スペシャルインタビュー

柴田 励司氏-企業が求める次世代リーダーの育成と課題、そして対策

柴田 励司氏-企業が求める次世代リーダーの育成と課題、そして対策

京王プラザホテルでは人事改革に取り組み、その後、38歳でマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング (現マーサージャパン)の日本法人代表取締役社長就任を機に、キャドセンター社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役COOなどを歴任。現在は次世代リーダーの早期発掘と育成支援のコンサルティング会社であるインディゴブルーの会長である柴田励司さん。時価総額2兆円以上の企業が主たるクライアントであるコンサルティング会社のトップに、これから必要とされる次世代リーダーについて伺いました。

想定外の「修羅場」をどれだけ経験したか

――柴田さんがいろいろな会社さんのコンサルティングをなさっている時に、その会社が求めているリーダー像と柴田さんが理想とされるリーダー像がズレていることはありますか?

柴田:リーダー像がずれることはほぼないですね。「わからないことを決めることができる」「理と情のバランスがとれている」「Resilience」(へこたれるようなことがあっても短い時間で回復する)。この3つが業種・業界を問わず次世代リーダーに求められています。特に経験値がないこと、やってみないとわからないこと、これらについて意思決定をする胆力、周囲をその気にさせる人間的な魅力が問われています。
不確実な情勢の下で意思決定をしていく胆力を鍛えたい。つまりは「有事であっても対応できる人」を育てたい。これが育成ニーズです。このためには「修羅場の経験」が一番です。ところが、大企業ではこの「修羅場」が起きにくい。これはある意味で当然です。会社の運営上、修羅場は起きない方がいいに決まっていますから、修羅場が起きないような仕組みや制度が整っています。そうなると、社内に次世代リーダーを育成する「場」がないということになってしまいます。

私が創業したIndigoblueで「体験型ケーススタディ:Organization theater」という修羅場の疑似体験をするビジネスシミュレーションプログラムを提供している背景はここにあります。社内にないので疑似的に体験してもらうというものです。

この体験を通じて、有事に自分がどれだけ動けるか(動けないか)を実感してもらいます。大変難しいプログラムなのですが、中にはへこたれずに短期間で自己修正して課題を乗り越えてくる人がいます。そういう人は「伸びしろ」が大きいと見立てています。

「優秀」より「あの人と一緒に働きたい」

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――柴田さんが次世代リーダーを一言で表現するとどんな言葉になりますか?

柴田:一言でいうと、「周囲に良い影響を与えて組織を動かせる人」。人間性とか器とかその人の魅力で「あの人と一緒に働きたい」と思われています。その人がいることによって周りの人が活性化する。そういうようなことができる人が次世代リーダー候補です。

これは普遍的なモデルで昔から変わっていないと思います。

育成は王道だが、均質化の弱点も

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――リーダー育成とヘッドハンティングでよそから引っ張ってくる。どちらが有効だと思われますか?
こちらも併せてご参照ください

上司としてリーダーシップのある社員を育成するコツは委ねる・評価など5つ

柴田:育成のほうが良いです。育成は王道ですよ。ただ、「ひとつの文化」とか「ひとつの組織」の中でやるとどうしても均質化するんです。同じようなタイプの人ばっかりになる。それだと組織は安定しますが変わりません。大きく舵を切ろうという時には外からある程度の人は入れないといけません。ただその時にピンポイントで入れたのでは駄目で、それなりの数を入れないといけません。マイノリティーですと埋没しちゃうので。

――なるほど、飲み込まれちゃいそうですね。

柴田:そうそう。本当に変えようとしたら、それなりの数の人を入れないといけない。そうなるとヘッドハンティング会社との付き合い方としては、こういう事業構想があって、会社全体としてこういう人材の不足感があると認識した上で、総合的に相談した方がいいでしょうね。このニーズに応えてもらうとなるとたくさんスタッフを用意しているような会社でないと無理かもしれません。

リーダー育成の課題は「絶対数の不足」

――いろいろな企業さんで次世代リーダーの育成に一番課題となっている点はどんなところになりますか?
柴田:候補者になりうる人の絶対数が足りないことでしょうね。

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この図は仕事の性質とその活動地域のマトリックスなのですが、こちらの1番と3番の人のような人(自分で枠組みを考えて動ける人)の絶対数が足りていません。「3の法則」というものがあって、1人に対して3人ぐらい候補者がいないと1番良い人が選べません。環境も変わる可能性があるので、やはり常にひとつのポジションに対して3倍の数の人がいないといけません。役員の皆さんを集めて、「会社の中でのキーポジションそれぞれに関して候補となる人3人挙げてください」って言うと全然足りないという現実に直面します。

――恒常的に抱えている問題ってたくさんあると思いますが、改善するためには普段どんな事を実践していけばよいでしょうか?

