トランジションとは?ビジネス・キャリア視点での意味とプロセスを解説!

転職が一般化された現代ビジネスでは、「キャリア選択」を自分自身の思いで実現できるようになりました。これに伴い、「キャリアの転換期」を迎えるビジネスパーソンが増えています。
トランジション(キャリアの転換期)を乗り越えることで、人はさらに成長し、新しいキャリアを築くことができます。トランジションを乗り越えるためには、個人の努力のほかに、会社のサポートも欠かせません。
本記事では、トランジションのプロセスと各ステージをどのように過ごせば良いのか解説します。トランジションを有益なものとするためのポイントを確認していきましょう。
目次
トランジションとは?
ビジネスにおけるトランジションとは、個人や組織が一つの状態から次の状態へと変化するプロセスを指し、キャリアや人材開発、組織運営の文脈でよく使用される概念です。英語のtransitionは、「変遷」「遷移」「移行」などの意味があり、単なる「変化」ではなく、その過程で経験する心理的、感情的な変化を伴う点が特徴です。
この概念は、アメリカのコンサルタントであるウィリアム・ブリッジス氏によって「トランジション・モデル」として提唱されました。トランジション・モデルでは、トランジションは「過渡期」を意味し、人は変化という課題を乗り越えていくことで次のステージに進むことができるとされています。
ビジネスにおけるトランジションの種類
ビジネスにおけるトランジションはキャリアの変わり目であり、下記のような種類があります。
キャリアの移行
昇進・昇格、配置転換、人事異動、役職変更、職種変更、転勤、退職後の第二のキャリアなど。
組織の移行
経営体制の変更、組織の再編、プロジェクトチームの解散など。
ライフイベントの移行
結婚、出産、育児、介護、移住など。
トランジションにおける3段階のプロセス
ウィリアム・ブリッジス氏によると、キャリアのトランジションには3段階のプロセスがあります。
第1段階:終焉
第2段階:中立圏(ニュートラル・ゾーン)
第3段階:開始
1つずつどのような段階なのか、どう過ごせばいいのかをみていきましょう。
何かが終わるとき「終焉」
終焉は、これまで慣れ親しんできた組織・環境・人間関係から離れるという変化の第1段階です。
キャリア視点の「終焉」
終焉では、業務の引き継ぎをしっかりと行う必要があります。単に後任による業務の継続を目指すだけでなく、引き継ぎを行うなかで業務を整理することで、自分が積み重ねてきた努力や後悔などを振り返ることが重要です。望まない終わり方だったとしても、今後の自分が前向きに進むために、過去と決別し、気持ちを切り替える必要があります。
キャリア視点の「終焉」における具体例
- 役職変更に伴う責任範囲の変化
- 長年慣れ親しんだ職場からの異動や転職
- 従来のやり方や業務プロセスの見直し
混乱・苦悩のとき「中立圏(ニュートラル・ゾーン)」
中立圏(ニュートラル・ゾーン)は、終焉に伴って喪失感・空虚感を感じるという変化の第2段階です。終わりと始まりの間にある空白期間で、迷ったり立ち止まったりすることもあります。
キャリア視点の「中立圏」
ニュートラル・ゾーンでは、新しいステージに移行するなかで新しい自分を模索している状態です。変化にどう対応するのか、自分でも見つかっていません。しかし、ニュートラル・ゾーンの時期は、ジタバタともがかず、自分を受容することが重要だといわれています。
キャリア視点の「中立圏」における具体例
- 以前の職場から次の職場に移るまでの期間
- 昇進を控え、リーダーシップスキルを磨くトレーニング期間
何かが始まるとき「開始」
トランジションの最後の段階が、次のステージが始まる「開始」です。新しい自分を模索するなかで、人は新たな気づきや価値観に出会い、そのなかで新しい自分を構築していきます。
キャリア視点の「開始」
この段階は、トランジションが完了し、次のステージでの活躍が期待される段階です。新たな環境への期待が高まる一方で、心理的なハードルを感じやすく、不安や恐怖心も付き物です。場合によっては周囲からのプレッシャーや反対も考えられます。このように「開始」の段階では、内的・外的な抵抗に遭遇しやすい傾向があります。会社として不安的な心理を理解したうえでの対応が必要です。
