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戦略人事とは?求められるスキル、導入時の課題、事例を紹介

戦略人事とは?求められるスキル、導入時の課題、事例を紹介

近年、日本企業は人材に関する多くの課題を抱えています。そのため、ヒトの持つ能力や知識を資本と考える人的資源的な考え方が定着してきました。ヒトへの投資が加速するなか、人材の価値・生産性の向上を主導するのが人事部です。

本記事では、従来の人事部から変革を促す「戦略人事」について詳しく解説します。長期的な成長を考え、本気で取り組む企業が増えています。

戦略人事とは?

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戦略人事とは、経営戦略を実現するための人事の存在意義や役割を示す言葉です。英語では、Strategic Human Resources Management(戦略的人事資源管理)と表記され、SHRMとも略されます。労務管理を中心とする従来の人事部門の機能は「守りの人事」と表現され、経営戦略に人事マネジメントを紐づけた戦略人事は「攻めの人事」といわれます。

まずは、戦略人事がどのようなものなのか、もう少し詳しく確認していきましょう。

人事戦略との違い

戦略人事と似た用語に、「人事戦略」があります。語順が違うだけの2つの単語ですが、意味や使用するシーンが異なるため違いの理解が必要です。

人事戦略とは、人事に関わる課題を改善し、企業の利益につなげる戦略を指します。具体的には、採用計画を実現するための取り組みや既存施策の改善、研修・マネジメント手法の決定などが該当します。

対して、戦略人事は、経営目標を達成するための人的資本を適切にマネジメントする仕組みで、経営戦略の1つに該当します。戦略人事は、人事戦略よりもより経営的な視点で、企業のミッションや経営戦略にコミットしています。

戦略人事の目的

戦略人事は、1997年にミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が、自身の著書である『MBAの人材戦略』という本のなかで提唱しました。

同書でウルリッチ教授は、テクノロジーの発展やグローバル化の拡大によって、人事部門には従来の労務管理という機能以上の役割を持たせることの重要性を説いています。従来の人事戦略や人事業務は“管理”という役割が協調されますが、戦略人事では“経営戦略”に関わるさらに重要な位置づけに移行されたと定義されました。

戦略人事では、人事部門は経営層のパートナーとして、組織のパフォーマンスを向上させる主体的な働きかけを行うための存在として機能します。

戦略人事が注目される背景

戦略人事が注目されるようになった背景には、人材獲得競争が激化する現代において、人的資源に対する経営戦略を実行に移す必要性が高まったことにあります。

産業構造の変化や少子高齢化、働き方改革など、就業環境は著しく変化しており、将来の予測がつかないVUCA時代に入っています。従来のように経営陣のみが経営戦略の実現に向けたアプローチを行うだけでは、競合優位性を確保できなくなりました。そこで広がったのが人的資源(人材)を経営資源として重視した経営です。

人的資本経営という言葉が広がり、日本でも上場企業では人的資本情報の開示が義務化されました。人的資本の重要度が高まるのに呼応するように、戦略人事も注目されるようになっています。

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戦略人事に求められる4つの役割

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戦略人事を提唱したデイビッド・ウルリッチ教授によると、戦略人事を実現するべく人事には下記4つの役割・機能が必要とされています。

  • HRBP(HRビジネスパートナー)
  • OD&TD(組織開発&人材開発)
  • CoE(センター・オブ・エクセレンス)
  • OPs(オペレーションズ)

HRBP(HRビジネスパートナー)

HRBP(Human Resource Business Partner)=HRビジネスパートナーは、経営者のビジネスパートナーとして人事面から経営戦略の実現をサポートする要素です。具体的には、人事戦略の策定や組織設計といった経営に参画します。ウルリッチ教授が人事の新しい価値として示したもので、戦略人事のなかでも特に重要な役割を担います。

OD&TD(組織開発&人材開発)

OD(Organization Development)と TD(Talent Development)は、経営戦略を実現するためのOD=組織開発と、従業員の成長を促すTD=人材開発を担う機能です。組織開発では、人に関する課題の発見や明確化を行い、解決・改善を目指します。人材開発では、従業員1人ひとりの能力を伸ばし、課題解決を目指します。ODとTDは密接に絡み合っており、同時に両方をバランスよく行わなければ、どちらも機能しません。

