ワーケーションとは?メリット・デメリット、導入企業の成功事例、関係省庁の取り組み内容を紹介!
働き方改革の推進やテレワークの普及によって、企業には“働き方”に関する新たな仕組みづくりが求められています。新しい働き方のなかでも賛否が分かれているのが「ワーケーション」です。
本記事では、ワーケーションとはどのような働き方なのか解説します。否定的な意見も耳にするワーケーションですが、導入する魅力はどこにあるのでしょうか。導入時の課題や実際に導入した企業の成功事例についてもみていきましょう。
目次
ワーケーションとは?
ワーケーションとは、「仕事(Work)」と「休暇(Vacation)」を組み合わせた造語です。オフィスや自宅ではなく、リゾート地や地方部など旅行先で業務を行いながら、休暇を取る過ごし方のことを指します。勤務の扱いは、リゾート地や地方部などの旅行先で仕事をしても有給休暇扱いにならず出勤としてみなされます。
オフィスに出社しなければならない、という従来の働き方とは大きく異なるため、自由度が高い新しい働き方として注目されている一方、「休暇中に仕事をしても効率が落ち、成果が出にくいのでは」と言ったネガティブな意見を持たれることも少なくありません。
しかし、ネガティブな意見の背景にはワーケーションという働き方への理解不足や誤解があります。特に多いのが「休暇中なのに働かなければならないのか」という誤解です。たしかに、ワーケーションでは休暇中に仕事の時間を取りますが、ワーケーション中の仕事も勤務時間にカウントされるため、休暇と勤務を分けて考えることが重要です。
ワーケーションとブレジャーの違い
ワーケーションは、リゾート地や地方部など旅行先で業務を行いながら、休暇を取る過ごし方のことを指しますが、ブレジャーはBusiness(ビジネス)とLeisure(レジャー)を組み合わせた造語で、ビジネス出張などを活用し、出張の前後で前泊・滞在延長などにより出張先で休暇を楽しむことを指します。
勤務の扱いは、出張の前後で前泊・滞在延長は有給休暇扱い、実際に出張先で業務を行っている間は出勤とみなされます。ワーケーションとブレジャーは勤務の定義が異なると言えます。
ワーケーションとテレワークの違い
ワーケーションとよく比較されるのが、テレワークです。テレワークの場合も、会社のオフィス以外で働きます。仕事を行う場所は自宅またはコワーキングスペースなどで、休暇の要素は含みません。一方、ワーケーションは、仕事+休暇という2つの要素を持っています。休暇の要素を含むか否かが、ワーケーションとテレワークとの大きな違いといえます。
ワーケーションが注目される理由
ワーケーションが注目されている1つの要因として、日本政府もワーケーションを推進していることが挙げられます。ワーケーションは、実施する企業だけでなく、受け入れる地方や観光地側にも地域活性というメリットがあるため、国からも推奨されているのです。
内閣府、国土交通省、環境省、総務省といった各省庁から、ワーケーションを導入する企業に向けた支援や取り組みが実施されています。
内閣府からの支援
地方創生テレワーク交付金/地方創生テレワーク推進事業
内閣府は「地方創生テレワーク交付金」を地方公共団体へ交付しています。自治体や民間のサテライトオフィスを整備、運営、利用促進、そして民間企業の進出までの支援を行い、地方創生へのきっかけを作っています。交付金だけではなく、「地方創生テレワーク推進事業」を展開し、地方自治体と民間企業のマッチング支援も実施しています。
参照:【内閣府】地方創生・テレワーク交付金、地方創生テレワーク推進事業 ※43頁
https://www5.cao.go.jp/keizai1/keizaitaisaku/2020-2/20201208_sesaku-8.pdf
国土交通省の取り組み
既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業
国土交通省は国内観光の更なる需要拡大を見据え、地域全体の魅力と収益の向上を目的に観光施設の再生を推進しています。具体的な取り組みは下記です。
・施設改修補助金
・廃屋の撤去支援による観光地景観改善
・小規模宿泊事業者の協業/連携(飲食施設共有含む)
ワーケーションの観点では、休暇を楽しむための観光地の活性化と、仕事がしやすい環境の整備に繋がる支援であると言えます。
参照:【国土交通省 観光庁】既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001386420.pdf
ワーケーション導入時の労災や税務処理等のQ&A提示
国土交通省 観光庁では、企業がワーケーションを社内制度として導入する際の税務処理や労災といった事務手続きに関するQ&Aを用意しています。
参照:【国土交通省 観光庁】労災や税務処理に関するQ&A
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/corporate/qa/
環境省の取り組み
