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CSRとは?取り組むメリットから具体的な活動・企業事例まで紹介

CSRとは?取り組むメリットから具体的な活動・企業事例まで紹介

近年、「CSR」への注目が高まり、取り組む企業が増加しています。これから取り組み開始を目指している企業も多いなか、経営者や人事担当者であればCSRの正確な意味や具体的な活動を把握しておきたいところです。

本記事では、CSRの意味や活動を始めるメリット・デメリット、取り組みを行っている企業事例について丁寧に解説します。CSR活動によって、人材確保や生産性の向上、企業イメージの向上といった企業が抱える課題の解決にもつながるかもしれません。

CSRとは?

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まずは、CSRの意味について詳しくみていきましょう。誤解されがちですが、CSRは慈善活動やボランティア活動とイコールではありません。

CSRの意味

CSRとは、「Corporate Social Responsibility」の略で、企業が組織活動において担うべき社会的責任を意味します。

そして、社会的責任とは、すべての個人・組織は、社会・環境のために適切な行動をすべきであるという考え方に基づいています。CSRの社会的責任で配慮すべき対象は消費者・従業員・取引先・投資家など企業のステークホルダー全体と幅広く、環境・経済・社会のバランスを維持するための意思決定が求められます。

CSRは慈善活動ではない

CSRは企業が社会のために行う取り組みなので、慈善活動・ボランティア活動と混同されがちです。しかし、CSRと慈善活動・ボランティア活動は区別して認識する必要があります。

慈善活動・ボランティア活動は、一般的に事業に関係のない分野において行われます。多くが、企業のネガティブイメージの払しょく、または企業PR・ブランディング・イメージ戦略などの企業利益が優先される事業活動の延長上で行われます。

一方で、CSRは、社会の永続的な持続のために、企業が事業活動によって社会や環境に与え得るネガティブな影響に責任をもつ取り組みです。企業の利益のみを追及するのではなく社会に利益のある活動、企業の利益に直結しない社会的な活動が主となります。

CSR7つの原則

CSR活動は、世界的に重要視されている取り組みで、国際規格「ISO26000」が存在します。

ISO26000において、「説明責任」「透明性」「倫理的な行動」「ステークホルダーの利害の尊重」「法の支配の尊重」「国際行動規範の尊重」「人権の尊重」という7つが原則として示されています。これは、企業が尊重すべき社会的責任の概念を表します。

また「組織統治」「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」といった7つの中核主題も示されています。こちらは、CSR活動の軸、枠組みを表します。

ISO26000は企業がCSRに取り組むための教科書のようなものです。企業はそれぞれ優先的に取り組む課題・重視すべき課題が存在しているため、ISO26000を参考に自社の状況に合せたアクションプランを検討できます。東京商工会議所の『企業行動規範』もISO26000が参考にされています。

CSRと混同されがちな用語との違い

CSRは、近年注目が集まるサステナビリティ・SDGs・ESGなどと意味が被る部分があります。そのため、ここでそれぞれの関係性や共通点・相違点を確認しておきます。

CSRとサステナビリティ

サステナビリティは、将来にわたって世界を持続できる状態にするために、社会・環境・経済のバランスを取りながらの発展を目指す考え方です。企業にはとくに、地球環境を壊さないように良好な経済活動を続け、人間社会を維持できる事業活動を行うことが求められます。

CSRと概念的な意味合いは共通していますが、サステナビリティは政府や個人、企業と社会全体で取り組むべき課題であり、CSRの土台となる考え方です。CSRは企業が主体であり、サステナブルな社会の実現のために企業が行う活動と捉えられます。

CSRとSDGs

SDGsは、国連で採択された「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、持続可能な社会の実現のための世界的な目標の1つです。政府・企業・個人が変革させるべき意識や行動について17の目標・169のターゲットが設定され、国連加盟国193か国が2030年までの達成に向けて取り組んでいます。

CSRもSDGsもサステナビリティを実現させるための手段であることは共通しています。ただし、SDGsは政府から個人までが取り組むべき意識・行動の変革であり、CSRは企業が行うべき取り組みであるという点が異なります。また、CSRは利益に直結しない活動を含みますが、SDGsにおける企業はビジネスを用いて世界が抱える問題を解決する点も大きな違いです。

CSRとESG

ESGは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字をとって作られた言葉です。企業はさまざまな問題を抱える世界において、環境・社会・企業統治の視点をもって取り組みを行うべきという考え方を指します。ESGもサステナビリティを実現することを目標としています。

CSRとESGは、社会・環境・ステークホルダーに配慮した意思決定を下すという点において共通しています。そのため、とくにCSRと似た用語として、CSRとESGを同義で扱っている企業も少なくありません。しかし、CSRは利益に直結しない活動を含みますが、ESGは社会が抱える課題を経営課題の中心に据えてビジネスを用いて解決と利益創出の両立を目指します。そのため、ESGにおいては投資家からの評価・株価の価値の向上が重要です。

