ワールドカフェとは?リラックスがもたらす効果的な会議の進め方を紹介
社内の交流や人間関係の構築、多様な意見の抽出に役立つ「ワールドカフェ」。通常の会議とは異なり、気軽に発言できるカフェのような雰囲気のなかで行われるのが特徴です。
本記事では、ワールドカフェの基本情報や、実施による効果・問題点、具体的な進め方について解説します。ワールドカフェを用いることで、社内のコミュニケーションが活性化され、社員同士の相互理解を促すことができます。実施時のポイントも詳しくまとめたのでぜひ参考にしてください。
目次
ワールドカフェとは?
ワールドカフェとは、リラックスした雰囲気のなかで行われる会議のことです。厳かな雰囲気で絶対的に1つの結論を出さなければいけない会議とは異なり、参加した全員が自由に発言するため、さまざまな意見やアイデアを収集することに長けた会議体と言えます。
ワールドカフェの発祥
ワールドカフェは、偶然の出来事に由来します。1995年のアメリカ、アニータ・ブラウン氏とデイビット・アイザックス氏は、自宅に専門家を招き、知的資本経営に関する会議を開催しました。会議2日目はテラスで話し合いを行う予定でしたが、あいにくの大雨で当初の予定を変更することになります。
急遽家の中で実施することになったため、参加者は会議が始まるまで、テーブルクロスの代わりに模造紙を敷いて、コーヒーを飲みながら雑談を始めたといいます。そのうち、知的資本がおしゃべりのテーマとなり、気が付けば模造紙に意見を書き留めたりテーブルを移動したりと、良い雰囲気のなか対話が続けられました。
その話し合いは、堅苦しい会議ではなく、まるでカフェでの雑談のようだったとか。これが、ワールドカフェの始まりとなりました。
ワークショップとの違い
前提として、ワールドカフェはワークショップの1つです。しかし、通常のワークショップとは異なる要素も持っています。
ワークショップは、与えられたテーマに対して共同作業を行い、成果物を作り上げる活動です。話し合いの進行はファシリテーターが行います。
対して、ワールドカフェは、自由な発言の権利を有する参加者が対話を介して意見やアイデアを出し合う活動を指します。ワールドカフェは、対話をすることが目的であり、成果物は必要ありません。また、全体の流れをつくるファシリテーターは必要ですが、実際に話し合いを行う各グループにはファシリテーターは置きません。話し合いの進め方について規定は設定しないのです。
ワールドカフェの目的
ワールドカフェの目的は、参加者全員が意見を出し合って、新たな気づきを得たり参加者同士の理解を深めたりすることを主としています。
カフェでおしゃべりをするようなカジュアルな雰囲気のなか、参加者から意見や知識を集めるだけ。結論を出したり課題を解決したりすることはありません。
ワールドカフェで目指す「対話」と「会話」「議論」の違い
ワールドカフェは「対話」を行うことが大きなポイントです。対話とは、会話のなかで感情や価値観を交換することを指します。
ワールドカフェでは、「会話」や「議論」をするわけではないので、実施に際しては混同してしまわないよう注意が必要です。
会話:日常的に行われるコミュニケーションや挨拶
議論:議論は結論を出すことを目的に意見を戦わせること
話し合いのレベルは、「会話」で信頼関係を築き、「対話」で価値観を交換、「議論」で結論を出すという3段階があります。ビジネスシーンでは議論が求められることが多いものの、議論を交わすためには、「対話」を行う段階を経る必要があるのです。
ワールドカフェがもたらす効果
議論をしないのであればビジネスシーンで活用する必要はあるのかと感じる人もいるでしょう。しかし、ワールドカフェは、一般的なワークショップや議論にはないメリットが多々あります。
・発言が飛び交う活発な会議になる
・参加者の相互理解が深まる
・多様な視点のアイデアが生まれる
ここからは、ワールドカフェ実施によってもたらされる効果について紹介します。
発言が飛び交う活発な会議になる
リラックスした雰囲気を演出するワールドカフェでは、気軽に自分の意見を伝えやすくなるため通常の会議よりも発言が多くなります。
対話では、相手の意見を尊重し、否定しないことが大前提です。また、4人程度の少人数で行われるため、普段は自分の意見を発信しにくい人でも、ワールドカフェなら発言しやすいでしょう。誰もが発言する機会があり、否定されないということで、通常の会議では出てこない意見や情報の抽出が可能です。
参加者の相互理解が深まる
対話は、価値観を共有するステップです。参加者全員が発言することで、共通点や考え方の傾向を把握することができます。社内でワールドカフェを行えば、同部署内や他部署間の相互理解につながり、ワールドカフェの実施中だけではなく、以降のビジネス連携にも良い影響が期待できます。
