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社内公募制度とは?運用上の気をつけること・導入企業一覧から分かる特徴を徹底解説

社内公募制度とは?運用上の気をつけること・導入企業一覧から分かる特徴を徹底解説

企業の生存競争が激化する中、社員の仕事に対する意識や価値観も変化しています。役職や報酬といった「外的要因」だけでなく、社員自身のやりがいといった「内的要因」も求められるようになりました。

こうした状況を踏まえ、社内公募制度や社内FA制度など、社員もモチベーションを維持しつつ、限られた人的リソースを最大限に活用できる方法が注目されています。本記事では、社内公募制度のメリットとデメリットを紐解き、人材獲得競争における新たな勝ち筋を解説していきます。運用する上での気をつけることも紹介していますので、ぜひお役立てください。

社内公募制度とは?

社内公募制度とは、人事異動を決定する制度の1つです。会社内部で各部署が人材を公募し、社員は自らの意思で応募することができます。

そもそも「公募」の意味は、“条件付き”で広く一般からヒトやモノを集めることです。そのため、社内公募制度は無条件でヒトを集める「募集」とは異なり、部署の設定する条件を満たした人材に応募権利が付与されるという制度です。

つまり、社内公募制度は、人手不足を原因とした“数”を求める募集ではなく、社員のキャリア形成の支援と部署の更なる組織強化を目的とした制度であることを理解しておく必要があります。

通常の人事異動では、経営陣・管理職・人事の間での組織調整の上で決定されることが多くあります。一方、社内公募制度では、社員自らの希望と各部署が設定した条件を照らし合わせて人事異動の決定を行います。応募社員と部署の管理職による面接/面談を実施するため、いわば社内転職と言っても良いでしょう。

類似する社内FA制度とは?

社内公募制度の類似制度として、社内FA制度があります。
FAとはフリーエージェントのことで、プロ野球でよく耳にする言葉です。プロスポーツにおけるFAとは所属チームとの契約を解消し、他チームと自由に契約を結ぶことができる状態のことで「自由契約選手」という意味を持ちますが、会社で使われるFAは直訳すると「組織に雇われない労働者」という意味になります。

「組織に雇われない労働者」と言われても、ピンとくる人はほとんどいないでしょう。プロ野球のFA制度を用いて説明すると分かりやすいです。

プロ野球では、FA権の取得に「活躍」と「試合数」という規程を設けており、それを満たした選手を対象に、他の球団への移籍交渉権を獲得できるというシステムです。

これを会社に置き換えると、FA権の取得に「成績」と「勤続年数」という規程を設けて、それを満たした社員を対象に、希望する部署への異動に向けた交渉権を獲得できるシステムと言い換えることができます。もちろん、規程は会社によって様々に設定することができて、「成績」や「勤続年数」に加えて、「資格」「能力」「実績」などを含めることも可能です。

社内公募制度と社内FA制度の違い

社内公募制度と社内FA制度はどちらも、社員の希望から実現する人事異動ですが、どのような違いがあるのでしょうか。

まず、社内公募制度は部署の公募に対して社員が手を挙げる「求人型」になります。一方で、社内FA制度は社員が自らの強みを部署に売り込む「求職型」の人事異動です。

社内公募制度では、部署は明確な基準を設定する必要があります。社内に適した人材がいなければ、社外から中途採用で獲得する方針に切り替えるなど、妥協のない人材獲得を目指すことが望ましいです。
社内FA制度では、部署の組織編成や経営戦略を考慮して判断していく必要があります。プロ野球でもFA権を取得したものの他球団が獲得に乗り出さなければ移籍は実現しないわけですから、部署の方針を優先するべきであると言えます。

制度運用で気をつけること

社内公募制度は、社員の希望する部署と、部署が希望する人材のマッチングであり、双方にとって有益な人事異動の手段であると言えます。だからこそ、制度を運用する上で気をつけることを理解していないと、社内のトラブルに発展してしまう可能性があります。本章では、社内公募制度を運用する上で注意すべきポイントを解説していきます。

■基本ルールの確立

■社員への周知徹底

■情報管理の徹底

■人事部門のフォロー

■基本ルールの確立

まずは、社内公募制度で人材を確保するための基本ルールを明確にする必要があります。先述したとおり、公募は “条件付き”の人事異動ですから、「募集の背景」「基本方針」「応募条件」などの揺らぐことのないルールを事前に設定することが望ましいです。

社内で完結する機会提供だからこそ、特に過去の人間関係による優遇や条件緩和はあってはならないことです。社内に不協和音を生じさせないよう、必ず事前に基本ルールを設定しておきましょう。