国立公園・温泉地等での滞在型ツアー・ワーケーションの推進
近年、企業経営において注目されるSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)や健康経営といったトピックですが、国立公園はそれらに関連する取り組みとは相性が良いことから、滞在型ツアー・ワーケーションの推進を支援しています。国立公園で「遊び、働く」という健康でサステナブルなライフスタイスが促進され、これは地方創生にも役立っています。
環境省としては、ツアー・ワーケーションの企画・準備・実施から、海岸清掃や修景伐採といった環境整備、e-bikeの利用とCO₂濃度センサー設置による脱炭素化、Wi-Fi環境の整備まで支援しています。
参照:【環境省】国立公園・温泉地等での滞在型ツアー・ワーケーション推進事業
https://www.env.go.jp/content/900470026.pdf
総務省からの支援と取り組み
地域サテライトオフィス整備推進事業
新たな働き方を実現するための「場」の提供を目的として、サテライトオフィスの整備を検討している地方公共団体を対象に助成金を交付しています。リモートワークやワーケーションといった新たな働き方ができる環境のモデルとして存在することが重要で、地域や場所に拘らない就業環境の整備につながるでしょう。
参照:【総務省】地域サテライトオフィス整備推進事業
https://www.soumu.go.jp/main_content/000769432.pdf
テレワーク普及展開推進事業
全国的にテレワークを定着させるため、テレワークに関する労務管理とICT(情報通信技術)について、ワンストップで相談できる窓口を設置。これからテレワークを導入しようと検討している企業を対象に、総合的な支援を行っています。
参照:【総務省・厚生労働省】テレワーク総合ポータルサイト
https://telework.mhlw.go.jp/
このように、各省庁がそれぞれの管掌範囲に沿った取り組みや支援を実施して、ワーケーションの促進に努めていることが分かります。ワーケーションの導入を考える際は、政府からの支援の活用も検討してみるとよいでしょう。
ワーケーションの普及率
国土交通省 観光庁の調べによると、2022年3月時点で利用者となる従業員のワーケーションに関する認知度は80.4%にのぼっていますが、実際にワーケーションを体験した人は全体の4.2%とほとんど普及していないことがわかります。
また、2021年3月時点の調査で国土交通省 観光庁から公表された<ワーケーションに対する興味関心>の項目では、「どちらともいえない」「興味がない」という無関心層が64.2%と、関心の低さが目立ちます。ワーケーションが普及しない背景には、企業の導入率の低さだけでなく、従業員の興味関心の低さも重なっていることが原因の一つと言えます。
<ワーケーションに対する興味関心>
参照:【国土交通省 観光庁】「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書 令和3年3月
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/inbound_kaifuku/mice/corona_henka/content/001420453.pdf
参照:【国土交通省 観光庁】「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書 令和4年3月
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/useful/img/commitment_pdf_03.pdf
4つのワーケーションタイプ
一言でワーケーションといっても、働き方や重視する要素の違いから「休暇活用型」、「地域課題解決型」、「合宿型」、「サテライトオフィス型」の4つのタイプがあるといわれています。企業としては、どのような目的でワーケーションを導入するのかを明確にし、どのタイプを取り入れるのか検討することが大切です。
<休暇活用型>
休暇活用型は、リゾート地や地方部など旅行先で業務を行いながら休暇を取るスタイルとなり、ワーケーションを行う期間が短いという特徴があり、業務を行っている間は出勤として扱われます。
例)木曜日から日曜日までリゾート地に家族で出向き、木曜日と金曜日はリゾート地にて通常業務を行い、土日は家族と観光する。
<地域課題解決型>
地域課題解決型は、企業が連携している地方に出向き地域課題を考えたり、解決に向けてアイデアを出したり、取り組んだりするスタイルです。そのため地方で普段の業務を行うというよりも、地域との交流や地域の課題を知ることが業務となるのが特徴です。地域課題解決型の期間は1週間~1か月と長期的で、課題解決等業務を行っている間は出勤として扱われます。
例)企業が連携している地方に出向き、平日は地域と交流を図りながら、課題解決に向けて会議の開催や現地視察を行い、業務時間外や休日は地方での生活を満喫する。
