スペシャルインタビュー

山内隆司氏-理想はベストミックス。新しいことに挑戦し続けてきた大成建設の「人材」をめぐる過去、現在、未来

山内隆司氏-理想はベストミックス。新しいことに挑戦し続けてきた大成建設の「人材」をめぐる過去、現在、未来

東京大学工学部建築学科を卒業後、1969年に大成建設株式会社入社。ヒルトン東京やそごう川口店などを手掛けたのち2007年に代表取締役社長に就任、2015年からは代表取締役会長となった山内隆司氏。建設業界において、バブル経済崩壊後の“失われた20年”を乗り越え、そして今、人材不足が叫ばれている中、山内氏に人材に賭ける思い、未来への志を伺いました。

社員同士が響き合う、ベストミックスが理想

②115A7103

——社長に就任されてから現在に至るまで、まさに激動の時代を駆け抜けてこられたわけですが、山内会長は人材やマネジメントについてどのようにお考えでしょうか。

山内隆司(以下、山内):バブル経済崩壊後、建設業界のニーズは半減しました。さらに2007年に私が社長就任して以降も、2008年のリーマンショックによる世界経済の変動で、それまでの受注環境が大きく変化し、海外における事業の立て直し対応に迫られるなど厳しい時代が続きました。その中で、減少する仕事量と変わらない社員数とのバランスの調整に苦心しました。事業においては人材が最も大事だと思い続けているため、有効的に活用していくにはどうすればいいのか、順次、一人あたりの生産性を高めるための改善を図ってきた結果、同業他社のなかで最もスリムな体質になりました。

しかしその後、景気の回復もあり、今度は一転して人材不足の状況になりました。そこで戦力を上げる必要性から、キャリア採用を大幅に増やすことにしました。キャリア採用の社員は、多くが入社時から土木や建築の資格を持っており、常に自分自身を研鑽し続けてきた方です。世間の波に揉まれ物怖じしない。一方、大成建設に新卒入社した社員は、もともと成績の良い人が多いにも拘わらず努力が足りなかった。今は、双方が良い刺激を与え合うことができる「ベストミックス」で切磋琢磨し合う環境となっており、これが現在の大成建設をつくっていると思います。

——新しい風を吹き込んでこそ、得られるものがあるということですね。

山内:今までは新卒で入社して定年まで勤め上げるというパターンが大半でした。その結果、社員が安心してしまい、均質化、金太郎飴のような状態になってしまっていました。同じような経歴、同じようなキャリアを持っている「純粋培養された者」同士では響き合わないのです。ところがキャリア採用で入社する社員は、世の中の波に揉まれている分、発想も違えば自己主張にもためらいがない。だからこそキャリア入社の社員の意見にもしっかりと耳を傾ける、風通しの良い雰囲気を大事にし続けていきたいですね。

——採用において、どのような点を重視されていますか。

山内:人事担当ともよく話していますが、我々はプロジェクト単位でチームを組んで仕事をしますから、まず、協調性を重視します。それから積極性。前へ一歩踏み出すことを躊躇しているようでは困ります。協調性と積極性。採用においてこの二つは大きなポイントだと思っています。

若者の建設離れを防ぐには

770A9853

——建設業界といえば、今は建設作業員不足など「若者の建設離れ」が深刻と聞いています。そのあたりはどのようにお考えでしょうか。

山内:建設業界は世間から俗に言う「3K(きつい、汚い、危険)」といったイメージを抱かれがちです。それでいいとは思っていません。
他の業界を伺ってみると、自社工場などに見学コースがあったりします。子ども達などに工場の内部を案内し、製品の特長や安全性、仕事の内容をアピールするなど日頃から「知ってもらう」工夫をされていますが、残念ながら建設業界では永らくこのような取り組みが行われていませんでした。

