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EVPとは?重視される背景や項目の具体例、設計手順、企業事例まで紹介

EVPとは?重視される背景や項目の具体例、設計手順、企業事例まで紹介

人材獲得競争が加速するなか、ライバル企業と差を付ける要素として「EVP」が注目されています。EVPを活用することにより、優秀な人材の獲得や企業価値の向上が期待できます。

本記事では、人材の流動性が高まる現代社会において、企業がぜひ導入したいEVPについて解説します。重視されるようになった背景やEVPの具体例、設計の流れを詳しくみていきましょう。企業事例は、実際にEVPを導入する際の参考としてください。

EVPとは?

EVPとは、企業が従業員に対して提供できる価値のことです。“Employee Value Proposition”の略語であり、日本語では「従業員価値提案」と言います。

・Employee=従業員
・Value=価値
・Proposition=提案

従業員が企業の期待役割に沿った業務をしてもらうために、企業側が従業員に対してどのような価値を提供できるかという観点です。

EVPとは

EVPが重要視される背景

まずは、なぜEVPが必要なのか、その背景を確認しておきましょう。

近年、企業は人材を選ぶ側ではなく、人材から選ばれる側にシフトしており、優秀な人材の獲得が困難になっています。大きな要因としては、「働き方の多様化」と「転職の一般化」の2つが挙げられます。

働き方の多様化

少子高齢化が進み、日本の労働人口は減少傾向にあります。労働力確保のために働き方改革が推進され、多様で柔軟な働き方が認められるようになりました。

また、デジタル技術とインターネットの普及により、今や誰でも簡単に情報を収集・発信できる時代です。社会に膨大な情報が溢れたことで、人々は個々が異なる価値観を持つようになりました。それに伴い、働く目的や仕事に対する意識、企業に求めるニーズも多様化しています。

細分化が進む社会のなかで企業が人材を確保するためには、ライバル企業が持たない自社独自の魅力をもって、さまざまな価値観やバックグラウンドを持つ労働者にアプローチできなければならないのです。

転職の一般化

経済成長の鈍化やグローバル化により、終身雇用制は崩壊し、ジョブ型雇用にシフトしています。社会の先行きが不透明ななか、個人の能力や経験が評価されるとなれば、労働者は自らキャリア形成に取り組まざるを得ません。将来に備える意識の高まりから、転職はごく当たり前のものとなりました。

他方で、安定した雇用という価値が提供できなくなった企業側には、代わりとなる価値の提供が求められます。労働者が求める価値を提供できない企業では、新たな人材を採用できないばかりか、既存人材も離れていく一方です。

人材の流動は、年々激しくなっています。労働者が「ここで働きたい」と感じる価値を示せない企業では、人材確保がますます難しくなるでしょう。

企業が提供できるEVPの項目例

EVPの項目例
現代社会において、労働者が魅力的に感じる価値とはどのようなものなのでしょうか。ここからはEVPの具体例を紹介します。

・福利に関するEVP
・キャリアに関するEVP
・モチベートに関するEVP

3つの項目に分けてみていきましょう。

福利に関するEVP

福利に関するEVPとは、金銭や待遇面における価値です。

【福利に関するEVPの例】
報酬:給与・賞与・インセンティブ
福利厚生:各種手当・各種保険・各種休暇制度・各種補助・財産形成

労働者が働くうえでもっとも重視する項目で、人材確保に対して即効性が期待できます。一方、ライバル企業も力を入れるところなので、独自性が出しにくい側面もあります。

キャリアに関するEVP

キャリアに関するEVPは、労働者のキャリア形成にプラスとなる価値です。

【キャリアに関するEVPの例】
キャリア:キャリア開発・社内公募・人事評価制度・資格取得支援・各種研修
働き方:フレックス制度・ハイブリッドワーク/リモートワーク環境の整備・副業の許可・ICTツールの導入

スキルアップやキャリアチェンジといった個人の成長を支援する環境の提供は、人材戦略に関して中長期的な効果があります。また、多様で柔軟な働き方を認めることで、埋もれていた優秀な人材の獲得も期待できます。

キャリアに関するEVPは、多様化する個々のニーズに合わせた価値を提供しつつ、他社と差別化しやすい項目です。幅広い人材に対して、それぞれの価値観に合わせた処遇・待遇を提供できるようにしましょう。

モチベートに関するEVP

モチベートに関するEVPは、自社で働く動機となる感情的価値です。

【モチベートに関するEVPの例】
企業理念・経営戦略・ビジョン・ミッション・バリュー・組織風土・企業文化・目標管理・社会貢献

自社の考えや経営方針に対する「共感」や、仕事に対する「やりがい」「喜び」「満足感」「ワクワク感」のようなポジティブな感情は、企業への帰属意識に直結します。自社にマッチする人材の採用のために、もっとも重要な項目といえるでしょう。

