ストックオプションとは?制度内容と仕組み、種類、メリット、デメリットを解説

ハイクラス人材の転職支援をするプロフェッショナルバンクにとって、「ストックオプション」は互恵関係にあるといっても良いでしょう。魅力あるベンチャー企業の採用支援において、候補となるCxOクラスや経営ブレーンは各社から引く手あまたの中、通常の給与だけではない、将来的なインセンティブによる条件交渉をヘッドハンターは幾度となく経験してきました。
本記事は、転職支援における最終局面で重要な役割を果たすストックオプションについて、紐解いていきます。
目次
ストックオプションとは?
ストックオプションとは、企業が従業員や役員に対して、あらかじめ定められた価格(行使価格)で自社の株式を購入する権利を与える制度のことです。Stock Optionの頭文字を取って、SOと略されます。
この制度は、特にベンチャー企業やスタートアップ企業が優秀な人材を確保し、長期間にわたって会社に貢献してもらうためのインセンティブとして広く利用されています。
言い換えると、ストックオプションは「将来の株価上昇を見越して、現時点で割安な価格で自社の株式を購入できる権利」を従業員に付与するものです。この権利を行使することで、従業員は企業の成長による株価上昇の恩恵を直接受けることができます。
ストックオプションの仕組み
ストックオプションの仕組みは、企業が特定の従業員や役員に、自社の株式を将来の一定期間内にあらかじめ定められた価格(行使価格)で購入する権利を付与する制度です。
具体的な例を挙げて説明します。
ベンチャー企業XYZが、従業員Aさんに対して、1株100円の行使価格で500株のストックオプションを付与したとします。このとき、以下のような条件が設定されます。
■行使価格:ストックオプションを行使する際の株式購入価格(この例では1株100円)
■権利行使期間:ストックオプションを行使できる期間(例えば、付与から3年後から10年間)
■付与条件:ストックオプションが付与されるための条件(例えば、一定の勤務期間や業績目標の達成、役職)
数年後、その企業の株価が300円に上昇したとします。この場合、Bさんは100円で購入した株式を300円で売却することができ、その差額である200円×500株=100,000円の利益を得ることができます。
この仕組みにより、従業員は企業の成長による直接的な利益を得ることができます。
また、企業は現金を直接支払うことなくインセンティブを提供できるため、特に資金繰りが厳しい成長段階の企業にとって有効な手段となります。
ストックオプション制度の導入が向いている企業
ストックオプション制度の導入には、急成長を目指すスタートアップ・ベンチャー企業や上場企業が向いています。
将来的な株式上場を目指すスタートアップ・ベンチャー企業
未上場企業で将来的なIPO(新規株式公開)を目指すベンチャー企業にとって、ストックオプションは非常に有効なインセンティブ制度です。まず、スタートアップ企業は初期段階で資金が限られていることが多く、現金報酬だけでは優秀な人材を引き付けるのが難しい場合があります。ストックオプションを付与することで、将来的な株価上昇による利益を期待させることができ、優秀な人材を採用しやすくなります。
すでに上場している企業
すでに株式公開している上場企業にとっても、ストックオプションは効果的なインセンティブ制度です。上場企業では、株価が日々変動するため、従業員が企業の業績向上に直接的な利益を得ることができる仕組みが求められます。ストックオプションを付与することで、従業員は自社の株価上昇に対する関心が高まり、業績向上に向けて能動的にイノベーションを生み出す動きが活発になるでしょう。
ストックオプションのメリット
ストックオプションには、企業と従業員の双方にとって多くのメリットがあります。本章では、具体的なメリットを4つ解説します。
従業員や役員のモチベーション向上
ストックオプションは、従業員や役員のモチベーションを大いに向上させる効果があります。業績が上がれば株価が上昇し、自身のキャピタルゲイン(資本利得)が増えるため、責任感をもって業務を遂行する社員が増えます。
個人の努力が直接的な報酬に結びつくため、従業員のモチベーションが高まり、結果的に会社全体の業績向上に繋がるという好循環が生まれます。
優秀人材の採用力向上
ストックオプションは、優秀な人材の採用力を向上させる強力なツールです。将来的なキャピタルゲイン(資本利得)を期待して、成長企業に飛び込み、自分の力を還元することで事業成長と金銭的報酬を受けることができるため、優秀な人材が集まりやすくなります。
ストックオプションを活用することで、企業は優秀な人材を引き付け、採用力を向上させることができます。
強力な社外協力者や連携先の獲得促進
ストックオプションは、社外役員やアドバイザーといった社外関係者に対しても付与することができ、外側からの経営強化にも活用できます。さらに、ストックオプションは(キャッシュフロー上の)キャッシュアウトを防ぐことにも繋がるため、企業は現金を使わずに強力なサポートを得ることができます。
このように、ストックオプションを活用することで、企業は強力な社外連携先を獲得しやすくなります。
ノーリスクハイリターンの仕組み
ストックオプションは、株価が上がれば「権利行使」によるキャピタルゲインを享受し、万が一、株価が下落した場合は「権利行使」をしなければマイナスになることがない、ノーリスクハイリターンの仕組みです。ストックオプションはリスクがほとんどなく、潜在的なリターンが大きいため、従業員にとって非常に魅力的なインセンティブとなります。
