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キャリア自律とは?社員のキャリアを支援するメリット・注意点・取り組み事例を紹介!

キャリア自律とは?社員のキャリアを支援するメリット・注意点・取り組み事例を紹介!

近年の労働者不足は深刻化し、人材獲得競争が激しくなっている中、社員1人ひとりのパフォーマンスを高める取り組みの重要性も高まっています。

本記事では、社員のスキルや能力を向上させ、結果的に組織にもメリットをもたらす「キャリア自律」について詳しく解説します。社員のキャリア自律を支援する企業が増えている背景や支援を成功させるためのポイント、具体的な取り組み事例についても見ていきましょう。

キャリア自律とは?

キャリア自律とは、企業に依存することなく、自身のキャリアは自身の考えに基づき自律的に開発していくという概念です。

そもそもキャリアとは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すと、厚生労働省が定義しています。つまり、仕事における過去の経験から将来の計画までの継続的な「職務経歴」という意味を持ちます。そして自律とは、外部からの制約や支配を受けずに自身の立てた規範に従った行動を指します。

キャリア自律は、この「キャリア」と「自律」を組み合わせた用語であり、意味を改めて定義すると下記のように言い表すことができます。

“これまでに培ってきたスキルや職務経験を活かして、将来的にどのような業務をしたいか、どのように貢献できるか、さらには、どの環境であれば実現できるのかを自分事で考え、納得のいくキャリア形成を自分で実現していくこと”
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自律と自立の違い

自律と混同されやすい言葉に「自立」があります。音が同じで、意味も似ているため、違いを明確に区別できていない人もいるでしょう。しかし、人事やキャリアにおいて「自律した人材」と「自立した人材」では大きな差があるため、自律と自立はしっかりと違いを理解しておきたいところです。

【一般的な言葉の意味の違い】

自律外部からの支配や指示を受けず、自分の立てた規律に従って物事を行うこと
自立外部の支配や助力なしに、自分の力だけで物事を行うこと

【キャリア自律を考えるうえでの意味の違い】

自律の状態にある人材他者のニーズを把握・調整しながら、自分の行動のコントロールを行い、自らを律しながら、自己実現できる
自立の状態にある人材自己の意見を主張できるが、自律している人材に比べて個人的な自己主張・満足で終る傾向がある

人事・教育問題研究の第一人者である、慶應義塾大学名誉教授 花田 光世氏は、自律と自立の間には、上記のような違いがあると述べています。大きな違いは「現在の自分に満足しているか」「他者の自己実現への理解・行動に至っているか」という2点です。

自立した状態の人材の場合、現在の自分に満足しており、困難な状況から逃げる傾向があります。一方で、自律した状態の人材は、困難な状況でも自分で動機付けを行い、新しいことにチャレンジし続けることができます。さらに、自立の状態にある個人は自己実現を目指すところに留まりますが、自律した状態の個人の場合は他者の自己実現との調整にまで考え・行動が及びます。

自律と自立を間違って認識してしまうと、真のキャリア自律とは異なる方向に進むことになるため要注意です。

出典:花田 光世 ・宮地 夕紀子 「キャリア自律を考える:日本におけるキャリア自律の展開」(2004年2月10日)

キャリア自律が注目されている背景

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近年、自律の注目度が上がっている大きな理由として、以下の3つが挙げられます。

  • 終身雇用からの脱却
  • 年功序列からの脱却
  • ジョブ型雇用の定着

いずれも日本的な雇用慣行の変化が大きく関係しています。

終身雇用からの脱却

従来の日本では、終身雇用制度が当たり前だったため、企業が雇用を保証する代わりに、社員は企業が示したキャリアを受け入れる流れが確立されていました。しかし、終身雇用制度では人材の流動がないことから組織は硬直化しやすく、現代の急激な変化を伴う競争社会には対応できません。

今、企業には社員のキャリア自律を支援し、現代社会の変化に迅速に対応する人材を確保することが求められます。また、終身雇用が保証されなくなったことから、従業員自身も将来を見据えて柔軟なキャリア形成を目指すようになりました。

年功序列からの脱却

終身雇用制度の崩壊に伴い、年功序列の考え方も通用しなくなります。終身雇用制度の代わりに企業が採用したのが成果主義です。年功序列の組織では、勤続年数や年齢で昇給・昇格が決まっていたのに対し、成果主義の組織では仕事の成果によって待遇が決まります。