<合宿型>
合宿型とは、温泉やリゾート地と言った通常の職場から離れた場所で、会議や研修に参加するスタイルとなり、期間は日帰りや1泊2日~1か月の長期滞在まで様々です。会議や研修中は出勤として扱われます。
例)複数企業のメンバーが同じリゾート地に集まり2泊3日の研修を行い、研修後の自由時間はリゾート地を満喫する。
<サテライトオフィス型>
サテライトオフィス型は、企業が提携している、あるいは指定しているサテライトオフィスに出向き業務を行うスタイルとなり、ワーケーションを行う期間は1か月~半年と長期的です。業務を行っている間は出勤として扱われます。
例)家族で地方にあるサテライトオフィス付近に1か月ほどお試し移住を行い、平日はサテライトオフィスで業務。休日はお試し移住先での生活を満喫する。
ワーケーション導入企業の成功事例
「休暇中に仕事をしても効率が落ち、成果が出にくいのではないか」と言ったマイナスな意見も多いワーケーションですが、果たして本当に成果が出にくいのでしょうか?ワーケーションを導入し、うまく活用することができれば企業側にとっても、従業員にとっても様々な効果を得ることができる可能性があります。そこで、ワーケーションを導入し様々な効果を得た企業の成功事例4つをご紹介します。
成功事例【1】日本航空株式会社
日本航空株式会社はワーケーション導入の先駆けともいえる企業の一つで、2017年に導入しています。業務の繁忙や長期休暇から復帰後の業務遂行に対する不安やストレスにより、長期休暇の取得に抵抗を持つ従業員が多かったようです。そこで、【休暇型】のワーケーションを導入し、有給休暇取得率の向上につながりました。
日本航空は、個人の自由度の高い働き方の他にも、“農業”をテーマにしたチーム制の【合宿型】ワーケーションを実施し、チームビルディングの観点からの人材育成にも役立てています。「おてつたび」や「アグリワーケーション」と呼ばれる取り組みで、青森県弘前市、和歌山県みなべ町、香川県三豊市の3拠点で実施されました。
<ワーケーションにより得られた効果>
・有給休暇消化率が向上
・ワーケーション中の仕事に関するストレスの減少
・ワーケーションにより業務の生産性が向上
参照:【国土交通省 観光庁】導入企業事例>日本航空株式会社
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/archive/case/jal/
参照:【国土交通省 観光庁】日本航空株式会社「社員の主体性を引き出すワーケーション」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/corporate/case/jal/
成功事例【2】ユニリーバ・ジャパン株式会社
ユニリーバ・ジャパン株式会社では、2016年に、働く時間と場所を従業員が自由に選ぶことができる「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」という制度を導入しました。この制度は上司に申請することで決められた範囲内なら勤務時間や場所が自由になるというものです。
また、より働く場所の範囲を広げることを目的として、2019年「地域deWAA」というオリジナルのワーケーションを導入しました。ワーケーションの内容は、8つの自治体と連携し従業員が滞在している間、各地域の施設をコワーキングスペースとして無料で利用できるというもので、【サテライトオフィス型】のワーケーションに該当します。
<ワーケーションにより得られた効果>
・従業員の幸福度(ウェルビーイング)の向上
・従業員の生産性の向上
※ワーケーション参加者の声から同社が実感できたと感じた点より
参照:【国土交通省 観光庁】導入企業事例>ユニリーバ・ジャパン
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/archive/case/unilever/
成功事例【3】株式会社野村総合研究所
株式会社野村総合研究所では、大手シンクタンクとして地方の課題や価値を見出すきっかけを作る目的で、徳島県三好市にあるサテライトオフィスに従業員を派遣しています。2017年から始まったこの取り組みは通称「三好キャンプ」と呼ばれ、【地域課題解決型】のワーケーションになります。
ワーケーションの内容は、年に3回、1度のワーケーションにつき1か月間三好市にあるサテライトオフィスで業務を行いながら、地域の課題解決のきっかけや地域の暮らしを体験するというものです。
<ワーケーションにより得られた効果>
・地方課題に対する視野の広がり
・仕事や時間の使い方における考え方の変化
※ワーケーション参加者の声で多かった声より
参照:【国土交通省 観光庁】導入企業事例>株式会社野村総合研究所(NRI)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/archive/case/nri/
成功事例【4】株式会社JTB