ストックオプションのデメリット
ストックオプションには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。ここからは、ストックオプションのデメリットについて詳しく解説します。
株価下落によるモチベーションの低下
ストックオプションの価値は株価に依存しているため、株価が下がるとストックオプションの価値も下がります。これにより、従業員のモチベーションが低下する可能性があります。
例えば、ある企業の株価が1株200円から100円に下落した場合、従業員Bさんが1株200円の行使価格で付与されていたストックオプションは価値を失います。この状況では、Bさんのモチベーションが大きく低下し、最悪の場合、退職を考えることもあるでしょう。株価の下落は企業全体の士気に悪影響を与えるため、企業は株価維持に努める必要があります。
行使条件未達成によるモチベーションの低下
さらに、ストックオプションの価値は、権利を行使できるか否かによって左右されます。前述した株価下落に関しては“価値の高低”を示しましたが、行使条件の未達に関しては“価値の有無”を示しています。
極端な話、権利行使の条件を満たさなければ、価値は0円、ただの紙切れです。
企業がIPO(新規株式公開)を目指していたものの、上場できずにいつまでも権利行使ができない場合や、企業がM&A(合併・買収)されることで、ストックオプションの権利が無効になる場合が該当します。
権利行使後・権利解消後の離職
ストックオプションの権利行使後および権利解消後の離職が考えられるのも、ストックオプションの特徴です。ストックオプションによる利益、つまり会社の業績向上のために頑張ってきた従業員が、権利行使によってキャピタルゲインを得た後に、新天地での挑戦を考えることはよくあるケースです。また、権利が解消されたとなれば、新たな環境を求めていく従業員がいることは不思議なことではありません。
このように、ストックオプションの権利行使後および権利解消後に離職するケースが増えると、さらなる成長に向けた人材戦略を考えていく必要があります。これまで事業成長を牽引してきた人材がいなくなることは企業にとっては大きな痛手となり、長期的な人材課題に悩まされる企業も見受けられます。
ストックオプション保有有無によって生じる社内軋轢
ストックオプションの付与基準が曖昧だと、従業員間で不公平感が生じ、社内で軋轢が生まれる可能性があります。例えば、新入社員や中途社員に対して、ストックオプションの付与基準が明確でない場合、ストックオプションを保有している従業員とそうでない従業員の間で不満が生じることがあります。
また、ストックオプションの情報が社内外に漏れると、従業員間の信頼関係に悪影響を及ぼす可能性もあります。企業は、ストックオプションの付与基準を明確にし、公平性を保つことが重要です。
ストックオプションにおける税制優遇措置
ストックオプションには、特定の条件を満たすことで税制優遇措置を受けられる場合があります。この優遇措置は、ストックオプションの行使時や売却時の税負担を軽減するもので、企業と従業員の双方にとって大きなメリットとなります。
次章の【ストックオプションの種類】では、具体的なストックオプションのタイプと、それぞれの特徴について詳しく解説しますが、税制優遇措置による税負担の軽減策があることを把握していただくだけで、より効果的なストックオプションの活用方法を理解することができます。
ストックオプションの種類
ストックオプションにはさまざまな種類があり、企業の状況や目的に応じて適切なものを選ぶことが重要です。大きく分けると、【無償】と【有償】の2種類があります。
【無償】のストックオプションは、付与される際にお金がかからないタイプで、さらに<税制適格ストックオプション>と<税制非適格ストックオプション>に分類されます。一方、【有償】のストックオプションは、付与される際に発行価額を支払う必要があるタイプです。以下では、それぞれの種類について詳しく解説します。
【無償】税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションは、付与される際にお金がかからない無償型のストックオプションであり、税制優遇措置の対象となります。このタイプのストックオプションは、権利行使時には課税されず、権利譲渡時にのみ課税されるため、税負担が軽減される点が大きな特徴です。
例えば、従業員Cさんが1株100円の行使価格で税制適格ストックオプションを付与されたとします。その後、株価が300円に上昇した場合、Cさんは権利行使時に税金を支払う必要がなく、株式を売却して利益を得た時点でのみ課税されます。このため、従業員は株価の上昇による利益を最大限に享受することができます。
【無償】税制非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプションも、付与される際にお金がかからない無償型のストックオプションですが、税制優遇措置の対象ではありません。これにより、課税のタイミングが権利行使時(給与所得)と株式売却時(譲渡所得)の2回あります。
例えば、従業員Dさんが1株100円の行使価格で税制非適格ストックオプションを付与されたとします。その後、株価が300円に上昇した場合、Dさんは権利行使時に200円×付与株数の給与所得として課税され、さらに株式を売却した時点で譲渡所得として課税されるため、税負担が増加します。
