セクショナリズムとは?意味・種類・原因・対策を徹底解説!

健全な組織運営を阻害してしまう「セクショナリズム」という状態をご存知でしょうか。
企業では、部門・部署・課・プロジェクトチームなど様々な小組織が集まり、1つの大きな組織を作っています。セクショナリズムは、この小組織間で生じるネガティブな現象で、放置すると社内の人間関係や職場環境が悪化し、事業運営に大きなダメージを与えます。
本記事では、セクショナリズムが発生する原因から、問題点・組織に与える影響、具体的な対策までわかりやすく解説します。
目次
セクショナリズムとは?
セクショナリズムとは、部署同士での協力体制が乏しく自部署の利益を優先する状態のことです。
組織役割や担当領域などの特性で分けられた縦割り型組織が引き起こす弊害の1つとして挙げられ、俗にタコツボ化と呼ばれる現象です。セクショナリズムのある組織では、チームや部署間で健全に連携が取れないため、組織運営の障壁となります。
まずはセクショナリズムについて、基本的な情報を確認しておきましょう。
Sectionalismの意味
セクショナリズムは、英語では”Sectionalism”と表記し、「区分」を意味する”Section”と「主義」を意味する”ism”が組み合わされてできた用語です。日本語では「部局割拠主義」「派閥主義」として広く浸透してきました。その他、「縄張り主義」「縦割り主義」「セクト主義」とも訳されます。
また、「地方偏重」「郷土偏愛」といった、特定の場所に対して偏った愛を持ち、その他の地域に対して排他的になる状態においても用いられます。外部からの干渉を排除し、閉鎖的な環境で自分たちの利益だけを追求する非協力的・否定的・排他的な言葉として認識するとよいでしょう。
セクショナリズムの対義語
セクショナリズムの対義語は、「協力主義」「連携主義」を意味するコーポレーショニズムです。派閥ごとに利益を追求するのではなく、組織全体の利益や生産性向上のために部門連携が活発に行われている状態を指します。
ただし、セクショナリズムの対義語は明確に定められているわけではありません。あえていうなればコーポレーショニズムとなりますが、他にも組織全体が最適な状態であることを指す「全体最適」や、決められた役職がなく自然発生する組織を指す「インフォーマルグループ」が対義語として適当なケースもあるでしょう。
セクショナリズムの種類
一口にセクショナリズムといっても、「無関心型/非協力型セクショナリズム」「批判型/排他型セクショナリズム」という2種類のセクショナリズムが存在します。
いずれのタイプのセクショナリズムが発生しているのかによって対策が変わることもあるため、それぞれの特徴を把握しましょう。
無関心型/非協力型セクショナリズム
無関心型/非協力型セクショナリズムは、自分たちのことだけを考え、組織全体の調和や協力に興味関心がないタイプのセクショナリズムです。単に他の集団に興味がないだけでなく、自分たちが周囲や組織全体にどのような影響をもたらしているかにも関心がありません。
他の集団から協力を依頼されたときには、「仕事が増えた」「面倒事を押し付けられた」と煩わしく感じたり、適切に対応しなかったりします。責任を負いたくない意識も強いため、傍観者としての立場を貫く傾向があります。
積極的な問題行動を起こさないため、他の集団や組織に対して直接的な悪影響は与えません。しかし、組織全体からみると円滑な業務遂行やトラブルへの対応の障害の原因となります。
批判型/排他型セクショナリズム
批判型/排他型セクショナリズムは、他の集団に対して強い敵対心・対抗心を抱くタイプのセクショナリズムです。ネガティブな感情を抱くだけでなく、積極的に排除や誹謗中傷を行うこともあります。
具体例としては、敵と認識したメンバーやチーム・部署に対して組織から排除しようと画策したり、組織内での権力を獲得しようと他の集団を貶める言動をしたりします。自分たち以外は「役立たず」「迷惑をかけてくる相手」などと認識し、迷惑をかけられているという被害者意識が強いのが特徴です。