また、基本ルールを確立しないと、現在の部署に不満を持った社員がネガティブな理由で社内公募制度を利用し、社内の異動を繰り返す可能性が出てきます。「応募条件」には、現部署の在籍年数や必須経験を設定して、社内公募制度を活用できる社員を限定することもポイントです。

■社員への周知徹底

次に、「募集の背景」や「基本方針」を社員に周知する必要があります。メールや社内チャットツールを利用した通達も必要ですが、社員の理解を深めるためにも説明会を開催することが望ましいです。

とにかく、社員の好き嫌いで社内異動を促進するのではなく、社員のキャリア形成を考慮した適切な環境を提供するための手法である点を理解してもらうことが重要です。さらに、応募条件や申請手続き、選考方法、選考時期を説明して、社員の質問にも的確に回答しましょう。社員が不安なく社内公募制度を活用できるように、社員への周知は丁寧に行うべきです。

■情報管理の徹底

そして、実際に応募があり社内選考が進む際には、個人情報の遵守には細心の注意を払いましょう。社内公募には選考がありますし、複数の社員が応募する可能性がありますので、社内異動が実現しない社員もいます。そのため、社内公募制度に応募していることが現部署の上司に知られてしまうことは、その後の人間関係を大きく左右するトラブルに発展する恐れがあります。応募社員の情報は、人事部と公募部署の責任者が徹底的に管理する必要があるのです。

■人事部門のフォロー

社内公募制度で人事担当者がフォローすべきは、「応募者」「異動先部署」「元所属部署」の3つです。

「応募者」に対する人事フォロー

「応募者」には、異動先部署の人間関係の構築に向けたフォローが必要です。これは、通常の中途採用で入社した社員へのフォローと同様ですが、同じ会社とはいえ異なる部分を細部にわたってフォローしていくべきでしょう。

また、社内選考で惜しくも落選してしまった社員に対して、選考後のフォローも必要になります。例えば、選考後に人事のフォロー面談を実施して将来のキャリア形成について相談機会を設けたり、面接官からのフィードバックを共有して仕事へのモチベーションに繋げたり、最後まで丁寧な対応が社員の心の切り替えを後押しするのです。

「異動先部署」に対する人事フォロー

「異動先部署」には、異動してくる社員のこれまでの活躍や人柄を伝えて、社員とのコミュニケーションを活発化させるための働きかけをする役目も担いましょう。社員同士の良好な関係は、仕事を遂行する上で心理的安全性の高まりを促し、早期活躍にも繋がるのです。

「元所属部署」に対する人事フォロー

「元所属部署」には、人員整備に向けての異動時期の調整を行います。この元所属部署へのフォローが人事として最も重要な役割と言えます。社内公募制度を活用して社内異動が決まった社員と公募が実った部署だけが華やかに映りますが、その一方で、優秀な社員を引き抜かれた部署があることを忘れてはなりません。

社員の元所属部署は社員が一人抜けてしまった訳ですから、人員調整が必要になります。これは社員の転職時と同様のフォローになります。ただし、社内公募制度の場合は、社内で異動の時期を調整することで、元所属部署の負担を軽減させることができます。

社内異動だから、すぐに荷物をまとめて気持ち切り替えて異動させるというわけではなく、元所属部署の人員整備のために余裕を持った社内調整を進めていくべきなのです。引継ぎ業務やクライアントへの挨拶、プロジェクト期間を考慮した制度運用を心がけましょう。その意味では、全部署に向けて公募での引き抜きの可能性や異動時期の調整がある旨を伝える手段として、説明会の実施は部署の責任者への説明責任を果たす機会にもなり得ます。

導入企業一覧

社員本人の意向を重視した人員配置で、組織活性化を目指す企業は増えています。2020年1月21日に日本経団連が発表した「人材育成に関するアンケート調査結果」によると、社内公募制度を導入している企業は54.9%であると記されています。

参照:日本経団連「人材育成に関するアンケート調査結果」

それでは、実際にどのような企業が社内公募制度を活用しているのでしょうか。
下記は、日本において社内公募制度を積極的に導入している代表的な企業一覧です。
社内公募制度の導入企業一覧とその企業の傾向
上記は導入企業の一例ではありますが、全体的な傾向としては、規模が大きい企業での導入が先行しているように見受けられます。また、グループ会社を保有している方が、より広域な人材流動が可能になることも挙げられます。

