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ピープルアナリティクスとは?活用方法から分析手法・企業事例まで紹介

ピープルアナリティクスとは?活用方法から分析手法・企業事例まで紹介

近年、HRテック(Human Resources Technology)と呼ばれる科学技術を活用し,
企業が抱える人事課題を解決する取り組みが広がっています。人事のデジタル化が進む中、HRテック領域のなかでも特に注目されているのが「ピープルアナリティクス」です。

本記事では、ピープルアナリティクスというデータ活用の手法について詳しく解説します。ピープルアナリティクスを活用するメリットや注意点、導入時のプロセス、活用事例までまとめてみていきましょう。

ピープルアナリティクスとは?

ピープルアナリティクスとは、社員に関係する有効なデータを収集・分析し、人事に関わる意思決定に活用する手法です。客観的なデータを基にすることから、管理者の感情や主観による意思決定よりも、判断の精度を向上させることができます。さらに、あらゆるデータを複合的に分析することで、組織が抱える課題が明確になり、効果的に問題解決を図れます。

Google社の人事部が発祥といわれており、2011年ごろから広がりを見せ、その有効性から現在では多くの企業で導入が進んでいます。

Googleでは、ピープルアナリティクスを“人事に関する慣行、プログラム、プロセスなどをデータに基づいて理解すること”と定義。効果的で公正な意思決定を実現し、社員を採用・育成・定着させるための土台として活用しています。

People Analyticsの意味

ピープルアナリティクスは、英語では“People Analytics”と表記します。Analyticsは「分析」という意味を持ち、Peopleは「人々」という意味です。ここでいう人々とは、ビジネスの観点から「社員」を指していると解釈できます。つまり、ピープルアナリティクスは、人材戦略を実現するための「社員分析手法」といえるでしょう

ピープルアナリティクスとタレントマネジメントとの違い

以前から社員に関するデータを人材戦略に活用する手法として用いられてきたのが「タレントマネジメント」です。タレントマネジメントでは、社員(タレント)が持つ能力・スキル・経験といったデータを一元管理し、採用・人材配置・能力開発・人材育成に活かします。

ピープルアナリティクスとタレントマネジメントには、共通する部分が多いものの、活用するデータや、データを用いる範囲に違いがあります。

ピープルアナリティクスでは、人材データ以外にも、勤務データやデバイスデータ、オフィスデータといった周辺情報を収集し、人事に関するあらゆる意思決定に用います。一方で、タレントマネジメントでは、基本的には人材データにのみ着目し、主に採用・人員配置・能力開発・人材育成に活用します。

どちらかというと、ピープルアナリティクスは組織に焦点があり、タレントマネジメントは個人に焦点を置いています。いずれも組織全体のパフォーマンスアップのための取り組みであり、人材データを用いるという点において親和性が高いため、組み合わせて活用するのがよいでしょう。

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ピープルアナリティクスで収集・分析すべきデータの例

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それでは、具合的にピープルアナリティクスでは、どのようなデータを収集・分析するのでしょうか。

  • 人材データ
  • 勤務データ
  • デバイスデータ
  • オフィスデータ
  • 認知データ
  • 行動データ

意思決定の精度を高めるために必要なデータを6つに分けて解説します。

人材データ

人材データとは、ピープルアナリティクスの基盤になる人材の基本情報を指します。具体的には、個人情報(年齢・性別・連絡先など)・職歴・資格・スキル・評価・キャリアビジョン・給与・所属部署・健康診断の結果といった、属性を示すありとあらゆるデータです。

人材データ分析に活用できるツール紹介

・カオナビ
クラウド型の戦略的人事のためのタレントマネジメントシステム。顔写真ごとに人材データを一元管理でき、人材管理・人事戦略・人事評価・育成への活用が可能。初期費用+月額費用というシンプルな料金体系で、無料体験もできる。利用企業数は約3,000社。

・Talent Palette
科学的人事のためのクラウド型タレントマネジメントシステム。人材データの一元管理だけでなく、科学的なアプローチで意思決定や人材育成、離職防止、採用強化にデータの活用が可能。利用企業数は非公開、継続率は99%超。

勤務データ

勤務データとは、社員の働き方や勤務状況のデータです。具体的には、出勤/退勤時間・勤務時間・有給取得率・欠勤日数などです。勤務データを把握することで、働き方改革や有給取得の促進、定着率の向上に用いることができます。