EVPを導入するメリット

EVPのメリット
それでは、EVPを導入すると、具体的にはどのような変化が期待できるのでしょうか。

・従業員パフォーマンスの向上
・定着率の向上
・採用競争力の向上
・企業ブランドの向上
・企業理念の浸透

EVPを導入するメリットを5つ紹介します。

従業員パフォーマンスの向上

どのような組織でも、従業員のモチベーションやエンゲージメントが高いほど、意欲的・自発的な行動が増えるため、個人・組織の生産性は高くなるものです。魅力的なEVPを提供できれば、従業員の仕事に対する意欲や企業に対する信頼感を高め、パフォーマンス向上が期待できます。

また、モチベーションやエンゲージメントが高い従業員は、成長に対する欲求も高い状態にあります。自らスキルアップを図り、より大きな成果を生んでくれるかもしれません。EVPによるモチベーションやエンゲージメントの向上は、業務におけるあらゆる面でプラスに働くでしょう。

定着率の向上

EVPは、転職や独立を考える従業員を減らし、人材の定着率も向上させます。企業から提供される価値が高ければ高いほど、労働者にとっては働き甲斐があり、働きやすい職場ということになります。整った環境で「長く働きたい」と考えるのは当然です。

従業員の定着率が向上すれば、採用活動にかけていたコストを人材育成や社内環境の整備に回すこともできるでしょう。EVPを充実させることで、さらなる価値の提供と人材定着率の向上という好循環が見込めます。

採用競争力の向上

EVPが求職者へのアピール材料となり、企業の採用競争力を高めることにもつながります。

EVPは、従業員や求職者にとってはその会社で働く理由そのものです。ライバル企業よりも魅力的なEVPを提供できれば、同じ業界・同じような業務の募集であっても、有利に採用活動を進めることができるでしょう。

企業ブランドの向上

EVPは企業ブランディングにも活用できます。自社の従業員を大切にして、魅力的な価値を提供している企業は、社会全体から好印象を持たれるものです。

従業員エンゲージメントが高まった企業では、従業員1人ひとりの業務の質が向上します。ステークホルダーからの評価が高まれば、業績の向上だけでなく、投資を受けやすくなることによる経営の安定まで期待できます。

企業理念の浸透

企業の根幹となる企業理念、ビジョン、ミッションに沿ったEVPを策定すれば、EVPの存在そのものが企業全体が目指すべき方向性となり、社内の企業理念の浸透に役立ちます。

現場で働く従業員が、経営理念のような企業の経営方針を意識する機会はそう多くありません。しかし、自分にベネフィットがあるEVPとなれば、大きな方向性も自分事として意識しやすくなります。EVPがあることで、組織としての一体感を醸成できるでしょう。

EVPを策定する流れと設計時のポイント

EVPを策定する流れと設計時のポイント
魅力的なEVPを策定するには、何をどうすればよいのでしょうか。

1.自社の分析
2.他社との比較
3.EVPの決定
4.周知・活用の啓蒙
5.分析・改良

EVPの策定と設計時のポイントを流れに沿って解説します。

自社の分析

まずは、自社の現状を調査・分析し、従業員や求職者がどのような価値を求めているのか調べましょう。

下記のような項目について、アンケートやヒアリングを実施し、従業員からの意見を集めます。

・やりがいを感じているか
・ワーク・ライフ・バランスを実現できるか
・成果に対して正当に評価できているか、十分な報酬を与えられているか
・スキルアップや個人のキャリア形成を支援できているか …など

他にも、導入してほしい制度や求める職場環境、求める企業像、具体的な不満の内容などを聞き出すことができれば、自社の課題が明確になります。

なお、従業員が忖度せず本音で答えられるよう、調査方法・回答方法には配慮が必要です。多様性の時代においては、立場が変われば意見や価値観も変わります。雇用形態やポジションを問わず、全社的に調べるのが効果的です。

他社との比較

競合他社を調査して、自社が他社と比べて優れている点や独自性がある点を絞り込みましょう。

ライバル企業と比較したときに、「自社にしかない魅力が見つからなかった」という場合、従業員や求職者に対して十分な価値を提示できていないということになります。他にはない魅力を明確に提示できなければ、激化する人材獲得競争を勝ち抜くことはできません。

自社の経営理念や中長期的な経営戦略と照らし合わせながら、他社が提供できない価値を改めて考えてみましょう。ゼロから検討しなくても、すでにEVPを導入した企業の施策や課題解決のプロセスが参考になります。

EVPの決定

ここまでの調査・分析を基に、自社が提供できる価値を整理し、具体的なEVPへと落とし込んでいきます。他社のコピーではなく、自社の従業員のニーズに対応できるEVPであることが重要です。

たとえば、将来性に不安がある従業員が多ければキャリア開発支援が有効であり、出産・育児・介護と仕事が両立できない環境であればリモートワークや時短勤務、特別休暇の導入が効果的です。

単独のEVPでは独自性を出しにくいため、福利・キャリア・モチベートに関するEVPをそれぞれ複数設定しましょう。課題が多い場合は、報酬や福利厚生など効果が出やすいものから優先的に進めてください。