積極的な問題行動を起こす傾向があり、組織内に大きな悪影響を及ぼし、人間関係・職場環境の悪化や、従業員の離職・企業イメージの低下にもつながります。
セクショナリズムが強い組織の現場で起きる問題
セクショナリズムが強い組織では、下記のような問題が発生します。
- 仕事の妨害
- 情報の専有
- トラブルへの非協力
具体的にどのようなトラブルが起こり得るのか確認しましょう。
仕事の妨害
仕事の妨害は、特に批判型/排他型セクショナリズムが強い組織で発生します。批判型/排他型セクショナリズムがある組織では積極的な妨害が常習的に行われることがあります。具体例としては、「他部署宛ての電話やメールを無視する」「ライバルの悪い噂・デマを広める」「他部署のプロジェクトが失敗するように根回しする」といった、嫌がらせ行為です。
情報の専有
情報の専有は、無関心型/非協力型セクショナリズムと批判型/排他型セクショナリズムのどちらにおいても発生します。無関心型/非協力型セクショナリズムの場合は、必要な意思疎通や連携、情報共有がなされず、業務が滞ったり、トラブル対応が遅れたりします。批判型/排他型セクショナリズムが強い組織であれば、組織にとって有益な情報でも、自分たちに不利益になる、または他部署が優位になるような情報を共有せず、ビジネスチャンスをふいにすることも起こります。
トラブルへの非協力
トラブルへの非協力も、いずれのタイプのセクショナリズムが生じている組織で起こります。自分たち以外に興味がないまたは敵対心・反抗心を抱いていることから、他のチーム・部署が危機的状況に陥っていても、自分たちには関係がない・責任がないと無視をすることがあります。批判型/排他型セクショナリズムは排斥・妨害に発展することが多いため、非協力のみが起こる組織は無関心型/非協力型セクショナリズムの傾向があると考えられます。
セクショナリズムによる組織への悪影響
続いては、セクショナリズムによる問題が組織にどのような影響を与えるのか見ていきましょう。
- 社内のメンタルヘルスが低下する
- 組織全体の生産性が低下する
- 不祥事が発生する
上記のように、セクショナリズムによるトラブルはその場のみに留まる問題ではなく、組織全体にネガティブな効果を生んでしまいます。
社内のメンタルヘルスが低下する
同じ組織で仕事をしているにも関わらず、意思疎通ができない・協力ができない、悪くすれば仕事を妨害してくるとなれば、大きなストレスを感じることは想像に難くないでしょう。
セクショナリズムが強いチームや部署があると、他の集団へのストレスは当然ながら大きくなります。しかし、セクショナリズムに陥っている本人たちも、負の感情を抱え続けることに対してストレスを感じるものです。また、社内のいずれの派閥やグループに属さない人間に対しても、プレッシャーや同調圧力をかけることになるため、同様にストレス原因となります。
セクショナリズムを解消しなければ、組織内の全員のメンタルヘルスが低下してしまいます。ストレスが慢性化した職場では、離職率の上昇は免れないでしょう。
組織全体の生産性が低下する
健全な業務が行えない状態であれば、必然的に組織の生産性は低下します。
スムーズに業務が進まないだけでなく、モチベーションの低下も懸念されます。日々の業務は、情報共有と問題解決の連続です。毎日、常に必要な情報が共有されず、問題が起きても連携して解決できず、問題がどんどん深刻化するなかで、モチベーションを保つほうが難しいでしょう。
従業員が常にストレスに晒され、モチベーションが低下、まともに業務が遂行できない状況では、顧客に迷惑をかけるだけでなく、損害を与えかねません。セクショナリズムが解消されないと、顧客離れを招き、業績不振に陥るリスクが高まるでしょう。
不祥事が発生する
セクショナリズムが蔓延すると、企業の存続を脅かす不祥事が起こる危険もあります。特に、批判型/排他型セクショナリズムが強い組織においては、同僚や部下へのハラスメントや誹謗中傷、敵を陥れるための不正といった、法的にも道徳的にも容認できない問題行動が起こる可能性があります。