社員本人には、新しい職場や役職に馴染もうとする姿勢が求められます。積極的に学び、質問し、自主的に不足している知識やスキルの学習を行います。また、上司や同僚とコミュニケーションを密に取り、新しい職場の人と同じ視点を持てるようにしましょう。
キャリア視点の「開始」における兆候
- 新しい業務や環境に対する意欲が高まる
- 自信を持って新しい役割を遂行できるようになる
- 適応の結果、周囲との協働や成果が生まれる
キャリアで起こる重要なトランジション
キャリアで起こる、大きく、そして重要なトランジションは「学生から社会人への転換」「メンバーからマネージャーへの転換」「マネージャーからプロフェッショナルへの転換」「産休・育休からの復帰」です。
学生から社会人へ
学生から社会人へのトランジションは、ビジネスにおける最初のトランジションです。人生においても大きな転換期で、最上級生である環境が終わり、新人としてのステージが始まります。社会人として求められるビジネススキルや生活習慣、仕事に取り組む姿勢を身につける必要があります。
また、社会人への転換は、完全に新しい世界に飛び込むことになるため大きな不安や混乱が生じます。プライベートでも環境の変化が生まれやすく、ストレスを感じ、ネガティブになりやすい傾向があります。
会社側には、新社会人の置かれた状況や感情に寄り添えるサポート体制を構築することが求められます。
メンバーからマネージャーへ
ビジネスパーソンであれば、スキル・年齢を重ねていくことで、マネジメントを任されるタイミングがやってきます。メンバーは主に指示を受けて組織に貢献しますが、マネージャーになると人を動かして成果を上げることから、組織内での役割が大きく変わります。
マネージャーになることで、組織内での影響力や得られるやりがいは大きくなります。一方で、メンバーとして得ていた賞賛や顧客との接点が失われ、求められるスキルも大きく異なることから、喪失感や無力感を抱く人もいるようです。
会社側には、転換後すぐにでもやりがいを得られるように、新任管理者研修やメンター制度などでサポートする必要があります。
マネージャーからプロフェッショナルへ
マネージャー職はポストが限られるため、一部のメンバーはプロフェッショナルとしての道を歩むことになります。また、従来の定年だった60歳を超えて働くことも当たり前になってきた現代では、マネージャー職を退き、プロフェッショナルとして組織を支えることも考えられます。
マネージャーとしてのキャリアを希望していた人は、敗北感を感じることになります。また、長年マネジメント側にいた人であれば、役職から外れることで喪失感を覚えることになります。
そのため、会社としては、プロフェッショナルへ転換する社員のマインドセットを図っておくとよいでしょう。
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産休・育休からの復帰
産休・育休からの復帰は、キャリアにおける重要なトランジションの一つです。育児と仕事の両立を図るため、新たな働き方や時間管理のスキルが求められます。また、育休中に業務から離れていた期間があるため、復帰後のキャッチアップや新しい業務環境への適応が必要です。
企業側には、復帰をスムーズに進めるためのサポートが求められます。具体的には、育休復帰プログラムの提供や、柔軟な勤務形態の導入、復帰直後の負荷軽減などが挙げられます。また、メンター制度やカウンセリングを通じて、復帰者が安心して職場に戻れるような環境づくりも重要です。
産休・育休からの復帰は、個人のキャリアに新たな視点をもたらすと同時に、企業にとっても多様性を推進する機会です。適切なサポートを通じて、復帰者が持つスキルや経験を最大限に活用し、組織全体の成長を促進することが求められます。
役割転換不全を防ぐ「トランジション・デザイン・モデル」
トランジションで1つ問題になるのが、役割転換不全です。役割転換不全とは、新たな職場やポジションにおいて、人材が本来の能力を発揮できず、期待された役割をうまく果たせない状態を指します。役割転換不全が発生すると、パフォーマンスが落ちたり脱落者が出たりとトランジションがマイナスの効果を生んでしまいます。
役割転換不全を防ぐためには、計画的なトランジションが有効です。しっかりと効果を出せるように計画することを「トランジション・デザイン・モデル」と呼びます。トランジション・デザイン・モデルは、株式会社リクルートマネジメントソリューションズが提示しました。
