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MBO:目標管理制度とは?目標設定方法とメリットや運用の注意点

MBO:目標管理制度とは?目標設定方法とメリットや運用の注意点

MBOは目標管理制度の1つで、目標の達成度で評価を行うものです。日本企業でも多く採用されているものの、ノルマを課して達成を促す成果主義の側面ばかり注目されてきました。しかし、本来のMBOを導入すれば、組織の強化や生産性・業績の向上が期待でき、従業員も企業も成長していくことができます。

本記事では、MBOの概要や運用時の注意点、目標管理手法OKRとの違いについてお伝えします。

MBOとは?

MBO
MBOは、“Management by Objectives”の略で、日本語に直訳すると「目標による管理」となる目標管理手法です。一般的には「目標管理制度」と訳されます。「現代経営学の父」経済学者のP.F.ドラッガーが、著書『現代の経営』のなかで提唱しました。

MBOでは、グループ・個人ごとに目標を設定し、目標に対する達成の度合いを評価します。大きなポイントは、個人が組織の目標を達成につながる個別の目標を自ら決定し、達成に向けて実行する自主性が求められる点です。マネジメント側が一方的に業務を指示したり目標の管理をしたりするわけではありません。

MBOの理論的根拠

ドラッガーの提唱したMBOに理論的根拠を持たせたのは、心理学者・経営学者のD・マクレガーの著書『企業の人間的側面』のなかで提唱した「X理論・Y理論」です。

X理論=人間を命令や強制で管理して、目標達成できない場合は罰を与えるマネジメント手法
Y理論=魅力的な目標や責任を与え、従業員が自ら動くことを促すマネジメント手法

生活水準が上がった現代では、食事や睡眠といった生理的・本能的な欲求はすでに満たされており、人が働くモチベーションは自己実現欲求や承認欲求に基づきます。そのため、マクレガーは、命令や強制ではなく自主性を尊重するY理論のほうが現代社会の経営では必要性が高いと主張。Y理論に基づいてマネジメントすることで、従業員のモチベーション・エンゲージメントや生産性、企業業績の向上につながるとしています。

日本におけるMBOの普及と現状の問題点

MBO
マクレガーの主張からも分かるように、現代のマネジメントではY理論に基づいたマネジメントが求められています。しかし、日本企業ではY理論の影響が強すぎることで、本来の最終目標である企業が掲げる目標が達成できていない傾向があります。

現状、大半の日本企業がMBOを取り入れているといわれているものの、その効果は組織の活性化や従業員のモチベーション向上止まりになっています。原因は、目標の設定や達成に向けた行動を個人任せにし過ぎているところにあるといわれており、マネジメント側が個人が高い業績を残せるよう導くことが求められます。

また、目標達成を重視し過ぎて、ノルマ主義と同一視したり金銭的なインセンティブのみに注目されたりと、MBOの重要な要素である「自主性の尊重」が欠落し、結果的に企業目標の達成に至っていないケースも見受けられます。この場合、正しくMBOが運用されていない点が問題であり、マネジメント側がMBOの目的や運用方法を理解することが重要です。

MBOの3つの方法とその特徴

MBO
MBOの運用方法は企業によってさまざまですが、「組織活性型」「人事評価型」「課題達成型」の3つのタイプに分けられます。なかでも、企業には課題達成型のMBOが理想だとされています。それぞれの特徴や違いについて、みていきましょう。

オーソドックスな方法「組織活性型」

組織活性型は、Y理論に基づいて従業員が自ら目標を設定し、達成を目指すという日本企業ではオーソドックスなタイプのMBOです。

自主性を引き出すことを目的としており、従業員に目標達成に対する責任感を持たせることができます。従業員の意志で目標を設定するため、個人目標が主体となり、人事異動や人の入れ替わりがあった場合は、目標は立て直しとなります。

従業員1人ひとりの意見が反映されることから、チームワークの強化と組織全体の活性化を図れる点が強みです。一方で、目標を立てることに比重が置かれるため、目標を達成するまでのプロセスや達成度を確認する指標や評価方法が曖昧になりやすい欠点もあります。

