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コーポレートガバナンスとは?目的・課題・強化方法をわかりやすく解説

コーポレートガバナンスとは?目的・課題・強化方法をわかりやすく解説

毎年のように企業による不正や不祥事が発覚し、社会における企業の健全性や透明性への関心度は高まっています。不正や不祥事が起これば、長年築き上げてきた信頼は一瞬にして崩れ去り、その後の経営不振や事業売却、経営破綻といった最悪の状況に追い込まれることもあります。

企業が長期的に企業価値を高めていくためには、「コーポレートガバナンス」の強化が極めて重要です。

本記事では、コーポレートガバナンスの意味や目的、重視されている背景、強化するための具体的な方法をわかりやすく解説します。これからの時代、企業規模を問わず、ガバナンス強化が必須と考えたほうがよいでしょう。

コーポレートガバナンスとは?

コーポレートガバナンスとは、企業内での不正・不祥事を防ぎ、公正な判断や運営のもとで企業経営が行われるように監視・統制をする仕組みを指します。日本語では、「企業統治」とも呼ばれます。ここでいうところの企業の不正・不祥事とは、不正会計や不公正取引などが該当します。

企業を統治すべきは経営者ではなく、株主をはじめとした顧客・従業員・地域社会などのステークホルダーによるものという考えが基礎になります。

コーポレートガバナンス

内部統制との違い

内部統制とは、企業が社会的信用を維持するために、健全かつ効率的に事業活動を行うための従業員が守るべき仕組みを指します。

不正・不祥事を防ぎ、企業の透明性を図る取り組みという点は、コーポレートガバナンスも内部統制も変わりません。ただし、内部統制は経営者や従業員の不正・不祥事を防ぐための社内的な仕組みであるのに対して、コーポレートガバナンスはステークホルダーの利益を守るための第三者による社外的な仕組みです。

コーポレートガバナンスを達成するための要素の1つに、内部統制があるといえます。

コンプライアンスとの違い

近年、耳にすることが多くなったコンプライアンス。こちらも、コーポレートガバナンスとは異なるものです。

コンプライアンスとは、企業活動における法令遵守を指します。憲法・法律・条例といった法令のほか、社会的倫理や社会常識、モラル、マナーなども含まれます。コンプライアンスは社会全体におけるルールを守ることであり、コーポレートガバナンスは社会のルールを守るための社内的な仕組みです。

コンプライアンスを遵守するための要素が、コーポレートガバナンスという位置づけになります。

CSRとの違い

Corporate Social Responsibility、通称CSRは、企業の社会的責任と訳されます。具体的には、企業が社会や環境と共存しながら持続的な成長を続けるために、ステークホルダーに対して責任のある行動を取ることを指します。

日本で注目されるようになったのは、バブル崩壊後に相次いで発覚した企業の不正・不祥事です。社会問題・環境問題が深刻化するなか、企業は自社の利益のみを追求せず、社会や環境に配慮しつつ、ステークホルダーと良好な関係を築くことが求められています。

コンプライアンスと同じく、CSRを果たすための要素が、コーポレートガバナンスという位置づけとなります。

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コーポレートガバナンスが重要視されるようになった背景

コーポレートガバナンスが重要視されるようになった背景
コーポレートガバナンス自体は、1980年代にアメリカで始まった考え方といわれています。日本で注目され始めたのは、CSRと同様に、1990年代から2000年代にかけて増加した企業の経営陣による不正・不祥事の発覚です。

また、時を同じくしてインターネットが世界的に普及し、グローバル化が加速。日本企業も国際的な競争力強化を迫られることになりました。

このような背景から、2003年に証券取引法によって、上場企業に対する有価証券報告書における「コーポレート・ガバナンスの状況」の記載の義務化が開始。2004年には東京証券取引所から「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」が公表されました。

コーポレートガバナンスの目的

コーポレートガバナンスの目的としては、下記の5つが挙げられます。

・企業経営の透明性を確保
・経営陣による不正・不祥事の防止
・ステークホルダーの利益保護
・持続的な企業価値の向上
・社会貢献に取り組む企業として社会的地位の向上

