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リンゲルマン効果とは?無意識の手抜きが蔓延る原因と排除するための対策を紹介

リンゲルマン効果とは?無意識の手抜きが蔓延る原因と排除するための対策を紹介

従業員のモチベーションや組織のパフォーマンスに悪影響を及ぼす「リンゲルマン効果」をご存知でしょうか。

本記事では、リンゲルマン効果がどのような現象なのかを中心に、発生する原因や起こりうる弊害、発生を予防する方法について解説します。リンゲルマン効果が起きている組織では、従業員の人数を増やしても生産性が向上せず、離職も起こりやすくなるため早急に改善が必要です。

リンゲルマン効果とは?

リンゲルマン効果とは、共同作業では無意識に手を抜いてしまうという現象です。作業をする人数が多ければ効率的に作業が遂行できそうですが、実はそうとは限りません。「きっと誰かがやってくれるだろう…。」という人間の心理から生まれる怠惰の感情は、”社会的手抜き”とも呼ばれます。この現象は、共同作業するメンバーが多いほど、他のメンバーへの依存度は増し、無意識の怠惰が見られやすくなります。

フランスの農学者であるマクシミリアン・リンゲルマン氏が、1882年から1887年にかけて研究し、提唱しました。

リンゲルマン効果とは?

傍観者効果との違い

リンゲルマン効果と混同されがちな用語に「傍観者効果」があります。傍観者効果とは、突発的な出来事において、不特定多数の1人だった際に「意識的」に傍観者になってしまう現象を指します。たとえば、チーム内の誰かが担当しなければならない仕事だとわかっていながら、自分は見なかった・知らなかったことにしようと考える心の動きが傍観者効果です。

リンゲルマン効果と傍観者効果は、「誰かがやってくれるだろう」という心理は同じですが、それが意識的なのか、無意識に起こるかという点で異なります。リンゲルマン効果では、共同作業をする人数が増えると、「無意識」に力が出せなくなる現象を指すので、傍観者効果とは異なる現象といえます。

リンゲルマン効果の実証実験

リンゲルマン効果の共同作業における「パフォーマンスの減少」と「無意識のうちに起きる」という特徴は、2つの実験によって証明されています。ここでは、それぞれどのような実験が行われたのか紹介します。

綱引きの実験

リンゲルマン氏は、綱引きを用いて、「共同作業の人数が増えるほど1人が発揮するパフォーマンスが減少する」ということを証明しました。

実験では、1人ずつチーム人数を増やし、それぞれの出力を計測・比較。結果として、1人あたりの出力は2人になると93%、3人になると85%、4人になると77%、5人になると70%まで低下することがわかりました。

さらに、チーム人数が8人まで増えると、発揮される1人あたりの出力はなんと49%。本来持っている力の半分以下しか出せていないという結果になったのです。共同作業におけるパフォーマンス低下を証明した有名な実験となりました。

チアリーダーの実験

社会心理学者のビブ・ラタネ氏とジョン・ダーリー氏によって行われたチアリーダーの実験は、「共同作業においてパフォーマンス低下は無意識のうちに起こる」ということを証明したものです。

実験では、2人のチアリーダーに目隠しとヘッドフォンを付けて、外部からの音を遮断、お互いが見えない状態で全力の大声を出してもらい、1人で大声を出したときの声量と比較しました。結果、2人のチアリーダーは、お互い相手を確認できない状態であったにもかかわらず、声量が小さくなったのです。チアリーダー本人たちは、単独のときも2人のときも、全力で声を出したという認識でした。

この実験から、共同作業でのパフォーマンス低下は無意識でも起こることが立証されました。

企業におけるリンゲルマン効果の具体例

リンゲルマン効果の実証実験
リンゲルマン効果による、無意識なパフォーマンス低下は仕事中にも起きています。ここでは、「業務中にネットサーフィンをする」「複数人でチェックしてもミスを見逃す」といった企業におけるリンゲルマン効果の具体例を確認しましょう。

業務中にネットサーフィンをする

企業におけるリンゲルマン効果の代表的な例としてよく挙げられるのが、業務中のネットサーフィンです。政治や社会情勢などを扱うアメリカの週刊誌Newsweekの調査によると、アメリカ全土の就業者のうち「90%がネットサーフィンをしている」「84%が業務中に私的なメールを送信している」と回答しました。