CoE(センター・オブ・エクセレンス)

CoE(Center of Excellence)=センター・オブ・エクセレンスは、人事領域のプロフェッショナルとして、経営戦略を実現するために採用・人事評価・研修において経営や現場に必要なノウハウを提供、制度やプログラムの開発・構築・運用まで担う役割です。組織の横断的な取り組みを進めるために欠かせない、人事の専門家が集まる部門と認識できます。

OPs(オペレーションズ)

OPs(Operations)=オペレーションズは、労務管理・勤怠管理・給与計算・移動手続きといった従来の人事部門が担ってきた役割です。新しい機能をもった人事部が必要であるとはいえ、従来の管理部門としての機能は経営にとって欠かせません。日常的に運用する基本的な機能であり、正確性・効率性が重視されます。

戦略人事の導入に向けて乗り越えるべきハードル

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多くの日本企業が戦略人事を認識・重視しているものの、ほとんどの組織でうまく機能していないことに悩みを抱えています。戦略人事を実現できない原因は様々ありますが、乗り越えるべきハードルには下記のようなものがあります。

  • 経営者と人事の密な連携
  • 従業員同士の連携
  • 変革が及ぼす従業員への影響
  • 人事部門のリソースの確保

経営者と人事の密な連携

戦略人事では、経営戦略へのコミットメントが必要となるため、経営者と人事との相互的な協力が欠かせません。つまり、実現を目指す経営戦略や方針の明示が必要です。経営者から一貫性のある経営戦略が示されなければ、人事のプロであっても具体的な施策に落とし込むことはできません。さらに、経営陣には人事部の経営への参画を受け入れる姿勢が求められます。せっかく戦略人事を導入しても、経営層のパートナーとして経営戦略に関われなければ、言葉だけの導入となってしまいます。

従業員同士の連携

もちろん、現場メンバー同士の連携も重要です。気兼ねなくコミュニケーションできる職場を作ることで、経営戦略を現場に浸透させやすくなります。経営戦略が現場に届かないうちに新しい施策を講じても、モチベーションやエンゲージメントが低下するリスクがあります。現場が経営陣や人事部の思い描く経営を実現するには組織が一体になって、実現を目指さなければなりません。

変革が及ぼす従業員への影響

経営陣と人事だけではなく、当然社員への影響も考える必要があります。もともとあった制度や労働環境から移行するわけなので、反発や抵抗感を覚える従業員もいるでしょう。経営戦略の浸透と戦略人事としての役割には、常に説明責任とビジョンの共有が必要になってきます。特に、年功序列や終身雇用といった旧日本企業的な特徴が色濃い企業ほど、変化を嫌う傾向が強く、攻める人事の動きが阻害されがちです。

人材部門のリソース確保

戦略人事で多くの企業が陥るのが、人事部のリソース不足による問題です。大抵の企業の人事部には、従来の労務管理に必要な人材しか在籍していません。人数はもちろん、攻めの人事に必要なスキルや経験を持つ人材を新たに採用する必要があります。実際には、戦略人事を導入したくてもリソース不足によって実現しないことが多いのです。ただし、リソースを完璧に揃えたうえで始められる企業は少ないため、スモールスタートも視野に入れましょう。

戦略人事を実現するために人事部門に求められること

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さまざまなハードルがある中、戦略人事を実現するためには、「自社の経営戦略の理解」「求める人材像の定義付け」が必要です。

戦略人事では、人事部が経営戦略上の課題を人的マネジメントによって解決する機能を担います。管理に特化した従来の組織にはなかった、経営戦略に関わる当事者意識を持つことが求められます。

また、経営戦略に紐づいた採用や人材育成の戦略を組み立てる必要があります。その中で特に重要なのが、経営戦略を実現するために必要な人材の人物像を明確にする定義付けです。自社にマッチするというよりも、経営戦略を実現できる人材であるかがポイントになります。

シチュエーションから考える戦略人事

続いてはシチュエーション別に、戦略人事を実施するときの具体的な施策を紹介します。既に取り組んでいる人事の方も多いとは思いますが、実現したい経営戦略や育成したい人物像に合わせて、必要に応じて使い分け、または併用したいところです。

