人材の定義

まずは、企業が自社の理想とする自律型人材を定義することから始めましょう。企業によって経営戦略やKPI数値は異なるため、どのようなスキル・知識を持った人材を必要としているのかを明確にします。このとき、期待する行動を具体的にすることで、求められるスキル・知識や理想の人物像が見えやすくなります。

すでに理想とする自律型人材が社内にいる場合は、その自律型人材をモデルとして目標を定めると良いでしょう。先述した自律型人材の特徴に当てはまる人材を見つけ、その社員を分析することで求めるスキルや能力を明確にでき、自社における定義付けをしやすくなります。

②成果目標・行動指針の設定

続いて、自社における理想の自律型人材には、どのような行動が求められているのか行動指針を設定しましょう。目的を持って業務に取り組むことで、成果に対するコミットメント力が向上し、自律した行動を促進しやすくなります。また、社員同士で業務内容を把握できるため、問題点を見つけ、改善点を話し合ったり、アドバイスしたりすることもできるでしょう。

③企業理念やビジョンの浸透

自律型人材の育成では、企業理念や経営方針の共有が非常に重要です。自律型人材が能動的に行動する先には、企業がより良い方向に前進している必要があります。会社の方針や企業理念に深い理解があることで、会社にとって最良の選択肢は何かを判断しやすくなります。会社の方向性と自律型人材の価値観が合致した時に、想像を超える成果に結びつくこともあるのです。

④自発的学習を促す環境整備

幅広いスキルや知識を有することは、自律型人材に不可欠な要素です。そして、自律型人材を目指していれば、向上心が高く、必要なスキルや知識を積極的に習得しようとします。企業はその意欲に応え、社員が自発的に学べる環境作りが求められます。
書籍購入費用の補助や研修・外部セミナー受講費の負担など、社員の学びに対する意欲を無駄にしない仕組みを作りましょう。

⑤心理的安全性の確保

心理的安全性とは、他者が自分の発言を拒絶したり罰したりせず、自分の意見や気持ちを誰にでも安心して発言できる職場環境のことを指します。心理的安全性が確保されていないと、自律型人材が自ら考えて行動する特徴を有しているにも関わらず、自身の行動に自信が無くなったり、積極的な発言を控えてしまったり、本来あるべき姿が見られなくなってしまいます。そのため、自律型人材の育成においては、心理的安全性を確保することが非常に重要となってきます。

⑥管理職のマネジメント方法の転換

先述した通り、自律型人材がいる組織では管理職の負担が軽減されます。しかし、マネジメント業務が減っただけで、自律型人材に対するマネジメントスキルは必要になります。細やかなマネジメントが必要なくなった一方で、部下の挑戦を後押しする人心掌握力や、その挑戦が失敗した時のフォロースキル、その後の行動指針を再定義する改善力などが必要になってきます。上司が部下をより良い方向に導くためにも、管理職のマネジメント方法の転換やスキル向上が欠かせません。

⑦挑戦を受け入れる文化醸成

自律型人材も、自分の判断がすべて成果に直結するわけではありません。何度も挑戦と失敗を繰り返して自律型人材として成長していきます。一方で、挑戦をためらって現状維持を続けていても自律型人材としての成長は見込めません。つまり、自律型人材の育成においては、会社全体で挑戦を受け入れる文化を醸成していく必要があるのです。主体的な行動や挑戦を受容し、振り返りとフィードバックができる環境の整備を進めてみましょう。

⑧挑戦を評価できる制度構築

挑戦を受け入れる文化が醸成できたら、次にその挑戦を評価する制度が必要になります。自律型人材の育成においては、チャレンジしたことを評価する評価制度の構築と評価基準の設定が挙げられます。制度を運用する際は、成果だけでなく挑戦自体や目標達成に向けたプロセスも評価するようにしましょう。

⑨研修と経験を活かせる仕事の依頼

自律型人材を育てるには、責任ある仕事を任せて、研修内容や経験を活かせる機会を提供することが近道です。もちろん座学での研修を経て基礎知識をインプットすることも重要です。ただ、先述した通り、イレギュラーな対応や失敗からの学びが自律型人材としての成長を促進する大きな要素であるため、実践機会を与えることで、知識やスキルをより深く身に付けることが可能です。責任ある仕事を任せることで、モチベーションの維持や自信の構築にも効果的です。

⑩定期的な振り返り機会の設定

実際に自律型人材の育成に取り組むと、自社の求めているスキルと少し異なる部分や新たな知識の発見など、想定していた成長以外の気付きが生まれます。制度に関しても同様に、運用していく中で改善が必要な部分が出てきます。この最初に定めた目標設定と実際に取り組んだ中での差異を埋めていくことで、自律型人材としての更なる成長に繋がるのです。

そのため、定期的に面談を行って教育の進捗や結果を確認したり、改善点をフィードバックしたり、必要であれば制度の見直しを検討しましょう。仮に成果が芳しくなくても、中長期的な視点で成長をサポートしましょう。

自律型人材が活躍する組織とは?