株式会社JTBでは2019年3月に、「ワーケーション・ハワイ制度」としてハワイのホノルル支店にワーケーションスペースを設置しました。ワーケーションの内容は出張や休暇で訪れた従業員がホノルルにあるワーケーションスペースを利用し、業務を行うというものです。ワーケーションタイプの【休暇型】と【ブレジャー】に該当するため、家族でハワイを訪れ休暇を楽しみながら同時に業務も行うことができます。
<ワーケーションにより得られた効果>
・開放的な環境で仕事をすることによるストレス解消
・リフレッシュによるアイデア力の向上
※ワーケーション参加者の声で多かった声より
参照:【JTB】海外のテレワーク制度「ワーケーション・ハワイ」を社内導入し、働き方改革を推進
https://www.jtbcorp.jp/jp/newsroom/2019/03/20190318-jtb-2019009.html
ワーケーションのメリット
前述した成功事例のように、ワーケーションは働く場所に自由度を持たせ、休暇と組み合わせることで、多くの効果をもたらします。本章では、「企業」「従業員」「地域社会」という3つの視点からメリットを解説していきます。
<企業にとってのメリット>
■企業メリット①:従業員のモチベーション・パフォーマンスがアップする
ワーケーションの実施により、従業員のモチベーションやパフォーマンスが向上するといわれています。ワーケーションは決められた時間のみ仕事をして、あとの時間は休暇を楽しめる働き方です。
業務後には温泉や観光など旅行ならではの楽しみがあることから、仕事に対するモチベーションは自然とアップします。また、仕事ができる時間が限られているため、仕事に集中しやすく、パフォーマンスの向上も期待できます。ワーケーションによって開放的な環境に身をおくことで、心身ともにリフレッシュができ、新しい価値観や発想も生まれやすいといえるでしょう。
■企業メリット②:有給休暇の取得率が上がる
ワーケーションを活用すれば、従業員の有給休暇取得率を上げることもできます。日本のビジネスパーソンの抱える課題の1つに、有給休暇の取得率の低さが挙げられます。厚生労働省が2020年に調査したところ、日本の有給休暇取得率は56.6%程度と先進国のなかでもかなり低く、多くのビジネスパーソンが休み不足を感じています。そのため、企業には、従業員の有給休暇取得率を向上させる取り組みが強く求められるようになっています。
従業員が有給休暇を取得できない大きな原因は、有給休暇を申請すること自体へのためらいが挙げられます。自分が有給休暇を取得すると、「周囲に迷惑がかかる」「あとで多忙になる」「取得しづらい雰囲気がある」など、多くのビジネスパーソンが有給休暇の取得にうしろめたさを感じているようです。
一方で、ワーケーションでは、2日休暇・2日仕事・3日休暇など、柔軟なスケジュールを組むことが可能です。旅行先でも仕事ができることで、有給休暇取得のハードルが下がり、有給休暇の取得促進につながります。福利厚生としての価値が向上するでしょう。
■企業メリット③:多様な働き方が選べることで企業のアピールになる
働き方改革が浸透し始めた現代、多様な働き方ができることは企業の魅力となります。新型コロナウイルスの影響もあり、新しい生活様式や勤務場所や時間を選ばない働き方が広がっています。オフィス以外で仕事をする人が増え、自由な働き方への需要は一層高まっているのです。そのため、働き方を従業員が選択できることは、人手不足に悩む企業のアピールポイントとなります。
もちろんワーケーションを導入するだけで企業の魅力が上がる、というわけではありません。しかし、テレワークや時短勤務などその他の新しい働き方と組み合わせて、多様化した人々の働き方ニーズに対応できれば、従業員の離職率の減少や優秀な人材の確保につながるでしょう。
<従業員にとってのメリット>
■従業員メリット①:家族と一緒に長期旅行に行きやすい
ワーケーションを上手く活用できれば、従業員は家族とゆっくり旅行に行くことができます。家族と一緒に過ごす時間は、ポジティブな思考を持ちやすくなったり、ストレス解消につながったりと、従業員の精神状態を安定させる効果が期待できます。
日本のビジネスパーソンの多くは、長期休暇が取得しにくく、海外旅行や家族とゆっくり旅行に行く時間が取れません。連休が取れるタイミングは、世間でも祝日が多く、観光地にも人が多かったり旅行費用が高くなったりと、なかなかゆっくり楽しみにくいもの。混雑するタイミングを避けて家族と旅行が楽しめれば、リフレッシュしやすく、従業員の満足度アップも見込めるでしょう。
■従業員メリット②:ワーケーション補助金制度を受けることができる
「ワーケーション補助金制度」とは、所定の手続きを行えばワーケーションで発生した費用に補助率分をかけて地方自治体が一部負担をしてくれる制度のことです。地方自治体により制度内容は異なりますが、主に宿泊費や交通費が対象になります。支給対象となった場合、自己負担額が減りお得にワーケーションを始められるかもしれません!
