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心理的安全性とは?効果的な組織の作り方・リーダーシップ論をグーグル流の取り組みから検証

心理的安全性とは?効果的な組織の作り方・リーダーシップ論をグーグル流の取り組みから検証

チームのパフォーマンス向上と密接な関係を持つ「心理的安全性」。グーグル社が心理的安全性と組織マネジメントの密接な関係性を説いてから、世界中で注目が集まっています。

今回は、心理的安全性の高い組織の作り方を、組織行動学・心理学の観点から紐解いていきます。経営戦略・採用計画を立てていく中で、新たな角度からのナレッジとしてお役立てください。

心理的安全性とは?

心理的安全性とは、他者が自分の発言を拒絶したり罰したりせず、自分の意見や気持ちを誰にでも安心して発言できる職場環境のことを指します。英語では、「psychological safety」と書き、1999年に組織行動学者のエイミー・エドモンドソン氏が提唱した心理学用語です。

同氏は、組織における「心理的安全性」という概念を初めて提唱し、それを「自分の意見を率直に言える環境であるというチームメンバー共通の信念」と定義しています。

この心理的安全性の定義は、組織の「不文律」と言えるでしょう。つまり、「メンバー同士の仲が良い」「なんでもかんでも発言して良い」ということではなく、自分の発言や指摘が、自分の立場や周囲との人間関係を悪化させないと信じられている状態を意味しています。また、個人同士の信頼関係ではなく、組織レベルで安心感が共有されている点も特徴です。

心理的安全性が注目される背景

心理的安全性がビジネスシーンで注目された背景には、グーグル社が生産性向上を目的に立ち上げたプロジェクト・アリストテレスという取り組みが影響しています。この取り組みの研究から、「業績の高いチームは、チームメンバーの多様なアイデアを上手く利用できるにとどまらず、上司から評価される機会も2倍多く、収益性が高い。さらに、離職率も低い」という結果を導き出したのです。

このグーグル社の研究結果が2016年に発表され、効果的な組織作りに必要な要素として「心理的安全性」が注目されているのです。

活発な組織を構成する4つの因子

ここからは、グーグル社の発表した心理的安全性を高める取り組みについて、具体的に解説していきます。まずは、心理的安全性を構成する4つの因子から見ていきましょう。

心理的安全性を構成する4つの因子について、図を用いて説明

①話しやすさ

話しやすさは、メンバーの業務内容と精神状態を把握して、多角的な視点から状況判断するために重要な因子となります。話しやすさが確保された組織では、ホウレンソウの徹底やナレッジ共有が盛んに行われます。仮にネガティブな報告内容であっても、メンバーからは隠すことなく事実として共有され、適切なマネジメントに繋がります。

②助け合い

助け合いは、トラブル対処時や高いレベルのパフォーマンスを期待されるときに重要な因子です。助け合い因子が浸透された組織では、メンバーに対して必要な支援・協力を求めることができます。これにより、個人の責任領域を超える相互協力体制の整った組織が構築され、組織全体で迅速な課題解決・トラブル対処に取り組めるでしょう。

③挑戦

挑戦は、組織を活性化し革新をもたらす因子です。挑戦をするということは、これまでの常識を覆すような斬新なアイデアを考えるきっかけになります。重要なのは、成功に向けて“トライ&エラー”をするということです。裁量を限定せず、“トライ&エラー”から得た学びを活かすことを目的としても良いでしょう。自由な発想を否定せず裁量を与えることで、メンバーのポテンシャルを最大限に活かすことができます。

④新奇歓迎

新奇歓迎は、メンバーの多様性を尊重し、変化に適した対応を取るときに必要な因子です。ここでは、組織への“所属意識”を高めることが重要になります。同質性の集まりと認識された組織では、新奇性を持つメンバーは自分の主張が届かず居場所を失います。つまり、同質性を排除し、メンバーが自分らしさを最大限に発揮できる環境を整えましょう。組織への所属意識を醸成していくことで、心理的安全性の高い組織を作り出せるのです。

心理的安全性が高い組織の作り方

社員が働きやすい職場環境で高いパフォーマンスを維持するためには、この4つの因子を意識した環境を提供する必要があります。そこで、本章では組織の心理的安全性を高める方法を紹介し、心理的安全性の高い組織の作り方を深堀りしていきます。

