従業員エンゲージメントとは?構成要素、施策例、人的資本経営との結び付きを解説!

企業が円滑な業務を行っていくうえで、従業員からの信頼は不可欠な要素です。従業員と企業が信頼関係で結ばれ、共に成長していくことで企業はより一層成長していきます。
しかし、残念ながら離職してしまったり、在籍はしているもののやる気を感じられなかったりする社員は一定数いるものです。そのような場合には、企業が従業員エンゲージメントの向上を図る必要があります。
本記事では、従業員エンゲージメントの意味を、構成要素と取り組みから本質を紐解き、人的資本経営を支える重要な指標であることを明確にしていきます。
目次
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントとは、従業員が所属企業や担当業務に対して愛着や誇りを持ち、自発的に貢献したいと思う意欲のことを指します。この概念の根本には、企業と従業員と間に強い絆・信頼関係があり、共に必要な存在として貢献し合いながら成長できる関係が存在しています。
ワークエンゲージメントとの違い
従業員エンゲージメントを語る際、「ワークエンゲージメント」と「従業員エンゲージメント」という言葉が混在して使われることがよくあります。
しかし、これらは目的も測定軸も異なる概念であり、明確に区別することが実効性ある施策の設計に直結します。
定義の違い|従業員エンゲージメント 対 ワークエンゲージメント
従業員エンゲージメント | ワークエンゲージメント | |
定義 | “組織・経営理念”に対する愛着・信頼・貢献意欲 | “仕事そのもの”に対する熱意・没頭・活力 |
関心対象 | 組織文化、人間関係、ビジョン | 業務内容、やりがい、自己成長 |
施策の違い|改善アプローチの切り分け
従業員エンゲージメント | ワークエンゲージメント | |
施策内容 | ビジョン浸透、社内コミュニケーション活性化、心理的安全性の確保、経営層との対話 | 業務内容の再設計、ジョブクラフティング、スキルマッチング |
目的 | 組織への共感・信頼感を育み、長期的な定着と貢献を促す | 仕事の充実感を高め、モチベーションを内発的に高める |
従業員の状態を適切に把握し、どちらのエンゲージメントを高める必要があるのかを明確にすることが、効果的な人事戦略・組織開発のカギとなります。
従業員エンゲージメントを構成する3要素
英国ロンドンに本社を構えるウィリス・タワーズワトソン社は、従業員エンゲージメントを構成する要素として「理解度」「帰属意識」「行動意欲」の3つを挙げました。
従業員エンゲージメントは単なる“満足度”や“好感度”とは異なり、組織との関係性を多面的に捉える複合概念です。この3つの視点から従業員の状態を把握することで、エンゲージメント施策の優先順位や改善の方向性がより明確になります。1つずつ解説していきます。
構成要素その1:理解度
従業員が自社の理念・ミッション・戦略方針をどの程度正しく理解し、共感しているかを表す要素です。
「理解度」の重要性
- 自社の方向性に納得していない従業員は、“目的意識”を持ちにくくなり、仕事が“作業”になりがちです。
- 経営理念や部門方針が明確に伝わっていれば、自身の業務とのつながりを感じやすくなり、“やりがい”が増します。
「理解度」を高める施策例
- ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の定期的な社内発信
- 経営層とのダイアログ(経営報告会、Q&Aセッション)
- 上司による方針の言語化・現場への翻訳力の強化
構成要素その2:帰属意識
従業員が“この組織の一員でありたい”と感じる感情的なつながりの強さを指します。
「帰属意識」の重要性
- 帰属意識が高い従業員は、離職意向が低く、困難な状況でも組織とともに課題解決を志向します。
- 心理的安全性やインクルージョン(包摂感)も、この要素を強化するための重要な土台です。
「帰属意識」を高める施策例
- チームビルディング・部門横断プロジェクトの推進
- 1on1ミーティングやフィードバック文化の醸成
- 多様性を尊重する制度設計(働き方・人事評価・福利厚生の柔軟性)
構成要素その3:行動意欲
従業員が自らの意思で“組織に貢献したい”という前向きな行動につながる意欲を持っているかを表します。
「行動意欲」の重要性
- 行動意欲が高い従業員は、創意工夫・改善提案・挑戦的行動が活発で、組織全体の生産性にも好影響を与えます。
- 「評価されるからやる」のではなく、「この仕事に意味があるからやる」という内発的動機づけがエンゲージメントの源泉となります。
「行動意欲」を高める施策例
- 成果よりも“貢献プロセス”を重視した評価制度の設計
- キャリア支援(スキルアップ・越境学習・ローテーション)
- 挑戦や提案を歓迎する心理的安全性の高い職場づくり
「理解度」「帰属意識」「行動意欲」のいずれかが欠けても、従業員エンゲージメントは十分に高まりません。たとえば、「ビジョンには共感しているが、自分の居場所がない」と感じれば、早期離職につながります。逆に、「仲間は好きだが仕事にやりがいがない」となれば、生産性の低下やモチベーションの枯渇が起こります。
だからこそ、企業はこの3つの視点から定期的に組織の状態を診断し、データに基づいた改善アクションをとる必要があります。次章【従業員エンゲージメントを可視化する取り組み】で具体策を紹介します。
従業員エンゲージメントとは、単なる「一体感」ではなく、共感・信頼・行動の循環を育む戦略的取り組みなのです。