ここでまとめて確認しておきましょう。

企業経営の透明性を確保

コーポレートガバナンスには、適切な情報開示を実施し、企業の経営に関する透明性を確保する目的があります。

企業の正確な現状を公開することで、経営の透明性を示し、ステークホルダーからの信頼獲得や貢献を期待できます。具体的には、次のような情報が公開されます。

■財務状況
■役員の情報
■社外取締役・監査役の選任理由
■取締役会の活動状況・構成状況
■リスク管理体制の整備状況
■内部統制システムの整備状況 …など

経営陣による不正・不祥事の防止

経営陣による不正・不祥事の防止はコーポレートガバナンスの主たる目的といえます。

コーポレートガバナンスが重視されるようになった背景からわかるように、経営陣による不正や不祥事が頻発したことが原因で日本企業のガバナンス欠如が問題視され、そのたびに企業の在り方が見直されてきました。

企業の経営陣は、組織のトップとして絶対的な決定権を持ちやすく、社内での監視・統制が難しい側面があります。そのため、第三者が企業を監視・統制することが重要なのです。

ステークホルダーへの利益保護

コーポレートガバナンスには、経営者の独断的な意思決定や経営判断を良しとせず、ステークホルダーの利益を守るという目的もあります。

経営者以外のステークホルダーには、下記のような企業に何かしらの利害関係が発生する人々や団体が含まれます。

■株主
■従業員
■顧客
■取引先
■金融機関
■行政機関
■その他、NGO/NPO団体・近隣住民・市地域社会 …など

企業の経営は、ステークホルダーとの関係のうえに成り立っています。たとえば、従業員がいなければ業務が回らず、顧客がいなければ利益は生まれません。株式会社なら、経営者は経営を委任された役職者に過ぎず、会社は株主のものです。

ステークホルダーからの信頼や貢献を得るためには、コーポレートガバナンスを徹底し、ステークホルダーの権利や立場を尊重する姿勢を社外に示すことが重要となります。

持続的な企業価値の向上

持続的に企業価値を高めることも、コーポレートガバナンスの目的の1つです。企業が成長し続けるためには、資金や人材の確保が欠かせません。コーポレートガバナンスを徹底し、ステークホルダーからの信頼が高まれば、売上が上がるだけでなく、金融機関から融資を受けやすくなったり、採用活動を有利に進められたりといった効果が期待できます。

不正・不祥事の対策がしっかりとなされ、ステークホルダーへの配慮を怠らないことが、中長期的な安定した経営につながるのです。

社会貢献に取り組む企業として社会的地位の向上

先述の通り、コーポレートガバナンスはCSRを果たすための要素の1つです。近年は、国際社会における環境・人権問題への意識が高まっており、社会貢献に取り組むことで企業の社会的価値の向上が目指せます。たとえば、国連で採択されたSDGsは経済・社会・環境においてバランスのとれた社会の実現に向けた世界共通の目標であり、世界各国で積極的な取り組みが進められています。

CSRはあくまでも社会に対する責任で、法的な罰則はないので、無視して自社の利益のみを追い求めることも可能です。しかし、消費者からの不買運動やデモ活動、投資家からの融資のストップ、人材の離職といったさまざまな社会的なペナルティを受けることになります。

自社の利益重視ではなく、社会やステークホルダーに利益を還元する取り組みは、現代社会において企業経営の一部となっています。

上場企業のガイドライン【コーポレートガバナンス・コード】

コーポレートガバナンスのガイドライン
企業におけるガバナンスを見直す動きを受け、金融庁と東京証券取引所は2015年に上場企業を対象にした「コーポレートガバナンス・コード」を策定。同年6月から適用が開始されました。

コーポレートガバナンス・コードには、5つの基本原則と、それに付随する31の原則・47の補充原則が示されています。

【コーポレートガバナンス・コード5つの基本原則】
1.株主の権利・平等性の確保
2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働
3.適切な情報開示と透明性の確保
4.取締役会などの責務
5.株主との対話