心理的安全性を高める方法

10個の心理的安全性を高める方法を紹介

★1:相談しやすい雰囲気を作る

日頃からこまめにコミュニケーションを取ったり、業務に関する悩みがないか上司自ら声をかけたりすることで、業務中に発生する課題や悩みをすぐに相談できる環境を作ることができます。

また、組織作りで重要なのは、上司は“必要な時に助けてくれる存在”であることです。相談しやすい環境と何でも教えてくれる環境は似て非なるものであり、部下の自主性を重んじることも組織作りには欠かせないポイントといえます。

★2:感謝の気持ちを伝え合う

仕事をする上で、一緒に仕事をするメンバーや助けてもらったメンバーに対して感謝の気持ちを持つことは大切なことです。心理的安全性が高い組織では、この感謝の気持ちを“伝え合う”ということがさらに重要になります。目に見える形で感謝の気持ちを伝えることで、伝えられた側は組織から必要とされている充実感を感じることができるでしょう。

★3:常に助け合いの姿勢を醸成する

すべてをこなせる完璧な社員はいないことを理解し、メンバー同士が助け合いの精神を持つことが重要です。各メンバーの性格や能力、得意不得意を共有し、それぞれの役割分担を明確することが望ましいです。仕事によって得意分野を任せたり、不得意分野を補い合ったりすることで、組織内の協力関係を高めることができます。

また、困ったときにはメンバーに助けてもらえるという職場の雰囲気があると、心に余裕をもって業務に取り組むことができるでしょう。

★4:均等な発言の機会を持たせる

組織全体の心理的安全性を高めるには、メンバー全員が自由に発言できる環境作りが必要です。緊張を和らげ、発言しやすい環境を作ることが目的なので、はじめのうちはプライベートな話や世間話で発言機会をつくるのも良いでしょう。

また、特定のメンバーしか発言できない環境を変えることも重要で、会議の進行方法を見直すことも解決策になります。最後に感想を言う時間を設けたり、進行役が全員に話を振ったり、上司や先輩社員は全員が発言できるよう配慮しましょう。

★5:ポジティブ思考を意識させる

組織を牽引していく上で、上司は率先して前向きな発言と行動を取るようにしましょう。
メンバーがネガティブ思考では、周囲が必要以上に気になり、業務に支障をきたす可能性もあります。心理的安全性を高めるためには、ポジティブ思考で業務に取り組むことが大切です。メンバーは上司の姿勢を追いかけるように、自分達でポジティブ思考を意識するようになります。

★6:メンバーの価値観・多様性を認める

役職・年齢・性別といった枠にとらわれない環境作りをすることで、すべてのメンバーが意見を出し合える風通しの良い組織になります。メンバー同士の価値観を理解し合うことで、コミュニケーションの質も向上し、組織活性化にもつながります。

そして、自分の意見が否定されないという安心感は、心理的安全性を高めます。メンバーの意見を聞いたときに自分の考えや価値観と違っても、否定せずに受け止める姿勢を持ちましょう。また、否定的な意見が出た場合でも、発言を拒絶せず、問題の解決に向けて前向きに意見を聞くことが重要です。

★7:業務以外でのコミュニケーション機会を作る

業務以外でのコミュニケーション機会を作ることで、業務上では接点のなかったメンバー同士の交流の場になります。お互いの意外な一面にも気付くことができ、仕事面でも新たな関係性を築くきっかけになり得ます。ただし、強制参加ではなくメンバーの意向に配慮した接し方を心がけましょう。

★8:建設的な考え方を意識する

心理的安全性の高い組織ほど、様々な意見が飛び交います。ですから、メンバーがネガティブな本音を口にできる環境は、決して悪いことではないのです。ただ、その意見を真っ向から否定してしまうと、メンバーは委縮し心理的安全性が低くなってしまいます。まずは、メンバーの意見を尊重し、建設的な話し合いに誘導することが心理的安全性を高める秘訣です。

★9:評価基準を都度見直す

適切にメンバーを評価できているか、業務へのモチベーションにも関わる評価制度は頻繁に見直すことが望ましいです。永遠のβ版と言われるほど人事制度に完成はなく、企業によって基準は様々です。個人評価に加えて、チームごとの評価基準を設けることで、チームワークを意識した組織作りにつながります。

★10:組織全体でサポート体制を確立する

新しいメンバーが新たな環境で孤立を感じないよう、サポート体制を整えることが重要です。特に、上司だけではなく、メンバー全員で迎え入れる姿勢を示すことが心理的安全性を高めるポイントになります。チームに心強い味方がいるという安心感を持つことは、早期から高いパフォーマンスを発揮できるきっかけになるでしょう。

関連記事としてこちらも併せてご覧ください

ビジネスのイニシエーションとは?意味と心理学から紐解くサポート体制を解説!

