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タレントアクイジションとは?戦略的な人材獲得を行うための人事の役割・取り組み事例を徹底解説!

タレントアクイジションとは?戦略的な人材獲得を行うための人事の役割・取り組み事例を徹底解説!

採用難の現代における、採用力強化の施策の1つとして注目を集めている「タレントアクイジション」をご存知でしょうか。

本記事では、タレントアクイジションの意味や、従来の採用活動との違い、タレントアクイジションを行うメリット・デメリットを解説します。実現に向けた具体的な手法やプロセスについても確認しましょう。

タレントアクイジションとは?

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タレントアクイジションとは、経営戦略を実現させるために必要な人材を、戦略的かつ積極的に獲得していく取り組みです。「才能ある人材」という意味を持つ“Talent”と、「獲得」の意味を持つ“Acquisition”を組み合わせたビジネス用語であり、経営者や人事担当者が牽引する「優秀人材の獲得戦略」といえるでしょう。従来のリクルーティングとは一線を画する新たな取り組みとして注目されています。

タレントアクイジションとリクルーティングとの違い

タレントアクイジションが「獲得」であるのに対し、リクルーティングは「募集」という意味があります。タレントアクイジションとリクルーティングには大きく3つの違いがあります。

スタンスの違い

タレントアクイジションとリクルーティングは、採用に対するスタンスが決定的に異なります。

タレントアクイジションは「獲得」、つまり自身の力で掴み取る攻めのスタンスです。経営戦略や事業戦略の実現に向けて、企業が必要な人材にアプローチをかけて採用を目指します。一方、従来のリクルーティングは「募集」、つまり応募者を募る待ちのスタンスです。不足しているポジションを提示し、条件に当てはまる人材からの応募を受け、採用を目指します。

期間の違い

タレントアクイジションとリクルーティングでは、採用期間についても違いがあります。

タレントアクイジションは、優秀な人材を獲得し続けるための戦略も含む中長期的な採用活動となります。一方で、リクルーティングの場合、不足を埋めるための採用活動なので、必要な人材が確保できたら募集が終了する短期的な採用活動といえます。

役割の違い

最後は、採用活動における人事部の役割の違いです。

タレントアクイジションは、中長期的な人材獲得戦略であるため、リクルーティングよりも業務の幅が広がり、役割も増えます。リクルーティングにおける人事部の役割は、人材採用計画の立案・求人媒体への掲載・選考・入社手続きまでを担っています。一方、タレントアクイジションの役割に関しては、次章にて詳しく解説します。

タレントアクイジション担当部署の7つの役割

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タレントアクイジションの研究者Robin Erickson氏によると、タレントアクイジションは以下のように7つの役割を担っています。従来のリクルーティングで担ってきた役割も含まれるため、リクルーティングはアクイジションの一部であるという見方もできます。

  • タレント人材獲得のための採用計画・戦略を立案
  • 組織体制の把握と必要なタレント人材のすり合わせ
  • 自社の方向性の提示と採用ブランドの構築
  • タレント人材の母集団を形成するための要件定義
  • 採用候補者・辞退者との関係構築
  • 採用改善に向けた指標の形成と分析
  • 研修・面接などのタレント人材定着支援

具体的な業務内容について確認していきましょう。

タレント人材獲得のための採用計画・戦略を立案

実現したい経営戦略や事業戦略から、タレント獲得のための採用計画や人事戦略を立案します。従来のリクルーティングでも人事部は採用計画を立案する役割を担っていましたが、タレントアクイジションにおいては、経営戦略や事業戦略を理解し、一貫性のある人事戦略の構築が求められます。つまり、企業の目標や将来像から逆算をしなければならないのです。

さらに、採用計画・人事戦略の中には、従来のリクルーティングでは一般的には採用活動に含まれなかった、人材に関する予算の策定・管理も対応します。

組織体制の把握と必要なタレント人材のすり合わせ

現在の組織体制を把握し、将来の組織デザインを考慮し、不足している人材タイプやポジションを検討します。ここでも、「経営戦略や事業戦略を実現する」という視点が重要となります。人手不足を補う人材ではなく、経営戦略や事業戦略を実現するために不足している人材を把握するのです。

人事部だけでは、具体的にどのようなスキルや性質を持った人材が必要なのか定義し切れないため、各部門・部署の管理者と求めるタレント人材の要件をすり合わせます。

自社の方向性の提示と採用ブランドの構築

事業の将来像や企業目標など、自社の方向性を明確にすることで、タレント人材に興味を持ってもらい、入社の決断を促すことができます。自社の方向性の提示には、採用ブランディングを実施します。ここでいう採用ブランディングとは、他社と差別化できる「自社らしさ」と捉えるとよいでしょう。