CSRが広がっている背景

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CSRが広がった背景には、世界が抱えるさまざまな問題が顕著に現れるようになっていることがあります。

世界が抱える社会問題には、食品の産地偽装・賞味期限偽装問題・粉飾決算・ハラスメント行為など企業の不祥事から、地球温暖化・異常気象の深刻化といった環境問題、食糧需給の逼迫、人権問題まで多岐にわたります。また、グローバル化も加速したことによって、一企業が社会へ広範囲に影響を及ぼすようになっています。

多くの問題から従来通りの事業活動を続けていれば、近い将来に地球環境・人間社会を維持できなくなることが危惧されます。そこでサステナブルな社会の実現が必須であり、企業には責任をもったCSR活動が求められています。

CSR活動のメリット・デメリット

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社会的な責任があるとはいえ、利益に直結しない活動も含むCSRに簡単に投資することはできないでしょう。しかし、直結はしないだけでCSRには企業にとってさまざまなメリットがあります。

メリット①従業員のコンプライアンス意識の向上

CSR活動を通して社会・ステークホルダーに配慮した行動や価値観を従業員に浸透させることで、従業員のコンプライアンス意識の向上が期待できます。

企業の不祥事やハラスメントが問題視される現代、従業員のコンプライアンス意識を向上させることは企業の継続・企業価値の向上に欠かせません。コンプライアンスとは法令遵守と訳され、企業にまつわる問題が頻発する近年よく耳にするようになりました。

法律や条例違反はもちろん、社会的なモラルが欠落した事業活動や従業員の行動があれば、企業の信用は一瞬で地に落ちてしまいます。コンプライアンス意識の向上は、企業のリスクマネジメントとして重要なポイントとなっています。

メリット②従業員のエンゲージメントの向上

CSR活動を行うことで、信頼性が高まり、従業員のエンゲージメント向上も見込まれます。

従業員が自身の仕事がより良い社会の創造に役立っていることを実感できれば、仕事へのモチベーションや自信につながります。また、CSR活動による従業員の生活や労働環境、健康への配慮も、従業員のモチベーションや企業への信頼性、愛社精神を大きくします。エンゲージメントの高まりは、従業員のパフォーマンスに直結しているため、結果的に生産性の向上や商品・サービスの品質向上にもつながるでしょう。

メリット③ステークホルダーとの関係強化

CSR活動では、ステークホルダーである消費者・従業員・取引先・投資家に配慮した取り組みが行われます。そのため、自ずとステークホルダーとの関係が強化されるという効果もあります。

企業が成長するためには、商品・サービスを利用する消費者、商品・サービスを作る従業員・取引先、資金を提供してくれる投資家のすべてが必要です。それぞれに配慮した活動は購買意欲やパフォーマンス、株価の向上などに直結します。ステークホルダーとより良い関係を構築することで、企業は大きな成長を実現することができるのです。

メリット④社内コミュニケーションの活性化

企業が企業として社会的責任を果たすためには、企業全体で取り組まなければなりません。全社で動くことになれば、それだけ組織内のコミュニケーションを増やす効果があります。

コミュニケーションの活発化は、社内の連帯感や仲間意識、共通意識の強化に有効です。まとまった組織は新しいアイデアやイノベーションが生まれやすく、新しい価値の創出や市場における優位性を獲得することができます。

また、コンプライアンスが遵守され、連携が取りやすいと、仕事を進めやすく、ストレスを感じにくい職場といえます。従業員からの評価が高ければ、従業員の定着率の向上や優秀な人材確保にもつながります。

メリット⑤企業イメージの向上

CSR活動では、端的に言えば“環境や人間社会に良いこと”をします。企業は自社が行っている活動をアピールしやすく、企業イメージ向上にもつながります。

とくに、社会に及ぼす影響が大きい大企業は、企業PRやブランディングの一環で取り組んでいることも多いようです。中小企業の場合は、企業のイメージ向上に加え、ステークホルダーとの関係強化や堅実な経営のために取り組まれている傾向があります。

デメリット①コストの増加と利益の減少

CSR活動のメリットは大きいものの、本来の事業とは異なる活動を行うことはコストがかかるため、短期的には利益を減少させる恐れがあります。

そもそもCSRは利益に直結しない活動を行います。お伝えしたCSR活動のメリットは、長期的にみるとプラスとなるものばかりですが、短期間にお金を生むわけではありません。たとえば、同じ製品を生産するにも、温室効果ガスの発生を抑える設備投資を行えば、収益は変わらなくても利益は減少します。

長期的な視点で行う必要があるという点においては、とくに資金繰りが厳しい企業や予算が限られる中小企業にとっては無視できない問題です。先進諸国では、企業のCSR活動を支援する動きが活発になっており、日本でも何らかのサポートシステムが求められている状況です。

