社外取締役とは?役割、法的要件、選定方法、登用事例、採用ニーズを徹底解説
昨今の日本において、上場企業を中心に「社外取締役」の設置が増えています。単語の意味からして外部から着任した取締役であることは何となくわかるものの、その役割や意義、任期などについては不明な方も多いと思います。
当記事では、社外取締役の具体的な役割や法的要件、そして採用ニーズから相応しい人材像までを詳しく解説しています。さらに、成功企業の実例を交え、社外取締役がどのように経営戦略の再構築やリスク管理の強化に貢献できるかを紹介します。
これから社外取締役の導入を考えている企業経営者や人事担当者にとって、必読の内容となっています。
目次
社外取締役とは?
社外取締役(英語でOutside Director)とはその名のとおり、外部から招いた取締役のことです。
取締役(社内)は内部昇格で就任した人材自らが事業・部門を管掌する役割を担います。一方、社外取締役は、自らが事業管掌をすることはなく、経営陣とは独立した公平公正な立場から経営状況のチェックや監督することが期待されます。
具体的には、経営戦略の策定支援、リスク管理の評価、内部統制の強化など、多岐にわたる役割を担います。また、外部の専門知識や経験を活かして、企業の長期的な成長を支える助言も行います。
欧米では社外取締役の設置が先進しており、取締役の半数以上を社外取締役が占めるとも言われています。日本でも、大半の上場企業で社外取締役が設置され、それ以外の企業でも近年では設置が増加傾向にあります。
社内取締役との違い
先述のように社外取締役とは、「当該企業と取引や資本関係のない、社外から招聘された取締役のことで、社内のしがらみや利害関係にとらわれず、“客観性”をもったチェックや監督により経営の透明性を高め、不祥事をなくし、企業統治(コーポレートガバナンス)を強化する目的」で設置されるものです。社内取締役との違いは、この“客観性”であると定義できるでしょう。
また、社外取締役は、「企業のガバナンス体制の強化」「リスク管理の適切性の評価」「法令遵守の監督」といった“長期的”な視点でのアドバイスを行い、企業の持続的な成長に寄与します。一方で、社内取締役は、企業内部での業務運営に深く関与しているため、“短期的”な課題や業務効率の向上に注力します。
つまり、社外取締役には、客観性と長期視点を持った経営判断が必要になってくるのです。
※「社外取締役」の対義として企業内部の取締役のことを「社内取締役」と表記していますが、常用の用語ではありません。
社外取締役の意義
近年、企業統治(コーポレートガバナンス)を重視する企業が増えてきましたが、これは売上や利益の向上だけでなく、会社が法令を遵守し、不正行為をはたらかないよう監視する体制・仕組みを指します。社外取締役は、このコーポレートガバナンスを推進し、会社が株主のものである考えに基づき、株主価値最大化の実現のために経営状況を監督する役割となります。
独立社外取締役について
独立社外取締役 (英語でIndependent Outside Director) とは、社外取締役の中でも企業の内部者から一定の独立性を有している取締役のことを指します。
この一定の独立性とは、証券取引所が定める独立性基準を満たしていることを指し、例えば、東京証券取引所では、親会社・子会社や関連会社の役職員ではないこと、当該会社の主要な取引先でないことなどを挙げています。
独立社外取締役の就任状況
日本において企業統治(コーポレートガバナンス)の動きは年々強化されています。2000年代に入り、上場企業を中心に社外取締役の必要性が高まり設置も急速に進みました。また、直近の2021年法改正により、事実上、大企業での社外取締役の設置が義務化されることになりました。
2023年の東京証券取引所報告によると2名以上の社外取締役を選任する上場企業の比率は、
・プライム市場では、99.2%
・JPX日経400では、99.5%
とほんとどの上場企業が独立社外取締役を2名上置いていることがわかります。
<参照>【東京証券取引所 上場部】東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況(2023年7月31日)
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/ind-executive/nlsgeu000005va0p-att/aocfb40000003dlj.pdf
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社外取締役の設置が必要な会社