具体的には、「SNS・企業評価サイト・自社メディアなどを通じて自社の候補者と関係性を構築する」「社員のエンゲージメントや定着率を向上させる」などが挙げられます。

タレント人材の母集団を形成するための要件定義

必要なタレント人材がピンポイントで見つかることはほとんどありません。そのため、候補者人材の母集団となるタレントプールを作成し、欲しいタレント人材のスペックを定義し、アプローチするためのツールやエージェントの利用、アプローチ対象を絞り込みます。

ただし、要件が詳細すぎると、母集団が小さくなるため、採用の難易度は上がります。始めはある程度まとまった母集団を形成でききるよう、バランスを考えて定義することがポイントです。

採用候補者・辞退者との関係構築

母集団ができたら、候補者との関係を深め、自社のイメージアップや候補者のモチベーションアップを図ります。具体的には、オンライン面談や会社説明会、キャリア相談会を企画します。企画の連絡から日程調整など、スピーディーに対応することで、候補者のモチベーションを落とさず、関係を構築できます。

また、入社を断られた優秀な人材がいる場合、辞退後も関係を継続するようにしましょう。今は転職を考えていなくても、今後入社してもらうチャンスが訪れるかもしれません。辞退者もタレントプールに含まれます。

採用改善に向けた指標の形成と分析

攻めの採用は、上手くいくことばかりではありません。採用した人材タイプや流入経路が偏っていたり、面接官の採用基準に一貫性がなかったりとトラブルは付き物です。実際に採用した人材のスキルや経験は希望通りでも、経営戦略や事業戦略を実現するという視点でみると噛み合いが悪いということもあるでしょう。

そのため、採用プロセスごとに指標を形成・分析し、より効果的な採用活動を実施できる体制を整備する必要があります。従来、採用に関しては、あまり数値化して分析されてきませんでした。根拠をもとにした改善策を策定できるよう、採用活動の記録はデータ化することが重要です。

研修・面接などのタレント人材定着支援

これまでの採用活動では、採用が1つのゴールとなっていました。しかし、採用者が自社で期待された活躍ができてこそ、採用活動の成功といえます。そこで、タレントアクイジションでは、人事部の採用担当者と、現場の管理者、人事部の研修・教育担当者が連携して、採用者のフォローを実施します。

具体的には、採用後の研修や面談を行い、自社のビジョンやカルチャーの理解促進、必要なスキル・知識の習得支援、不安や悩みの解消を図ります。しっかりとフォローすることで、採用者の定着率向上にも繋がります。

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タレントアクイジションのメリット

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従来のリクルーティングでも、企業活動に必要な人材はある程度確保できてきたでしょう。それでは、なぜタレントアクイジション、攻めの採用活動を行う必要があるのでしょうか。

  • 持続的な候補者の獲得
  • 安定した人材の確保
  • 組織力の向上

ここからは、企業がタレントアクイジションを行うメリットを解説します。

持続的な候補者の獲得

リクルーティングの採用対象者は、転職活動中の人材に限られますが、タレントアクイジションでは市場にはまだ出ていない転職潜在層の中から候補者を確保できるメリットがあります。

タレントアクイジションは、タレントプールを作って、候補者や辞退者とじっくりと関係を築きます。そのため、常に候補者を確保している状態であり、企業と人材の双方が適切なタイミングで採用に移ることができます。候補者が転職市場に出る前に、囲い込むことができるのです。

また、中長期的かつ経営戦略に沿った要件定義の基で取り組まれているため、「ノウハウの蓄積」と「採用ブランドの浸透」が見込まれ、優秀な人材を持続的に獲得できるようになります。

安定した人材の確保

労働人口の減少により、人材の獲得競争が激化する現代でも、タレントアクイジションにより安定した採用が確保できます。

タレントアクイジションでは、タレントプールの活用により、採用までのハードルは低くなります。また、候補者と時間をかけて関係を構築することから、企業と社員の間に相互理解が生まれます。入社後のギャップが起きにくいため定着率を向上させやすく、従来のリクルーティングよりも安定して人材を確保することができます。

組織力の向上

優秀な人材を獲得するための企業努力は、新たに獲得する人材だけではなく、既存社員にも良い影響を与えます。

優秀な人材に興味を持ってもらうためには、オフィスや組織風土、柔軟な働き方、充実した福利厚生など、企業そのものの魅力を高めなければなりません。働きやすい職場づくりや、採用後の手厚いフォローは、既存社員のエンゲージメントも高め、生産性の向上や連携の強化など組織力の向上に繋がります。

タレントアクイジションのデメリット

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企業がタレントアクイジションに取り組むメリットは多くあります。一方で、以下の点には注意が必要です。

