スペシャルインタビュー

海野 忍氏-「働きがい」は自分6割、上司4割。大きな組織で皆がイキイキと働く秘訣は何か

海野 忍氏-「働きがい」は自分6割、上司4割。大きな組織で皆がイキイキと働く秘訣は何か

1975年に日本電信電話公社(現NTT)に入社後、データ通信事業本部(現NTTデータ)にて国立病院を対象としたシステムの設計・構築に従事。2008年にNTTコミュニケーションズ代表取締役副社長を務めたのち2012年にNTTコムウェア代表取締役社長を経て現在、相談役となった海野氏。品川駅のほど近くに建つビルから海側の街を眺めながら「このあたりは昔、何もなかったんですよ」と語りました。大きな組織のなかで40年以上にわたり、さまざまな人を率いてきた海野さんが2017年に上梓したのが『「働きがい」の伝え方』(クロスメディア・パブリッシング)という1冊。海野氏に「働きがい」について、お伺いしました。

働きがいとは「達成感」である

——海野氏ご自身は「働きがい」とはどのようなものとお考えですか。

海野忍(以下、海野):私は、働きがいとは「達成感」であると考えています。人間はじっとしていては生きていけない動物です。動き回ることが必然であり、動き回って何かできることが幸福なんです。仕事はその幸福をつかむためにするものと言えるでしょう。
そして、登山に例えるなら低い山よりも高い山に登ったときのほうが、登り終わったときの達成感は大きいですよね。前に苦労したほうが、得なんです。だから私は「仕事が大変だ」と言っている人がいると「大変でよかったね」と言うんです。たいていは怪訝な顔をされますが、一生懸命にその苦労を克服すれば達成感も大きい。働きがいも強く感じられる、ということなんです。

つまらないと思ったら「やらずに済ませる方法」を考えよ

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——それは、「仕事は苦労するもの」とか「苦労しないと報われない」という態度とはまた違う仕事観ですね。

海野:そうですね、たとえば「給料は我慢代」なんて発想の人もいますし、その前提が間違っているわけでもないと思います。でも1日の1/3を我慢のために使う、と考えている人はかわいそうだと思うんです。同じ時間で成果を出すなら、楽しんだほうが絶対にいい。そのために大切なのが、「この仕事はやりがいがある」「自分が手がけているのは有意義な仕事だ」と思えるかどうかなんです。

たとえば、今やっている仕事がつまらないなと思ったら、与えられた時間で「やらずに済ませる方法」を考えたほうがよほど生産的です。これをやったのがエジソンですね。鉄道会社に就職したエジソンが最初に与えられた仕事は、汽車が踏切を安全に通過したらモールス信号を打つ、というものでした。汽車が通ったらひたすら打つ。つまらないと感じたエジソンは、自動で信号を送る装置を発明したということです。
会社で「自分でなくてもできるのに」「なんの価値もない仕事だ」と思う仕事があるなら、その時間を使って自動化してしまえばいいんです。格段にクリエイティブで面白く、達成感も得られることでしょう。

——なるほど、働きがいというのは自分で作り出すこともできるんですね。

海野:そうですね、自分の心の持ちようというのは非常に大きいです。ただ、自分でコントロールできる働きがいは6割。残りの4割は上司次第だと私は考えています。どちらかだけではないのですね。

まず、自分でコントロールできる働きがいについては、仕事の価値を見つけることが大切です。上司に言われたからやるという、いわゆる“やらされ仕事”ほどつまらないものはありません。自分が“やりたい仕事”だから楽しいのです。やらされ仕事をやりたい仕事に変えるには、「なぜそれをやらなくちゃいけないのか」をよく考えることが大切です。自分の仕事がお客さんのためになる、会社のためになる、社会のためになるとわかればやりたくなります。