ぬるま湯組織と思われない組織の作り方

心理的安全性を高める方法を解説しましたが、徹底して取り組まないと緊張感のない「ぬるま湯組織」になってしまいます。ぬるま湯組織とは、モチベーションが低く成長意欲も乏しい組織のことです。
どうすれば、ぬるま湯組織にならずに心理的安全性を確保できるのでしょうか。それには、意識すべきポイントが3つあります。

①メンバーに共通の目的を浸透すること
②明確な責任を与え、挑戦領域の業務も任せること
③チームで達成すべき少し高めの目標を設定すること

チームメンバー全員に、この3つの共通認識があるだけで、業務に対する質が向上します。馴れ合いの関係ではなく、メンバー同士が目標達成に向けて協力することで、個人・組織に必要な負荷がかかります。この負荷がエンジンとなり、心理的安全性の高い組織を構築できるのです。

心理的安全性がもたらす4つのメリット

ここまでは、心理的安全性の高い組織の作り方を解説してきました。
では、心理的安全性が確保された組織では、実際にどのような効果が期待できるのでしょうか。本章では、4つのメリットを紹介します。

①コミュニケーションの活発化

心理的安全性が高くなると、メンバーは安心して発言できます。それにより、組織でのコミュニケーションは活発になり、情報交換の量も多くなるでしょう。たとえば、成功の理由や失敗の原因についての情報が得られるため、自身の業務に活かして生産性の向上につながります。

また、密なコミュニケーションによって、メンバー間の信頼関係を構築しやすくなります。信頼関係があれば、失敗や仕事の評価に対して率直にフィードバックができるようになるため、成功につながる意見交換や議論ができるようになります。

②パフォーマンスの向上

心理的安全性が高い組織に身を置くと、自分の業務に集中して取り組めるため、本来のスキルを存分に発揮することができます。実力を発揮できればやりがいにつながり、更にパフォーマンスも向上します。その結果、周りのメンバーも刺激を受けて、チーム全体のパフォーマンスアップも期待できるでしょう。

③イノベーションの創出

自分の意見が否定されないという安心感があれば、創造的なアイデアや斬新な発想を提案しやすくなります。これにより、今までは思いつかなかった手法での業務改善や、新たなビジネスモデルの構築につながる可能性があります。心理的安全性の高まりにより、イノベーションも生まれやすくなるのです。

④離職率の低下

日本では昔から変わらず、人間関係の悩みが離職の原因に直結しています。厚生労働省が令和3年に実施した「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、“強いストレスを感じる事柄がある”と回答した労働者割合は53.3%であり、その中でも“対人関係(セクハラ・パワハラを含む)”にストレスを感じる割合は25.7%となっています。この結果から、良好な人間関係のもとストレスなく働ける環境をつくることが、離職率の低下につながるといえます。

参照:【厚生労働省】令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況

心理的安全性が低い職場で起こる4つの不安

ここまでは、心理的安全性の高い組織に着目してお話してきましたが、反対に心理的安全性が低い職場ではどのような問題が発生するのでしょうか。

組織行動学者のエドモンドソン氏は、「心理的安全性を損なう要因と特徴行動」についても紹介しており、心理的安全性が低い原因として4つの不安が関係していると提唱しています。
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①Ignorant:無知だと思われる不安

心理的安全性が低い職場では、上司や先輩社員に相談する際に無知だと思われる不安を感じます。「こんなことも知らないのか」と思われる不安から、必要なコミュニケーションが不足し、解決につながる情報を得られなくなります。

②Incompetent:無能だと思われる不安

心理的安全性が担保されていないと、失敗したときに無能だと思われる不安が頭をよぎります。そして、「仕事ができない」と思われたくないため、失敗の報告を怠ってしまいます。結果的に、トラブルへの対応が遅れ、損害が大きくなってしまうこともあります。

③Intrusive:邪魔をしていると思われる不安

心理的安全性を感じていないと、自分の発言が周囲の邪魔になっているという不安に駆られます。この不安から、自発的に提案する機会が少なくなり、改革の起きにくい組織になってしまいます。

