人事ねた

高齢者の就労環境について考える

高齢者の就労環境について考える

定年を迎えても、まだまだ働きたい。そうした意欲を持つ高齢者は大勢います。一方で、経験豊富な高齢者は企業にとっても貴重な労働力です。うまくマッチングできれば双方にメリットが生まれるはずですが、そこがなかなかうまくいきません。どこに問題があり、どうすれば解決できるのでしょうか?

関連記事としてこちらも併せてご覧ください

シニア社員向け研修で組織力強化!その重要性やメリット・成功法を紹介

労働意欲が高い、日本の高齢者たち

今後10年以上にわたって、日本の労働人口は減り続けていきます。これは、就業年齢人口そのものが減少していくためで、こればかりはどうすることもできません。そうした現状を踏まえ、産業界は行政と連携し、さまざまな対策に取り組んできました。中でも高齢者雇用は、その大きな柱のひとつとなっています。
そもそも日本の高齢者は、世界的に見ても働き者であるようです。内閣府が発表した「平成18年版 国民生活白書」によると、年齢層ごとの人口に占める労働人口の割合である「労働力率」は、60代以上では欧州各国やアメリカ、韓国よりも、日本は高い水準にあります。各国の高齢者政策の違いなどの要因はあるでしょうが、日本では定年を迎えたからといってリタイアするのではなく、「引き続き仕事をしたい」と考え、実際に仕事を続ける高齢者が多いということになります。
仕事を続ける理由については「経済的理由」が最も多く、男性の60代前半で71.8%、60代後半でも60.3%を占めています。ただし、そのすべてが「生活に困っている」というわけではないようです。高齢者の消費意欲は以前よりも高まっていますから、「それまでの生活水準を維持するために働く」という高齢者が、一定数存在すると思われます。
老いても働き、そのお金で日々を楽しむ。現代日本の高齢者は、なかなかアクティブなのかもしれません。

再就職を阻む最大の壁は年齢制限

高い労働意欲を持つ高齢者ですが、そのすべてが職に就けているわけではありません。その意欲に応える就業機会は、決して十分ではないのです。実際に60代以上の潜在的な失業率を見ると、全年齢平均を大きく上回っています。
仕事をしたいのに仕事がない。その最大の理由は、年齢の壁なのです。
仕事を求める高齢者にとって、この年齢制限は最も高いハードルとなります。これがあるために就業できないばかりか、求職活動そのものをあきらめてしまうケースも少なくありません。定年後の再就職ができなかった高齢者のうち、「年齢制限」を理由に挙げたのは60代前半で49.6%、60代後半で61.9%、70歳以上の層でも43.2%に上りました。
年齢ばかりは、どうすることもできません。定年退職した会社に再雇用されるケースは別として、高齢者の再就職ではこの点がネックになります。そうした高齢者の受け皿となっているのが、従業員数99人以下の小企業、さらにはパート・アルバイトです。
ことにパート・アルバイトは、拘束時間が長くないことや勤務日数にも融通が利くことから、体力的な理由でこうした就労形態を希望する高齢者は多いようです。

企業側に求められる、柔軟なアプローチ

さて、定年退職後の高齢者がなお高い労働意欲を持つ一方、その受け入れ先となる企業はどのような意識を持ち、どのような施策を打ち出しているでしょうか。
人生経験、業務経験がともに豊富で、その経験に裏打ちされた能力を持つ高齢者は、労働力として有力な存在です。2013年に改正された「高年齢者雇用安定法」の施行もあいまって、高齢者の雇用確保措置を実施する企業も増えつつあります。そうした企業では、社員が定年を迎えたあとは有期雇用の契約を交わし、そのまま再就職という形を取ることが一般的です。この形であれば、慣れ親しんだ職場で仕事を続けられますし、企業側としても安心して業務を任せられますから、双方にとってメリットとなります。
ですが、高齢者雇用は企業にとってデメリットも潜んでいます。例えば再雇用前と同じ処遇を取ると、人件費負担のために新しい人材を採用しにくくなります。また、高度な経験や技術が必要な業務が高齢者に多く回されることで、若い人材の経験機会を奪ってしまいます。これは、若い世代のモチベーション低下を起こしやすいほか、長期的な目で見ると技術やスキルの継承が行われないなど、大きな問題に発展する危険も秘めています。
そのため、企業が高齢者雇用をスムーズに進めていくためには、細部にわたる配慮と、柔軟で緩やかなアプローチが必要になると考えられます。

高齢者雇用のモデル、ダイキン工業の取組み

高齢者の再雇用の事例として、独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した、世界的な空調機メーカーであるダイキン工業のケースを紹介しましょう。
同社は、1970年代後半から、定年・再雇用についてさまざまな制度を導入してきました。現在は定年を60歳とし、希望者全員に65歳までの再雇用制度を適用していますが、その内容は柔軟です。
まず勤務形態は「フル勤務」「短時間勤務」「隔日勤務」「登録型」の4種類。これは、企業側の必要性はもちろんですが、本人の希望を勘案して決定します。登録型は、「本人が希望する仕事が発生したときに勤務する」という形で、アルバイトのような勤務形態といえます。もちろん、賃金は勤務形態によって異なりますが、再雇用前の賃金にかかわらず全員同額となっています。
この再雇用制度は、定年を迎えた社員の8割以上が利用しているとのことで、すっかり定着していることがうかがえます。ですが、一方で課題も含んでいるようです。
元々この制度は、本人のやりがいや収入の安定という、福祉の意味合いが強いものです。また、労働意欲の温度差や成果のばらつきといった、仕事の質の問題もあります。そのため、全員一律の処遇を基本にしながらも、そこに成果報酬の要素を加えるなど、さらなる改変の余地はあるでしょう。
いずれにせよ同社のこうした取組みは、高齢者雇用に対する企業のアプローチの典型と見ることができるのではないでしょうか。

こんな記事も読まれています