デバイスデータ

デバイスデータとは、社員が使用する社内パソコン・社用スマートフォンといったデバイスに残るデータを指します。具体的には、デバイスの使用時間・インターネットの閲覧履歴・連絡先・通話履歴・メール/チャット履歴・アプリの使用履歴などが挙げられます。デバイスデータを分析することで、メンバー間のコミュニケーションの把握や業務量の最適化、業務効率の向上に役立ちます。

デバイスデータ分析に活用できるツール紹介

・Talknote
リアルタイムの情報共有プラットフォーム。伝言板・自己紹介・他の社員への称賛やヘルプを送る機能が搭載されており、社員同士のコミュニケーションの促進とコミュニケーション情報の蓄積・共有が可能。

・Chatwork
国内最大級の中小企業向けビジネスチャットツール。チャットのほか、音声/ビデオ通話・タスク管理・ファイル管理が利用可能で、誰でも使いやすいシンプルな機能・デザインが特徴。利用企業数は410,000社超。

オフィスデータ

オフィスデータとは、オフィススペース・設備・備品の使用に関するデータを指します。具体的には、会議室・休憩室・エレベーター・空調設備・複合機の利用状況や使用頻度、消耗品の使用量などです。オフィスデータを分析することで、職場の快適性やコミュニケーション量を把握でき、労働環境の改善につなげられます。

認知データ

認知データとは、社員が申告するデータを指します。具体的には、従業員満足度調査・ストレスチェック・キャリア志望・各種アンケートなどの意識や考え方の調査から得られる社員の回答が該当します。調査によって、得られる認知データの用途や活用シーンは変わるため、他のデータとかけ併せて分析することになります。

行動データ

行動データとは、就業時間中における社員の行動に関するデータです。具体的には、オフィスの入退出・社用車の位置情報などです。社員から申告されるものではなく、実際の行動がわかる情報が該当します。行動データを分析することで、パフォーマンスや認知への影響を考察することができます。

行動データ分析に活用できるツール紹介

・KING OF TIME
クラウド型勤怠管理システム。目的に合わせて打刻手段が選択可能で、正確な勤怠管理が可能。そのほか、休暇管理・各種申請/承認・給与計算ソフトと連携できる機能を搭載。初期費用は0円、固定費用は1人あたり300円とリーズナブル。導入企業数は49,000社、利用者数は2,930,000人超。

・jinjer勤怠管理システム
クラウド型勤怠管理システム。労働時間/残業時間/有給休暇の自動集計・打刻漏れの一括確認・各種申請/承認・アラート機能を搭載。外国語にも対応。料金は初期費用+固定費用1人あたり300円~。無料トライアル有り。

【活用できるシーン別】ピープルアナリティクスのメリット

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ピープルアナリティクスは、人事領域では幅広く活用できますが、特に採用・人材育成・人事評価・人材の定着において高い効果を発揮します。

採用におけるメリット

人材採用では、採用基準が不明瞭になりがちな傾向があります。特に、書類選考から試験の採点、面接担当者が異なる場合、評価する基準やポイントが異なる可能性があります。また、判断に際しても、個人の主観や好みが入ってしまい自社とのミスマッチを生む、または必要な人材を取りこぼす原因となっています。

ピープルアナリティクスでは、既存の社員の人材データから各ポジションに最適な人材が持つ要素を分析、定義付けを行います。求める人物像の条件・基準が明確になるため、候補者のデータと照らし合わせることで、該当ポジションとの適合性を客観的に判定できます。

人材配置・育成におけるメリット

人材の配置・育成においては、個々の特性やスキル、希望に応じた対応が求められます。総合的な判断が必要で、管理者や人事担当者の意見だけで決めてしまうと、本人の適性や希望を無視してしまう可能性もあります。

ピープルアナリティクスを用いれば、社員個人の人材データはもちろん、行動データや認知データを分析し、適材適所の人材配置が実現します。客観的データに基づいているため、決定に対する納得感も大きく、不満が出にくいのもメリットといえます。人材育成も同様に、本人のスキルや課題、キャリアビジョンに合わせて、個々に合わせた研修を行ったり、改善策を講じたりと効果的な対処が可能です。

人事評価におけるメリット

人事評価で問題に挙がりやすいのが、評価者によって評価に違いが出るという点です。評価基準が設けられていても、基準を満たしているかの判断が異なる場合もあります。人事評価への不満はモチベーションやエンゲージメント、パフォーマンスの低下すべてに直結しており、人材獲得が困難な現代において大きな企業課題といえます。