会社側がポストを用意し、提供してくれることがなくなったため、労働者には自身のキャリアを考える必要性が出てきました。当然、同一組織での昇給・昇格だけでなく、転職や起業も視野に入ります。市場価値の高い人材になるために、自律的にキャリアを開発しなければならないのです。

ジョブ型雇用の定着

近年、雇用方法もメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に移行しました。ジョブ型雇用とは、企業に必要な職務を定義したうえで、職務に適したスキルや経験を持った人材を採用する採用手法です。従来の日本が採用してきたメンバーシップ型雇用では、会社に必要な人数を定義し、採用活動を行います。

ジョブ型雇用においては、職務に必要なスキルや経験がなければ採用されないため、労働者は自分でスキルアップ・キャリアアップを図らなければなりません。必然的にキャリア自律が必要になっているのです。

自律型人材とは?育成方法10選と育成事例を解説。組織にもたらすメリット・デメリットも分かる!

企業が社員のキャリア自律を支援するメリット

キャリア自律は労働者自らが自身のキャリア開発を行う概念ですが、個人だけではなく企業にもメリットがあるのです。

  • 組織の生産性向上
  • 社員のエンゲージメント向上
  • 優秀な人材の獲得・定着

 

組織の生産性向上

キャリア自律で個人のパフォーマンスが上がれば、自ずと組織の生産性も向上します。

先述のとおり、自律した状態の人材は、自分の自己実現と他者の自己実現の両方を目指すことができます。単に自律した人材が高いパフォーマンスを発揮するだけでなく、同僚のスキルアップ・キャリアアップや組織の目標達成に向けた行動に移せるのです。さらに、社内コミュニケーションが活性化し、自然と社員同士で助け合ったり切磋琢磨したりと好循環を生みます。

社員のキャリア自律を支援することが、組織全体のパフォーマンスアップにつながるのです。

社員のエンゲージメント向上

企業によるキャリア自律支援は、社員のエンゲージメントの向上にも寄与します。

社員が自分のキャリア形成を行うためには、目標を設定し、実現のためにスキルアップや経験値向上に取り組まなければなりません。その際、企業からのサポートがあることで、社員には企業に対する信頼や満足感を抱くようになり、エンゲージメントは高まります。エンゲージメントは、会社に対する貢献意欲なので、生産性向上や離職防止に繋がります。

つまり、企業がキャリア形成の支援を行うことで、社員は自分の希望するキャリアの実現、企業は組織力強化の実現と、win-winの関係を築くことが可能です。

優秀な人材の獲得・定着

企業がキャリア自律の支援を行うことで、人材の確保・定着にも良い影響を与えます。

キャリア形成の支援とは、つまり新たなスキルの習得や、新しい経験の獲得です。今の会社で自分の価値観や希望に合わせたキャリアが積めるとなれば、社員はわざわざ転職するよりも、現職に留まることを選ぶ可能性が高くなります。また、エンゲージメントが高い従業員が生き生きと働いている職場は、外から見ても魅力的に映ります。

労働人口が減少し、人材獲得が企業の経営課題となる現代において、優秀な人材を獲得・定着させることができるのは、大きなメリットといえるでしょう。

キャリア自律を支援する際の注意点

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企業によるキャリア支援は、企業にとってもメリットが多々あるものの、いくつか注意しておかなければならないポイントも存在します。

  • 会社への帰属意識が低下する恐れがある
  • ベテラン社員と若手社員の意識の差が生まれる
  • チームプレーに対する意識が希薄化しやすい
  • キャリア自律を望まない社員への対応が求められる

起こりうる問題の対策を含め、支援を行うことが重要となります。

会社への帰属意識が低下する恐れがある

キャリア形成を考えるうえでは、当然ながら現職に留まらず、社外に出る選択肢も模索することになります。そのため、場合によっては会社への帰属意識が低下し、転職を助長してしまうことも考えられます。

ただし、これは社員が現職ではキャリアの実現が難しいと判断した場合です。企業側が社員に対して、期待する役割や任せる業務を明確に示し、社内で希望のキャリア形成ができると社員に理解してもらうことができれば、先に紹介したように人材の定着を促し、離職の防止につながります。

ベテラン社員と若手社員の意識の差が生まれる

終身雇用制度や年功序列が崩れたとはいえ、在職のベテラン社員の意識には、かつての日本的な雇用慣行が根付いています。そのため、ベテラン社員には、キャリア自律を促すことが難しい傾向があります。一方で、若手社員は、成果主義やジョブ型雇用に基づいた意識を持っており、キャリア自律に積極的な傾向があります。