2021年に施行された改正会社法に基づき、「上場会社」と「委員会設置会社」において社外取締役の選任が義務化されましたが、それに伴い大会社や上場を目指す会社も社外取締役の設置が必要となってきます。
【必須】上場会社
金融取引所(東証・札証・名証・福証)に株式を上場している会社は、社外取締役を設置する必要があります。特にプライム市場上場会社は、独立社外取締役を3分の1以上選任する、委員会の構成員の過半数に独立社外取締役を選任するなど、他の市場より高い基準が設けられることになりました。
【必須】大会社
直近の会計年度において、「資本金が5億円以上」、または「負債総額が200億円以上」の大会社は改正会社法の社外取締役の選任が義務付けられます。
【推奨】上場を目指す会社
会社法による義務が生じない企業であっても、近い将来にIPO(新規上場)を目指す会社であれば、早い段階から社外取締役を設置して経営体制やコーポレートガバナンスを強化することが推奨されます。
社外取締役の法的要件と規制
社外取締役は、会社法に基づいて一定の独立性基準を満たす必要があります。具体的には、会社法2条15号で厳密に定められています。以下に、社外取締役に求められる主な法的要件を挙げていきます。
■独立性の確保
社外取締役は、企業の業務執行に直接関与しない立場である必要があります。これは、社外取締役が企業の内部事情に影響されず、客観的な視点で経営を監視できるためのものです。
- 現在から過去10年以内における当該企業の業務執行に関わりがないこと
- 当該企業グループの業務執行に関わりがないこと
- 当該企業グループの親類縁者ではないこと
この独立性が、社外取締役が客観的かつ公正な判断を下す基盤となります。
■透明性の確保
社外取締役の選定プロセスには、透明性が求められます。取締役会での承認を得た後、株主総会での決議が必要です。選定プロセスの詳細は【社外取締役の選定プロセス】にて後述しますが、このプロセスを通じて、社外取締役の選定が公正に行われることが保証されます。
任命後も、社外取締役の報酬や任期に関する情報は適切に開示される必要があります。報酬に関しては、企業の業績や社外取締役の役割に応じて決定されますが、その透明性を確保するために、報酬の開示が義務付けられています。具体的な報酬総額水準は次章【社外取締役の役割と任期】で記載しています。
会社法2条15号
十五 社外取締役 株式会社の取締役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ 当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役(株式会社の第363条第1項各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいう。以下同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」という。)でなく、かつ、その就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ロ その就任の前10年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)又は監査役であったことがある者(業務執行取締役等であったことがあるものを除く。)にあっては、当該取締役、会計参与又は監査役への就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二親等内の親族でないこと。
社外取締役の役割と任期
ここからは、社外取締役の具体的な仕事内容や任期、報酬について解説していきます。
取締役会への参加と助言
社外取締役は、取締役会に参加します。取締役会とは、会社の経営方針や事業戦略がすべての取締役によって決定される場です。取締役会に参加し、公平公正な立場で経営のチェックや監査・監督するとともに決議に参加して意見や助言を述べます。
コーポレートガバナンスの強化
社外取締役の仕事として、最も期待されるのは、コーポレートガバナンスの強化とも言えます。社内取締役のみの企業経営では、企業成長や業績の向上に没頭するあまり、不正行為や不当な利益を得てしまうことも考えられます。そこで、社外取締役が客観的な立場で監視することにより、不正行為を未然に防ぎ、問題発生時には速やかに対処することが可能になります。
投資家との対話
社外取締役は、機関投資家に対して経営方針をはじめ事業戦略や人事戦略などを情報提供することで投資家との良好な関係性を構築する役割も担います。また、少数株主の意見にも耳を傾け、社外取締役が有益な意見を代弁することもあります。
指名・報酬委員会への関与