年功序列制度の弊害を解消できる「人事評価型」

人事評価型は、MBOを人事評価の基準とするタイプのMBOです。

個人目標が主体となっており、従業員は自らの課題を目標に設定、随時業務上の評価と達成度の確認を行います。個々の課題を基に目標を設定しているため、人事異動や人の入れ替わりがあった場合は、目標は立て直しとなります。バブル崩壊後に、日本企業のスタンダードだった年功序列制度によって起きていた不平等な評価の解決を図る目的で用いられてきました。

人事評価型では、個々の持つ課題を目標に設定するため、従業員のスキルアップを図ることができます。一方で、個人の課題の解決は、かならずしも企業の目標達成に直結しておらず、業績アップに結びつきにくい点が痛いところです。

理想的なMBO「課題達成型」

課題達成型は、企業の目標を部署やチームごとの目標に細分化、そこからさらに従業員1人ひとりの目標に落とし込むタイプのMBOです。

従業員の目標達成はすなわち企業の目標達成という形ができているため、業績向上につながる理想的なMBOといえます。企業目標の達成が目的なので、集団目標が主体となっており、人事異動や従業員の入れ替わりがあっても個人の目標は後任者が継承します。

個々の目標と企業の目標がリンクしているため、組織の活性化や従業員のモチベーション・エンゲージメント向上を実現しつつ、生産性・業績アップが可能です。ただし、個人の目標が単なるノルマになってしまうと、従業員のモチベーションやエンゲージメントの部分に逆効果になる可能性があります。とくに、目標達成に対するプロセスを無視しないよう注意しなければなりません。

MBO導入・運用のメリット

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MBOを正しく活用できれば、企業・従業員の両方にプラスの効果を生みます。ここでは、MBOのメリットを確認しましょう。すでにMBOを導入しているにも関わらず、効果を感じられていない場合は、運用の改善が必要かもしれません。

組織の方向性を合致させられる

企業目標に基づいた個人目標や部署・チーム目標を設定できるため、組織全体で進む方向を一致させることができます。

事業運営では、従業員1人ひとりが同じベクトルを持つことで、行動の指針が明確になるため従業員は能動的に業務に当たることができます。さらに、チームで連携して業務に取り組むことも可能です。また、マネジメント側の指示にも一貫性を持たすことも可能なので、無用なトラブルの防止にもつながります。

人事評価・人材教育に役立つ

MBOでは、目標に対する達成度が数値化されるため、マネジメント側はそのまま従業員の人事評価に活用できます。達成度の数値に基づいて客観的な評価を受けることで、評価される側が納得しやすくなる効果もあります。

また、達成できたこと・できなかったことが明確になることから、人材教育にも役立ちます。マネジメント側は部下へのフィードバックをしやすく、部下は今後の課題と努力すべきポイントを理解しやすくなります。

企業全体の目標の達成につながる

MBOでは、企業目標を達成しやすい組織を作ることができます。先にお伝えした通り、課題達成型のMBOを運用できれば、個人目標の達成がチーム・部署・企業といったより上位の目標の達成につながります。目標を確実にクリアしていけば、自ずと事業の成長と業績アップが実現するのです。

また、個人と組織が同じベクトルを持っていることから、無駄なく同じ方向に前進でき、より効率的な経営が可能になるといえるでしょう。

目標を達成させるための具体策を講じやすい

MBO
達成すべき目標が明確になれば、達成に向けたプロセスや求められる行動もはっきりしてきます。目標達成に向けた具体策を講じやすくなる点もMBOのメリットです。

従業員はPDCAサイクルを回して改善しつつ、自身で目標達成に向けた取り組みを進めます。明確な目標が存在しているため、業務の進行が遅れている場合や目標達成につながらない行動が目立つ場合は、マネジメント側がサポートすることもできます。

従業員の自己統制によるマネジメントが実現できる

MBOを導入すると、目標の設定から具体的な行動まで、基本的には従業員が自ら管理することになります。そのため、従業員の自己統制によるマネジメント(セルフマネジメント)スキルを向上させることが期待できます。支配によるマネジメントからの脱却は、MBOを提唱したドラッカーも利点として挙げているポイントです。