つまり、社内公募制度を導入するには、人材流動化しやすい複数の部署があることと、すぐに人材を補填できる従業員数が確保できている環境が必要なのです。社内公募制度を活用した人材流動が、果たして自社の規模と合っているのかを見極めてから導入しないと、人事部門に過剰な工数がかかり生産性の低い制度になってしまいます。

社内公募制度のメリット

社内公募制度の導入は、組織活性化を促進する効果があります。本章では、3つのメリットを紐解いていきます。

★社員のモチベーション向上

★社員のキャリア形成サポート

★職場環境の改善

★社員のモチベーション向上

社内公募制度を活用すれば、社員は自分が希望する仕事ができるチャンスを得ることになります。社内選考を通過して希望する部署に異動が決まれば、希望する職務や経験を積むことができるため、やりがいをもって仕事に向き合うことができるのです。

また、社内公募の条件を満たすために現在の部署で成果を上げるべく、よりモチベーション高く今の仕事に取り組むこともあるでしょう。

★社員のキャリア形成を支援

社員のキャリアに対する考え方は、どのようにヒアリングしていますか?
定期的な人事面談やキャリアアンケートから社員の希望を聞いていたつもりでも、言いづらい悩みや本心では外部の成長環境 を望んでいることなど、 “自発的”な発信がない限り社員の心情は読み取れないものです。この“自発的”な発信を促す手段として、自ら手を挙げて社内異動を希望する社内公募制度の効果が発揮されます。

社内公募の選考合否に関係なく、応募した社員のキャリア形成に寄り添いながら、より良い選択肢を提供することで社員と企業の信頼関係が強くなっていくのです。この定期的な人事面談やキャリアアンケートでは気付くことができない本心が、社員のキャリア支援において最も重要な要素と言えるでしょう。

★職場環境の改善

社内公募を実施しても、応募してくる社員が1人もいなければ制度として成り立ちません。公募を実施する部署はまず、「あの部署で仕事をしてみたい!」と思われるような組織になる必要があります。社員は仕事のやりがいと仕事のしやすさを求めます。逆に言えば、仕事のやりがいだけでは心は揺さぶられないということです。部署の責任者は、社内公募をきっかけに職場環境の改善に意識が高まっていくのです。

関連記事としてこちらも併せてご覧ください

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社内公募制度のデメリット

希望の部署への異動が叶った社員と社内公募で人材獲得が叶った部署。先述したとおり、社内公募制度による影響はこの双方以外の部署や社員にも及びます。ここからは、社内公募制度を運用する上で起こるデメリットを紹介していきます。

◆全体最適化への影響

◆人事部門の役割増加

◆全体最適化への影響

通常の人事異動では、経営者・部門長・人事部が会社全体のバランスと社員を客観視した適性を考慮して配属先の決定をしています。社内公募は、社員の意向が反映される画期的な社内異動の制度と言えますが、経営者としては全体を俯瞰した経営視点での適材適所の崩壊に違和感を覚えるかもしれません。社内公募制度では、社員の“主観性”と経営者の“客観性”のバランスが非常に重要なのです。

◆人事部門の役割増加

人事担当者は、中途採用では経験しないような業務を担当することになります。中途採用とは異なり、選考を通過する社員も選考から離脱してしまう社員も、同じ自社の社員です。したがって、応募者全員に対して丁寧にフォローしていく必要があります。ルーティン業務ではないですし、センシティブな場面ですから、より慎重な対応が求められます。

外部流出を防ぐ「社内転職」という考え方

社内公募制度で得られるメリットとして、社員のモチベーション向上とキャリア形成の支援を紹介しましたが、社員はこのメリットを得られないと外部への転職を検討することになります。

パーソルキャリアが集計したデータを基に転職理由のランキングを見てみると、1位の「昇給が見込めない」に続いて、2位に「キャリアアップが見込めない」が入っており、社員は個人的な目標を優先して転職をしていることが分かります。

つまり、社内で昇給やキャリアアップが見込める環境への異動が実現できれば、外部への転職ではなく社内異動で社員のキャリア形成を後押しできるのです。これが、社内転職という考え方です。人材獲得競争が激化する中、外部からの人材確保が難しいなら、社内の優秀な人材を外部に流出させないことで組織力の強化を維持できるのです。

参照:パーソルキャリア【doda】転職理由ランキング2022/3/14

まとめ

人事異動は、経営戦略の一環として非常に重要なことです。そこに、社員の意向を反映させた社内公募制度があることで、会社にとっても、社員にとっても、新たな発見があるかもしれません。今回は組織を活性化させる1つの手法として、社内公募制度を紹介しました。このコラムが社員の特徴やキャリアの考え方に向き合うきっかけになれば嬉しく思います。

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