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女性活躍推進法とは?改正によって企業に義務化された取り組みを徹底解説!

女性活躍推進法とは?改正によって企業に義務化された取り組みを徹底解説!

かつて経済大国として世界のビジネスを席巻してきた日本。しかし、多様性が求められる現代ビジネス環境に変化してきてからは、世界との差が開く一方です。なかでも、男女の格差は大きな課題となっていて、2016年に「女性活躍推進法」を施行。男女雇用機会の均等を図るために舵を切っているところです。

本記事では、法律が制定された背景から改正の歩み、取り組むべき内容を解説します。最後には、女性ビジネスパーソンの視点からも切り込みます!

女性活躍推進法とは?

女性活躍推進法とは、キャリアにおける女性の個性と能力を十分に発揮できるような職場環境の整備を目的として制定された法律です。

正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」であり、2015年に国会で成立、2016年4月に10年間の時限立法として施行されました。内閣府男女共同参画局が所管しています。

女性活躍推進法が定められた背景

男女の雇用機会均等が推し進められるなかで、「女性の活躍」に特化した法律が制定された背景には、昔ながらの日本の企業体質から成る女性のキャリア形成への障壁が影響しているのです。まずは、日本の現状をお伝えします。

  • 日本は女性の社会進出が遅れている
  • 日本は女性管理職の割合が低い

日本は女性の社会進出が遅れている

日本で女性活躍推進法が成立した同年(2015年)の9月、国連サミットでは「持続可能な開発目標/SDGs」が採択され、持続可能な地球を実現するための17のゴールが掲げられました。その中の5番目のゴールとして「ジェンダー平等を実現しよう」と定められています。

国連加盟国が全会一致で採択されたSDGsですから、日本も例外なく目標達成に向けて取り組みを進める必要があります。果たして日本の現状はどうでしょうか。男女格差の指標である「ジェンダー・ギャップ指数」から日本の現状を把握していきます。

■日本のジェンダー・ギャップ指数※(2023年総合順位):125位(146ヵ国中)

146ヵ国中の125位という結果から、日本は世界と比較して圧倒的にジェンダー平等の実現が遅れていることが分かります。最大数値を1.0として示される数値において、「教育/0.997」「健康/0.973」の数値は世界トップクラスであるのに対し、「経済/0.561」「政治/0.057」の数値が低い状況です。

原因として、経済面では「男女の賃金の差異」「管理職比率」「男女の所得比」が、政治面では「議員・閣僚の男女比」「長官・管理職の在任年数の男女比」が挙げられていることから、とくに女性の社会進出が遅れていることが分かります。

※ジェンダー・ギャップ指数:世界経済フォーラムが毎年公表している、「経済」「教育」「健康」「政治」の分野毎のデータから算出した男女格差を示す指標

参照:【内閣府男女共同参画局】ジェンダー・ギャップ指数(GGI)2023年

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日本は女性管理職の割合が低い

帝国データバンクの公表によると、2023年の日本の女性管理職比率は9.8%です。諸外国の女性管理職比率は、アメリカが39.2%、イギリスが36.8%、フランスが35.5%であり、日本の女性管理職比率が非常に低水準であることが分かります。

参照:【帝国データバンク】女性登用に対する企業の意識調査(2023年)
参照:【国土交通省】『国土交通白書2021』女性管理職・役員比率の国際比較

次に、職位を問わず、全労働人口における年代別の女性比率を見てみましょう。

  • 40代の女性比率:28.2%
  • 50代の女性比率:15.9%

参照:CSR企業総覧(雇用・人材活用編)2021年版,東洋経済新報社,2021年1月18日

年功序列の人事制度が根強い日本では、40代~50代で管理職の地位が昇進していく出世コースが用意されてきた現状に反して、女性比率が40代で3割未満、50代で2割未満となると、管理職適齢期の女性候補が限られてしまっていることになります。これでは、女性管理職の増加を目論んでも、そもそも母数がいないという課題にぶつかってしまうのです。

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女性活躍推進法・改正の歩み

女性活躍推進法は2016年の施行後、複数の改正を経て今に至ります。施行と改正の歴史を振り返り、現行法律の内容とそのポイントを確認していきましょう。
※本章では改正【施行日】の年号を記載しています。【公布日】も文章中に明記します。