■従業員メリット③:創造性が促進される
従業員が日常とは異なる環境で仕事を行うことで、クリエイティブな発想が生まれやすくなります。特に、プロジェクトの初期段階やアイデア出しが求められる場面では、環境の変化が大きな効果をもたらすことが期待されます。リゾート地や自然豊かな場所での仕事は、リフレッシュと同時に創造性を刺激する要素にもなるでしょう。
<地域社会にとってのメリット>
■地域社会メリット:地域経済の活性化
ワーケーションは、観光業のオフシーズンにおける新たな需要を生み出す可能性があります。特に、地方の宿泊施設や観光スポットにとって、平日にも観光客が訪れることは、安定した収益につながります。また、ワーケーションを通じて企業と地域が連携し、新しいビジネスモデルや地域資源の活用が進むことも期待されます。
ワーケーションのデメリットと解決策
ワーケーションには企業側にとっても従業員にとっても多くの魅力がある一方、「休暇を取りながら仕事をすると、効率が落ち成果が出にくいのではないか」と言ったマイナスな意見を耳にすることもあり、なかなか導入に至らない企業が多いのが現状です。ここからは、ワーケーションを取り入れることによるデメリットと、その解決策を解説します。
企業にとってのデメリット
▲企業デメリット①:労働時間の正確な把握が煩雑
プライベートと仕事の線引きが曖昧なことや、オフィスに出社しないことから、従業員の労働時間を正確に把握することが難しくなります。正しい労働時間の把握は企業側の義務であり、生産性の維持や、労災保険の対象となる時間帯を把握するうえでも非常に重要です。また、せっかく休暇を取った従業員が仕事に追われることになれば、ワーケーションをするメリットが薄れてしまいます。
たとえば、午前中だけ仕事をして、半日休暇を取れば、半日分の有給休暇消化とカウントしなければなりません。3時間だけ仕事をした日は、1時間単位で実労働時間をカウントする必要があります。
【課題への対策】
労働時間の把握方法として、退勤管理システムの導入や業務用パソコンの使用時間のログ、出退勤の報告など、労働時間を記録できるルール作りを行うことで労働時間の管理をスムーズに行うことができます。
▲企業デメリット②:情報漏洩のリスクが増える
ワーケーションでは、オフィスでも自宅でもない場所で業務を行います。業務用のパソコンを紛失したり、フリーWi-Fiに接続してしまったりと、機密情報や個人情報が漏洩するリスクが高まるためセキュリティ対策を強化する必要があるという課題があります。
【課題への対策】
セキュリティ対策が施されたポケットWi-Fiを企業側で用意する、パソコンに最新のセキュリティソフトを入れる、パソコン紛失時に遠隔でデータ消去できるサービスを利用するなど、情報漏洩のリスクに備えましょう。
また、ワーケーションでは機密性がある情報を扱う仕事をしない、そもそもパソコンに機密情報を保存しない、周囲に人がいるところで仕事の通話や会議をしないなど、ワーケーションで働く際のルール作りが必須です。
▲企業デメリット③:ワーケーションに否定的な意見を持っている人もいる
ワーケーションは従業員にとってもメリットがある働き方ですが、必ずしも組織全体で好意的に受け取られるわけではありません。仕事と休暇ははっきり明確に切り離したい、と考える従業員にとってはそれほど魅力的とはいえないでしょう。
【課題への対策】
ワーケーションに否定的な意見を持つ人もいることを前提に、テレワークなどその他自由度の高い働き方も選択できる体制の整備や、有給休暇を申請しやすい雰囲気づくりにも力を入れましょう。
▲企業デメリット④:ワーケーションができない人との間に不公平が生まれる
どうしてもワーケーションには向いていないという業務や職業も存在します。そのため、「ワーケーションができる人とできない人がいるという状態は、不公平ではないか」という意見が出る可能性があります。
【課題への対策】