【採用】における戦略人事

採用における戦略人事として用いられるのは、ダイレクトリクルーティングやヘッドハンティングが挙げられます。

ダイレクトリクルーティング

ダイレクトリクルーティングとは、求める人材に企業が直接働きかけて、スカウトする採用方法を意味します。戦略人事の役割としては、HRBP(HRビジネスパートナー)に相当する取り組みと言えます。経営戦略やビジョンを明確に理解し、それに合致した人材の採用をする役割から分かるように、ただ闇雲にスカウトすればよいという訳ではないのです。

ヘッドハンティング

ヘッドハンティングとは、転職意思の有無に関係なく、他社に勤める優秀な人材に声をかけ移籍を実現させる採用方法です。ヘッドハンティングでの採用もHRBP領域の取り組みであると言えます。組織の成長戦略に基づいて、優れた人材を外部から招聘するためのアクティビティであり、戦略的な人材獲得の一環として位置付けられています。

ヘッドハンティングについてこちらで詳しく説明しております。

【育成】における戦略人事

育成における戦略人事の具体的な施策にはリスキリングやスキルマップがあります。

リスキリング

リスキリングとは、新しいスキルを習得することで業務の幅を拡大させていくことを指します。戦略人事の観点では、OD&TD(組織開発&人材開発)に関連する役割に該当します。新しい分野に挑戦することで、従業員側は自律的なキャリア形成のきっかけに。企業側は組織の戦略的ニーズに基づいて、従業員のスキルや能力を転換・向上させることを目的に取り組む必要があります。

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スキルマップ

スキルマップとは、個人のスキルレベルを一覧表にまとめたものです。スキルマップも主にOD&TD(組織開発&人材開発)に関連した取り組みと言えるでしょう。なぜなら、組織内の従業員のスキルやコンピテンシーを可視化し、経営戦略に適した人材配置や育成計画を立案するために使われるためです。業務に関するスキルはもちろん、ビジネススキル・ヒューマンスキルと広く評価することで、従業員の得意不得意や向き不向き、今後の課題の把握につながります。

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【評価】における戦略人事

評価における戦略人事の具体的な施策には、MBOや360度評価などがあります。

MBO(目標管理制度)

MBOは目標管理制度と訳され、従業員自らが目標を設定し、達成に向けて取り組むマネジメント手法です。戦略的に目標管理を行う手法であり、OD&TD(組織開発&人材開発)の要素を多く含む評価制度です。会社の戦略目標と個々の従業員の目標を結び付けて、パフォーマンス評価や成果の可視化を行う手法であるため、戦略人事の取り組みとして効果を発揮します。

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360度評価

360度評価とは、上司や部下、同僚など複数人の評価者で多角的に1人の従業員を評価する人事評価手法です。この評価制度もOD&TD(組織開発&人材開発)としての役割を担います。一般的な人事評価では、上司から部下への一方向の評価を行います。一方で、360度評価では、組織内の異なるステークホルダーからのフィードバックを収集し、個々の従業員の成長と発展を支援するための制度であるため、戦略的な人材開発を実現できるのです。

戦略人事の導入事例「日清食品」

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日清食品は、グローバル経営人材を倍増させることを目標とする人事戦略を掲げ、戦略人事による育成に力を入れています。

2014年にCHROが着任し、次世代グローバル経営人材を育成するための「グローバルSAMURAIアカデミー」を開設。企業内大学「NISSIN ACADEMY」も設立しました。NISSIN ACADEMYでは、経営者になるための選抜型プログラムと意欲があれば誰でも参加できる公開型プログラムが用意されています。

戦略人事で組織力を強化!

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人材の価値が高まる現代において、戦略人事の導入は欠かせないものとなっています。しかし、実施へのハードルは多く、導入を試みても実現できない企業も多いものです。

戦略人事は、従来の人事部を大きく変革するものですが、人事部だけでなく経営陣や従業員と組織が一体となって取り組まなければなりません。特に、人事部が経営戦略に参画することになるため、経営陣の意識の見直しや組織の再編も必要になってきます。

戦略人事は導入すれば実現できるというわけではないため、人事部自体の強化とは別に、企業全体で変革を進めましょう。

最後になりますが、「採用」に関する戦略人事をご検討の方。採用手法の1つとしてヘッドハンティング手法をご説明に上がります。経営課題・事業課題の解決は業界専任のヘッドハンターにお任せください。お問い合わせはこちらから。

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