周知・活用の啓蒙

EVPが決定したら、社内外に向けて周知し、実際に価値の提供を開始します。社内向けには社内SNSや社内報、説明会・全社会議、動画での周知が効果的です。社外向けにはコーポレートサイト・採用サイト・公式SNS・求人広告・プロモーションムービーなどを用いた発信が適しています。

せっかく新しい制度や仕組みを導入しても、形骸化してしまったら自社ならではの魅力として認知してもらえません。従業員には、積極的な活用を促しましょう。

分析・改良

EVPの策定は、一度設計・導入したからといって、終わりではありません。「制度に対して従業員が満足しているのか」「社会や求職者に魅力的に映っているか」「他社と差別化できているか」など、EVP策定後の影響・効果やフィードバックを定期的に調査・分析し、問題があれば改良する必要があります。

社会状況や時代によって、人々の価値観は変化するものです。その時々に合ったEVPへとアップデートできるよう、定期的に効果測定やアンケート調査を行いましょう。

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EVPを有効に活用する企業事例

EVPを有効に活用する企業事例
大手企業ではすでにEVPが導入されており、採用マーケティングや企業価値の再構築に用いられています。

・ソニーグループ株式会社
・日本マクドナルド株式会社
・株式会社ユナイテッドアローズ
・株式会社サイバーエージェント

大手企業4社を参考に、実際のEVP例をみていきましょう。

ソニーグループ株式会社

ソニーグループでは、会社と従業員の対等な関係を明言し、「都度、お互いに選び合い、応え合う」という企業文化を軸にしたEVPを提供しています。

たとえば、講演会の実施や社外研修機関との提携、学習プラットフォームの導入などにより、従業員のスキルアップを手厚くサポート。社内からの異動希望者を募る「社内募集制度」や、社内での兼業・副業を促進する「キャリアプラス制度」、女性管理職の積極的な登用など、多様な選択肢のあるキャリア開発支援も存在します。

育児・介護・治療に対する支援制度も充実しており、ライフステージの変化があれば、費用補助や休暇制度、時短勤務を活用し、ワーク・ライフ・バランスが実現できるようになっています。

参考:サステナビリティレポート2023

社内公募制度とは?運用上の気をつけること・導入企業一覧から分かる特徴を徹底解説

日本マクドナルド株式会社

日本マクドナルドは、「従業員の成長および貢献を価値のあるもの」として、早くから人事採用戦略の中心にEVPを据えてきました。

たとえば、柔軟な働き方の推進に関して、現場のクルーなら「毎週希望シフトの提出」「週2時間から勤務可能」といった具体的な価値が提供されています。対して、正社員なら通勤可能なエリアでのキャリアアップを目指せる「地域社員制度」や、出産・育児・介護のための「時短勤務制度」など、働き方や立場に合わせたEVPが設定されています。

そのほか、年齢・国籍・障害を問わない多様な人材の雇用推進から、社内公募制度やキャリアチェンジ制度といったキャリア開発支援まで、幅広い人材に向けたEVPが整備されています。

参考:McDonald’s Sustainability Report 2022
参考:【公式】アルバイト・パート求人情報

株式会社ユナイテッドアローズ

ユナイテッドアローズでは、「生産性を高めているメンバーに成長するチャンスを提供すること」「成果に応じて報いること」を重視し、従業員価値の創造に向けた具体的なEVPを提示しています。

たとえば、評価を一元管理する「タレントマネジメントシステム」や、多角的に評価を行う「360度評価多面観察」、販売のスペシャリストを育成する「セールスマスター制度」といった公平・公正な評価・処遇を採用。従業員が成長・ステップアップできる環境の提供を行っています。

また、産前産後・育児休暇・子どもの看護休暇・介護休暇などの多様な支援制度の導入で、ワーク・ライフ・バランスを実現できる職場づくりにも取り組んでいます。

参考:株式会社ユナイテッドアローズ「Our Values 行動規範」

株式会社サイバーエージェント

サイバーエージェントでは、「健康的な働き方」「ダイバーシティ」「福利厚生」の3つの柱を軸に、従業員が長く働き続けられる環境が提供されています。

とくに、従業員の健康維持やワーク・ライフ・バランスに関する充実した施策・福利厚生が特徴です。リフレッシュ休暇やリモートワーク環境の整備、産業医面談、無料の予防接種、無料のマッサージ施術など、心身の健康に配慮されています。

また、独自のEVPとして女性活躍促進制度「macalon(マカロン)」を導入。卵子凍結補助や認可外保育園補助が支給されるほか、妊活や女性特有の体調不良による休暇を用途が分からない形で取得できます。

参考:株式会社サイバーエージェント「働きやすい環境」

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まとめ

今回は、現代の日本企業が人材確保に欠かせない「EVP」について詳しく解説しました。労働者人口が減少し続けていることから、企業は人材を選ぶ側ではなく、人材に選ばれる側の立場に変化しています。そのなかで、優秀な人材を獲得し、事業を成長させるためには、企業からも従業員に対して魅力的な価値を提供しなければなりません。

企業間の競争は、さらに激しくなることが予想されています。これからの時代、企業の成長には、求職者や従業員が求める価値を提供できるかがますます重要になってくるでしょう。

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