企業を継続的に成長させるためにはベテラン社員も若手社員も欠かせない存在です。キャリアに対する考え方が異なることを前提に、ベテラン社員には意識改革を、若手社員にはモチベーション維持のフォローを行い、互いが衝突しないよう配慮しましょう。

チームプレーに対する意識が希薄化しやすい

キャリア自律の認識を誤ると、自己中心的なマインドに陥り、他者との連携やチームプレーができなくなります。本来、社員が「自律」すれば、この問題は発生しません。「自律と自立の違い」でお伝えした通り、自律した状態と自立した状態は、「他者の自己実現への理解・行動に至っているか」という点で異なります。ここで、キャリア自律を誤ってキャリア自立で捉えてしまった場合、自律した社員は自己実現にのみフォーカスすることになります。

花田 光世氏は、自律と自立を混同して、自立状態に陥る現象を「キャリア自律思い込み症候群」と呼んでいます。キャリア自律を企業が支援する場合、社員が自律と自立の違いをしっかり認識し、真のキャリア自律を目指せるよう導くことが重要です。

キャリア自律を望まない社員への対応が求められる

キャリア自律を支援し、キャリア開発を促しても、ポジティブな反応が返ってくるとは限りません。積極的なキャリア開発を望まない社員も一定数いるでしょう。しかし、キャリア自律を望まない社員に対しては、キャリア自律への意識改革が必要です。

キャリア自律の支援を希望する上昇志向の一部社員のみが、自律的なキャリアを形成しても、組織全体で好循環を生むことはできません。自律していない社員がいることで、自律的なキャリア形成を求める社員が現職での自己実現は難しいと判断し、他社へ転職してしまうリスクもあります。そのため、全社員に対し、徹底してキャリア自律の意識を持たせることが重要です。

高橋 俊介氏 – 今後の日本企業に必要なのは、個人の「キャリア自律」と組織の支援

キャリア自律を成功させるために必要な準備

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キャリア自律の促進は正しく行えば、企業にも社員にも良い結果をもたらします。しかし、お伝えしたとおり、正しくサポートしないと、逆効果になる可能性もあります。

そこで、ここからはキャリア自律の支援を成功させるために必要な準備についてお伝えします。

社員の意識改革

全社員が自律してキャリア形成に取り組むには、社員の意識改革が重要です。企業として、キャリア自律を支援することを意思表明し、キャリア自律の必要性や企業としての想いなどをしっかりと説明しましょう。

特に、キャリア自律に積極的ではないベテラン社員や向上意欲が低い社員には、自律的なキャリア形成に取り組まなければならないことを理解してもらう必要があります。また、管理職はお手本となるべき存在なので、自律的なキャリア形成を部下に示す立場であることも自覚してもらいましょう。

ポスト・ポジションの透明性確保

社内のポスト・ポジションの透明性を確保し、キャリアの目安や目標を持ちやすくしましょう。メンバーシップ型雇用を主とした採用活動を実施していた企業では、「事業部の仕事は部内の社員しかしらない」「人事からも他部署からも仕事内容を把握できない」ということが多々あります。社内にどのような部署や仕事があるか分からなければ、キャリアの選択肢が狭まり、社外に出る選択肢を模索してしまいます。

仕事の役割や仕事内容を具体的にまとめ、社員が自由に確認できるよう体制を整えましょう。

キャリア相談の窓口設置

キャリアについて気軽に相談ができる窓口を設置することで、社員の不安や疑問を溜め込むことなく解消し、精神的な負担を緩和する支援を行えます。客観的な視点からアドバイスが受けられると、新たな気づきを得ることもあるでしょう。

社内でキャリア形成での不安・疑問を解消できないと、社外に頼ることになり、転職のきっかけになりかねないため注意が必要です。

複数の研修の併用

キャリア自律では、自分が必要だと判断したスキルや経験を得る機会が必要になります。そこで、会社としては、社員がキャリアビジョンを実現できるよう、求めるものに応じた研修を提供できることが理想です。

例えば、マネジメント研修やリーダーシップ研修を受ければ、マネジメント経験が少ない社員のスキルアップはもちろん、自信の創出にも繋がります。自律的なキャリア形成を実現するためには、能動的に行動した経験を積むことが重要です。幅広い経験を積めるよう、様々な取り組みを並行して行うようにしましょう。

キャリア自律を促進するための取り組み事例

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最後は、キャリア自律を促進するための取り組み事例を5つ紹介します。会社によっては制度やルールの変更が必要になる可能性もあり、キャリア自律を支援する際は計画的に進めることが重要です。