指示された業務を機械的にこなすのではなく、従業員1人ひとりが主体的に仕事に取り組むことができれば、マネジメント側の負担軽減にもつながります。

従業員の仕事に対するモチベーションが上がる

自身での目標設定や管理は、従業員の「やらされ感」を軽減し、仕事に対するモチベーションアップにつながります。上司から仕事を押し付けられたり、自分の意見が全く反映されなかったりすると、どうしても就労意欲を保てないものです。

また、目標達成度を基にした評価は、評価者の主観が入らず、公平性・透明性を保つことができます。適切に評価されていることが実感できれば、より大きな成果やキャリアアップへの意欲にもつながるでしょう。

従業員のスキルアップ・パフォーマンスアップが期待できる

目標達成には、ビジネスパーソンとして幅広いスキルが必要です。たとえば、既出のセルフマネジメントは、目標管理能力のほか、セルフモチベーションや問題解決能力、感情コントロールなどのスキルから構成されています。MBOによって、目標達成に向けたスキルに磨きがかかります。

スキルアップができれば、自ずとパフォーマンスも上がってきます。個々のパフォーマンスアップは、イノベーションの創出やチームのパフォーマンスアップにつながり、結果的には企業の成長や業績アップが見込めます。

MBO導入・運用の注意点

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企業目標の達成と業績アップが実現するMBOですが、正しく運用できずに効果を得られないばかりか、逆効果になるケースも見受けられます。そこでここからは、MBOを導入・運用するときに押さえておきたい注意点をまとめました。

企業と個人・チームの目標を一致させる必要がある

企業と個人・チームの目標は一致させないと、MBOの最終目標である企業目標の達成を実現できません。

組織活性型や人事評価型のMBOでは、企業目標を達成できるかという視点が不足しています。これは、企業の目標が個人やチームの目標と一致しておらず、個人やチームが目標を達成しても企業の業績に直接的な好影響を与えられないためです。目標の不一致は、進むべき方向性の不一致につながり、働きづらさやモチベーション・パフォーマンスの低下など、従業員・企業の双方にマイナスとなってしまいます。

定量的な目標を立てなければならない

MBOの目標設定は、定量的である必要があります。具体的な数値目標であれば、目標達成の基準が明確になりますが、抽象的な目標を立ててしまうと何をもって目標達成とするのか、どう目標達成を目指すのか、目標達成の基準やプロセスに具体性を持たせられません。目標達成度の判断でも主観が入りやすく、上司の評価に納得できない部下も出てくるでしょう。

たとえば、目標が「業務効率を上げる」だけだと、達成基準は曖昧です。しかし、「残業時間を○%削減」にすれば、達成基準が客観的に判断できます。残業時間を減らすために、現在時間がかかっている作業や改善に向けた具体的な行動も検討しやすくなるでしょう。

人事評価担当者の負担が大きくなる

MBO
MBOでは、数値で目標を立てるため、評価自体は行いやすくなります。しかし、決して人事評価担当者の負担がなくなるわけではありません。

マネジメント側は、従業員の自主性を尊重しながら企業の目標と一致する目標の設定を目指し、従業員のスキルアップやモチベーションアップを図りつつ、さらに目標達成に向けた行動が行えるようサポートしなければなりません。すべてをすぐに実行できる管理者は少なく、MBOを機能させようとすると、多くの企業で評価担当者の人材確保・育成から始めなければなりません。

目標達成が目的化しやすい

MBOの目的は企業目標の達成ですが、目標達成を目指す目的は従業員と企業の成長や業績の向上です。そのため、MBOはあくまでも最終的な成果を上げるための一手段でしかありません。にもかかわらず、目標設定と達成にのみ意識がいけば、MBOを運用すること自体が目的化してしまいます。

各々が自分の目標達成に固執すると、過重労働が発生する・チームとしての協調性が失われる・部下や後輩へのサポートが疎かになるなどトラブルの原因となります。

従業員から不満が出る可能性がある

MBOの効果を出すためには、個人の目標を企業の目標に合わせる必要があり、従業員の意見をすべて反映することはできません。そのため、MBOの目的や企業目標が浸透していないと、従業員は自身の希望する目標を設定できないことに不満を感じる可能性があります。また、マネジメント側が従業員に目標を押し付ける形になっても同様です。とくに、達成度を人事評価や報酬と紐づける場合は不満が増加しやすくなります。

