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ホラクラシー組織とは?日本企業特有のリスク、ポイント、メリット、デメリット、事例を解説!

ホラクラシー組織とは?日本企業特有のリスク、ポイント、メリット、デメリット、事例を解説!

「ホラクラシー組織」という言葉に耳馴染みがない人も多いでしょう。しかし、従来の縦型の組織構造は限界を迎えているといわれており、新しい組織構造への変革も視野に入れた経営が求められるようになってきました。

本記事では、従来の組織構造とは対になる組織構造の概念である、ホラクラシー組織について詳しく解説します。将来的な企業の成長を見据えたとき、ホラクラシー組織への転換が必要になるかもしれません。ホラクラシー組織の概要や既存の組織構造との違い、すでに導入している企業事例を確認していきます。

ホラクラシー組織とは?

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ホラクラシー組織とは、役職・階級のないフラットな組織を指します。意思決定権が上層部や役職者に限られることなく、組織内の役割に応じて分散されている点が特徴です。

役職や階級がないとはいえ、無秩序というわけではなく、組織のメンバーは「ロール(役割)」が紐づけられた「サークル」という単位のチームで業務に取り組みます。サークル内には、管理者を置くこともあり、フラットな組織ながらも統率は取れる仕組みです。

従来の組織では、役職者に意見や権限が集中することから、マネジメントできる範囲が限られていました。しかし、ホラクラシー組織では、サークルごとに権限が付与されており、サークル単位またはサークル内のメンバーが既定のルールに沿って意思決定を行えます。上司のマイクロマネジメントがなくても、サークルや個人が能動的に動けるため、自主管理型組織と言い換えられます。

ホラクラシーの発祥

ホラクラシーという言葉を耳にしたことがなかったという人も多いのではないでしょうか。
ホラクラシーの歴史はまだ浅く、アメリカのターナリー・ソフトウエア社のCEOだったブライアン・J・ロバートソン氏が2007年にまとめた文書が発祥だといわれています。

英語で「holacracy」と表記し、物理学や哲学における「ホロン」という単語が語源です。ホロンとは、物の構造を表す概念で、一部分でありながら、全体の構造や機能、性質を持ち、全体として調和がとれた物質や状態を指します。ブライアン・J・ロバートソン氏は、ホロンのような組織を想定し、ホロクラシーと命名しました。

対峙する組織概念【ヒエラルキー組織】

ホラクラシー組織と、従来の企業で一般的に導入されている組織構造「ヒエラルキー組織」を比較してみましょう。

ヒエラルキー組織とは、経営者をトップとして、権限・責任などが下層に行くにつれ、末広がりになるピラミッド状の中央集権型・階層型組織を指します。日本でも世界でも多く採用されており、役職者が意思決定を行います。

一方で、ホラクラシー組織は、役職・階級のない組織で、意思決定はサークル単位またはサークル内の個人が行います。ヒエラルキー組織とホラクラシー組織は役職・階級の有無や意思決定に大きな違いがあることがわかるでしょう。

類似する組織概念【ティール組織】

続いて、ホラクラシー組織と混同されがちな「ティール組織」を比較してみましょう。

ティール組織とは、個々のメンバーが組織の目的に沿った行動を選択する組織を指します。ホラクラシー組織と同じく、階層構造はなく、上司がマイクロマネジメントを行うこともないため、従来のヒエラルキー組織とは一線を画する組織の在り方といえます。ティール組織はホラクラシー組織よりも新しい組織構造で、2014年に提唱され、2018年ごろから注目されるようになりました。

一見するとホラクラシー組織と非常によく似ていますが、ティール組織のほうがより自由度が高い経営手法といえます。ホラクラシー組織は、明確なビジネスモデルがあり、共通ルールに則った意思決定が行われます。一方で、ティール組織には、明確なビジネスモデルやルールがないため、より抽象的な組織となります。

ホラクラシー組織が注目されている背景

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現代社会は、常に急速な変化を続け、その変化を予測できないVUCA時代に突入しており、従来のヒエラルキー組織は限界に達しているとされています。

ヒエラルキー組織では、上層部に決断を仰がないとならないことから、意思決定に時間がかかります。これは、VUCA時代の現代において致命的なデメリットといえます。変化にあわせて迅速に臨機応変な意思決定をするためには、ホラクラシー組織のようにチームや個人が自走できる組織への変化が求められるのです。そのほか、ヒエラルキー組織では、下層にいる現場メンバーの意見が通らないことから、モチベーションの低下が問題視されてきました。