④Negative:ネガティブだと思われる不安

心理的安全性が低いと、自分の提案が他人の意見を否定していると思われないか不安に感じます。すると、メンバーの問題点を指摘できず、組織全体で生産性の低下につながってしまいます。

組織の心理的安全性を測る7つの質問

心理的安全性を高める方法と心理的安全性が低い職場の特徴を解説してきましたが、果たして自分の所属する組織の心理的安全性はいかがでしょうか。

組織行動学者のエドモンドソン氏によると、組織の心理的安全性を測る方法として以下の7つの質問をすることで測定できると述べています。

7つの質問

  1. チーム内でミスをしたら、批難されることが多い。
  2. チームのメンバー内で、困難な課題やネガティブなことについても提起できる。
  3. チームのメンバーは、異質なものを排除する傾向がある。
  4. チーム内で、安心してリスクの高い発言・行動ができる。
  5. チームのメンバーに対して、助けを求めにくい。
  6. チーム内の誰もが、人の成果を意図的に無下にするような行動をしない。
  7. チームのメンバーと仕事をする際、自分の個人のスキルと能力が尊重され、仕事に活かせている。

これらの質問に対してネガティブな回答が多ければ、それだけ心理的安全性が低い組織といえます。前述した4つの不安と照らし合わせて、自分の所属するチームの心理的安全性を改善することが望ましいでしょう。

心理的安全性を意識したリーダーシップ論

心理的安全性を意識した組織作りは、組織の中に必然的に存在する上司と部下の関係があるからこそ成り立つ話です。つまり、上司の振る舞いが職場の雰囲気に大きく影響を与え、心理的安全性に直接的に影響してくるということです。

どのような上司が職場の心理的安全性をつくるのか。組織行動学者のエドモンドソン氏が提唱するリーダーの行動から、心理的安全性を意識したチームビルディングの心得を紹介します。
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上司が意識すべき7つの行動

★直接話しのできる、親しみやすい人になる

近寄りがたい印象を持たれてしまうと、部下は相談しづらくなり生産性が下がります。まずは、相談できる雰囲気を作ることが重要です。

★現在持っている知識の限界を認める

部下からの質問にはすぐに答えなければいけないと身構えるのではなく、持っている知識の限界を認め、周囲と協力することも大切です。分野によっては、部下の方が知識を有している事もあります。助け合いこそチームワークでしょう。

★自分もよく間違うことを積極的に示す

完璧に近い存在を目指すのは良いですが、人間ですから失敗もあります。失敗を恐れて上司がチャレンジしない環境では、組織も成熟しません。上司自ら率先してチャレンジを繰り返す姿に部下は勇気づけられ、そして真似します。

★失敗は学習する機会であることを強調する

そして失敗しても、その失敗をもとに学ぶ姿勢を上司自ら体現することで、部下も失敗を恐れずにチャレンジするようになります。活気のある組織になるでしょう。

★参加を促す

上司も部下も関係なく、1人ですべてを解決しようとせずに、メンバーを積極的に参加させましょう。1人では思いつかなかったアイデアが出るかもしれませんし、生産性も上がります。

★境界を設け、その明確な責任範囲を伝える

部下に業務を依頼するとき、どの領域までを任せるのかを明確に伝え、その領域は責任をもって取り組んでもらえるよう動機づけしましょう。

★具体的な言葉を使う

そして、「これくらいは分かるよな」という勝手なイメージは捨て、できる限り具体的な言葉で部下に指示を出すようにしましょう。

先述したとおり、心理的安全性の高い組織が“ぬるま湯組織”ではない所以が、リーダーシップ論からもご理解いただけたかと思います。心理的安全性の高いチームビルディングを行うことで、上司と部下の双方が生産性高く業務に取り組むことができるようになるのです。

まとめ

今回は、効果的な組織の作り方として「心理的安全性」の重要性を解説しました。心理的安全性の高い組織は、一朝一夕で作れるものではありません。ただ、少しずつでも取り組むことで、社員の働きやすさは変わり、成果として表れ始めるのです。

そして、「この会社に入りたい!」と思ってもらうことは、人事ができる最大のブランディングではないでしょうか。採用を成功に導く秘訣は、内部にあり。まずは社内の組織活性化を実現し、入社したい会社を目指すことが、採用課題の解決にも役立つと言えるでしょう。

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