  • 世代別キャリア研修
  • 人事制度を活用した職務機会の提供
  • 副業による職務機会の提供
  • キャリアフォロー面談の実施
  • リスキリング支援

それぞれの取り組みを行っている企業例と合わせて確認しましょう。

世代別キャリア研修

入社時・一定の勤続年数時・一定の年齢到達時に、それぞれの区切りに応じたキャリア研修を実施しましょう。例えば、入社から3年・5年・10年は、若手・ミドル・ベテランの節目に当たり、キャリアの振り返りや再検討を行いたいタイミングです。若手であれば、遠い将来のキャリアは具体的なイメージを持ちにくいため、企業側から社内でのキャリアアップのビジョンを提示するのもよいでしょう。反対に、ベテラン世代には、定年前後いくつまで働くのかのキャリア形成を促します。

ソニーグループでは、50歳以上のベテラン社員向けのキャリア制度「キャリア・カンバス・プログラム」を実施しています。具体的には、新しいスキル・資格の習得や、地域活性化プロジェクト参加による越境体験を企業側が支援します。

人事制度を活用した職務機会の提供

社員にとって、社内で新しい職務に挑戦する機会を作ることは簡単ではありません。一方、企業側であれば機会の提供が可能です。社員のモチベーションやエンゲージメントを高めるためにも、キャリアアップに繋がる人事制度を導入しましょう。具体的には、社内公募制度やジョブローテーション、 自己申告制などが挙げられます。

リコージャパンでは、不足している人材を社内から募る「社内公募制度」と、社員が自身のキャリアを企業側に申告する「キャリア自己申告制度」を行っています。いずれも企業が機会を提供し、社員が自らキャリア形成を目指してパフォーマンス向上を目指すという、キャリア自律を促進できる人事制度が構築されているといえるでしょう。

社内公募制度とは?運用上の気をつけること・導入企業一覧から分かる特徴を徹底解説

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットを正しく理解して、目的を持った制度運用の実現へ

副業による職務機会の提供

政府による副業・兼業の促進が提言されたことで、多くの企業が副業を解禁することとなりました。社員が副業から得るものは、金銭のみではありません。社内では得られない経験や新たなスキル、多様な人脈は、ビジネスパーソンとしての価値を高めます。本業に還元されることもあるでしょう。

みずほ銀行では、社員の就業時間外の副業を認めています。外の世界で活動する中で、様々な刺激や気づきが成長を促すことを期待しての制度です。

キャリアフォロー面談の実施

キャリアフォロー面談とは、新入社員の現在の状況や課題をヒアリングし、職場や仕事に溶け込めるようにする面談兼カウンセリングを指します。新入社員に寄り添いながら丁寧に聞き取りを行うことで、今後のキャリア形成を前向きに考えられるようになります。

カインズでは、独自の人事戦略として「DIY Communication®」を策定しています。DIY Communicationは、1on1のミーティングをベースに社員に寄り添って、自己理解を支援する制度です。1on1ミーティングのほか、昼食会やイベントを実施し、社員同士がお互いを理解したり相談したりできる機会を提供しています。

1on1ミーティングとは?具体的な実施方法と成功させるポイントを解説!

リスキリング支援

リスキリングとは、業務で役立つスキルを新たに習得する取り組みを指します。現代のIT技術の発展速度はめざましく、キャリアの選択肢を広げるためには、新しいスキルの習得はキャリア形成に欠かせません。リスキリングは、習得する内容を限定するものではないため、個々のキャリア自律を促進することができます。

生活用品メーカーであるライオンは、学習機会の創出のために「ライオン・キャリアビレッジ(LCV)」を実施しています。e-ラーニングと少人数討議によって、社内外の知見を学ぶことができます。

リスキリングとは?DXの時代に何を学んでもらうべきか、有効な資格・取り組み事例を紹介

社員のキャリア自律を成功させた企業が生き残る!

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キャリア自律は自身の考えに基づいて自律的に労働者自身がキャリア開発を行う概念ですが、企業が社員のキャリア自律を支援・実現すれば、組織の生産性向上や人材の獲得といった、現在企業が抱える課題を解決できます。今後、社員のキャリア自律を実現できず、「短期的な成果主義を追及する」「個人個人に合わせた配慮ができない」など、組織が硬直化している会社は淘汰されていくと予想されます。

より具体的に、企業による個人のサポートについて理解したい場合は、花田 光世氏のインタビューをご確認ください。

花田 光世氏 – 硬直化した 人事概念を捨て「キャリア自律」を成功させた企業が生き残る

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