自律型人材が活躍するためには、組織体制の在り方も変えていく必要があります。VUCAの時代にも通用する組織を作るには、どのような組織を作るべきなのでしょうか。まずは、自律型人材が活躍できる組織を2種類みていきましょう。

ホラクラシー組織

ホラクラシー組織とは、権限分散で非階層型の組織です。つまり、役職や階級をなくし上下関係をフラットにした組織を意味します。定められたルールの中で個々のメンバーに意思決定の権限が与えられている点が特徴的で、社員各々が裁量を持って主体的・能動的に行動できるため、自律型人材が活きやすい組織と言えます。

ティール組織

ティール組織とは、組織の目標達成に向けて、メンバー全員が個別に意思決定を行う自律型組織です。組織内には固定化された階層構造や指示系統、管理マネジメントの仕組みは存在しません。意思決定の権限や責任は、個々のメンバーに委ねられます。ただし、状況に応じて階層やチーム、ルールが流動的に生まれていきます。

ホラクラシー組織とティール組織の共通点と違い

ホラクラシー組織もティール組織も、既存の組織に参入するだけではなく、自律的に組織を創り上げていく点、個人の裁量によって業務が進められる点に共通点があります。
ホラクラシー組織は定められたルールの範囲内での意思決定であるのに対し、ティール組織は定められたルールや明確なビジネスモデルが存在していないため、より柔軟に対応できるのが大きな違いとして挙げられます。

自律型人材が活きない組織とは?

多くの日本企業は、自律型人材が活かしきれない組織体制かもしれません。ここからは、自律型人材が活きない2種類の組織について解説していきます。

ヒエラルキー組織

ヒエラルキー組織とは、中央集権で階層型の組織です。年功序列や役職・階級のある組織なので、ホラクラシー型組織とは対義語にあたります。ヒエラルキー組織では、経営陣が率いる上層部からの意向が優先され、メンバー層は常に上層部の承認を仰ぐことになり、意思決定に時間がかかります。また、業務範囲が決まっているため、独自的な発想からイノベーションを生み出すのは困難でしょう。このような組織では、自律型人材は活躍できません。

アンバー組織

アンバー組織とは、トップダウンで厳格な社会的な階級に基づいて成り立つ組織です。現在の日本企業の多くは、このアンバー組織で構成されており、他にも政府機関や学校、軍隊で取り入れられています。

アンバー組織では、意思決定、役割分担、昇進などは正式なプロセスに基づいて行われるため、どれだけ組織が大きくなっても普遍的な対応で組織運営できます。また、メンバーは組織に対して忠誠心を持ち、強い帰属意識を有します。しかし、正式な意思決定プロセスに社員個人の裁量は存在せず、自律型人材が活きる組織運営とは言えません。

ヒエラルキー組織とアンバー組織の必要性

自律型人材の活躍を必要としないヒエラルキー組織とアンバー組織ですが、今後も必要な組織であることは間違いありません。例えば、製造工程の決まっているメーカーや設計通りに計画的に仕事を進める建設会社などでは、ヒエラルキー組織やアンバー組織による組織運営が有効なのです。

このように、企業の組織形態の種類は様々であり、自社の組織ではどのような部署・業務に自律型人材が必要であるかを踏まえて育成していくことが重要です。今後の日本は、従来のヒエラルキー組織・アンバー組織と、事業やカルチャーに合致した組織形態の融合が必要不可欠になるでしょう。

自律型人材の育成に成功した事例

最後に、自律型人材の育成に成功した事例を参考に具体的な取り組み内容を見ていきましょう。本章では、3つの事例を紹介します。

主体性の醸成とリーダーシップの強化 – 株式会社富士通マーケティング

まず1つ目の事例は、仕事に慣れてきた若手社員が、与えられた業務を遂行するだけではなく、より高い視点に立って自ら課題を発見し、解決に導く行動をとる「主体性」と周りを巻き込む「リーダーシップ」を身に着けることを目的とした研修です。

