人事ねた

T型人材とは?企業が育成に取り組むべき理由、育成のポイント、人物タイプの比較を解説。

T型人材とは?企業が育成に取り組むべき理由、育成のポイント、人物タイプの比較を解説。

社会の変化により、求められる人材は変わるものです。労働人口の減少とグローバル化によって、多くの企業で人材確保・人材育成がトップクラスの経営課題となりました。その中で、注目を集めているのが、ビジネスパーソンの分類の1つ「T型人材」です。

本記事では、T型人材の特徴やその他の人材タイプとの違い、T型人材が組織にもたらす影響、育成のポイントをまとめました。事業拡大や組織成長のために、効率的な人材採用や人材育成を模索している経営者や人事の方はぜひ参考にしてください。

T型人材とは?

T型人材とは、専門分野のスペシャリストとしてのスキルと同時に、専門外の分野の知見も併せ持つ人材のことです。英語のTにおける縦線が“専門性”を意味し、横線が“知識の幅”を示しています。スペシャリストとゼネラリスト、両方のスキルを持つハイブリッド人材と捉えることができるでしょう。

T型人材は、世界3大コンサルティング会社の1つであるマッキンゼー・アンド・カンパニーが、1978年、管理工学誌の論文にて初めて提唱した考え方です。1991年に組織心理学者であるデイビッド・ゲスト(David Guest)氏がイギリスの新聞で同概念を取り上げ、それを世界的デザインコンサルティング会社IDEOのCEOティム・ブラウン(Tim Brown)氏が支持したことで、世界に広がりました。
2 2

なぜT型人材が求められるのか

現在、技術革新に伴い、顧客ニーズないしは消費者ニーズは多様化し、プロダクトライフサイクルは短期化しています。その中で、従来のスペシャリスト・ゼネラリストという枠組みに限界が生じています。

たとえば、AIやIoTなどの最新技術を扱うためには、高い専門性が必要です。一方で、最新技術を駆使した商品やサービスの企画・提供のためには、技術に関する知見に加え、経済・医療・ロボット工学・語学といった他分野の知識が求められます。

複雑かつ変動的な社会の中で、競争優位性を高めるには、「スペシャリスト要素」と「分野を超えた経験により新しい知見を習得する能力」を併せ持つT型人材の必要性が高まっているのです。

T型人材とその他人材タイプとの比較

3 2
T型人材を理解するうえで、よく比較される人材タイプが4つあります。

  • I型人材
  • π型人材
  • △型人材
  • H型人材

組織にも多様性が求められる現代、T型以外の人材の特徴やT型人材との違いについても理解しておくと、人材戦略に活かすことができるでしょう。

I型人材との違い

I(アイ)型人材とは、特定の専門分野について深い知見を持っている、いわゆるスペシャリストを指します。モノづくりの日本が重宝してきた人材で、技術者や研究者がI型人材に該当します。

先述のとおり、T型人材はゼネラリストとスペシャリストのハイブリットです。ゼネラリストとしての要素を持つか否かが、T型人材とI型人材の違いといえます。

π型人材との違い

π(パイ)型人材とは、2つ以上の専門分野に精通したスペシャリストであり、専門外の分野の知見も併せ持つ人材を指します。英語では、「ダブルメジャー(Double-major)」と呼ばれています。

T型人材の場合、高い専門性を持つ分野は1つです。そのため、専門領域が2つ以上あればπ型人材に該当します。専門領域が増えれば増えるほど、より高度な判断や独創的な発想が期待できるため重宝されますが、複数領域の専門性を身につけることは高い能力が必要なので希少性も上がります。

△型人材との違い

△(トライアングル)型人材とは、3つの専門分野に精通したスペシャリストを指します。英語では、「トリプルメジャー(Triple-major)」と呼ばれます。

3つ以上の専門領域を持っていることから、こちらも希少性が高い人材です。ただし、T型人材とπ型人材と違い、その他分野の幅広い知見、つまりゼネラリストの要素は求められません。

H型人材との違い

H(エイチ)型人材とは、I型人材の要素、つまり特定の専門分野に精通したスペシャリストであり、他分野のI型人材と横のつながりを構築できる人材です。I型人材を横軸で繋いでいることから「H」が用いられました。中央の横軸が、両端の「I」と「I」を橋渡ししているイメージです。