2018年と2021年には改訂が行われ、「ジェンダーや国際性」「サステナビリティへの取り組み」などの原則が追加されました。

なお、コーポレートガバナンス・コードが適用される企業でも、法的な強制力はなく、すべての原則に対する遵守義務もありません。しかし、遵守しない場合は、経営者はなぜ実施しないのかを十分に説明することが求められています。

また、2021年の改訂では、東京証券取引所プライム市場に対して、「気候変動にかかわるリスク・収益機会が自社に与える影響」の情報開示が実質的に義務付けられました。

非上場企業にも広がるコーポレートガバナンス

コーポレートガバナンス・コードは、上場企業を対象としたもので、非上場企業には適用されません。しかし、企業規模を問わず、不透明な運営はステークホルダーからの不信感を招き、業績不信や資金調達の難航化に直結します。

コーポレートガバナンスが求められる背景や目的を鑑みると、情報公開の義務はなくとも、持続的な企業の成長のためには必要不可欠な要素です。実際に2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂後、上場企業が対応に追われるなか、適用外の非上場企業・中小企業でコーポレートガバナンスの強化が相次ぎました。

コーポレートガバナンスを徹底した競合が増えれば競争に勝ちにくくなるため、非上場企業であっても早めに取り組みを始めておきたいところです。

コーポレートガバナンスの課題

コーポレートガバナンスの課題
コーポレートガバナンスは、今や企業の維持に欠かせない要素となっていますが、その存在が企業活動の足かせとなることもあります。

・社外監査による事業展開の鈍化
・社内体制構築にかかるコスト
・株主・ステークホルダーへの依存
・グループ会社のガバナンス整備

ここからは、コーポレートガバナンスの課題についてみていきましょう。

社外監査による事業展開の鈍化

コーポレートガバナンスを徹底することで、経営者の意思決定のほかに、社外監査の判断が入ることになります。そのため、スピーディーな事業展開を阻害することが考えられます。

近年は、変化が激しく複雑、かつ先行きが不透明なVUCA時代です。ビジネスの意思決定が遅れれば、ビジネスチャンスを逃したり、損失が出たりする可能性もあります。

社内外の体制構築にかかるコスト

コーポレートガバナンスの強化には、専門家への依頼や社外取締役の登用など、仕組みを整備するための金銭的コスト・時間的コスト・肉体的コストがかかります。体制構築にコストがかかり過ぎると、企業の安定した経営や通常業務の遂行に影響することも考えられます。

また、コーポレートガバナンスは、コストをかけたからといって、目に見える形で効果が表れるとは限りません。そのため、「コストをどの程度かければよいのか」「どのような指標で成果を計測すべきなのか」を判断しにくいという点も課題といえます。

ステークホルダーへの依存

ステークホルダーの意思や利益を尊重することに重きを置くあまりに、経営の舵取りが難しくなることがあります。

企業と株主、その他のステークホルダー間の利益は必ずしも一致しません。企業が長期的な成長を見込んだ事業展開も、ステークホルダーに受け入れられず、短期的な利益の追及にシフトせざるを得ないというケースも発生しています。とくに、株式会社であれば、株主総会が企業の最高意思決定機関となるため、株主によって中長期的な成長が阻害されることも考えられます。

グループ会社のガバナンス整備

グループ会社の親会社は、子会社や関連会社を含めたグループ全体のガバナンス整備・統制を進める必要があります。グループ会社のガバナンス整備は、コーポレートガバナンスではなく、「グループガバナンス」と呼ばれます。

グループ会社では、子会社・関連会社での不正・不祥事がグループ全体に影響します。つまり、グループガバナンスの適切な運用がなければ、子会社・関連会社はもちろん親会社の企業価値も高めることはできません。

コーポレートガバナンスを強化する方法

コーポレートガバナンスを強化する方法
それでは、具体的にコーポレートガバナンスを強化するためにはどうすればよいのでしょうか。

・内部統制を構築する
・社内規定を明確にする
・役職に応じたコンプライアンス研修を実施する
・告発者の保護体制・報告ルート確保する
・社外取締役・社外監査役を設置する
・執行役員制度を導入する