エンドユーザーが国や企業であり、一般の方々となかなか接点がないという理由もあるのでしょうが、世間の人々に我々建設業の仕事内容を積極的にアピールするなどして、浸透させていかなければ若者も集まってこないでしょう。
この3Kといったネガティブなイメージをはね返すべく、近年では業界を挙げて建設業への理解を深めていただく取り組みをおこっています。たとえば2018年の夏、当社が手掛けている新国立競技場へたくさんの女子小・中・高生を招いて、作業所の様子や工事の内容、女性技術者が活躍するさまを見学していただきました。来る2020年、たくさんの選手たちが活躍する姿をテレビなどで見て「私はあれを作っているところを見たんだ」と思い出してもらえたらありがたいですね。

——なるほど、建設業界全体で新しい取り組みを行っているということですね。特に御社は、業界でも新しいことについては積極的にチャレンジされているイメージがあります。

山内:はい、今では当たり前に使われている「建設」という単語ですが、英語の「コンストラクション」の訳語を社名として最初につけたのは大成建設でした。そもそも当社のルーツをたどれば、1873年に大倉喜八郎が設立した大倉組商会が起源であり、戦後、建設業界のなかで当社だけが財閥解体の指定を受け、大倉財閥から離脱して社員の投票で社長を決めたこともあります。さらに、建設会社で東京証券取引所に上場したのも当社が初めてです。
また、今では当たり前となったユニットバスを東洋陶器(現・TOTO株式会社)さんと共に生み出したのも大成建設でした。当社は何事にもチャレンジするしかない立場からスタートしたこともあって、“進取の気性”といったDNAが今に受け継がれているのだろうと思います。

大先輩たちに倣って技術開発を——進取の気性を鼓舞し続ける

④115A7203

——“進取の気性”を鼓舞するために、なさっていることはありますか。

山内:先程もお話ししたユニットバスですが、これは1964年に竣工したホテルニューオータニの新築工事でのお話です。先の東京オリンピックに際し、世界中のお客さまをお迎えするための国際的ホテルを、わずか17か月という工期で建設するプロジェクトが持ち上がり、ホテル建築において実績のある大成建設に白羽の矢が経ちました。しかし、昼夜問わずの突貫工事を行っても工期が間に合わない。そこで挽回するために着目したのが浴室でした。当時の浴室は、一枚ずつタイルを張るなど仕事量が多く、工程上一番手間がかかる場所でした。1000を超える客室一部屋一部屋を作業していてはとても間に合わない。ということで我々の大先輩はユニットバスを生み出し、工場で製作した製品を現地では据え付けるだけとしました。
これら技術開発によって時間が大幅に短縮でき、無事に竣工日を迎えることができましたし、それ以降ホテルでもマンションでもユニットバスが当たり前となったのは皆さんもご存知の通りだと思います。現役社員達には「こうした大先輩たちに負けないように新たな技術開発をやり遂げてほしい」と常に言っています。課題を与えれば必ず成果が出てくるだろうと期待もしていますね。

——2020年をひとつのピークとして考えている業界は多いと思います。その後の展望をどのようにお考えですか。

山内:2020年以降、インフラ整備や、市街地の再開発事業など案件は複数ありますが、今までと同じように潤沢に仕事があるとは限りません。
これをどう乗り越えていくかが当社を含め業界各社、思案のしどころだと考えています。
そのためにもベストミックスで切磋琢磨し合い、新たな時代を切り開いていける人材が今のうちから育ってくれることを大いに期待しています。

<山内 隆司氏 プロフィール>
1969年 東京大学工学部建築学科卒業後、大成建設入社。1999年 執行役員関東支店長、2002年 常務執行役員建築本部長、2005年 取締役専務執行役員建築本部長、2006年 取締役専務執行役員社長室長に就任。2007年 代表取締役社長を経て、2015年 代表取締役会長(現職)
2017年 一般社団法人 日本建設業連合会会長(現職)
2017年 一般社団法人 日本経済団体連合会副会長(現職)

こちらも併せてご参照ください

優秀な若手を獲得する「ポテンシャル採用」のメリットと成功に必要な5つのこと

こんな記事も読まれています