デメリット②人材不足による本業への影響

企業によっては、利益を作るための人材を使ってCSR活動を行わなければなりません。そのため、人材不足や生産量の減少なども予想されます。

現在、日本企業の人材不足は深刻化しており、従業員の時間をCSR活動に使うことで、本来の業務が滞る恐れがあります。また、CSR活動を始める際には、従業員への教育も必要となるため、教育するための人材や教育時間も確保しなければなりません。人材に余裕がない企業は、CSR活動に取り組む余裕もなく、実施が難しくなってしまいます。

CSR活動の種類

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それでは、CSR活動では具体的にどのような活動を行えば良いのでしょうか。既にお伝えしたように、企業はそれぞれ優先的に取り組む課題・重視すべき課題を抱えているため、自社に合う活動を考えなければなりません。

CSR活動には、大きく「事業運営を支える活動」と「持続可能な社会を実現するための活動」の2種類があります。

事業運営を支える活動

事業運営を支える活動とは、主にステークホルダーに配慮した活動です。例えば、従業員の健康を保つ労働環境の整備やコンプライアンス遵守、透明性のある経営・情報開示、差別やハラスメントが起きた際の相談窓口の設置、安全性を高めた商品・サービスの提供、誠実な消費者対応などです。

持続可能な社会を実現するための活動

持続可能な社会を実現するための活動とは、自社の事業や特徴を活かして社会が抱える問題を解決する取り組みをさします。たとえば、温室効果ガスの発生を抑える設備の導入、植林や海洋プラスチックの回収などの環境保護、恵まれない子どもたちへの食事の提供などの社会活動です。

実際の企業事例

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最後は、実際にCSR活動を行っている企業でどのような取り組みが行われているのか具体例を確認してみましょう。自社での取り組みを検討する参考としてください。

本田技研工業株式会社(Honda)

Hondaでは、「未来へつなぐ取り組み」として、自動車づくりという事業を活かして環境・安全への配慮と、社会問題の解決に向けた活動を精力的に行っています。たとえば、モビリティ性能技術の開発やセーフティマップの作成、砂浜の清掃活動、子どもたちへの事故防止啓発活動、災害支援など多方面にわたります。東洋経済オンライン『最新「社会貢献にお金を出す」100社ランキング』によると、社会貢献に使った金額が日本企業のうち2019年に1位、2020年に2位、2021年に8位になるほどです。

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KDDIグループ

KDDIグループでは、ユーザーが満足できるサービスの持続可能な社会と企業の発展を目指して二酸化炭素の排出量削減や環境保全、環境保護や社会貢献の活動を行っています。サステナビリティを経営戦略の一環に位置づけており、二酸化炭素の排出削減や多様な人材の育成・働きがいのある労働環境の整備など社会問題の解決を図っています。東洋経済オンライン『CSR企業ランキング』では、2020年・2021年に2年連続で1位に選ばれました。

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武田薬品工業株式会社

タケダでは、サステナビリティを実現するために、環境保全や労働環境の整備に加え、保険医療分野において事業を通じた活動を行っています。『世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献する』という考えを企業の存在意義としており、54の国と地域で7万人以上の患者に治療を提供しています。さらに、保険医療へのアクセスが難しい地域での保健サービスの提供やパンデミック対策の改善、母子の健康を守る医療システムの構築など、保健医療アクセスの改善にも力をいれています。

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富士フイルムホールディングス

富士フイルムでは、サステナブル社会の実現に向け、環境・健康的・働き方・社会インフラ分野において社会問題の事業をとおした解決に取り組んでいます。2019年には「富士フイルムグループ健康経営宣言」を制定し、従業員の健康維持を積極的に行っています。経済産業省と東京証券取引所が選ぶ「健康経営銘柄」に2021年・2022年の2年連続、経済産業省と日本健康会議が認定する「健康経営優良法人2022-ホワイト500-」に2017~2022年の6年連続で選定されています。

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長く生き残る企業になるための「CSR」

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CSRは、サステナビリティな社会を実現するために、企業が担うべき社会的責任を意味します。現在、企業には、地球環境や人間社会を守り、持続させる取り組みが求められています。人間が安全安心して生きられる環境・社会がなければ、企業も存続することはできません。

また、インターネットとSNSが普及した現代社会では、不透明な経営体制やコンプライアンス違反、ステークホルダーに対する不誠実な姿勢、信頼できない商品・サービスなどはリアルタイムで拡散されます。反対に、より良い社会の構築や意欲的な環境保護といった善良な活動も共有され、企業イメージや利益を大きく左右します。

企業の誠実さが問われる時代に企業が生き残るために、社会の一員としての責任を果たすことが必要不可欠なのです。

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