この調査で、ほとんどの企業において従業員1人ひとりが持つ最大のパフォーマンスが発揮されているわけではないことがわかりました。

複数人でチェックしてもミスを見逃す

ミスやトラブルを減らすために、ダブルチェック・トリプルチェックを行っている組織は多いでしょう。しかし、チェック時にも「誰かが詳細までチェックするだろう」「みんな見てるから大丈夫」という意識が生まれ、リンゲルマン効果を引き起こします。

結果的に、複数人で複数回チェックしているにもかかわらず、ミスが起きてしまいます。何度もチェックしているのにどうしてもミスが起きているという企業では、リンゲルマン効果がすでに発生していることが考えられます。

リンゲルマン効果が及ぼす3つの弊害

リンゲルマン効果によって、企業では下記のような問題が起こる可能性があります。

・モチベーションの低下
・生産性の低下
・フリーライダーの増加

リンゲルマン効果は、手を抜いている従業員本人も「怠けてやる!」という明確な意思を持っているわけではなく、無意識のうちに起きる点が厄介です。

リンゲルマン効果が及ぼす3つの弊害について、それぞれ詳しくみていきましょう。

モチベーションの低下

組織においてモチベーションは伝染するものです。そのため、モチベーションが低い従業員がいれば、組織全体にその低いモチベーションが伝わります。リンゲルマン効果は、無意識のうちに複数人に同時に起きるものなので、気が付いたときにはモチベーションの低下が組織全体に広がっているということも起こり得ます。

また、集団で仕事をすれば個人への注目度は下がります。個々の成果物に差異があるにもかかわらず、同じように評価されてしまえば、高いパフォーマンスを維持していたメンバーのモチベーションが低下します。早急に改善しなければ、優秀な人材の離職に繋がりかねません。

生産性の低下

モチベーションが下がれば当然ながらパフォーマンスも低下し、組織の生産性も下がります。

リンゲルマン効果が発生している組織において、低いモチベーションやパフォーマンスが浸透してしまっている場合、いくら人数を増やしても生産性は上がりません。先述のとおり、リンゲルマン効果が起きると、人を増やせば増やすほど、1人あたりのパフォーマンスは下がってしまうのです。そうなると、さらに個人の負担は増加し、モチベーションとパフォーマンスが低下するという悪循環が生まれるリスクがあります。

フリーライダーの増加

リンゲルマン効果は、組織の目標達成に貢献しないメンバー「フリーライダー(タダ乗り)」も生み出しかねません。たとえば、「十分な貢献をせずに給料だけもらう人」「他人の成果に便乗する人」などがフリーライダーの例として挙げられます。

フリーライダーが増えれば、他の従業員の負担が増加したり、従業員同士の人間関係が悪化したりと、組織にとって悪影響を及ぼします。

リンゲルマン効果が起きてしまう原因

リンゲルマン効果が起きてしまう原因
それでは、リンゲルマン効果はなぜ起きてしまうのでしょうか。リンゲルマン効果による弊害を生み出さないためには、原因を知っておくことが重要です。

・当事者意識の欠如
・評価制度の不備
・同調行動の浸透
・コミュニケーションの不足

ここからは、リンゲルマン効果を引き起こす4つの原因を解説します。

当事者意識の欠如

リンゲルマン効果が起きる最たる要因は、従業員の当事者意識の欠如です。

日本の企業は組織としての目標や達成度への関心は高いものの、従業員個人の責任への関心は低い傾向があります。従業員自らが、自分の責任の程度や範囲が不明瞭なまま目標を追い求めることは困難です。

また、たとえ個人のミッションが明確になっており、本人が自分の責任範囲を自覚していても、最低限の基準を満たせていれば、それ以上の成果を求めてさらなるパフォーマンスアップを目指すことは簡単ではありません。

企業側が組織という集合体への責任に注目することで、リンゲルマン氏の綱引き実験のようにチーム内の責任が分散され、従業員個人の当事者意識は低下してしまうのです。

評価制度の不備

個人の目標や達成度に積極的にアプローチできている企業でも、リンゲルマン効果は起こります。その原因として挙げられるのが、従業員の貢献が評価や待遇に反映されない人事評価制度の不備です。