近年は、 企業のコンプライアンスや社会的責任への関心が高まっており、社内の問題が社会問題にまで発展しかねません。実際に、セクショナリズムが不祥事に発展し、企業の社会的信用を落とした事例も少なくありません。結果的に、社会問題にまで発展したり、倒産の危機まで追い込まれたケースも。
競争が激しい現代において、企業イメージが命とりとなることもあるため、セクショナリズムは優先的に解決すべき課題といえます。
セクショナリズムが生じる原因
誰にとってもメリットがないと思われるセクショナリズムですが、なぜ多くの企業でこのようなネガティブな状態に陥ってしまうのでしょうか。
ここからは、セクショナリズムが生まれる理由について解説します。
企業規模の拡大
企業規模が大きくなって人数が増えると、チームや部署間の関係が希薄になり、他の集団とのコミュニケーション不足によってセクショナリズムが起こりやすくなります。
自分の属するチームや部署内のメンバー以外と関わる機会がなくなることで、縄張り意識が芽生え、セクショナリズムに繋がってしまうのです。さらに、会社が大きくなればポジション争いも激しくなるため、派閥ができる組織もあるでしょう。
人事異動の停滞
人事異動が少ないと、仲間意識が醸成されやすくなる一方で、縄張り意識や他部署へのライバル意識も芽生えてしまう傾向があります。また、組織に属する者のポジションや待遇は、トップからの評価によって決められるのが基本なので、より高い評価を受けようと部門間・部署間・チーム間で必要以上に競うようになり、過剰なライバル意識が生まれることも。
さらに、人の流動性がないことで風通しが悪くなり、チームや部署内で、同じ組織のメンバーに対する誤った感情や考え方、価値観が固着しやすくなります。
他部署や他者に対する理解不足
人間の特徴として知らない相手にはネガティブな感情や印象を覚えやすく、同じ組織に属していても対立や偏見につながってしまいます。そこに利害関係があれば尚更でしょう。
他部署や他者が同じ組織の一員として、どのような存在であるのか、その存在意義や価値を理解できていれば、セクショナリズムは生まれません。大きな組織が同じでも、部署や業務内容、ポジションが違えば、相互理解が進みにくくなることから、セクショナリズムが生まれてしまうのです。
成果主義による評価制度
近年、年功序列型の評価制度から成果主義的な評価制度に移行する企業が増えています。成果主義を取り入れた評価制度は、年齢を問わずキャリアアップするチャンスの創出と相対的な評価を実現する一方で、組織内の競争や対立を煽る側面も持っています。
自分や自分の属する部署が評価されやすいように、他部署の評価を落としたり他者を出し抜いたりと画策する人も出てきます。特にチームや部署の成果が、管理者を含む個人の評価につながる場合、セクショナリズムが生まれやすい仕組みができてしまっているといえるでしょう。
セクショナリズムをなくすための予防策・改善策
セクショナリズムが生じる原因は様々なうえ、組織内のどこかでセクショナリズムが発生すると、自己防衛的に他のチームや部署にも波及するという問題もあります。
最後は、セクショナリズムの解決策を確認しましょう。
組織構造の改革
セクショナリズムは、縦割りの組織で発生しやすい現象です。そのため、セクショナリズムをなくすためには、縦割りを解消する組織構造の改革が必要となります。
たとえば、自主管理型のホラクラシー組織への移行です。ホラクラシー組織では、ヒエラルキー型の組織構造はなく、役割ごとに編成されたチーム「サークル」が、ルールに沿いつつ能動的に活動します。管理者は置かれるものの従業員間に上下関係はなく、フラットな組織の代表的な組織構造です。
完全にフラットな組織にならなくても、同調圧力が起こらないよう、権力の一極化や一部集中が起きない仕組みを作らなければなりません。ただし、急激かつ大きな組織の変革は混乱を招き、セクショナリズムを悪化させる恐れもあるため、スモールスタートで徐々に従来のヒエラルキー型組織の脱却を目指しましょう。