社外取締役が役員の指名や報酬の決定プロセスに参加すれば、部門や派閥などの偏りなく客観的で公平公正な報酬や役員決定が実現されるようになります。そのため社外取締役のみか、または全体の半数で構成された「指名・報酬委員会」を設置し関与する場合があります。
業務執行の特例について
改正会社法において、一定の要件を満たす場合に、適法に社外取締役に業務執行を委託できることが定められました。具体的には、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、取締役会の決議により業務執行することを社外取締役に委託することができることになりました。
社外取締役の任期について
経済産業省の調査「社外取締役の現状について」では、社外取締役の在任期間(上限)については、4年から10年を中心にばらつきがあるが、平均すると6年程度が適当と考えられている、とあります。ただ、社外取締役の特徴からも任期は1年または2年に設定し、適宜更新することが多いようです。
社外取締役の報酬
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社による2021年の調査では、東証一部上場企業における社外取締役の報酬総額水準は、中央値で800万円と5年連続上昇となっていました。
社外取締役の選定プロセス
続いて、社外取締役を選定する手順を紹介します。
会社法に準ずる選定
■候補者の選定
社外取締役の候補者選定は、専門的な知識と経験を持つ人物を探すことから始まります。自社の業界に関する深い理解や、経営戦略に対する洞察力を持つ人物が理想的です。ヘッドハンティングやコンサルティング会社を活用することも有効です。
■適格性の確認
候補者と接点が持てたら、経歴や資格を詳細に確認します。下記の2つの観点から確認すると良いでしょう。
【戦略的観点】候補者の経験や知見は自社の社外取締役として必要なものか
【リスク的観点】独立性を確保するために過去の経験は自社で社外取締役の対象になるか
独立性の確保はとくに重要で、過去に企業やその関連会社で役員や従業員として勤務していないこと、企業の主要取引先や利害関係者でないことまで確認する必要があります。
■取締役会での承認
選定された候補者は、まず取締役会で承認を受ける必要があります。この段階では、候補者の適格性と独立性が再度検証されます。取締役会のメンバーによる評価が行われることもあります。
■株主総会での承認
取締役会での承認を経た後、株主総会での正式な承認が必要です。これにより、株主の意見も反映された任命が行われます。株主総会での投票結果は公開し、透明性を確保します。
■報酬の設定と開示
社外取締役の報酬は、企業の業績や役割に応じて設定されます。報酬の透明性を確保するために、その詳細は適切に開示されます。報酬の構成は、固定報酬と業績連動型報酬のバランスが取れたものが理想的です。
スキルマトリックスによる選定
また、会社法に準じて社外取締役を選定することはもちろんですが、所謂スキルマトリックスの観点で中長期の経営計画に基づく取締役個々の専門領域の網羅性を高める必要もあります。一人の経験、能力で経営体制をチェック、監督するのは難しい場合が多い為、複数の取締役が互いを補完して強固な経営体制を構築していくことが重要となります。
従業員のスキルマップを作成して適切な人材育成や配置転換をする企業がありますが、同様に社外取締役のスキルを表にした「スキルマトリックス」を作成して、新規登用に活かしたり、IR資料で開示して経営の透明性を高めたりするケースも出てきています。
女性社外取締役の採用ニーズ
社外取締役を含む女性社外役員の登用も昨今の日本では活発化しています。
内閣府男女共同参画局の発表(2023年7月)によると、2023年度における上場企業数約3,800社のうち女性役員数は4,302人と、過去10年間で約6.8倍に増加し、初めて4,000人の大台を超えました。
女性役員の登用が進む背景の一つには、「市場の圧力」があるようです。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは、企業に「人材の多様性確保」を求めており、機関投資家も女性役員の有無を投資判断の一つにしつつあります。
<参照>【内閣府男女共同参画局】上場企業の女性役員数の推移(2023年7月)
https://www.gender.go.jp/policy/mieruka/company/pdf/suii.pdf
よくある社外取締役の採用課題