ごく少数で行われることから、通常の交流会や会議よりも、深く相手を知ることもできます。共通認識の形成や信頼関係の醸成にも役立つでしょう。
多様な視点のアイデアが生まれる
ワークショップでは、参加者全員が発言し、複数のテーブルでメンバーを入れ替えながら意見を出し合います。成果物を完成させたり結論を出さなければならなかったりするゴールも決められていません。
さまざまな価値観を基にした幅広い意見が多く集まることで、アイデアを組み合わせてみたり、良い部分だけを抽出してみたりと、多様な視点からのアイデアを創出できます。
ワールドカフェの問題点
魅力あふれるワールドカフェも、その特性から一部留意しておきたい点が存在します。
・結論を出す必要があるケースには向かない
・テーマから脱線して雑談になりがち
ワールドカフェ実施で起こり得る問題をみていきましょう。
結論を出す必要があるケースには向かない
ワールドカフェは多様な意見や考え方を収集したり、参加者同士の交流を深めたりするための場であり、結論を出す行為はNGです。そのため、結論を導き出したいテーマを話し合いたい場合や、課題に対する解決策を検討したい場合には向きません。
ワールドカフェで出た意見やアイデアをどこかで活かしたい、結論までまとめたいという場合は、別途機会を設けるようにしましょう。
テーマから脱線して雑談になりがち
ワールドカフェは、カフェでの雑談のようにリラックスした雰囲気のなかで対話ができることを目指します。だからこそ、設定されたテーマから話が逸れてしまいがちです。
テーマが変わってしまうと、発言しにくい人が出て来たり、議論になってしまったりとワールドカフェの趣旨とズレが出てしまう可能性があります。各グループにホストを設置して、テーマから大きく逸れた場合は軌道修正できるようにしておきましょう。
ワールドカフェの進め方
続いては、実際にワールドカフェをどのように進めるのかみていきます。
①目的・ルールを周知する
②話し合うテーマを発表する
③テーマについて自由に話す ~初期グループ~
④メンバーを変えて更に深掘りする ~第二グループ~
⑤初期グループに戻り、アイデアを共有する
⑥全体でアイデアを共有する
ワールドカフェは大きく上記の6ステップで進められます。ただし、必ずしも順番通りに進めなくても構いません。状況をみながら、参加者がリラックスして話し合える環境を維持することが重要です。
①目的・ルールを周知する
ワールドカフェは、リラックスした雰囲気のなか行われるものですが、単に和気藹々の交流ではなく、ビジネスのヒントに繋がる会議であるということが前提です。そのため、ワールドカフェを実施する目的を明確に提示し、話し合いのルールを設定しましょう。
具体的にどのようなルールを定めたらいいのかは、次章【ワールドカフェを運用するための3つのポイント】の章内で解説する「対話時のエチケットを明確にする」をご確認ください。
②話し合うテーマを発表する
続いて、運営者側で候補として用意しておいたテーマを発表します。テーマ選びのポイントと話しやすいテーマの例については、次章【ワールドカフェを運用するための3つのポイント】の「<テーマ>に関するポイント」で解説します。
③テーマについて自由に話す ~初期グループ~
4~5人程度のグループに分かれて、自己紹介を行い、提示されたテーマについて20~30分程度話し合います。テーマから脱線しないように、出た意見を紙に書き出しながら、多様な意見が出るように対話を続けます。
このとき、特定の人物が一方的に話してしまうことも起こり得るため、話し手・聴き手を明確に分ける工夫が必要です。詳しくは、次章【ワールドカフェを運用するための3つのポイント】の「トーキングオブジェクトを用意する」をご確認ください。
④メンバーを変えて更に深掘りする ~第二グループ~
各テーブルにホストとして1人を残し、その他の参加者は興味があるテーブルに移動してもらいます。その後、それぞれが自己紹介をして、ホストが初期グループで話し合った内容を共有します。そして、初期グループで出た意見をふまえつつ、新たに20~30分対話を行います。
この第二グループでの話し合いは、最初の対話よりもより深いものになるよう、他人の意見に対する質問を積極的に行うことがポイントです。
⑤初期グループに戻り、アイデアを共有する
第二グループでの話し合いが終わったら、ホスト以外が初期グループのテーブルに戻ります。ホストは、第二グループで出た意見を戻ってきたメンバーに、メンバーは他のテーブルで出た意見をお互いに伝え合います。
このとき、誰かの意見を否定したり優劣をつけたりしないよう注意しましょう。