ホラクラシー組織になることで、時代にそぐわないヒエラルキー組織のデメリットを幅広くカバーできることから、ホラクラシー組織がより注目されるようになっています。

ホラクラシー組織のメリット

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ホラクラシー組織は、フラットな組織であるがゆえに下記のようなメリットが見込めます。

  • 従業員の主体性が向上する
  • 迅速な意思決定が実現する
  • 社内コミュニケーションが活性化する
  • 業務効率が上がる

1つずつ確認していきましょう。

従業員の主体性が向上する

ホラクラシー組織では、サークル単位またはサークル内の個人が意思決定を下します。従業員は複数のサークルに属して、複数のロールを担うこともあります。自らの責任をもって行動しなければならない環境におかれるため、個人の主体性が育つのです。従業員1人ひとりがマイクロマネジメントをされなくても能動的に動けることで、組織としての目標も達成しやすくなります。

迅速な意思決定が実現する

先述のとおり、ヒエラルキー組織では意思決定の遅さがデメリットとなり、変革が求められることになりました。ホラクラシー組織では、ヒエラルキー組織のように上司が意思決定をするまで待つ必要はなく、自分たちで決断できるため迅速にことを進めることができます。変化や競争が激しい現代社会において、スピーディな意思決定は大きなアドバンテージとなります。

社内コミュニケーションが活性化する

人から指示された仕事を受け身でこなす場合、自分に行動の責任がないため結果がどう転んでもそれほど気にしないという人も中にはいるでしょう。一方で、個人が意思決定を下す、ということはつまり、1つの判断に責任が生じるということです。自分の意思決定や行動への責任感が高まることで、より良い判断をするための情報収集や周囲との意見交換が行われるようになります。さらに、上司の評価を気にする必要もないため、率直な社内コミュニケーションが促進されるといえるでしょう。

業務効率が上がる

各々の従業員が主体的に動き、迅速に意思決定を下し、社内コミュニケーションのなかで連帯感が生まれることで、自ずと業務効率は上がります。さらに、今までチームのマネジメントに時間を割いていた役職者もマネジメント業務以外に時間を使えるようになります。個人の業務効率の向上はもちろん、組織として生産性が上がることも期待できます。

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ホラクラシー組織のデメリット

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いいことずくしのように見えるホラクラシー組織ですが、導入・運用に関してはいくつか覚えておきたいデメリットも存在します。

  • 組織コントロールが難航する
  • 責任の所在が曖昧になる

全ての企業で、絶対的に移行が必要だとは言い切れないため、導入の前によく検討する必要があるでしょう。

組織コントロールが難航する

ホラクラシー組織では、役職や階級がなくなるため、組織をコントロールすることが難しくなります。従来は、管理職が従業員の個人情報や機密情報の管理を行ってきましたが、ホラクラシー組織では従業員の上下関係はないため、全従業員が平等に同じ情報へのアクセスが可能です。よって、従業員1人ひとりが従来の管理職と同等の責任を負い、機密情報を適切に取り扱えるだけの知識と能力が求められます。そして、情報の使用に関しても誰かの許可を得る必要はないため、リスクマネジメントの考え方も見直さなければなりません。

責任の所在が曖昧になる

同様に、責任の所在も不明瞭になりがちです。従業員1人ひとりが責任をもって行動するとはいえ、何か失敗やミスが発生すれば誰かの責任となります。しかし、共通のルールに則って意思決定を下している以上、個人が背負うべき責任の大きさにも限度があります。また、大きすぎる責任は重圧となり、従業員が挑戦できない環境を作りかねません。そこで、個人の役割を明確にし、責任の所在も明らかにしておく必要があるのです。ただし、給与金額によって、個人が納得する責任の大きさも違ってくるため、誰がどこまでの責任を負うのかよく検討が必要です。

ホラクラシー組織における社員の役割分担

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ホラクラシー組織では、役職や階級分けはしませんが、スムーズな連携や業務遂行のために業務上の役割は分担します。ここではホラクラシーの3つのロールについて確認します。

リードリンク

リードリンクとは、サークルの方向性の決定や戦略立案、目標を達成するための指針を示す役割を担います。他メンバーのロールの割り振りや業務の優先順位を管理することから、管理職的な立ち位置にはなりますが、あくまでも役割の1つなので他のロールとの上下関係はありません。