戦略的で柔軟な人事異動の促進
人事異動が少ないとセクショナリズムが生まれやすいことはお伝えしました。よって、セクショナリズムの予防・改善のためには、柔軟な人事異動が重要となります。
しかし、やみくもに人員配置を変えてしまえば、個人の能力や希望するキャリアデザインとの乖離が生まれ、フラストレーションの発生や離職につながりかねません。
そのため、ジョブローテーションや在籍出向、社内インターン、社内公募制度を用いつつ、戦略的な人事異動を意識しましょう。短期であっても他部署で働く機会があれば、コミュニケーションや相互理解を促し、偏見や対立の解消につながります。どの部署やチームに属していても、企業という同じ組織の一員であるという実感が湧きやすくなるでしょう。
部署横断的に交流する機会の創出
部門・部署を超えた横断的な交流を促す施策もセクショナリズムの対策として有効です。人事異動は、そう頻繁に行えるものではなく、個人の希望もあるため企業側が一方的にコントロールできません。
そのため、所属するチームや部署を問わず従業員同士が、日常的に交流できる場を作ることで、社内コミュニケーションが活性化し、敵対心・対抗心を薄れさせるだけでなく、他部署への理解を深める効果が見込めます。
具体的には、社内SNSの導入やフリーアドレス制の採用、社内イベント・部署の活動共有会の開催、社内サークル活動などが現実的でしょう。取り組みに参加しない、参加できない従業員を生まないよう、組織全体で全員が参加できるよう配慮することが重要です。
評価制度の改善
成果主義が過ぎると、過剰な敵対心や部分最適の思考を生んでしまいます。そこで、従業員同士、部署同士の軋轢を生まない評価制度の導入・見直しが求められます。
たとえば、集団内における順位を付ける相対評価をやめて、個人の能力を評価する絶対評価を導入するだけで無駄な競争を煽らない評価制度を構築できます。実際に、GoogleやMicrosoft、GEといった世界的企業では、従業員のランク付けをしないノーレイティング(No Rating)評価制度を採用しています。
個人のスキル・能力やキャリアデザイン、目標に対する達成率、起業ミッションへの貢献度を評価するなど、従業員のエンゲージメントを高める評価基準を設定しましょう。
経営理念・ビジョンの共有
社内に経営理念・ビジョンが浸透していないと、従業員間の共通認識がないため、各々が違う方向に向かって進んでしまいます。組織のメンバー全員が企業が掲げる目標達成を目指していれば、個人や部署単位での小さな目標や利益、権力獲得のために対立したり他者を妨害したりすることはありません。所属するチームや部署に関係なく協力・連携して業務を進めることができるはずです。
そのため、勉強会実施や朝礼での理念唱和、経営理念を土台とした教育・評価の導入など、経営理念を意識し、実践できる仕組みを作りましょう。他部署の人間も自分も同じ組織の一員であるという自覚を促すことで、部署が違うメンバーに対する仲間意識や、健全に切磋琢磨できるライバル意識を持たせることができます。
セクショナリズムを解消して組織力を強化しよう!
今回は、セクショナリズムの問題点と組織にもたらす悪影響、セクショナリズムの対策について解説しました。
セクショナリズムが蔓延すると、正常な組織運営ができず、生産性の低下や人材の流出、最悪の場合は企業の社会的信用の失墜につながりかねません。もちろん、競争心やライバル意識自体が悪いわけではなく、縦割り組織でも売上を最大化できている企業も存在するでしょう。しかし、セクショナリズムが起こると、本来フォーカスすべき企業目標の達成や顧客への価値提供が二の次になってしまいます。
セクショナリズムの予防・改善のためには、人事異動や組織改革など組織内で人の流動性を図りつつ、従業員1人ひとりの意識改革に取り組むことが重要です。セクショナリズムをなくし、組織力の向上に注力しましょう。