  • 短期的な採用には不向き
  • 採用難易度が高い

デメリットも押さえたうえで、導入を進めたいところです。

短期的な採用には不向き

先述の通り、タレントアクイジションは中長期的な視点で戦略を実行する採用活動です。採用計画や人事戦略の立案から、タレントプールの作成や、候補者との関係構築、採用後の育成まで、改善を図りながら継続的に行います。戦略的な人材獲得を目論んだ取り組みなので、短期での採用は困難です。

人手不足で日々の業務が回らないという理由で採用を行いたいのであれば、従来のリクルーティングで求職者を募ったほうが早期に課題を解決できます。

採用難易度が高い

タレントアクイジションは、従来のリクルーティングと比較して人事部の役割や採用プロセスが増えることから、採用の難易度は上がってしまいます。日本ではまだ導入事例が少なく、実施するためのノウハウを持っている企業もそう多くありません。

特に、経営戦略や事業戦略と連動した人事戦略の策定は、経営層の考えを理解しつつ、現場のニーズや実態も踏まえた上で、具体的な施策に落とし込まなければなりません。タレントアクイジションを実現できる人材の確保も必要となるでしょう。

自社で取り組めるタレントアクイジション実践例

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タレントアクイジションの難易度は高いため、外部の協力を仰ぐケースも珍しくありません。一方で、自社のリソースだけで取り組むことのできる、タレントアクイジションの考え方を取り入れた手法も存在します。

  • オウンドメディアリクルーティング
  • リファラル採用
  • アルムナイ採用
  • 採用マーケティング

それぞれ特徴をみていきましょう。

オウンドメディアリクルーティング

オウンドメディアリクルーティングとは、オウンドメディアを活用した情報発信による人材採用手法です。自社が所有・管理する自社メディアを通して、自社の魅力を発信することで、転職潜在層・顕在層の両方から、自社の認知を獲得することができます。

例えば、Webメディアがあれば、掲載期間や内容を自社で自由に決められるため、候補者にアプローチするためのコンテンツを中長期的に投稿し続けることができます。SNS・動画投稿サイトのアカウントを運用すれば、採用候補者との関係構築にも役立つでしょう。

オウンドメディアリクルーティングとは?コンテンツ事例や運用ポイントを紹介!

リファラル採用

リファラル採用とは、自社の関係者の人脈を利用した採用手法です。例えば、自社にマッチする社員の前職の同僚や友人を紹介してもらい選考します。紹介だからといって、選考時に優遇したり合格率を上げたりするわけではなく、あくまでも候補者を紹介してもらうというところに留まります。

リファラル採用の候補者は、タレントアクイジションのタレントプールの対象になります。

リファラル採用とは?メリット・デメリット・トラブル事例・制度を紹介し、促進方法も解説!

アルムナイ採用

アルムナイ採用とは、自社を退職して、その他の現場で新たな経験を積んだ元社員を再び採用する手法です。「カムバック採用」「カムバック制度」と呼ばれることもあります。

アルムナイ採用を行うためには、退職者との良好な関係構築と関係の維持が必要です。アルムナイ採用の候補者も、タレントアクイジションのタレントプールの対象に該当します。

アルムナイ採用とは?すぐに実践できるポイントを解説!導入企業の事例も紹介

採用マーケティング

採用マーケティングは、マーケティングの概念やプロセスを採用に取入れた採用手法です。一般的なマーケティングは消費者にどのようにアプローチするのか戦略を立てますが、これに採用を当てはめ、転職潜在層にどのようにアプローチするのか仕組みを考えるのが採用マーケティングです。

タレントアクイジションの実行には、転職潜在層に認知してもらい、興味を持ってもらう工程が欠かせません。このプロセスが採用マーケティングと言い換えられます。タレントアクイジションには、採用マーケティングの考え方を取り入れる必要があるのです。

採用マーケティングとは?ファネルの概念や手法・フレームを解説

外部を活用したタレントアクイジション活用例

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外部のサービスやリソースを活用する手法も具体的に確認します。

  • ヘッドハンティング手法
  • プロインタラム手法

それぞれ概要をみていきましょう。

ヘッドハンティング手法

ヘッドハンティングとは、ヘッドハンティング会社を介して社外の人材をスカウトすることを指します。主に転職潜在層を対象とした人材獲得戦略として有効です。

転職潜在層へのアプローチはもちろん、実現したい経営戦略・事業課題が実現できる人材の定義付けや、企業の魅力醸成まで、プロに任せられる点がメリット。自社の負担やトラブル・リスクを抑えつつ、必要な人材を確保できるでしょう。