⑥全体でアイデアを共有する
最終的には、各テーブルで出た意見を全体で共有します。このときも、結論を出そうとしたり意見の優劣を付けないように配慮します。また、意見を全体に共有するときは、各メンバーが最終的に感じたことや考えたこと、参加者に伝えたいことなども合せて共有すると、参加者同士の関係構築に役立ちます。
ワールドカフェを運用するための3つのポイント
最後は、ワールドカフェを効果的に運用するためのポイントを紹介します。ワールドカフェの実施は、「テーマ選び」「環境整備」「進行」の3つの視点で整理できます。
<テーマ>に関するポイント
ワールドカフェでは、何を話し合うのかというテーマ選びが重要になります。議論のように意見を戦わせるわけではないため、多様な意見が集まる、対話のきっかけになるテーマが望しいです。
具体的には、「力強さ」「オープンさ」「ポジティブさ」を意識したテーマが有効です。
力強い問いである
「力強い問い」とは、誰もが自分の意見を持ち、周囲の人と共有しやすいテーマを指します。
参加者が当事者意識を抱けないテーマだと、自分の意見が思い浮かばず、活発な発言を期待できません。また、宗教や政治、ジェンダーのようなセンシティブなテーマは、たとえ自分の意見があったとしても、共有した時点で誰かと意見がぶつかったり、気分を害してしまったりするリスクがあり、話しやすい話題であるとはいえません。
オープンな問いである
「オープンな問い」とは、回答となる選択肢が予め用意されていないテーマを指します。たとえば、Yes・Noや良い・悪いなどどちらかを選択しなければならない問いは、意見が2通りしか出ないことになるため、せっかく自由な発想で気楽に意見を発信できるワールドカフェの強みを活かせなくなります。
多種多様な意見が集まるように、参加者の意見の範囲を制限せず、自由に答えられるテーマを用意しましょう。
ポジティブな問いである
リラックスした雰囲気で対話をしてもらうためには、「ポジティブな問い」であることは大前提です。誰かの失敗を追及したり、将来的な不安を駆り立てたりするネガティブなテーマだと、発言の自由度が制限されてしまいます。発言しにくい雰囲気があれば、十分な意見が集まりません。
なるべく、前向きな気持ちで話し合いができるテーマを選びましょう。
ワールドカフェで有効なテーマ例
ワールドカフェのテーマ選びにお困りの場合は、下記を参考にしてみてください。
- 多様性のある組織とは、どのようなメンバーが集まる組織?
- 他部署との垣根を超えた連携を増やすには、どのような工夫が必要?
- 結束力のあるチームに必要な要素は?
- 自社が競合他社に勝つために必要なことは?
- 自社のイメージを改善するためには、どうしたらいい?
- AIがビジネスシーンで使われるようになったときにどのような変化が起きる?
- ○○での経験は、今後の業務でどう生かせる?
- 自分があったらいいなと思う商品やサービスは?
<環境>に関するポイント
2つめのポイントは、ワールドカフェを実施するときの環境整備です。
・参加を促すテーブル配置やテーブルセッティングを意識する
・リラックスできるアイテムを準備する
・トーキングオブジェクトを用意する
環境面では主に上記3点について配慮しなければなりません。
参加を促すテーブル配置やテーブルセッティングを意識する
テーブルの配置やセッティングでは、楽しみながら参加できる工夫を施しましょう。
テーブルごとに異なる色の模造紙を広げ、参加者がどの色のテーブルに行くか選ぶ楽しみを作ります。カラーペンも異なる色・太さのものを用意します。
さらに、机の形をあえて違うものにしたり、机の向きを不揃いに配置したりして、堅苦しい雰囲気を排除します。テーブル同士の距離が近いと、隣のグループの声の影響で同じテーブルの人の声が聞き取れないことが考えられるので、余裕を持った広さの会場を使用しましょう。
リラックスできるアイテムを準備する
いかにリラックスした雰囲気を作れるかが、多様な意見や親密な交流を促す鍵となります。言葉で「リラックスして取り組みましょう」と伝えても、そう簡単にリラックスできる人はいません。つまり、運営側の配慮や演出が重要になります。
ワールドカフェが誕生したあの日のように、参加者が好きなドリンクを飲み、お菓子やスイーツを食べながらカジュアルな雰囲気のなか自由に対話してもらうことが目標です。数種類の飲食物や会場を飾り付ける花・緑、季節を感じられる装飾などを用意して、「いつもの会議」とは異なる雰囲気を作りましょう。お客様を自宅に招くときのように、おもてなしの気持ちを持つことがポイントです。
トーキングオブジェクトを用意する