異なる分野の人材がコラボレーションすることで、今までの常識では考えられない革新的なイノベーションの創出が期待されます。そのため、「イノベーション人材」と表現されることもあります。H型人材を活かせば、組織や国・地域を超えた横断的なプロジェクトが実現できるようになります。

T型人材が組織にもたらすメリット

4 2
T型人材について分かってきたところで、T型人材を確保することによる組織のメリットを確認しましょう。

  • ユニークでオリジナリティのあるアイデアが生まれる
  • 他業種との協力によりビジネスを拡大できる

多様化する社会において、T型人材の持つ能力とその影響の価値は高まっているといえます。

ユニークでオリジナリティのあるアイデアが生まれる

T型人材は、従来のスペシャリストやゼネラリストでは思いつくことが難しかったユニークでオリジナリティのある発想を生み出します。

特定分野のみに精通したI型人材の場合、専門分野への知見が深い一方で、その他分野への繋がりがなく、固定概念に捕らわれやすいことから、専門分野の範囲内の発想に留まる傾向があります。反対に、ゼネラリストは広い視野で総合的な判断やマネジメントを得意としますが、専門的な知見がないためスペシャリストからの知識の提供なしに、的確な判断ができません。

T型人材は、スペシャリストとして専門的な知見と、ゼネラリストとしての多角的な視点を組み合わせることができます。よって、今までにないアイデアを思いつきやすいのです。

他業種との協力によりビジネスを拡大できる

T型人材は、対人スキルを活かし、他業種との協力によりビジネスを拡大させる力も持っています。

従来、スペシャリストとゼネラリストが分業していたことにより、スペシャリストは専門外の人とは関わる機会がありませんでした。しかし、T型人材であれば、コミュニケーションスキルや交渉力といった対人スキルや、臨機応変に対応できる柔軟な思考力、多くの人と関わってきた経験があります。

ゼネラリストとしての要素を持つことで、広い分野・組織の人材との連携が実現しやすくなるでしょう。

オープンイノベーションとは?意味・種類・メリット・デメリット・企業の取り組み・事例を紹介!

T型人材が持つべきスキル

5 2
それでは、T型人材を育成・確保するときには、どのようなスキルに着目すればよいのでしょうか。

  • アナロジー的思考力
  • 情報分析力
  • 自律的な行動力
  • オーナーシップ

T型人材になるために必要なスキルを4つ解説します。

アナロジー的思考力

アナロジー思考とは、異なる物事を組み合わせることで共通点を見つけ、解決策を導き出す思考法を指します。アナロジー(analogy)とは、「類推」という意味です。類推とは、「物事の間に類似点があることを前提に、一方の物事が持つ要素は他方の物事も同じ要素を持つであろうと推理すること」または「類似点をもとに、全体像を推し測ること」を指します。

このアナロジー思考を持っていれば、異なる分野の知見を組み合わせ、新たなアイデアや問題の解決策を発見することができます。T型人材の特徴といえるスキルです。

情報分析力

情報分析力とは、情報を調査・収集・分析したうえで、結果を客観的に捉え、複合的な考えをまとめる能力を指します。変化が激しい現代で高いパフォーマンスを発揮しようとすると、常に最新の知識や価値観のインプットが必要です。しかし、情報社会においては、収集した情報を取捨選択し、どの情報が正しく、どの情報を組み合わせれば解にたどり着けるか、自分で分析・判断できなければなりません。

情報分析力が乏しいと、必要な情報を逃してしまう可能性もあります。T型人材には、情報を収集し、正確に現状を分析し、意思決定や将来の予測に役立てる力が求められています。

自律的な行動力

自律的な行動力とは、他者の考えや指示に縛られず、自分の規範にしたがって自らの意思で行動できる力を指します。自律的な行動は、「目標意図」と「実行意図」の2つの要素に分けて考えられます。目標意図は「自分が成し遂げたいことを明らかにすること」で、実行意図は「目標実現に向けていつ・どこで・どのようにするのかを明らかにすること」です。この2つの要素がなければ、自律的な行動はできません。