柴田:経営陣による人材育成会議を定期的(半年ないし1年に一度)にやることをオススメしています。将来大きな仕事をさせたいという人を見極めて、その人達が今どうしているかっていう情報共有をする会です。会社として大事な人材がどうなっているか、どこが足りないのか。この人材の棚卸しを定期的に経営陣で行う場です。

人の成長の7割は経験から

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――個人として次世代リーダーを目指したいと思った時に何かできることはありますか?

柴田:こんな人になりたいという人を見つけたら、徹底的にその人の話を聞く事です。その人の書いたものを読むなどでその人が体験してきてる経験談を貰うのです。昔から人材育成の「70:20:10(セブンティートゥエンティーテン)」という言葉があります。人が成長するのに7割の影響を与えることは経験。2割は誰と一緒に仕事をしたか。1割が研修とか勉強。目指したい人の経験を自分のものにしてしまうが一番です。

人事畑から経営者が少なくなったのは、人事が人の事を知らなくなったから

――人事畑から経営者っていう人が少ない事についてどう思われますか?

柴田:昔は多かったんですよ。昔は人事部門の責任者とか労働組合の責任者っていうのは経営の登竜門だったんですよね。現役の60歳以上の経営の人はそういう人が多いと思います。最近、人事出身の社長が減っている最大の理由は人事が「人」のことを知らなくなったからです。

――人事なのにですか?

柴田:そうです。昔は人事台帳はあってもデータベースとかは無かったので。人事は自分の頭がデータベース代わりだったわけです。どこどこの誰はいつ入社で、学生時代には何をしていて、趣味は・・・とか。私も京王プラザホテルで人事を担当していた時にほぼ全社員のそういう事は頭に入っていました。仕事上自然とそうなるんですよ。
ところが今はいろいろ便利な仕組みがあるので、覚えなくても仕事ができてしまう。だから知らない、覚えない。事業にせよ、プロジェクトにせよ、誰がやるかで決まります。したがって、誰を何にアサインするかが経営課題なのですが、人事よりも事業責任者の方が人のことを知っているので人事は蚊帳の外になってしまう。一方で人事は自分の専門性を人事制度や法律、ルールに求めていく。これは完全に守りの人事になります。経営に対してアクセルを踏むというよりもどちらかというとブレーキを踏むような話が多くなってきます。制度の番人は必要ですが、そこから経営陣にはなりにくいですね。

――ちなみに柴田さんはこれからどんなお仕事をされていく予定ですか?

柴田:「人づくり」がメインであることは変わりません。インディゴブルーを通じて、大企業の次世代リーダー育成の仕事が中心です。頼まれた範囲で社外役員の仕事もあります。それ以外に、小学校、中学校、高校の校長、副校長、教頭先生方向けの講演。さらに、まだ詳細については発表できないのですが、人の人生に影響を与えるような人材の発掘、そのプロデュースをする人材の育成などに関わる予定です。

<柴田 励司氏 プロフィール>
上智大学文学部英文学科卒業後、京王プラザホテルへ。1995年33歳で組織・人材コンサルティングを専門とする外資系コンサルティング会社マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング (現マーサージャパン)に入社、2000年、38歳で日本法人代表取締役社長に就任、2007年社長職を辞任。
その後、キャドセンター社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の代表取締役COO、パス株式会社代表取締役CEOなどを歴任。
2010年7月より株式会社Indigo Blueを始動させ、代表取締役会長として現在に至る。

ヘッドハンターお薦め本
柴田励司著『社長の覚悟—守るべきは社員の自尊心』(ダイヤモンド社/2015年3月13日発売)

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