少人数とはいえ、人前で話しやすい人・話しにくい人が存在します。そこで用意しておきたいのが、トーキングオブジェクトです。トーキングオブジェクトとは発言する人が手にするアイテムで、話し手と聴き手の役割を視覚的・肉体的にはっきりさせてくれます。
使い方は簡単で、テーブルの真ん中にトーキングオブジェクトを置いて、発言する人はトーキングオブジェクトを手に取ってから話し、話し終わったらテーブルに戻します。
トーキングオブジェクトを用いることで、誰か1人が話し続けることを防ぎ、参加者全員の話を集中して聞くことができるでしょう。
<進行>に関するポイント
最後のポイントは、実際に対話を行うときの進行についてです。
- ファシリテーターとスタッフ間で意識を共有する
- 対話時のエチケットを明確にする
- アイスブレイクを取り入れて参加者間の関係性を構築する
- グループ内にはファシリテーターを置かない
- 結論の発表はしない
進行はその場の状況に合わせて柔軟に対応を変えなければならないので、とくに運営時に難しいポイントといえます。
ファシリテーターとスタッフ間で意識を共有する
当日は、司会を務めるファシリテーターと、会場の準備や進行をサポートするスタッフで進めることになります。ファシリテーターやスタッフは、ワールドカフェ開催の目的や当日の流れ、雰囲気づくりについてしっかりと共通認識を持っておくことが重要です。
認識にズレがあると、進行に支障が出たり、会場の雰囲気が悪くなったりする可能性があります。ファシリテーターとスタッフ間の雰囲気が、そのまま会場の雰囲気になりかねないのです。
また、ファシリテーターは、当日の会場の雰囲気や進行状況を見て、臨機応変にラウンド数や時間、各テーブルの人数などを調整しなければなりません。ワールドカフェの成功は、ファシリテーターの育成にかかっているといっても過言ではありません。
対話時のエチケットを明確にする
対話をするときは、ワールドカフェならではのエチケットを徹底しなければなりません。ルールを無視する参加者がいると、リラックスした雰囲気で発言することができなくなります。
- 参加者との対話を楽しむ
- 他人の話に興味を持ってきちんと聞く
- 他人の話に質問をして対話を広げる
- 人の意見を否定しない
- テーマから脱線しない
- 意見は模造紙に書き留める
- 議論をしない、結論を出さない
上記のようなルールは、必ず守るよう周知しましょう。全員が安心して気持ちよく参加できる雰囲気づくりが重要です。
アイスブレイクを取り入れて参加者間の関係性を構築する
ワールドカフェでは、お互いについてあまり知らない参加者が集まります。そのため、対話に入る前に、話しやすい雰囲気を作るためのアイスブレイクを入れましょう。
アイスブレイクは、会場全体で行うもの、テーブルごとに行うものがあります。時間に余裕がない場合は、テーブルごとのアイスブレイクのみ実施しましょう。たとえば、自己紹介時に、部署や業務内容といった社内での肩書のほか、プライベートについてのポジティブな話題を1つプラスして話してもらいます。少しでも笑顔になれれば、和やかな空気になるでしょう。
会場全体を巻き込んだアイスブレイクをするときは、フレームワークやゲームを活用して、参加者同士が楽しく関わり合える工夫を考えてください。
グループ内にはファシリテーターを置かない
ワールドカフェでは、テーブルごとにファシリテーターを配置しません。ワールドカフェでは、あくまでも自由な意見が活発に飛び交うことを目的にしているため、全員が話し手であり聴き手である状況を作ることが大切です。
参加者には事前にテーブルごとにファシリテーターを置かないこと、誰かが仕切る必要はないことを周知しておくとよいでしょう。各テーブルに配置されるホストも、話し合いの進行係というわけではありません。
結論の発表はしない
ワールドカフェでは、運営側が話し合うテーマを用意しますが、結論は発表しません。結論を出そうとすると、議論になってしまい、対話を行うというワールドカフェの趣旨から逸脱してしまいます。正解を探すことになるため、発言の幅も狭くなってしまうのです。
結論の発表はプログラムに組み込まないようにしましょう。
まとめ
今回は、リラックスした状態で多様な視点の意見を集め、参加者同士の交流や相互理解を促せる「ワールドカフェ」について解説しました。ワールドカフェでは、議論を行ったり成果物を完成させたりすることはなく、少人数での対話を行います。参加者全員が発言する機会を作ることができ、誰かの意見を否定することなく受け入れることで、異なる価値観の理解や新しいアイデアの創出にもつながるでしょう。
社内コミュニケーションの活性化や新入社員同士・新入社員と既存社員の相互理解を目指す場合は、参加者の価値観を共有できるワールドカフェを活用してみてください。