詳しくは下記のページをご確認ください。
ヘッドハンティングとは?ヘッドハンティング会社が分かりやすく解説

プロインタラム手法

プロインタラム手法とは、必要なスキルを持った知見者を必要な期間だけ業務に従事してもらうことで、各々の企業が抱える課題を個別に解決できるサービスです。現状の把握から課題解決、自社への浸透までフォローしてもらえます。

完全に外部に委託してもらうのではなく、知見者に自社へ来てもらうことから、社内にノウハウが蓄積されることが大きなメリットです。

プロインタラムについては下記をご確認ください。
顧問紹介サービスはプロインタラム

タレントアクイジション組織を作る採用プロセス

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従来のリクルーティングを行っている採用組織から脱却し、タレントアクイジション組織への移行を目指すときは、大きく3つのプロセスに分けられます。

①採用戦略を練る
③採用オペレーションを実行する
③オンボーディング実施する

タレントアクイジションの全体像を把握しておきましょう。

①採用戦略を練る

経営戦略・事業戦略から、タレント人材を採用する戦略を練るところから始まります。タレントアクイジション担当部署と経営者や現場の管理者と求める人材の要件をすり合わせたら、人材要件・人員数・募集要件・予算作成といった採用体制を構築します。その後、具体的に採用プラットホームや人材へのアプローチ手法、タレントプールの管理ツールなどを選定します。

採用戦略の大枠が決まったら、 採用マーケティングの戦略を立案し、転職潜在層にいる候補者からの認知・興味の獲得を目指します。

③採用オペレーションを実行する

続いて採用オペレーションのフェーズです。タレントアクイジションにおける採用オペレーションとは、候補者のリサーチ・スクリーニングからタレントプールの作成、面接日の調整、選考、オファー交渉までが含まれます。

候補者のリサーチやタレントプールの作成フェーズは、タレントアクイジションのノウハウが必要となりますが、後半の候補者とのやり取りや調整については、ルーティンで回すことができる業務です。

③オンボーディング実施する

最後が、入社前後のオンボーディング実施フェーズです。オンボーディングとは、新入社員が早期に職場や業務に馴染み、活躍できるよう企業が提供する取り組みです。

オンボーディングは、入社前の早い段階から実施します。内定から入社までの期間は採用者の不安や疑問が大きくなりやすいため、面談や入社前研修・インターン、交流会の実施などが効果的です。入社後は、メンター制度や1on1ミーティングを実施し、個々にフォローしましょう。

タレントアクイジションを活用している企業事例

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最後はタレントアクイジションの活用をすでに始めている企業を紹介します。

  • NEC(日本電気株式会社)
  • 株式会社 博報堂
  • 株式会社 日立製作所

タレントアクイジションを成功させたい企業は、大手企業の取り組みが参考になるはずです。

NEC(日本電気株式会社)

NEC(日本電気株式会社)は、人材組織開発部にキャリア採用の専任組織としてタレント・アクイジショングループを2020年に設置。タレント・アクイジショングループは、中途採用において、採用戦略の立案から実行まで一貫して行っています。2019年度のキャリア採用はほぼありませんでしたが、2022年のキャリア採用者は2020年の2.8倍と、着実に数を増やしています。

株式会社 博報堂

株式会社 博報堂は、人事部から採用機能を独立させ、2022年4月にタレントアクイジション局を新設。多様な人材の獲得を目指し、人材獲得の取り組みを強化しています。同年6月には、広告代理店でありながら、従来の枠にとらわれない発想を期待し、広告・マーケティング領域の経験を問わないキャリア採用を行いました。

株式会社 日立製作所

株式会社 日立製作所は、各部門の人材獲得機能をタレントアクイジション部に一元化しました。タレントアクイジション部は「グローバルに社会イノベーション事業をリードする人財の獲得と育成」をミッションとし、事業における人材獲得ニーズの把握から母集団の形成、候補者の惹きつけ、選考といった人材獲得戦略の実現をトータルで担っています。

タレントアクイジションで優秀な人材にフォーカスして採用を!

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今回は、新しい人材獲得手段である「タレントアクイジション」を詳しく解説しました。

現在は、社会情勢の変化により、これまで通りの採用プロセスでは優秀な人材を獲得しにくい時代です。その中で、あらゆる手段を使って、積極的に優秀な人材の獲得を目指すタレントアクイジションへの重要性が高まっています。

タレントアクイジションでは、従来の採用活動に加え、採用計画・人事戦略の立案やタレント人材要件の定義、採用ブランドの構築、自社の魅力醸成、優秀な人材の発掘・ソーシングと、採用に関わる業務を中長期的に行います。経営戦略・事業戦略を実現するという視点が加わっている点が大きな特徴です。

大手企業も取り組みを始めているタレントアクイジションを導入し、ぜひ企業の成長に繋がる優秀な人材を確保しましょう。

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