マネジメント側には、不公平感や不満を生まないよう、目標の根拠や達成後の利点など従業員が納得できる説明を行うことが求められます。そして、最終的には従業員が自らの意志で目標を決定できることが重要です。

低い目標・無謀な目標を設定をすると逆効果になる可能性がある

MBOでは目標達成度が評価につながりやすいため、評価を下げないよう低い目標を設定しがちです。一方で、高すぎる目標は、そもそも達成を諦めてしまったり、モチベーションが低下したりとこちらもマイナス効果を生みます。そのため、達成できるかできないか絶妙なラインの難易度に設定することが重要となります。

また、努力しても成果が出なければ全く評価されない場合、モチベーションを下げるばかりか、退職の原因になり得ます。ノルマの達成だけでなく、プロセスも評価に入れたり従業員のレベルに合わせて評価を下したりと、成果主義に走りすぎないよう配慮しましょう。

MBOとOKRの併用はできるのか?

MBO
MBOとよく比較されるのがOKR(Objectives and Key Results)、「目標と主要な結果」と訳されるマネジメント手法です。最後は、MBOとOKRの違いや、併用の可否についてお伝えします。

OKRとは?

OKRとは、企業の経営戦略やビジョンを基に目標を設定し、従業員やチームが協力して目標達成を目指す目標管理手法です。Intel社の元CEOであるアンディ・グローブによって提唱されました。

OKRでは、定性的な目標と定量的な目標を組み合わせて設定する点が大きな特徴です。たとえば、「顧客の満足を最優先することで事業を促進させる」という定性的な目標に対して、「アンケートで満足度4以上を5割以上にする」「リピート率を○%まで上げる」結果、「年度の売り上げを○万円以上増やす」など2~3個程度の定量的な成果目標を立てます。

MBOとOKRの違い

MBOとOKRは目標を立てて、その目標達成を目的とするという点において共通しています。一方で、下記のように異なる点が多くあります。

MBOOKR
主な目的・業務管理
・人材管理
・人事評価
・生産性の向上
※従業員・組織の目標達成
・経営戦略実行
・方向性周知
・生産性向上
※組織全体の課題解決
評価の精度6~12ヶ月1~3ヶ月
目標の共有範囲本人・上司全社・部門・部署
理想の目標達成度100%60~70%
人事評価への影響度評価に直接影響する評価に直結しない

MBOとOKRの併用は可能!

MBOとOKRは、目標の目的や目標の性質、評価の頻度などが異なるため、併用することができます。併用することで、MBOとOKRのそれぞれが足りないところを補い合うことも可能です。

OKRでは、定性的な目標を立てられるため、数値化しにくい目標を立てる場合に役立ちます。また、OKRは目標の達成を人事評価や待遇に紐づけない目標なので、MBOでは難しい大胆な目標の設定やノルマ達成以外での評価が可能です。

MBOを採用していて効果が上がっていないのであれば、MBOとOKRの併用、またはOKRへの切替を検討してみましょう。MBOをOKRで迷ったときは、下記を参考にしてください。

MBO=個人の目標と組織の目標を一致させる必要があるため、ピラミッド型の組織に向いている。
OKR=全社的に課題を共有して解決を図ることから、スピード感のある目標達成・検証ができる企業に向いている。

MBOを正しく理解することが重要!

MBO
MBOは、従業員が自ら目標を設定し、その達成を目指すことで、従業員にも企業にもさまざまなメリットを生みます。正しく導入すれば、従業員のパフォーマンスアップや企業業績の向上を実現できる組織を作ることができます。一方で、企業目標と個人の目標がズレていたり、企業側が従業員に目標を押し付けたりすれば、期待したような効果は得られません。

これからMBOを導入する予定の企業は、MBOがどのような制度なのかしっかりと理解したうえで運用を進めましょう。すでにMBOを導入しているにもかかわらず、期待した効果を得られていないという場合は、間違った運用をしているかもしれません。OKRと併用することもできるため、本記事を参考にしながら自社に合った目標管理手法を選択してください。

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