ヘッドハンティング研究

リアリティショックとは?ヘッドハンティング採用では起きにくいのはなぜ?

リアリティショックとは?ヘッドハンティング採用では起きにくいのはなぜ?

採用した人材の早期離職率が高い、新任マネージャーのモチベーションが低い、エンゲージメント調査結果が悪かった…。これらの要因は、リアリティショックによる可能性が考えられます。リアリティショックは、理想と現実のギャップにショックを受けてモチベーションの低下や離職の要因にもなるものです。一方でヘッドハンティングの採用では、このリアリティショックは生じにくいとされています。

リアリティショックはなぜ起こるのでしょうか?ヘッドハンティング採用プロセスを参考にその対策までを解説していきます。

リアリティショックとは?

リアリティショック(英名:reality shock) は、「理想と現実のギャップにより精神的打撃を受けること」と定義することができます。生活スタイルや責任感がこれまでとは大きく変化する新卒社員で起こりやすい事象と思われがちですが、中途採用の人材でも起こり得ますし、既存のベテラン社員でも異動や昇進後に生じる可能性がある課題となっています。

半世紀以上続く重要な要素

リアリティショックの概念自体は約半世紀前から存在していて、米国の組織心理学者E.C.ヒューズによって提唱されたのが起因となっています。日本においては、1980年代ごろから医療分野で注目され始め、看護学校(大学)での学びと臨床現場とのギャップによって起こる、新人看護師の離職率を抑える要素として研究されて来ました。現在では、製造業やサービス業など全産業において、離職率や従業員エンゲージメントを保つ重要な課題として注目されています。

近年の調査でも、パーソル総合研究所が2019年の実施した「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」結果によると、入社後に何らかのリアリティショックを感じたと回答した社会人は76.6%にも及ぶことが明らかになっています。また、同調査では「リアリティショック」を防ぐには、会社への「入社前の会社・適性理解」をいかに高めるかが重要と提唱されており、新卒、中途いずれも選考過程や内定前後での相互理解の重要性を示しています。

リアリティショックが生まれにくい“ヘッドハンティング採用”

当社プロフェッションバンクの調査では、ヘッドハンティング手法によりスカウトした候補者が移籍先の企業へ入社後、早期離職(6か月以内)する比率は1%未満となっており、入社前の会社理解と本人の適正理解が十分に実施されていることが分かっています。

ヘッドハンティング採用では、(1)候補者が転職潜在層であること、その為に(2)面接ではなく面談による相互理解が行われるというプロセスの特徴があり、それがリアリティショックを生じさせない要因となっています。上記(1)と(2)によって、なぜリアリティショックが生じないのか?について詳細を後段で解説していますが、よりご理解を深めていただくために、リアリティショックが起こる要因やタイミングを先にご紹介します。

リアリティショックが起こる要因は何か?

リアリティショックが起こる要因はいくつも考えられますが、代表的なものは以下です。

  • 業務内容とのギャップ
  • 自己能力とのギャップ
  • 社風や対人関係でのギャップ
  • 待遇や評価に関するギャップ

業務内容とのギャップ

リアリティショックの要因のひとつが業務内容とのギャップです。入社前に想像していた業務と実際に差が大きければ大きいほどギャップが生まれます。例えば、「即戦力として期待している」とされて入社した営業マンが先輩の同行営業ばかりで、いつになっても自分の担当企業を持たせてもらえない場合がそうです。いつから何が出来るのか?双方の認識に差が無いように相互理解をする必要が本来はあります。

自己能力とのギャップ

自身の能力やスキルが思っていたほど業務で発揮できない、または足りていないことを自覚することでリアリティショックが起こります。学生時代に取得した資格を活かして仕事が出来ると思っていたのに、実務では役に立たないケースや、前職で上位の成績だった中途入社の社員が、転職後は他社員の成績に圧倒されるケースなどがあげられます。

社風や対人関係でのギャップ

リアリティショックは、社風や対人関係で生まれることがあります。離職理由の調査で上位の常連である対人関係ですが、先にご紹介した組織心理学者E.C.ヒューズも、特にリアリティショックが生まれる要因として、“組織の上司や同僚との関係性”であると提唱しています。社風が肌に馴染まずにギクシャクした毎日をおくったり、先輩や同僚と年齢が離れすぎていて、仕事がしづらかったりすることなどがあげられます。

評価や待遇に関するギャップ

評価や待遇に関してギャップを感じた時も、リアリティショックが生じる要因となります。評価や待遇に関してギャップを感じやすくなるのは新卒社員よりも、勤続年数がある程度長い社員が多く、昇給や昇格に対して期待していたものと違った場合が該当します。個人でどれだけ頑張っていても組織業績が重視されて評価されない場合や、明らかに努力や工夫のない同僚が自分より評価されたり、出世したりした場合などが該当します。また、上司から評価に対するフィードバックを得られる機会が少ないと、評価されていないように感じてギャップを感じることがあります。