不公平だという意見が生まれた場合、無理にワーケーションを導入する必要はありません。ワーケーションに向かない場合は、リフレッシュ休暇やファミリーサポート休暇、アニバーサリー休暇などその他の働き方や休暇制度の導入を検討するとよいでしょう。
<従業員にとってのデメリット>
▲従業員デメリット①:プライベートと仕事の線引きが曖昧になる
休暇中に仕事をすることは、ワーケーションの基本スタイルですが、プライベートと仕事との間の線引きが曖昧になりやすいという特徴があります。仕事と休暇を同時に行うことで、結果的に「休めていない」と感じる従業員も出てくるでしょう。
仕事に追われるあまり、リフレッシュできずにストレスが増大するケースも少なくありません。また、仕事とプライベートの境界が曖昧になることで、オン・オフの切り替えが難しくなり、結果として生産性が低下する可能性もあります。
【課題への対策】
企業があらかじめ休暇と仕事をどう区切るのか明確にしておきましょう。ルール作りの際は、業務や部署、役職など導入する範囲を限定しておくのがおすすめです。たとえば、1人で作業できる資料作成やデータ入力・分析やクリエイティブな業務、リモートでも会議や作業が進められる業務担当者に限定するなどです。ワーケーションが実施しやすい部署や業務担当者から試験的に導入し、徐々に範囲を広げていくのもよいでしょう。
▲従業員デメリット②:通信環境の不安定さ
ワーケーションを行う場所によっては、インターネット環境が整っていない場合もあります。特にリゾート地や地方では、Wi-Fiの接続が不安定だったり、通信速度が遅かったりと、テレワークに必要なインフラが整っていない環境では、業務効率が低下し、トラブルの原因となることが懸念されます。
【課題への対策】
ワーケーションによって生産性の低下や通常業務を阻害しないよう、企業側からのポケットWi-Fi提供や、ワーケーションに適した観光地を選定しておくことが重要です。詳しくは、後述する<ワーケーションを実施するためのステップ>をご確認ください。
<地域社会にとってのデメリット>
▲地域社会デメリット:インフラ整備への負担
地域がワーケーションを積極的に誘致するためには、インフラ整備が不可欠です。特に、Wi-Fiや宿泊施設、ワークスペースの整備には時間とコストがかかります。これらのインフラを整えなければ、企業や従業員にとって魅力的なワーケーション先にはなり得ません。また、観光客とリモートワーカーの両方に対応するためのサービス提供も、地域にとっては負担となる可能性があります。
【課題への対策】
地域だけでインフラ整備を充足させようとすると、膨大な費用と工数を要してしまい、タイムリーな誘致活動に支障をきたしてしまいます。そこで、地方自治体および民間企業とパートナーシップを結び、インフラ整備の一部を負担するモデルを構築することも重要な戦略です。また、前述した国からの助成金や関係省庁からの支援を積極的に活用すると良いでしょう。
新規の土地開発や新たな施設の建設ではなく、既存の公共施設や観光施設をワーケーションにも対応できる施設としてリニューアルすることも解決策の1つです。
ワーケーションを実施するためのステップ
ワーケーションを成功させるためには、事前の準備と計画が欠かせません。企業が適切な場所を選び、必要な設備を整えることで、従業員が仕事とリフレッシュのバランスを保ちながら生産性を高めることができます。最後にワーケーションを導入するステップを紹介します。
【1】ワーケーションの目的を明確にする
まず、企業はワーケーションを導入する目的を明確にする必要があります。ワーケーションは、単に「働く場所を変える」だけでなく、従業員のリフレッシュや生産性の向上を目的としています。例えば、チームのクリエイティブな発想を促進するためや、長期休暇の取得を支援するためなど、具体的な目標を設定することで、その効果を最大化できます。
【2】ワーケーションに適した場所を選定する