【施行】2016年

2016年の施行時、当該法律の対象となるのは「労働者301人以上の事業主」です。つまり、規模の大きい企業に向けた法律であったと言えます。


①:一般事業主行動計画の策定・届出および女性活躍に関する情報公表の義務(大企業)
②:「えるぼし」認定制度の開始


対象企業に対して、①を義務化、②を推進することで、企業の女性活躍のフィールドを広げる取り組みがスタートしました。

①:一般事業主行動計画の策定・届出および女性活躍に関する情報公開の義務(大企業)

一般事業主行動計画とは、企業が自社の女性従業員の活躍に関する状況把握と課題分析から目標を設定し、その目標を達成するための具体的な取り組み計画を指します。労働者301人以上の企業は、この一般事業主行動計画を策定し、労働者への周知と外部への公表を実施、さらに都道府県労働局へ届け出る義務があります。

一般事業主行動計画の策定、届出および情報公開の取り組みについては、次章で詳しく解説しています。

②:「えるぼし」認定制度の開始

一般事業主行動計画を届け出た企業のうち、女性の活躍推進に関する実施状況が優良かつ一定の要件を満たした企業は、都道府県労働局への申請することで厚生労働大臣から「えるぼし認定」を受けることができます。

認定には、「女性の活躍推進企業データベース」に女性活躍に関する取り組み実績を毎年公表していることが大前提です。また、一定の要件には、「採用」「継続就業」「働き方」「管理職比率」「多様なキャリア選択」という5つの基準を設けていて、満たす基準の数によって3段階の認定マークが発行されます。

認定を受けた企業は、えるぼしマークを商品や広告などに付してアピールすることができるのです。女性活躍を推進している企業であることをPRすることで、ブランドイメージの向上や採用力強化につながるでしょう。

参照:【厚生労働省】「えるぼし」認定とは

【改正】2020年

2020年に1回目の改正法が施行されました。追加および強化された項目は下記2つです。


改正①:女性活躍に関する情報公表の強化
改正②:特例認定制度「プラチナえるぼし」の創設


上記2つの改正内容は、2019年6月5日に公布され、2020年6月1日に施行されました。

改正①:女性活躍に関する情報公表の強化

2016年の施行時と同様、労働者301人以上の事業主を対象として情報公表の項目のうち、「職業生活に関する機会の提供に関する実績」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績」の2つの区分からそれぞれ1項目以上を公表することを義務付けました。2つの区分は下記に紹介します。

参照:【厚生労働省】都道府県労働局雇用環境・均等部(室)『女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!』/資料19頁(令和3年12⽉)

【区分1】職業生活に関する機会の提供に関する実績
  • 採用した労働者に占める女性労働者の割合
  • 男女別の採用における競争倍率
  • 労働者に占める女性労働者の割合
  • 係長級にある者に占める女性労働者の割合
  • 管理職に占める女性労働者の割合
  • 役員に占める女性の割合
  • 男女別の職種または雇用形態の転換実績
  • 男女別の再雇用または中途採用の実績
【区分2】職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
  • 男女の平均継続勤務年数の差異
  • 10事業年度前および、その前後の事業年度に採用された労働者の男女別継続雇用割合
  • 男女別の育児休業取得率
  • 労働者の一月当たりの平均残業時間
  • 労働者の一月当たりの平均残業時間(職種/雇用形態/就業形態等の雇用管理区分ごと)
  • 有給休暇取得率
  • 有給休暇取得率(職種/雇用形態/就業形態等の雇用管理区分ごと)

改正②:特例認定制度「プラチナえるぼし」の創設

「えるぼし」認定企業の中でも、一般事業主行動計画の取り組み状況が“特に”優良かつ、プラチナえるぼし認定が定める基準を満たすことが求められます。

「プラチナえるぼし」認定基準
  • 一般事業主行動計画の取り組み実施により、定めた目標を達成した
  • 男女雇用機会均等推進者と職業家庭両立推進者の双方を選任している
  • 「採用」「継続就業」「働き方」「管理職比率」「多様なキャリア選択」の5つの基準をすべて満たしている
  • 女性の活躍推進データベース」に取り組み実績に加えて、女性活躍に関する情報公表の項目のうち8項目以上を公表している