大企業ほど “やらされ仕事”感覚が強くなる

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海野:実は、“やらされ仕事”と考えがちな傾向は、大企業であるほど強いのです。人数が少ないベンチャー企業では、誰もが会社全体を見て自分の振る舞いや役割をしっかり考えて動きます。自然と「自分はこういう目的でこう動く」と思うようになり、“やりたい仕事”が増えていくのですね。しかし、NTTコムウェアのように6500人も社員がいるような会社では、若手は「上司に命令されるだけの6500分の1」となりがちなのです。規則がしっかりしている会社も多く、自分の頭で考えなくても仕事が回っていくのも大企業の特徴のひとつですが、それが弱点でもあると私は考えています。「とりあえず言われたことをやれば給料は出る」といった気持ちで働いていては、働きがいも得られるはずがありません。大企業に所属している人ほど、仕事の価値をきちんと考える習慣をつけたいものですね。

上司になると忘れてしまう「部下の気持ち」

——残り4割の、上司のほうはいかがでしょうか。

海野:上で述べたような仕事をする理由を、部下に納得させてあげるのが上司の役目なんですね。「こいつはできるはずだ」という発想をベースにして、手伝うだけでも口を出すだけでもなく、部下ができるようになる工夫をしてあげるんです。

また、自分が上司にされて嫌だったことはしない、嬉しかったことをする。これは当たり前のようでいて、意外とできていない人も多いですよ。誰しも一度は新入社員だったり部下だったりしたわけですから、当時のことを思えばわかるはずなのに、感情的に怒鳴りつけてしまったりする。「つべこべ言わずにさっさとやれ」「俺の言うとおりにやればいいんだ」などと言うのは最悪です。これは組織やルールでどうにかなるものではなく、上司の心の持ちようです。もしも部下に対して「こんなに説明しているのに、どうして伝わらないんだろう?」と思うことがあったら、自分が昔、上司の発言を理解できなかったことがないか振り返ってみてはいかがですか。自分が上司にされて嫌だったことはしない、嬉しかったことをすることでコミュニケーションは活発になりますし、結果としてそれが働きがいを伝えることにもなります。

人間としての幸せを得るために、仕事をする

——どうしても働きがいを感じられないときは、どうしたらいいのでしょうか?

海野:仕事の意味を考えてみて、どう考えても会社のためになっていないのであればそのまま上司に伝えてみてはいかがですか。やらされ仕事としか思えない、やりたくないと思ったら断ってみるのもいいかもしれません。仮に転職を考えるなら、自分が本当にやりたいことは何かということをよく考える必要があるでしょうね。気に入らないなら転職をすればいい、という考え方は危険です。「隣の花は赤い」とばかりに、見かけや短期的な報酬ばかりで決めてしまうと後悔につながります。先に達成感を登山に例えましたが、「高い山に登れて嬉しい」という人間の幸せを得るためにも、やはり仕事の意味について考える時間を大切にしたいですね。そして上司は部下に働きがいを伝え、人事部や経営企画部は会社全体でそうした文化を持てるように努めるべきでしょう。

かつて私が赤字の部署の本部長となったとき、部署内は業績が評価されず、苦しい思いをしている人がたくさんいるように見えました。「自分にできることは、皆さんに元気になってもらうことだ」と考えた私は、環境を整える一手段として社内ブログで働きがいを伝えることにしました。その結果、4年後には見事黒字化。社内もイキイキとしてきたように見えました。業務上の施策も効果があったものと思いますが、やはり「働きがい」を常に意識することは大切であると、私は考えています。

<海野 忍氏 プロフィール>
1975年 東京大学工学部卒業後、日本電信電話公社(現NTT)入社。1982年 新潟電気通信部 施設課長。1988年 米国・MIT(マサチューセッツ工科大学)に留学し、翌年にMBA取得。2001年 NTTデータ通信経営企画部長、2003年同取締役経営企画部長、2004年 取締役公共地域ビジネス事業本部長、2007年 常務執行役員ビジネスソリューション事業本部長。2008年 NTTコミュニケーションズ代表取締役副社に就任。2012年 NTTコムウェア代表取締役社長を経て、相談役(現職)。

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ヘッドハンターお薦め本
海野忍著『「働きがい」の伝え方』(クロスメディアパブリッシング/2017年12月21日発売)

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