次に、ワーケーションを実施する場所を選定します。企業は、テレワークに必要なインフラが整った地域や施設を選ぶことが重要です。Wi-Fi環境が整っているリゾート地や、都市部からアクセスしやすい自然豊かな地域は理想的な選択肢となります。また、宿泊施設がテレワーカーに対応しているか、仕事とリフレッシュが両立できる環境であるかも考慮するポイントです。最近では、多くの自治体がワーケーション用の施設や特別プランを提供しています。
【3】ワーケーションに必要な設備とツールを準備する
ワーケーションを実施する際には、テレワークに必要な設備やツールを準備することが不可欠です。例えば、オンライン会議ツール(Zoom、Microsoft Teamsなど)やプロジェクト管理ツール(Trello、Asanaなど)を活用し、従業員同士がスムーズに連携できる環境を整えます。また、クラウドベースのファイル共有システム(Google Drive、Dropboxなど)を活用することで、場所にとらわれずに業務を進めることが可能になります。
【4】ワーケーションのスケジュールを計画する
ワーケーションは、従業員の生産性を維持するために、スケジュールをしっかりと計画することが大切です。仕事とリフレッシュのバランスを保つため、業務時間や休暇時間を明確に設定し、オン・オフを切り替える時間を確保しましょう。例えば、午前中は集中して仕事を行い、午後は観光やリラックスの時間に充てるといった計画が効果的です。また、チーム全体でのワーケーションを実施する場合は、全員のスケジュールを共有し、進捗状況を確認するための定例ミーティングを設けると良いでしょう。
【5】セキュリティ対策を徹底する
ワーケーションを実施する際の課題の一つがセキュリティ対策です。従業員が公共のWi-Fiを利用する場合、情報漏洩のリスクが高まるため、VPN(仮想プライベートネットワーク)の使用を推奨するほか、ファイルの暗号化やセキュリティソフトの導入を徹底する必要があります。また、企業側は、リモートワークに対応したセキュリティポリシーを設け、従業員がどのように情報を扱うべきかを明確にすることが重要です。
【6】ワーケーションの効果を測定・評価する
ワーケーションを実施した後は、その効果を測定・評価するステップが欠かせません。例えば、従業員のアンケートを通じてワーケーションが業務効率にどのような影響を与えたか、リフレッシュの効果があったかなどのフィードバックを収集します。また、ワーケーション中に設定した目標に対しての達成状況を評価し、今後の改善点を洗い出すことも大切です。企業としてのROI(投資対効果)を測定することも、次回のワーケーション実施に向けた重要なステップとなります。
ワーケーションがもたらす企業と地域との共創
ワーケーションは単なる「旅行中の仕事」ではなく、企業と従業員、そして地域社会が共創する新しい働き方の一環です。企業にとっては、従業員のリフレッシュと生産性向上を両立する手段であり、地方自治体にとっては観光業の振興や地域経済の活性化のための新しいモデルとなっています。
今後、ワーケーションはテクノロジーの進化とともに、さらに広がりを見せるでしょう。テレワークの基盤が強化され、より多くの企業が柔軟な働き方を導入することで、ワーケーションは一層普及していくと考えられます。
「休暇中に仕事をしても効率が落ち、成果が出にくいのでは」という意見もありますが、ではどのようなワーケーションであれば効率が上がり成果が出るのか、それを改めて考えることも大切です。確かに企業側にとってワーケーションを導入するとなると、様々なルール設定を行う必要があり、手間も発生します。
しかし、ライフスタイルや働き方の変化によって働く人のニーズが多様化している今、ワーケーションをうまく活用できれば、会社にとって様々なプラスの効果が得られ、働く従業員にとってもモチベーションアップに繋がる可能性があるため、一度検討してみてはいかがでしょうか。