個人がどれだけ組織に貢献しても、それに対する評価が不透明だったり、正当に評価されなかったりすると、モチベーションの低下を招きます。成果を出しても評価に反映されないという意識が広がると、最低限のノルマだけこなして、それ以上の成果を求めなくなってしまうのです。

また、成果を出しても適切に評価されないとなると、それを見ている周囲のメンバーのモチベーションやパフォーマンスにも影響を与えかねません。評価制度の不備は、リンゲルマン効果を加速させるリスクがあります。

同調行動の浸透

リンゲルマン効果は、集団において同調行動が蔓延したときにも起きやすいといわれています。同調行動とは、自分の意志にかかわらず、周囲の言動に合わせて自分の動向を決める状態です。

同調行動は、意識的にも無意識にも発生し、プラスの方向にもマイナスの方向にも起こり得ます。たとえば、一緒に働く人のモチベーションが高ければ、「みんな頑張ってるから自分も頑張ろう!」と考える人や、周囲のテンションに引っ張られてモチベーションが上がるという人が出てきます。一緒に働く人のモチベーションが低ければ、逆のことが起こり得ます。

多くの人は心理的に、集団のなかで浮いた存在になることを嫌う傾向があります。集団としてモチベーションが低下し、正当な評価を受けられないという諦念が広がれば、リンゲルマン効果を加速させてしまうのです。

コミュニケーションの不足

コミュニケーション不足は、組織に対する帰属意識や仲間意識を薄れさせ、自分が組織の一員であるという当事者意識の低下を招きます。先述の通り、当事者意識の低下は、リンゲルマン効果が発生する大きな原因となっています。

近年は、リモートワークやITツールを通したやり取りが普及した結果、対面でのコミュニケーションが減少。組織や職場のメンバーへの愛着や信頼感が生まれにくくなっています。

リンゲルマン効果が起きやすい企業の特徴

リンゲルマン効果が起きやすい企業の特徴
リンゲルマン効果はどのような組織でも起こる可能性があります。綱引きやチアリーダーの実験からわかるように、2人以上いれば無意識のうちに手抜きが起こってしまうのです。

しかしながら、リンゲルマン効果が起きやすい組織も存在します。そこで、本章ではリンゲルマン効果が起きやすい企業の特徴を3つ紹介します。

・リモートワークを導入している
・従業員数が多い
・個人の裁量権が小さい

いずれかの特徴を持つ企業では、気が付いていないだけで、すでにリンゲルマン効果による影響が広がっているかもしれません。

リモートワークを導入している

リモートワークは、従業員の当事者意識の低下とコミュニケーション不足を招きます。

リモートワークでは、他のメンバーの業務の進捗状況が不透明になりやすく、同僚の働いている姿も見えません。ベルギー・ブリュッセル自由大学のKobe Desender氏の研究によると、集団において「周囲の人間の集中力は伝染する」という結果も出ています。

周りの人間が働いている姿が見えないというリモートワークは、チアリーダーの実験のように「無意識」でのリンゲルマン効果が起きやすい環境にあるといえるでしょう。

従業員数が多い

リンゲルマン効果は、個人への注目度が下がることで発生します。つまり、従業員数が多い企業ほど、リンゲルマン効果は起きやすくなるのです。

従業員数が多いと、企業も個々人ではなく、集団へのアプローチが多くなります。従業員は自分が個人として扱われている実感を得られず、当事者意識の低下を招きます。集団が大きくなるほど、周囲との乖離を恐れ、同調行動も起きやすくなります。さらに、管理職の目も届きにくくなり、従業員1人ひとりの会社への貢献意識も低下するため、「自分が正当に評価されていない」と感じる従業員も出てくるでしょう。

個人の裁量権が小さい

従業員の裁量権が小さい組織も、それぞれが仕事に対する責任感を感じにくくなるため、リンゲルマン効果が起きやすくなるといえます。

裁量権が小さいと、決められた業務をこなすだけになるため、最大限のパフォーマンスを発揮しようという意識はどんどん低下してしまいます。結果的に、組織全体でモチベーションや生産性の低下を招き、フリーライダーや離職者の増加に繋がってしまうのです。