【改正】2022年

2022年の改正では、当該法律の対象となる企業が「労働者301人以上の事業主」から「労働者101人以上の事業主」に拡大されました。つまり、女性活躍推進の対象範囲が中企業以上の規模を持つすべての企業に及んだことを示しています。


改正③:一般事業主行動計画の策定・届出および女性活躍に関する情報公表義務(中小企業)
改正④:情報公表の項目に「男女の賃金の差異」を追加


改正③は、2019年6月5日に公布され、2022年4月1日に施行されました。
改正④は、2022年7月8日に施行されました。

改正③:一般事業主行動計画の策定・届出および女性活躍に関する情報公表の義務(中小企業)

一般事業主行動計画は、2016年施行時の規模の大きい企業(労働者301人以上の事業主)を対象とする内容から、約6年の時を経て中企業(労働者101人以上の事業主)まで範囲を拡大しました。これにより、一般事業主行動計画の策定・労働者への周知・外部への公表・都道府県労働局への届け出を実施する企業が増加し、女性活躍推進に取り組む企業が拡大しているのです。

改正④:情報公表の項目に「男女の賃金の差異」を追加

日本の男女間賃金格差の大きさは解決すべき課題の1つです。海外の先進国と比較しても、男女間の賃金格差はネガティブに目立ってしまう現状です。この現状を受け止め、賃金格差を縮小させるため、女性活躍推進法の制度改正によって「男女の賃金の差異」が情報公表の項目に追加されました。

さらに、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対しては、「男女の賃金の差異」の公表を義務としています。

常時雇用する労働者が301人以上の事業主には、上場会社の多くが対象となります。当該企業において、女性活躍推進法の定める「男女の賃金の差異」の公表義務に関しては、有価証券報告書のみの公表では足らず、「女性の活躍推進企業データベース」や自社のホームページでの情報公表が必要となります。これは、求職者やその他ステークホルダーが、どこに「男女の賃金に差異」の情報が明記されているかを把握しやすいようにするためです。

女性活躍推進法で義務化された取り組み

2016年に施行されて以降、日本企業の取り組み進捗と国際比較から改正を重ねてきた女性活躍推進法。対象となる企業は、この法律で定められた義務や取り組みをどのように果たしていくべきなのか、本章では義務化された取り組みの進め方を解説します。

女性従業員の活躍に関する現状分析

行動計画を策定する前に、まずは自社の現状を把握することから始めます。厚生労働省が公表する基礎項目を参考に、下記4つの内容から自社の課題を分析してみると良いでしょう。

1.採用した労働者に占める女性労働者の割合

男性を優先的に採用していないか、男女の採用基準は一定か

2.男女の平均継続勤務年数の差異

女性のキャリアを阻害する要因はないか、仕事と家庭の両立ができているか、女性だけが両立キャリアになっていないか

3.管理職に占める女性労働者の割合

女性の役員・管理職が少なくないか、女性の幹部候補は育っているか、女性のキャリアを阻害する要因はないか

4.労働者の各月ごとの平均残業時間数などの労働時間の状況

働きすぎていないか、仕事と家庭の両立はうまくいっているか、仕事の量は適切か

一般事業主行動計画の策定

現状分析の結果をもとに、一般事業主行動計画を策定していきます。この行動計画には、「計画期間」「数値目標」「取り組み内容」「取り組みの実施時期」という4つの指標を記載する必要があります。

行動計画の作成が初めての方もいらっしゃると思います。厚生労働省が公開している【行動計画策定かんたんガイド】も手元に置いて作成してみてください。

一般事業主行動計画の社内周知・外部公表

行動計画を策定したら、次に発信です。まずは従業員に対して行動計画を周知します。全体集会での発表、イントラネットへの掲載、パンフレットとして配布するなど、取り組み内容は可能な限り全社員が把握した状態を作りましょう。