リアリティショックが起こりやすいタイミング

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リアリティショックは、どのようなタイミングで引き起こされるのでしょうか?代表的なシーンは「新入社員として入社した時」、「異動や昇進・昇格した時」、「産休・育休から復帰した時」とこれまでの生活と環境が変わるタイミングが多いようです。ただ、その中でも最も注意を要するのが、新入社員として入社した時になります。異動や昇進・昇格、産休・育休は広くは同じ会社での環境の変化であるのに対して、新入社員としての環境の変化は、別世界へ身を投じることに他ならないからです。

新入社員のリアリティショックとは?

リアリティショックは新卒・中途採用に限らず、新入社員として入社したタイミングで起こりやすいと言われています。新卒社員は、思い描いた社会人生活のとのギャップに打ちのめされ「5月病」と揶揄されることもありますが、これまでに背負ったことのない責任感や学生時代とは異なる人間関係の在り方、自己評価と現実能力の乖離などが重くのしかかるものです。早期離職を防ぐためにも、この時期の新卒社員の心理状態をしっかり把握しておく必要があります。

また、中途社員に関しても、前職の経験があまり活かせない、上司や同僚のサポートが想像以上にない、労働時間が求人票記載よりも断然多い、など想像していた転職後の未来とのギャップでリアリティショックが引き起こされます。

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リアリティショックがもたらす悪影響

リアリティショックは、従業員のモチベーションを低下させ、エンゲージメントも低下し、離職へとつながる可能性があります。次にリアリティショックが従業員や組織に与える影響について解説していきます。

モチベーションの低下

リアリティショックの影響として最初に現れるのが、当該従業員のモチベーションの低下です。理想と現実のギャップを受け入れらなないまま仕事をしていると、新しい組織や業務に慣れて成長していくことが難しくなってきます。モチベーションが低下した社員は、業務への積極性が失われ、自発的行動が出来なくなるばかりか、ミスの増加や成果が上がらない状況が続くため、他の社員がフォローに回る必要も生じます。結果として、組織としての負担が増えることになりかねません。

エンゲージメントの低下

リアリティショックの影響として次に現れてくるのが、エンゲージメントの低下です。仕事に対する理想と現実のギャップは、仕事に対するコミットメントを失わせて、結果としてワークエンゲージメントが低下していきます。また、人間関係や風土に対するギャップは、組織に対するコミットメントを失わせて、結果として従業員エンゲージメントが低下していきます。この悪影響がリアリティショックを受けた当事者に留まっていたなら、まだ良いのですが、モチベーションの低下による他従業員の負担増や早期退職が発生すると、悪影響の範囲は個人から組織全体へ広がりかねません。

早期退職につながる

リアリティショックの影響でモチベーションもエンゲージメントも下がれば、最悪の場合は、離職の引き金になることも考えられます。離職となれば、採用コストや入社後の教育コスト、そして他従業員のモチベーションやエンゲージメントにも悪影響が出る可能性が考えられます。

リアリティショックが発生しにくいヘッドハンティング採用

ここまで、リアリティショックが発生する要因やその影響を見てきましたが、これらからは、なぜヘッドハンティングの採用手法を用いた場合、その候補者たちにリアリティショックが発生しづらいのかを紐解いていきます。

転職潜在層がターゲットであること

まず前提となるのが、ヘッドハンティング採用の場合は候補が転職潜在層であることです。求人媒体や人材紹介など一般的な転職サービスに登録する求職者は、ビジネス人口の約5%とされています。
しかし、その中から企業が理想とする人材を確保するのは非常に困難です。プロフェッショナルバンクのヘッドハンティングは、転職市場にいない95%の層もターゲットとし、優秀な人材を見つけ出し、企業への移籍を後押しています。当然ながら、これらの候補者は、転職する動機が求職者に比べて低い傾向にあります。

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採用過程が面接ではなく面談であること

次にヘッドハンティング採用の場合、転職潜在層とは「面接」ではなく「面談」を実施しています。転職潜在層の採用は、企業が通常の採用のように求職者の応募を募るわけではなく、企業側から「当社で働く気はないか?」と非転職活動者へ声をかけていくわけなので、企業にアドバンテージがある“選考”=面接は行わない方がうまくいきます。

通常の面接と面談の内容にはいくつかの違いがありますが、面談の目的は「企業側が候補者に“この企業で働きたい”と思ってもらう」ことであり、その為に会話は「企業側から自社の課題や魅力を伝え、候補者から会話を引き出す」ということが中心になってきます。