株式報酬型ストックオプション
株式報酬型ストックオプションは、【無償】税制非適格ストックオプションの一種で、1円ストックオプションとも呼ばれます。その名の通り、権利行使価額は1円として設定されているのが一般的です。つまり、ストックオプション付与者は、実質、権利行使時に株価と同等のキャピタルゲインを得ることができる仕組みです。このタイプは、退職金のような制度として利用されることが多く、企業の業績に応じて従業員に報酬を提供する方法です。
【有償】有償ストックオプション
有償ストックオプションは、付与される際にお金がかかるタイプのストックオプションです。具体的には、会社が発行するストックオプションに対して、発行価額を支払う(購入する)ことで取得するものです。有価証券として扱われるため、証券取引法などの規制を受けることがあります。
例えば、従業員Eさんが1株100円の行使価格で有償ストックオプションを取得するために、1株あたり10円の発行価額を支払ったとします。その後、株価が300円に上昇した場合、Eさんは行使価格と発行価額を差し引いた190円×付与株数の利益を得ることができます。
信託型ストックオプション
信託型ストックオプションは、発行されたストックオプションを信託に預け、信託満了まで保管する仕組みです。企業の業績に応じて役員や従業員にポイントを付与し、信託期間が満了したらそのポイントをストックオプションに交換できるようにします。
このように、ストックオプションには様々な種類があり、それぞれの特徴を理解して適切に活用することが重要です。
ストックオプション制度活用の注意点
ストックオプション制度を効果的に活用するためには、いくつかの重要な注意点を押さえておく必要があります。ここでは、ストックオプションを導入する際に特に留意すべきポイントについて解説します。
発行数は持ち分比率を見る!
ストックオプションの割当数を決定する際には、単に発行数を考えるのではなく、持ち分比率を基準にすることが重要です。一般的に、全体の持ち分比率の10~15%程度が適切とされています。
例えば、ある企業が全株式の10%に相当するSOを発行する場合、全体の株式数が1,000,000株であれば、ストックオプションとして100,000株を割り当てることになります。このように、持ち分比率を基準にすることで、株主の持ち分が過度に希薄化されることを防ぎ、企業の価値を適切に保つことができます。
付与条件は明確に!
ストックオプションの付与基準は明確に設定しておくことが重要です。具体的には、業績への貢献度、勤続年数、役職などの基準を設けることで、公平性を保つことができます。
例えば、ある企業が従業員にストックオプションを付与する際に、業績目標を達成した場合や一定の勤続年数を経過した場合に付与するといった条件を設定します。このように、明確な付与条件を設けることで、従業員は目標達成に向けて努力し、企業全体のパフォーマンス向上に繋がります。また、付与条件が曖昧だと、従業員間で不公平感が生じる可能性があるため、公平性を保つために重要な指標となります。
ベスティング条項を設定する!
ベスティング(vesting)とは、一定期間の経過によって権利が確定する契約条項のことです。ストックオプションにおいては、ベスティング条項を設定することで、従業員が長期間にわたって企業に貢献するきっかけを与えることができます。
例えば、ある企業が従業員に対してストックオプションを付与する際に、4年間のべスティング期間を設定し、毎年25%ずつ権利が確定するようにします。これにより、従業員は少なくとも4年間は企業に留まる動機が生まれます。このように、ベスティング条項を設定することで、企業は長期的な人材確保と業績向上を図ることができるのです。
ストックオプション制度を活用する際には、これらの注意点を押さえておくことで、企業と従業員の双方にとって有益な制度として運用することができます。
まとめ
ストックオプションは、会社法に定められた報酬制度の一つであり、特に成長企業にとっては欠かせない重要なインセンティブ制度です。この制度は、企業の成長と従業員の利益を結びつけることで、優秀な人材の採用やモチベーション向上に大きな効果をもたらします。
特にベンチャー企業やスタートアップ企業においては、資金繰りが厳しい中でも優秀な人材を確保するための強力なツールとなります。ストックオプションを活用することで、将来的な株価上昇によるキャピタルゲインを期待して、成長企業に飛び込む意欲的な人材を引き付けることができます。
また、ベンチャー企業のハイクラス人材を扱う人材紹介会社にとっても、ストックオプション制度はオファー条件交渉を有利に進めるための重要な要素となります。ストックオプションを含めた報酬パッケージを提示することで、候補者に対する魅力を高め、採用競争において優位に立つことができます。
制度の導入にあたっては、ストックオプションの種類や付与条件、税制優遇措置などを十分に理解し、適切に運用することが重要です。また、ストックオプション制度の設計や導入には、法律や税務に関する専門的な知識が必要となるため、弁護士や税理士、その他の専門家と連携しながら制度構築に努めることをお勧めします。
ストックオプションは、企業と従業員の双方にとって大きなメリットをもたらす制度です。企業の成長と従業員のモチベーション向上を実現するために、ストックオプション制度を効果的に活用し、長期的な成功を目指しましょう。