トランジション・デザイン・モデルでは、社員の役割が変わる転換期として10の段階に分けられています。
【トランジション・デザイン・モデル】
1.Starter(新人・若手)
2.Player(一人立ちした社員)
3.Main Player(一人前の社員)
4.Leading Player(主力社員)
5.Expert(専門家)
6.Professional(第一人者)
7.Manager(マネジメント)
8.Director(変革担当)
9.Business Officer(事業変革担当)
10.Corporate Officer(企業変革担当)
引用:リクルートマネジメントソリューションズ「トランジションとは」
https://www.recruit-ms.co.jp/glossary/dtl/0000000037/
このうち、とくに重要なのが、新人期である「1.Starter(新人・若手)」、中堅期に入る「4.Leading Player(主力社員)」、キャリア転換期である「5.Expert(専門家)」です。会社には各ステージに求められるスキルや行動を明確にすることが、社員には各ステージの乗り越え方を把握することが求められます。
個人がトランジションを乗り越えるための方法
トランジションを体感する本人によるトランジションの乗り越え方を4つ紹介します。
変化を受け入れるマインドセットを持つ
トランジションを乗り越える第一歩は、変化を前向きに捉えることです。これまでの環境や習慣に固執するのではなく、新しい状況を「成長のチャンス」として捉えることが重要です。
実践例
- 自分にとっての「変化のメリット」をリスト化する
- 過去に成功したトランジションの経験を振り返り、自信を持つ
明確な目標を設定する
トランジション期に目標を設定することで、漠然とした不安や混乱を軽減できます。目標は短期・中期・長期に分け、段階的に達成を目指しましょう。
実践例
- SMARTな目標(S:具体的な、M:測定可能な、A:達成可能な、R:関連性のある、T:期限が明確)を設定する
- 新しい役職に就いた場合、最初の3カ月で達成したい具体的な成果を明確化する
サポートネットワークを活用する
トランジションは一人で乗り越える必要はありません。同僚、友人、家族、メンターなどの支援を活用し、必要に応じてアドバイスを求めることが大切です。
実践例
- 直属の上司や人事部に相談し、トランジション期間中のサポートを依頼する
- 業界の勉強会やオンラインコミュニティに参加し、同じ状況を経験した人々とつながる
必要なスキルを積極的に学ぶ
新しい環境や役割に適応するためには、スキルアップが欠かせません。自己研鑽を怠らず、トランジション期を成長の機会として活用しましょう。
実践例
- 新しい業務に関連する書籍やセミナーを活用してスキルを習得
- オンライン講座を活用したリスキリングによるスキルの習得
企業が提供できるトランジション支援
続いて、企業が提供可能なトランジションの支援策を紹介します。
オンボーディングプログラムの実施
新しい役職や部署に配属された社員がスムーズに適応できるよう、オンボーディングプログラムを実施します。これには、業務内容の説明だけでなく、社内文化やチームビジョンの共有も含まれます。
トレーニングや研修の提供
トランジションに必要なスキルを学べる研修を提供することで、従業員の適応をサポートします。例として、リーダーシップ研修やマネジメントスキル講座が挙げられます。
メンター制度の導入
経験豊富な社員をメンターとして配置することで、トランジション期間中に実務やキャリアに関するアドバイスを受けられる環境を整えます。
心理的サポートの提供
社員の不安を軽減するため、カウンセリングサービスやコーチングセッションを提供することも効果的です。
トランジションで人も組織も成長できる!
トランジションを理解し、うまく活かすことができればキャリアに寄り添った組織運営となり、社員の満足度やモチベーションは上がるため、結果として人材の定着率や生産性の向上につながります。有効なトランジションは、社員個人の成長にも、組織全体の成長にもつながるのです。
ただし、トランジションの時期には、社員の心理状態が不安定になりがちです。キャリアにおける大きな過渡期を抜け出すためには、受け入れる側が社員の不安や恐怖心を理解し、寄り添ったサポートを行うことも重要となります。