次に、社外へ公表します。「女性の活躍推進企業データベース」を厚生労働省が管理しているため、このデータベースに登録することが外部公表の最優先事項です。他にも、会社のホームページに掲載したり、上場会社ないしはそれに準ずる会社が公開する有価証券報告書に記載したり、ステークホルダーが女性活躍推進の取り組み内容を把握できる形で公表しましょう。

ただし、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対しては、「男女の賃金の差異」の公表に限っては「女性の活躍推進企業データベース」への登録およびホームページでの掲載を義務化しています。

労働局へ届け出

そして、策定した行動計画を管轄の都道府県労働局へ届け出を行います。

実施後の効果検証

行動計画は目標設定ですから、労働局へ提出して完了ではなく、そこからがスタートです。設定した目標を達成できるように取り組みを推進しましょう。

現状から目を背けず、取り組みの進捗を把握することで、継続すべき施策と改善すべき課題を洗い出し、目標達成に向けて行動します。経営者だけが本気になっても、女性の活躍推進における会社の意識は変わりにくいです。だからこそ、社内への周知徹底が重要であるとお伝えしておきます。

参照:【厚生労働省】一般事業主行動計画の策定義務の対象拡大(中小企業の義務化)令和4年1月

女性ビジネスパーソンはどう思っているのか

ヘッドハンティングサービスを展開するプロフェッショナルバンク社が2024年に実施した「女性活躍・管理職に関する意識調査(上場企業の女性正社員約1,000名を対象)」をもとに、政府の推進する取り組みと女性ビジネスパーソンの意見を比較してみました。将来の女性管理職候補として、女性リーダーの育成指標や女性管理職の登用基準の参考としてお役立てください。

参照:【女性活躍・管理職に関する意識調査/上場企業の女性正社員約1,000名を対象】HR研究所・プロフェッショナルバンク

仕事と家事育児を両立しながら管理職を目指している女性ビジネスパーソン

女性リーダーは…いる!

Q:会社で女性リーダーが活躍していると思いますか?


■とてもそう思う:21.5%
■そう思う:40.0%
■あまりそう思わない:29.6%
■まったくそう思わない:8.9%


6割以上の女性ビジネスパーソンは、自社の女性リーダーが活躍していると認識しているようです。つまり、自身が女性リーダーとして働いている方も含めて、女性リーダーのロールモデルは会社に「存在している」ということが分かります。

女性管理職になりたいと思う人は少ない…

Q:将来、管理職に就きたいと思いますか?


■とてもそう思う:4.7%
■そう思う:17.7%
■あまり思わない:41.7%
■まったくそう思わない:35.9%


女性リーダーのロールモデルはいるはずなのに…。なんと、将来管理職に就きたいと思っている女性ビジネスパーソンは2割程度であり、ほとんどの女性ビジネスパーソンは「管理職になる」というキャリアを敬遠している現状が分かります。

管理職になるということで、「業務の負荷や責任が増える」「労働時間が長くなる」「仕事と家庭の両立がしづらい」といったハードルを感じている女性ビジネスパーソンが多くいるのでしょう。

女性管理職の人はキャリアの充実を感じている!

Q:管理職になって良かったと思いますか?(管理職の女性ビジネスパーソン対象)


■とてもそう思う:31.3%
■そう思う:47.6%
■あまり思わない:17.8%
■まったくそう思わない:3.3%


約8割の女性管理職の方が、管理職のキャリア形成に充実感を得ているという結果になりました。もちろん、管理職になりたいと思い精進して管理職のキャリアを歩んでいる女性も多いとは思いますが、女性ビジネスパーソンが敬遠する管理職に就く女性が感じるキャリアの充実感がもっと浸透していくと、女性活躍のフィールドが広がっていくことでしょう。

実際に、「新たなやりがいが生まれた」「成長につながった」といった声も挙がっています。

まとめ

今回は、女性活躍推進法が制定された背景から施行・改正の内容を解説してきました。女性の活躍を推進する目的は、男女雇用機会の均等を図るものです。つまり、女性も働きやすい職場環境の構築は、多様性のある組織文化を生み、全従業員が働きやすい会社への第一歩となるでしょう。

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