ヘッドハンティング面談と一般的な面接の違い

本音が語られにくい一般的な面接

この表からもわかるように、一般的な面接では企業と候補者の心理とアクションはそれぞれ以下のようになっています。

企業のアクションと心理
・企業側から質問する
・候補者を選考する
→心理は、「当社の採用基準を満たしているか見極めよう」

候補者の心理とアクション
・しっかりと自己アピールする
・自己に不利益な情報を閉ざす
→心理は、「内定をもらいたい」

企業は、選考する立場ですから候補者が採用基準を満たしているか?を見極めるために複数の質問をしていきます。候補者は、それに応じる中で自己をアピールしていくのです。立場上で優位な企業は自ら自社のウィークポイントや課題をオープンにすることは稀であり、候補者も時には誇張な自己アピールを行い、自己に不利益な情報を自らは発信しません。

それにより、企業の情報開示と候補者の真の適正を見極めることができず、表面的な相互理解となり、「入社前の会社・適性理解」が不十分なまま入社を迎える企業が見られます。

相互理解が深まるヘッドハンティングの面談

一方のヘッドハンティング面談における心理とアクションを見ていきましょう。

企業のアクションと心理
・自社の課題や魅力を伝える
・候補者から会話を引き出す
→心理は、「当社が選ばれるように魅力や候補者の必要性を伝えよう」

候補者の心理とアクション
・等身大の自分を表す
・企業の課題を十分に把握
→心理は、「企業に魅力(条件)があれば転職を」

まず企業側は、なぜヘッドハンティングまでして“あなた”が必要なのか?その背景や課題をしっかりと伝えていきます。また、候補者の職務や職責の詳細を伝える一方で、目の前にいる候補者は自社の課題を解決してくれるのか?候補者から会話を引き出していきます。

候補者は選考されているわけではなく、また転職の必要性が必ずしも高くない為、自己アピールの必要性も不利益な情報を閉ざす必要もありません。

相互のフォローをヘッドハンターが行いながらではありますが、こうして企業と候補者は“ありのまま”に近いやり取りを行うことで、相互理解が深まり、採用に至った場合には「入社前の会社・適性理解」がしっかりと出来ている状況になるのです。他にも面談の過程では、上司や同僚との顔合わせや会食なども交えながら、社風や人間関係でのギャップが無いように努めていきます。

リアリティショックを防ぐ入社前の対策

ヘッドハンティング採用に限らず、採用フローの中で「入社前の会社・適性理解」が深まればリアリティショックを未然に防ぎ、新入社員のモチベーションの低下や離職率の抑制が可能になると思われます。最後に一般の採用でもリアリティショックの予防となる3つのポイントをご紹介します。

1.実態に即した情報開示をする

面接をはじめとする採用活動の段階で、実態に即した情報開示をすることが大切です。採用過程で労働条件の説明を行うことも重要ですが、働く従業員のワークスタイルやエンゲージメントに関する開示を積極的行う会社が候補者に選ばれ、また、リアリティショックを未然に防ぐポイントになっていくと思われます。

2.候補者の経験・スキルを理解できる面接担当で挑む-または、リファレンスチェックを実施する

一般の採用面接は30分~1時間程度が多いものです。適性を本当に理解するには時間が限られています。ましてや候補者の自己アピールが誇張したものや虚偽だった場合、残念ながら就業後にミスマッチが発生してしまいます。候補者の経験やスキルを見極める質問や候補者発言の真偽を確認できる現場の担当者を同席させたいものです。

また、近年では経歴や成果の真偽を問うためにリファレンスチェックを実施する企業も増えています。日本にはまだまだ馴染みがない採用フローですが、第三者に候補者のことを確認できる貴重な手段です。

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3.同僚や上司との顔合わせの機会を提供する

社風や人間関係のギャップを未然に防ぐために、出来るだけ配属先の上司や同僚と顔合わせする機会を設けるとよいでしょう。ヘッドハンティング採用の場合は、会社や工場見学を実施して入社後に会社の雰囲気に馴染めるか?を出来るだけ事前に把握してもらえるように努めています。

まとめ

リアリティショックは、理想と現実の乖離を目の当たりにして、モチベーションの低下や離職を引き起こすものであり、新卒・中途に限らず新入社員に起こりやすい課題ということをご紹介してきました。

ヘッドハンティングでは、候補者が転職潜在層であるという属性から採用フローに特徴があり、結果として「入社前の会社・適性理解」が深まりやすくなっています。また、一般の採用においても入社前に相互理解が深まる対策を可能な限り実施することで、リアリティショックを防止して貴重な人材の定着率向上に繋げられるのではないかと思います。

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