【研修内容】

・業務の振り返りを行い、課題や改善点に気付く
・その課題を深掘りし、解決に向けた方法を考える
・自分一人で解決できない場合は、他者とのコミュニケーションを活用する
・実際にシミュレーションを実施し、「分かる」と「できる」の違いを理解する
・自分の強みと弱みを分析し、今後の成長ポイントに繋げる

【期待できる効果】

・他責思考から自責思考になり、主体性を発揮できる
・自ら考える力と周りを巻き込むリーダーシップ力が身につく
・課題解決力を身につけ、解決に向けた行動を自ら促進できる
・深く考えることで、課題の本質的な原因に辿り着く
・常に問題意識を持つことで、ハイレベルな目標設定による自己成長に繋がる
・枠にとらわれることなく視野が広がり、仕事の進め方が多様化する

<参照>シェイク研修 導入事例取材レポートvol.20

一段上の仕事を目指し、自律的キャリアを築くマインドセット – ヤマハ株式会社

続いての事例は、新たな視座で今後のキャリアを見据えて「ありたい姿」を再設定し、自身の枠を超えるきっかけを掴んでもらうことを目的とした研修です。
社員の会社へのロイヤリティは非常に高い一方で、安定志向の強い社員が多い同社。しかし、変化の時代だからこそ、自分が置かれている立場や入社からのキャリアを振り返ることで、なぜこの会社で働くかという点を改めて考え、自ら自分の道を切り開いていける強い社員を育てたいという思いがありました。

【研修内容】

・本来ありたい姿を明確に描く
・現状の立ち位置や業務内容を正しく認識する
・ありたい姿と現状のギャップが何かを明らかにする
・自分が大切にしている価値観や強みを再確認する
・上記を軸として、主体的に次の一歩を踏み出す

【期待できる効果】

・今後のキャリア目標に自信が出て、モチベーションの高い状態を作れる
・今後訪れるチャンスに積極的に取り組める素地ができる
・これからのキャリアの可能性を広く捉え、現状に満足しない理想の自分を追求できる
・スキルや業務の棚卸しができて、やりたい事への再出発の機会になる
・ぼんやりしていた自分の軸が明確になり、今後の方向性が見える

<参照>シェイク研修 導入事例取材レポートvol.21

また、社内公募制度や社内FA制度など、社員のキャリアを後押しする制度はあります。いわば“社内転職”のような仕組みで、会社内部で各部署が人材を公募し、社員は自らの意思で応募することができる人事異動を決定する制度の1つです。社員のキャリア支援をする上で、効果的な取り組みと言えるでしょう。

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新人の学ぶ意識と働く意義を高め、早期戦力化を実現 – JAしまね

最後の事例は、社員に対して理念への“意識づけ”と組織の“一体感”を持たせて、早期戦力化を目的とした研修です。

元々は詰め込み型の教育体系を取り入れ戦力化に成功していた同社ですが、現場からの早期配属という強い要望から、短い期間で今までと遜色ないレベルの新人を送り出すためには、研修に質を向上させるという結論に至りました。会社で働く意義を追求させながら現場のフォローを設計していくことで、新人の仕事に対する意識改革を実施したのです。

【研修内容】

・入社の思いを深掘りするマインドセットの浸透
・この会社で働く意義の追求
・対人関係を円滑にするコミュニケーションスキルの習得
・新人とメンターで育成計画書を企画し、双方の意思疎通を明確化
・理想とする業務遂行スキルや対人能力のゴール設定をスケジュール化して管理
・数ヶ月後にフォローアップ研修を実施

【期待できる効果】

・最初にマインドセットすることで、その後の学ぶ姿勢が高まる
・フォローアップ研修を取り入れることで、現場での悩みや課題を早期に解消できる
・同じ理念や価値観を持つ社員との一体感が醸成される
・相手の立場で考える機会が増えて、仕事に対する向き合い方に変化が起こる

<参照>株式会社ワークハピネス導入事例(JAしまね)

まとめ

これからの社会は、今よりも複雑で不明瞭な歩みを続けていくでしょう。そして、日本の労働人口は減少傾向にあり、人材獲得競争は更に激化することが予想されます。このような社会情勢の中で企業が勝ち筋を見出すには、自律型人材の育成から業務効率化やイノベーション創出を推進し、他社とは一線を画した商品・サービスの開発・提供が求められます。

自律型人材の育成は簡単ではありませんが、今から始めることで数年後にはVUCAの時代を勝ち抜く“自律型企業”になっていることでしょう。

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