ピープルアナリティクスは客観的なデータを活用して公正かつ公平な意思決定を促すものなので、評価者による評価のバラつきを抑えることができます。評価者の感覚値を排除することで、社員も自身の成果に対する評価や改善点を素直に受け入れやすくなります。

定着におけるメリット

人材の定着率が低い企業は、総じて何らかの問題を抱えています。社員の退職が多ければ、採用・育成コストばかりかかって、生産性は上がらず、企業文化やノウハウも蓄積されません。企業にとってはマイナスばかりです。

ピープルアナリティクスで収集・分析したデータを使えば、退職者の傾向を把握できます。退職者が出やすい時期や退職前にありがちな行動のデータがあれば、兆候のある社員に対して離職しないようフォローアップが可能です。社員が働きにくいと感じている自社の問題点も発見しやすく、問題点が分かれば対策も考えられるでしょう。

ピープルアナリティクスを活用するときの注意点と対策

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組織のパフォーマンスアップのために有効な手段であるピープルアナリティクスですが、活用時にはいくつか注意点もあります。データの収集・分析は誰でもできるわけではなく、場合によっては却ってトラブル原因となることもあるため、計画的に導入するようにしましょう。

個人情報の取り扱い方

個人情報の取得をする際には、本人に収集の目的を伝え、取得した情報は本人の合意なしに、社内・社外の他人に渡したり、当初の目的以外に利用したりしてはいけません。よって、ピープルアナリティクスを始める場合、社員にすでに所有しているデータを含め、活用の合意を取る必要があります。

個人情報とは、名前や連絡先、顔写真といった個人を識別できる情報はもちろん、それらに紐づいている情報も含みます。個人が識別できる情報に紐づいている情報、つまり人事部が扱う社員の情報はほぼすべて個人情報に含まれます。たとえば、社員番号や健康状態、ポジション、評価、資格、異動履歴、研修の記録は総じて個人情報です。

2022年には、インターネットの閲覧履歴やCookie情報の第三者への提供にも制限がかかりました。また、パーソナリティに関わる情報は以前にも増してセンシティブな存在となっており、取り扱いには法的な知識と細心の注意が必要です。

データの客観性の確保

公正かつ公平な意思決定を行うためには、データ自体の客観性が重要です。属人性の強いデータを活用しても、ピープルアナリティクスは成立しません。収集したデータが事実と異なっていれば、分析以降すべてのフェーズにおいて、間違った判断を行うことになります。

まずは、データを標準化できるよう、全社でデータの取得方法やフォーマットを統一しましょう。部署や職種、情報を収集した人、情報を入力した人によって、違いを出さないことが重要です。主観が入り込まないよう、データの収集・入力における基準を明確にし、ルール遵守を徹底してください。

担当者のスキル

客観的なデータがあっても、分析する担当者のスキルが乏しければ、データから導き出される仮説の妥当性は大幅に下がります。ピープルアナリティクスは、アナリストの能力に大きく依存するのです。また、アナリストと意思決定者は異なることから、意思決定者にはデータを活用するためのスキルが必要です。

よって、ピープルアナリティクスを導入するためには、データの分析スキル・活用スキルを持つ人材の確保が欠かせません。データサイエンティストの採用や外部研修による担当者の育成、ピープルアナリティスクに強い企業への委託など、データを有効に使うための対策が必要です。

【4ステップ】ピープルアナリティクスの活用プロセス

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それでは実際にピープルアナリティクスを始めるときのプロセスを確認しましょう。

  1. データの蓄積
  2. 目的の設定
  3. データの分析
  4. 施策の実行

すぐには導入できないことを前提に、中長期的な視点を持つことがポイントです。

1.データの蓄積

最初は、各種データを蓄積するところから始めます。データの蓄積というと簡単に聞こえますが、かなりの時間と予算、労力が求められます。

一般的にすべてのデータが一元管理されている企業は少なく、部門・部署や管理する情報によってシステムが異なるものです。そのため、まずはデータを蓄積するプラットフォームの統合を行わなければなりません。新しいプラットフォームの導入に際しては、既存ツールからの移行や業務プロセスの変更が必要で、社内からの反発もあるでしょう。