1つずつ確認していきましょう。

内部統制を構築する

コーポレートガバナンスを達成するためには、内部統制の強化が必須です。日々の業務のなかで不正・不祥事を予防・監視する仕組みを構築しなければ、違反行為が発生しても適切な情報の開示・報告や透明性のある企業経営にはつながりません。

企業内部から適切な監視体制を構築することが、コーポレートガバナンス強化の土台となります。

社内規定を明確にする

内部統制の強化には、社内規定を明確にすることが重要です。日々の業務でどのような行為が問題になるのかという判断基準をはっきりと周知・徹底することで、従業員1人ひとりの責任感や意識を高めることができます。

従業員がルールに則って行動できるよう、企業理念や社内規定、行動規範などで細やかな判断基準を作成しましょう。

役職に応じたコンプライアンス研修を実施する

社内への定期的なコンプライアンス研修も、コーポレートガバナンスの強化に役立ちます。不正・不祥事のリスクと発生した場合の影響を知ってもらい、コンプライアンスの遵守の重大性を理解してもらうことが重要です。

ポジションによって、とくに注意すべきコンプライアンスが異なります。役割に応じた知識を理解させることで、統制・管理がしやすくなるでしょう。

告発者の保護体制・報告ルート確保する

内部統制の強化においては、社内告発者の保護措置や報告ルートの整備を行うことも欠かせません。予防に徹していても、不正や不祥事を完璧に防げるとは限りません。企業が経営の健全性・透明性を保つためには、問題を隠ぺいしない体制を構築し、情報の取り扱いに関する信頼性を高める必要があります。

企業のガバナンス強化においては、将来的な不正・不祥事の予防や企業価値の向上に対する姿勢も重要となってくるのです。

社外取締役・社外監査役を設置する

社外の第三者機関としては、社外取締役・社外監査役といった社外の人間のみが参加できる委員会の設置が有効です。コーポレートガバナンスは、企業の経営陣による不正・不祥事の防止を大きな目的としています。よって、経営陣を監視する人間は社外から集めなければ、企業の透明性を保てません。

第三者による監査体制は、経営陣による不正・不祥事の防止のほか、客観的な視点による新しい意見やリスクの発見にもつながります。

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執行役員制度を導入する

執行役員制度を導入すれば、取締役の負担を軽減することができるため、コーポレートガバナンスの強化につながります。

執行役員制度とは、取締役が決定した方針に沿って業務を遂行する、事業運営における責任者を指します。会社法上の役員とは異なり、会社が任意で定める役職名で、具体的な役割や規定、業務内容は企業によって異なります。

執行役員を設置することにより、取締役は経営に関する意思決定や内部統制の整備に注力でき、結果的に管理体制を強めることにつながるのです。

日本と海外のコーポレートガバナンスの違い

日本と海外のコーポレートガバナンスの違い
コーポレートガバナンスの考え方は日本と海外で異なるため、グローバル展開している企業ないしは、する予定がある企業、海外企業と取引がある企業は注意が必要です。

日本では、ステークホルダーに株主を含み、ステークホルダーの権利や利益は重視されています。ただし、法律上はコーポレートガバナンスを導入する義務はなく、強制力には劣ります。

対して、ヨーロッパ諸国ではコーポレートガバナンスが法律で定められており、株主や従業員などの各ステークホルダーは法によって役割を割り振られています。

また、アメリカやイギリスでは、コーポレートガバナンスが法律で決まっておらず、企業の経営者が株主価値を追求することを重視しています。従業員はあくまでも生産における要素の1つという扱いです。

まとめ

コーポレートガバナンスは、現代の企業にとって欠かせない要素となっています。コーポレートガバナンスに取り組むことで、健全で透明性のある経営が実現され、ステークホルダー・社会からの信頼獲得や企業価値の向上、そして企業の持続的な成長を目指せます。

金融庁と東京証券取引所が取りまとめたコーポレートガバナンス・コードの遵守は、上場企業のみに求められています。しかし、コーポレートガバナンスは企業を取り巻く社会やステークホルダーからの信頼に直結する要素であり、ガバナンス強化を求める動きは拡大傾向にあります。

今後は、非上場企業を含め、企業規模を問わず、コーポレートガバナンスの必要性がさらに高まることが予想されます。

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