ファシリテーター

ファシリテーターは、サークル内での調整役、司会進行役を担います。サークルや他メンバーの活動が組織のルールに則っているかを確認し、必要に応じて調整したり方向を修正したりします。

セクレタリー

セクレタリーは、サークル内の情報や記録を取る役割を担います。先述のとおり、ホラクラシー組織では情報の管理が難しいのがデメリットです。セクレタリーは、ミーティングのスケジューリングや議事録の作成を行い、記録管理のプロセスを安定させます。

ホラクラシー組織を導入する際のポイント

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ホラクラシー組織は一朝一夕で導入できるものではなく、時間をかけて準備をして、導入後も問題がないか状況を確認しながら運用しなければなりません。

責任の所在を明確に!

ホラクラシー組織のマイナス面が強く出ないように、責任の所在をはっきりさせておきましょう。ホラクラシー組織は、従業員が自主性を持った行動ができなければ成立しない組織であるといえます。責任の所在が不明瞭だと、従業員がどこまで責任を負わされるのか不安になり、主体的な判断・行動をしにくくなります。反対に、成果が出たときにきちんと評価されるのかも気になるところです。責任の所在を明確にするか否かで、社員のモチベーションを大きく左右することになります。

まずはスモールスタートで!

長くヒエラルキー組織で運営してきた企業で、いきなり全社的にホラクラシー組織に転換してしまうと、うまくいかなかったときに組織全体の機能が停止してしまいます。組織改革にはコストもかかるので、まずは部署やチーム単位で小さく初めて、社内での成功体験を積み重ねることを目指しましょう。

ホラクラシー組織では、上司によるマイクロマネジメントが行われないことから、従業員は自ずとセルフマネジメントを行わなければなりません。しかし、組織のなかには、能動的な意欲を持たない従業員もいるでしょう。ホラクラシー組織への転換では、いかにモチベーションのない従業員が能動的に判断・行動できる動機付けを行うかも課題となってきます。

情報共有を定期的に!

社員に裁量が及ぶことで属人的になりやすく、進捗管理やナレッジ共有が滞ってしまうこともあります。そこで、サークルを超えて情報を公開できるITツールを活用したり、定期的な進捗管理の機会を設けたりして、情報をオープンにして共有できる仕組みづくりが求められます。

そのほか、全従業員が機密情報の取り扱いに関する知識や注意点、情報の管理方法を学ぶ機会を設け、リスクマネジメントへの取り組みも進めましょう。

ホラクラシー組織の導入事例

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日本ではまだあまり馴染みのないホラクラシー組織ですが、すでに取り入れて、成功を収めている企業も存在します。ホラクラシー組織の導入事例を2社みておきましょう。

ザッポス社(Zappos)

アメリカのラスベガスに本社を置く靴のECサイトを運営する会社です。顧客中心主義で、他社が真似できないほどの卓越したカスタマーサービスに定評があります。このザッポス社は、2014年から完全なフラットな会社経営を行っています。社長は存在せず、元社長のトニー・シェイ氏は、リードリンクの役割を担うことになりました。現在、ホラクラシー組織の企業としては最大規模で、従業員数は1,500名。ホラクラシー組織への転換後、ザッポスは顧客対応にかかる時間が減少したことから、カスタマーサービスの質が向上、ユーザーからも高く評価されるようになりました。

株式会社アトラエ

株式会社アトラエは、HR関連のサービスを提供している日本の会社です。役員やプロジェクトリーダーはいますが、従来の役職的な存在ではなく、あくまでも役割の1つとして置かれています。他の役職との上下関係があるわけではないため、プロジェクトリーダーよりも他の役職のメンバーのほうが、給与額が高いこともあり得ます。社長も役割の1つに過ぎないという考えの元、インターン生がプロジェクトリーダーとして、社長に出張を指示することもあるようです。そのような中、公正公平な評価を下すために、360度評価を採用しているところも参考になります。

ホラクラシー経営という考え方

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ホラクラシー組織は、まだ日本国内で導入している企業の少ない経営手法です。しかし社員の能力を高め、よりスキルアップさせるためには非常に有効な方法といえるでしょう。
日本でも、わずかではありますがホラクラシー組織を導入している企業が存在しており、今後も増えていくことが予想されます。この機会にホラクラシー組織の導入を検討し、より柔軟でスピード感のある経営を目指してみてはいかがでしょうか。

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