また、先述の通りデータの客観性を担保するために、データ収集やシステムへの入力作業におけるルールやフォーマットづくりも必要です。全データを同時に収集することは難しいため、優先度が高いデータ・収集しやすいデータから順次蓄積していくようにしましょう。

2.目的の設定

続いて、自社が抱える課題から、データを活用する目的を設定します。ピープルアナリティクスは人事領域全般の意思決定に活用できますが、企業が抱える課題ごとに導入の目的は異なります。

採用・人材配置・人材育成・人事評価・離職防止など、どの領域においてデータを活用したいのか明確にしましょう。例としては、「採用活動において入社後のミスマッチをなくしたい」「社員の離職率を下げたい」などです。データをどこで何のために使うのかによって、必要なデータが異なる場合があります。

3.データの分析

データの分析では、人材データの要素別に、その他のデータの要素との関係性を深堀していきます。分析手法はデータの種類や分析の目的によって多岐にわたるため、アナリストの能力が問われるフェーズです。

ただし、限られた情報の分析から導き出される答えは、あくまでも仮説でしかありません。確実性を求めすぎると、施策の幅が狭まることもあります。今あるデータからすべての答えが出るわけではなく、分析に組み込まれていないデータに問題の要因が隠れていることも考えられます。現場の社員とコミュニケーションを取ってアナログな情報も収集しつつ、意思決定者が総合的に判断することが重要です。

4.施策の実行

仮説が立てられたら、問題解決に向けて施策を策定して実行に移します。基本的に、一度の検証で最適解が出ることはありません。施策を進めていくと、施策に対する社員の意見や新たに得られたデータが追加されることで、次の仮説が浮かび上がってきます。

データのより高度な分析・活用を行うためには、意思決定者と協力して、何度も議論と仮説の再設定、そして検証を積み重ねることが重要です。ピープルアナリティクスは、データの蓄積から施策の実行までのプロセスを繰り返す取り組みと認識するとよいでしょう。

ピープルアナリティクスの活用事例

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最後は、ピープルアナリティクスを活用し、組織の変革や事業の拡大に取り組んでいる企業事例をみてみましょう。

日立製作所

日立製作所は、日本で先行してピープルアナリティクスを含むHRテックを導入した企業です。2015年にピープルアナリティクスを導入した採用活動を開始し、2017年にPeople Analytics Labを設立しています。

日立製作所の場合、採用者のデータを分析し、人材タイプの分類を可視化したところ、採用者の性格に偏りがあるという結果が出ました。そこで、性格の異なる優秀な人材を採用できるように、不足しているタイプの人材を積極的に採用する新卒採用の改革に踏み切っています。

パーソルホールディングス

人材関連サービスを展開するパーソルホールディングスも、2015年からピープルアナリティクスを含むHRデータを活用した取り組みを始めました。ProFuture株式会社主催「HRテクノロジー大賞アナリティクス部門」の最優秀賞を2016年・2017年の2年連続で受賞。2020年には人事データ戦略室を設立し、社員の活躍を支援できるデータ活用を推進しています。

パーソルホールディングスのシンクタンクであるパーソル総合研究所では、2017年にピープルアナリティクスラボを設立し、人工知能AIを活用した最適な人材配置を支援するサービスの提供も開始しています。

セプテーニ・ホールディングス

電通グループ傘下のデジタルマーケティング会社セプテーニ・ホールディングスでは、2014年から人材データを活用した採用活動を開始。採用段階でパーソナリティ診断や360度評価を行い、結果をもとに予測される入社後のパフォーマンスも踏まえて選考を行っています。

さらに、入社後もデータを基に配属の判断や育成を行うなど、意欲的にピープルアナリティクスに関する取り組みを進めています。

ピープルアナリティクスで効率的に人事課題を解決しよう!

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ピープルアナリティクスを活用すれば、企業にとっても社員にとっても納得感がある精度の高い意思決定が実現します。採用から配置、育成、評価まで人事領域における課題も抽出でき、効率的に人事課題の解決を図ることも可能です。

一方で、ピープルアナリティクスの具現化には、情報を分析するためのデータサイエンスのノウハウだけでなく、個人情報を適切に扱うための倫理感やデータマネジメントの知識も求められます。もちろんデータを提供してくれる社員の協力も欠かせません。必要に応じて、新たな人材を採用したり、ピープルアナリティクスのノウハウを持った企業に協力を仰いだりしながら、より効果的な人材データの活用を目指しましょう。

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