リンゲルマン効果の予防と対策

リンゲルマン効果は、企業にとって多くのマイナスの影響を与えます。そのため、いかにリンゲルマン効果を起こさない組織を構築するか、起きてしまった際に悪影響を最小限に食い止められるかが重要になってきます。

・納得性のある評価制度を整備する
・個人の役割分担を明確にする
・少数精鋭体制にシフトする
・1on1ミーティングを実施する

最後は、リンゲルマン効果の予防と対策について解説します。

納得性のある評価制度を整備する

リンゲルマン効果の予防・対策として効果が出やすいのが、従業員が納得できる適切な人事評価制度の整備です。

一般的に、人材戦略は人事評価制度などのハード面から変えていくことが推奨されています。これは、従業員の意識改革や価値観のアップデート、スキルの向上といったソフト面を変えるのには時間がかかるためです。リンゲルマン効果の対策も同様で、貢献が反映される人事評価制度を整えることで、モチベーションの低下を防止できます。

個人の成果やチーム目標達成のための貢献度、業務以外での企業への貢献など、解像度を上げた評価基準を設定しましょう。個人のモチベーションが上がれば、組織としてもミッションを任せやすくなります。

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個人の役割分担を明確にする

「誰かがやってくれる」という意識の根本の問題は、個人の責任や目標が明確になっていないところにあります。この無意識な感覚を排除するためには、従業員1人ひとりの責任の所在や、達成を目指すミッションを明確にして、当事者意識を持ってもらうことが重要です。

役割を割り振るときは、単に業務を配するのではなく、従業員同士の役割に関係性を持たせるのが効果的です。自分の仕事が他メンバーに影響を与えたり、周囲と協力してミッションを達成したりすることで、自分の仕事に責任感を抱きやすく、社内コミュニケーションの停滞も防止できます。

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少数精鋭体制にシフトする

組織の人数が増えれば増えるほど、1人が発揮する出力が小さくなることは、リンゲルマン氏の実験で立証されています。よって、組織は小さいほうがリンゲルマン効果が起きにくく、発生したとしても個人のパフォーマンスが下がりにくいということになります。そこで、集団の母数を制限する少数精鋭主義を導入するという手もあります。

部署の人数を減らすという訳ではなく、部署をさらに細分化したチームやユニット、プロジェクトを構成し、少数精鋭部隊として仕事を与えると良いでしょう。

組織のメンバーが少なくなれば、個人の目標設定や達成度、役割分担が明確になるため、当事者意識を持って働くことができます。また、管理者の目が行き届きやすくなるため、定期的なフィードバックやコミュニケーションが生まれ、より納得感のある評価を下すことができるでしょう。他メンバーの働きが可視化されるため、チアリーダーの実験のような無意識での手抜きも抑制されます。

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1on1ミーティングを実施する

リンゲルマン効果の予防・対策には、企業が従業員1人ひとりを集団ではなく個として認識することが重要です。定期的に1on1ミーティングを実施することで、従業員個人の責任や目標を再認識する機会を作れるでしょう。

従業員視点でも、「上司が自分の働きや貢献を把握してくれている」「成果が認められている」と実感できます。自分への注目が感じられれば、評価に対する納得感や信頼感も増し、モチベーションの低下や離職防止に繋がります。

1on1ミーティングはそのほかにも、日ごろの業務や目標設定の見直し、悩みの相談、コミュニケーション不足の解消といったさまざまなメリットがあります。リンゲルマン効果を抑えつつ、人材戦略のソフト面強化にも繋がるでしょう。

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まとめ

今回は、共同作業において無意識に起こってしまう手抜き「リンゲルマン効果」について解説しました。リンゲルマン効果が発生している組織では、従業員のモチベーションやパフォーマンスが下がってしまいます。そのまま放置すると、組織の生産性が下がったり、離職者が増加したりとさまざまなトラブルを招く恐れがあります。

組織の成長が鈍化してしまわないように、発生するメカニズムを理解して予防策を講じることが重要です。リンゲルマン効果は、個々人への注目度が低く、貢献が評価に反映されない組織で起こりやすいことがわかっています。

評価制度や業務分担を見直して、従業員のパフォーマンス低下を防ぎましょう。

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