従業員エンゲージメントを可視化する取り組み
従業員エンゲージメントの向上には、まず現状を「見える化」することが不可欠です。
直感や感覚だけに頼るのではなく、定量的なデータに基づいた分析を行うことで、改善の方向性を明確にすることができます。
パルスサーベイ
短い設問を定期的に行う調査で、従業員の心理状態やモチベーションの変化をリアルタイムに把握できます。週次や月次などで継続的に実施することで、職場環境やマネジメントへの反応を継続的に追跡できます。
エンゲージメントサーベイ
年1~2回の頻度で実施する網羅的なアンケート調査です。
「職場への満足度」「上司との関係」「組織ビジョンの浸透度」など、エンゲージメントに関わる複数の要素を包括的に分析します。
eNPS(従業員ネット・プロモーター・スコア)
「あなたはこの会社を友人や知人に勧めたいと思いますか?」という1問に対して0〜10点で評価してもらう指標です。
従業員のロイヤリティや推薦意向を数値化することで、企業の魅力度をシンプルに評価できます。
従業員エンゲージメントの向上を目指す上で、「何が課題なのか」を正確に把握することは不可欠です。そして、可視化されたデータは「点数を上げること」が目的ではなく、「働きがいのある組織づくり」につなげる手段です。
サーベイや分析ツールを活用した定量的な可視化は、施策の精度を高め、PDCAを回すための起点となります。多忙な現場でも実行可能な形で「声を拾い、改善につなげる仕組み」を整えることが、エンゲージメント経営の鍵となるのです。
エンゲージメント向上のカギを握るEVPとEX
従業員エンゲージメントを本質的に高めるためには、「働きやすさ」や「報酬」だけでなく、「組織が従業員に提供できる“体験価値”」に着目する必要があります。
ここで近年注目されているのが、EVPとEXという2つの重要な概念です。
EVP(従業員価値提案)とは?
EVP(Employee Value Proposition)とは、企業が従業員に対して提供する価値の総体です。報酬や福利厚生といった「ハード面」に加え、キャリア支援や働きがい、組織文化などの「ソフト面」も含まれます。
主なEVPの構成要素
- 報酬・福利厚生(Compensation & Benefits)
- 成長機会・キャリア開発(Learning & Development)
- 企業文化・風土(Culture & Purpose)
- 働き方の柔軟性(Work Style & Flexibility)
- 社会的意義・貢献性(Mission & Impact)
企業がこのEVPを明確に定義・発信することで、優秀な人材の採用力・定着力が高まり、エンゲージメントの源泉となります。
EX(従業員体験)とは?
EX(Employee Experience)は、従業員が企業で働く中で得る体験のすべてを指します。採用・配属・昇進・人間関係・IT環境・退職まで、“入社から退職までの全タッチポイント”における体験の質が、エンゲージメントに大きく影響します。
主なタッチポイントにおける具体的な体験例を紹介します。
タッチポイント | 具体的な体験例 |
採用 | 面接官の丁寧な対応、スピーディーな選考 |
配属 | 初期研修の質、上司との関係構築支援 |
人間関係 | フリーアドレスのオフィス設計、歓迎イベント |
日常業務 | 業務ツールの使いやすさ、心理的安全性、リモート勤務 |
評価・昇進 | 公平性・透明性のある評価制度、納得感のあるFeedback |
離職・卒業 | 円満な退職支援、アルムナイネットワークの参加 |
EVPとEXが従業員エンゲージメントに与える影響
EVP=企業が掲げる“ブランドの約束”、EX=その約束を従業員が“実感”できているかどうか、と捉えるとイメージしやすいでしょう。
従業員エンゲージメントは、一時的な制度やイベントで高まるものではありません。
企業が「どんな価値を提供するか(EVP)」、そしてそれを従業員が「どう実感するか(EX)」という2つの視点を持ち、戦略的に整備していくことが中長期的な組織力強化につながります。
「この会社で働く意味がある」と思える環境を、体験設計×価値提案の視点からつくることが、真のエンゲージメント経営への第一歩となるのです。
従業員エンゲージメントが支える人的資本経営の本質
日本では2023年3月期より、有価証券報告書(および統合報告書、サステナビリティレポート)における“人的資本の情報開示”が義務化されました。従業員を“コスト”ではなく“資本”と捉え、中長期的な企業価値創出のために戦略的に人材に投資する「人的資本経営」の考え方において、従業員エンゲージメントは組織力の健全性を測るバロメータとしての重要な役割を果たしています。
従業員エンゲージメントの可視化と改善は、単なる人事施策に留まらず、「経営・財務に影響する“非財務資産の開示項目”」と見なされているのです。
このような社会の変化を見ると、従業員エンゲージメントは、もはや人事部門だけのテーマではなく、経営戦略やIR戦略を支える中核指標となっています。人的資本経営を推進するうえで、「社員の共感と活力をどう可視化し、改善し続けられるか」が企業競争力に直結しているということでしょう。
- 組織を支える“人材”への投資は、経営そのもの
- 経営と人事が連携し、「働く価値」の向上に投資する企業が、選ばれる時代
企業がどれだけヒトを大切にし、育て、活かしているか。
その姿勢こそが、人的資本の質を測る最大の尺度であり、エンゲージメントがその真価を映し出します。