女性の役員登用は、意思決定層の多様性を高め、かつ客観的な経営視点において企業の弱点を補強し、持続的な成長を支える選択肢の一つとして求められています。一方で要望に合致する女性社外取締役は簡単には登用できないという企業も多数存在しています。プロフェッショナルバンクでは、2020年から女性社外役員の採用支援を積極的に展開しています。当社に寄せられる問合せの背景となる課題として代表的なケースは下記となります。
CASE01
社外取締役を配置されて以後変わらずの陣容の改選、且つ女性の起用を検討したい。
CASE02
社内の人脈では期待する役割に応じた女性の社外取締役が見出せない。
CASE03
親会社出身の社外役員体制をグループ経営改革に基づいての改選をしたい。
CASE04
次の経営ステージに向けた指名・報酬委員として知見を持つ方を起用したい。
CASE05
未来を見据えた時に外せないIT・テクノロジー領域での経営アドバイスが欲しい。
CASE06
一世代上の方が多く、中長期を見据えた今のガバナンス議論を講じたい。
CASE07
企業経営の苦難を経験された女性経営者を起用したい。
CASE08
事業の特性に通じる領域に強い女性弁護士を起用したい。
このように既存の布陣からの変化を期待している場合や、自社の未来に向けたアドバイザーを求める傾向が高いように思います。
社外取締役を登用した成功事例
企業が社外取締役を登用することで得られる具体的な効果について、弊社がプレースメントした実際の事例を用いて紹介します。社外取締役の役割とその重要性が明確になるでしょう。
■事例1:ダイバーシティ強化 ~業界特有の文化を覆す経営変革~
<クライアントの状況>
東証プライム上場の化学メーカーであるST社は、売上高5,000億円を超える規模で業界を牽引。一方で、現任の社外取締役の任期10年が迫っていることと、製品および製造過程における環境への配慮や時代遅れの企業体質に悩まされ、持続可能な企業経営に懸念を抱えていました。
<プロフェッショナルバンクからの提案>
大手消費財メーカーで取締役経験のあるA氏を推薦。
A氏の製造部門の管掌経験と人材育成部門の管理職経験からの助言で、SCM戦略と女性活躍推進が後押しされ、今や商材とSDGsの双方から業界を牽引する存在に。
■事例2:成長戦略再構築 ~新たな柱となる新規事業の拡大~
<クライアントの状況>
東証スタンダード上場のIT関連企業であるXYZ社は、既存プロダクトで業界トップシェアを誇ります。一方で、今後の成長戦略として、主力事業の他に、第二の柱となる事業の創出を画策していました。
<プロフェッショナルバンクからの提案>
国内外の大手IT企業の役員として新規事業立ち上げの豊富な実績を持つB氏を推薦。
B氏の助言・アドバイスにより、迅速かつ的確な経営判断の意思決定がなされ、XYZ社は新規事業の市場浸透に大きく寄与しました。
■事例3:ガバナンス強化 ~上場を見据えた経営基盤を確立~
<クライアントの状況>
2年後の上場に向けてIPO準備中のFGH社は、監査や内部管理体制の強化に上場前から踏み切ることを決断。
<プロフェッショナルバンクからの提案>
大手監査法人での監査経験と事業会社での経理責任者経験を持つC氏を推薦。
上場を見据えているため、C氏は監査体制の整備をメインミッションとして就任。内部体制の強化が計画通り進み、上場へ向けて順調に推移中。
社外取締役に相応しい人材像
最後に社外取締役を選任する場合には、どのような経験や能力を備えた人物が相応しいのでしょうか?前章の3つの事例からも分かるとおり、実態としては、企業の業態や社内取締役のスキルなどによって異なっており、各企業の社外取締役に就任している人のバックグラウンドは多様になっています。
- 会社の経営者、経営者OBの経営経験とノウハウのある人物
- 弁護士、CROなどの法務・コンプライアンスのスペシャリスト
- 公認会計士、税理士といった会計や税務に関するスペシャリスト
- 大学の教授や研究者などの高い専門性を持つ学者
- 投資機関やコンサルタントなどの経営スペシャリスト
- 著名人など
上記のように社外取締役になるには、専門性高い人材である点は共通しています。また、近年では、ESG(環境、社会、ガバナンスに配慮した企業経営)やSDGs(持続可能な開発目標)などによる企業の社会貢献に関しても株主からは高い注目を浴びるようになったため、この分野に知見のある人材の選任も検討するとよいでしょう。
社外取締役は、自社の課題や他経営者とのスキルマトリックスの観点から最適な人材を選任する必要があります。「適任者が想定できない」「探すネットワークが限られる」「独立性の担保に至っていない」「兼任の少ない社外役員を選任したい」などの課題を抱える企業が少なからず存在するようですので、そのような企業は、当社のような外部のエージェントを活用して選任することも有効かと思います。