T型人材は、多方面へのアプローチが必要です。自ら目標を設定し、実行する能力がなければ実現は難しいでしょう。

オーナーシップ

オーナーシップとは、当事者意識を持って取り組む姿勢を指します。現代は、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)のあるVUCA時代です。この不明瞭かつ予測困難な社会においては、自律的な行動ができるだけでなく、課題の発見や解決策の検討まで一貫して対応できる能力が求められます。

課題の発見や解決策の検討では、組織の問題を自分事にして考える必要があります。T型人材には、問題解決に繋がる当事者意識が必要なのです。

T型人材を育成するポイント

6 2

今後を見据え、社員をT型人材として育てたいと考えている企業も多いでしょう。そこで、最後は、T型人材を育成するときに抑えておきたいポイントを解説します。

  • 早期に育成を始める
  • まずは1つの専門分野について習得させる
  • 異なる分野の経験値向上を支援する
  • 働き方の柔軟性を担保する
  • 多様性のある組織を構築する

T型人材は一朝一夕で確保できるものではないため、長期的な計画を立てましょう。

早期に育成を始める

T型人材の育成は、できるだけ早い段階から始めておくことが重要です。これまで、スペシャリストかゼネラリストどちらかを目指す場合でも、育成には時間がかかるものでした。スペシャリストとゼネラリストの両方の要素が必要となれば、育成までにはより多くの時間を要することは容易に想像できます。

そのため、採用時から長期的な育成スケジュールを立てるようにしましょう。また、スペシャリスト・ゼネラリスト両方に必要なスキル・知識を身につけるためには、研修制度や内容の見直しが必要です。

まずは1つの特定分野について習得させる

育成においては、まずは特定分野を極めるところから始めましょう。T型人材になるためには、基礎となる特定分野への専門性が必要となります。最初は「I」を育て、ゼネラリストとしての領域を横に伸ばして「T」型にするイメージです。

T型人材の素質がある社員に対しては、外部研修や資格取得支援、出向、同業との交流会への参加など、その分野におけるスキル・知識・経験を蓄積できるようサポートしましょう。スペシャリスト要素とゼネラリスト要素を同時に伸ばそうとしても、時間もキャパシティも足りず、却って成長を阻害するリスクがあります。

異なる分野の経験値向上を支援する

ある程度スペシャリストとしての専門性が備わってきたら、ゼネラリスト要素を伸ばすために異なる分野についても経験値を高める機会を増やしましょう。

幅広い経験を積める機会としては、ジョブローテーションや複数部署の合同プロジェクト、外部研修、業界の交流会などが挙げられます。マネジメント経験を積むために、チームやプロジェクトを任せてみるのもよいでしょう。

ジョブローテーションとは?メリット・デメリットを正しく理解して、目的を持った制度運用の実現へ

働き方の柔軟性を担保する

近年の人材育成・確保においては、柔軟な働き方を認めることが重要になってきています。特にT型人材のような従来の枠に当てはまらない人材を育てるためには、社外での学びや活動、社外の人材との交流が欠かせません。

たとえば、リモートワークやフレックスタイムの導入、副業・兼業の許可、時間単位の有休取得など、働き方を選択できるよう整備しましょう。

多様性のある組織を構築する

多様性のある組織を構築することで、T型人材が育ちやすい環境を確保できます。一般的に、社内には同じような価値観・スキル・経験を持つ人材が集まりやすいため、視野や経験の幅が狭くなりがちです。一方で、多様な人材が集まれば、異なる価値観や視点からの意見や発想、知識に触れる機会を増やすことができるため、T型人材に必要な多様な経験を得やすくなります。

多様性のある組織を構築するためには、働き方の多様化はもちろん、人事評価制度や採用基準、給与形態、社内ルールなど制度やシステム面での改変が求められます。多様な人材が働ける環境づくりが、多様性のある組織の構築につながるでしょう。

まとめ

本記事では、これからの時代に重要性が増す「T型人材」について詳しく解説しました。

不明瞭で不確実かつ、複雑な現代社会において、スペシャリストとゼネラリストの強みを持つT型人材は、ビジネスの拡大に欠かせない存在となりつつあります。一方で、人材獲得競争は激化しており、希少性が高い人材の確保は難しくなっています。

「採用するのか育成するのか」「どのようなポジションで何の業務を任せるのか」「そのタイプの人材には何を期待するのか」を含め、今一度人材戦略を練り直して見ると良いでしょう。

こんな記事も読まれています