スペシャルインタビュー

岩本 隆氏-HRテクノロジーは企業にとって避けて通れない道。そして「人」の価値が、より高まっていく。~後編~

岩本 隆氏-HRテクノロジーは企業にとって避けて通れない道。そして「人」の価値が、より高まっていく。~後編~

テクノロジーが進化する中、改めて問われる「人手の価値」

——HRテクノロジーを最大限に駆使すれば、ヘッドハンティング会社のように人が動くサービスの価値というのは薄れてくるのでしょうか。

岩本:最近「ピープルテクノロジー」という言葉が使われますが、人は非常に複雑です。人を理論化するというのは、非常に面白いテーマではある一方で、科学的にはこれほど難しいものはありません。人を評価するためのパラメータは無限だからです。いくらテクノロジーが進化しても、イチローを100%体系化することは無理、ということですね。

テクノロジーを活用した上で、それによってどういった付加価値を得られるかが勝負になってくると僕は思います。テクノロジーが定着すれば、人でしかできないことでしか差別化できなくなる。そこをどれだけ持てるか、ということが企業の競争力となるでしょう。そしてまた、そこにテクノロジーがチャレンジしていく。でも人間はそんなにシンプルなものじゃない。絶対に追いつけません。テクノロジーができることをやっている会社はなくなるでしょうが、人でしかできないことを明確に定義できれば、その会社の価値はもっと鮮明になってくるはずです。

ビジネスパーソンも、プロスポーツ選手のように働く時代が来る

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——「人でしかできないこと」といえば、AIの話題でよく「人間の仕事が奪われる」といった煽り文句を見かけます。その是非はともかくとして、HRテクノロジーの進化によって、人の仕事はどう変わるのでしょうか。

岩本:テクノロジーが進化すれば単純労働から解放され、人間でしかできない仕事が残ります。より人間的な人生を送れるようになる——そうした意味で、僕はビジネスパーソンもプロスポーツ選手のように生き生きと活躍する時代になると思います。プロスポーツ選手はグラウンドに入る前にルーティンの準備をしますよね。終わった後も睡眠や食生活に気を配って翌日に備えます。それと同じように、朝9時に出社して、ダラダラ仕事をして5時に退社する、といった生活は過去のものとなるでしょう。出社前に万端の準備をし、出社したら全力で働く。集中の仕方が変わってくるんです。単純労働がなくなった後、何が残るのか。それは自分たちで作っていくものです。楽しくなってくると思いますよ。

現在、テクノロジーが進んでいる会社の人事は、仕事時間の半分を社内のコミュニケーションに費やすそうです。たとえば採用の場合、内定決定においては、実はテクノロジーのほうが精度は高い。面接官の未熟さやバイアスがない分、有利なんです。実際、採用をオートメーション化した会社は内定を出した後の説得に時間をかけています。そうすると学生を説得するために、人事の採用担当は採用業務だけをしていれば良いというわけではなくなります。会社の全体像未来を、情熱を持って語れなければいけない。社長の考えをそのまま語れるくらいでなければならないのです。これも、人でしかできない仕事ですよね。

「HRテクノロジー」という言葉自体がなくなるほど“当たり前”のことに

——今後のHRテクノロジーの展望について、聞かせてください。
岩本:月額フィーが低いクラウドサービスが増えたことで、中小企業・中堅企業がどんどん導入する流れが起こっています。裾野は今後も広がっていくでしょう。電卓があるのに、そろばんや紙で計算する人はいませんよね。テクノロジーでできることはやらせればいい。それでも、テクノロジーにできないことはまだまだたくさんありますから、そこはやっぱり人手の価値があるのです。

おもしろいのは、ここにきてFace to Faceミーティングの価値が見直され始めていることです。今までは何でもかんでも顔を合わせるのが当たり前で、無駄な会議もたくさんありました。しかしテクノロジーでやれることが増えてみると、逆にFace to Faceミーティングの価値が鮮明になってくる。わざわざコストをかけて行くことで電話会議では生まれない付加価値が出てくる。熱意を伝えたり、雰囲気や表情を見たり、一緒にお酒を飲んだりといったことで人となりもわかります。無駄な話をすることで人間性が理解できたりもします。今までは何でもかんでもそうしていたのでその感覚は当たり前だったのですが、人間しかできないことに改めてスポットライトが当たっているのです。

「テクノロジーが進化する」というと難しい印象を抱く人も多いようですが、つまりは素人でも使えるようになるということです。理屈はわからなくても、みんなスマホは使えますよね。テクノロジーはすごいことじゃない、当たり前になることなんです。だから今に「HRテクノロジー」なんて言葉もなくなっていきますよ。そのくらい、HRテクノロジーは人々にとって当たり前のものになっていくだろうと、僕は考えています。

こちらも併せてご参照ください

HRテックで変わるこれからの人事部に求められるもの

【記事前編】
岩本 隆氏‐HRテクノロジーは企業にとって避けて通れない道。そして「人」の価値が、より高まっていく。~前篇~

<岩本 隆氏 プロフィール>
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、株式会社ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)特任教授。

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