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レディネスとは?求められる理由や人材育成に活用する方法を解説

レディネスとは?求められる理由や人材育成に活用する方法を解説

同じ仕事でも人によって習得の時間や程度に違いがあることは、周知のことでしょう。この差に関係している心理学の概念が「レディネス」です。レディネスは近年、人材育成に活用できる考え方としてビジネス分野からの注目度が上がっています。

本記事では、個人と組織の成長につながるレディネスについて詳しく解説します。なぜレディネスがビジネスシーンで求められるようになっているのか、どのように人材育成に活かすのか、確認しましょう。

レディネスとは?

レディネスとは、学習のための事前準備のことです。英語ではReadinessと表記し、「準備」を意味する“ready”と「状態」を意味する“ness”で構成された用語で、準備が完了している状態を示します。

つまり、レディネスのある者は興味関心と積極性が備わった状態での学習を享受することができます。一方で、レディネスのない者は興味関心がない心理状態で学習することになり、効果的な知識の習得には至らないのです。

レディネスという言葉は、心理学者・教育学者であるエドワード・L・ソーンダイク氏が1913年に発表した「レディネスの法則」の中で提唱されました。その後、児童心理学者ゲゼル・A・Lがレディネスの概念を含む「成熟優位説」を主張。心理学において、成熟優位説・レディネスは議論の的になっていきました。

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ゲゼルの成熟優位説

ゲゼルが主張した成熟優位説は、人は発達するための準備が整った(成熟)状態にないと、効果的な学習ができないという考え方です。

成熟優位説では、人の発達の要因として遺伝に組み込まれた「成熟」を重視します。学習の効果を得るためには、周囲の環境よりも、本人が学習を行うための準備が整った状態(レディネス)であることが重要だと結論づけました。

【ゲゼルが行った実験「双生児統制法」】
一卵性双生児の赤ちゃんをを対象に実験。片方の赤ちゃんは生後46週目から、もう片方の赤ちゃんは生後53週目から階段を上がる訓練を行いました。

最初に訓練を始めた赤ちゃんは6週間で、26秒で階段を上がれるようになりました。一方で、後から訓練を始めた赤ちゃんは、訓練から2週間経つ頃には10秒で階段を上がれるようになっていました。

実験結果から、どちらが効果的な訓練であったかは明らかでしょう。つまり、人を成長させるためには、各々異なるレディネスの状態を見極め、適切なタイミングで学習すること、周囲は適切なタイミングで支援を行うことが重要だと考えられるのです。

レディネスの種類

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現代においてレディネスの考え方は、ビジネスにおいても応用されています。ビジネスでのレディネスとしては、下記の3つがよく使用されます。

  • デジタルレディネス
  • 就業レディネス
  • 職業レディネス

どのような準備が整った状態であるのか見ていきましょう。

デジタルレディネス

デジタルレディネスは、デジタル化への準備が整った状態を指します。企業には、IT技術やデータを用いることによって新しい価値を生み出すビジネスモデルへの変革=DX(デジタルトランスフォーメーション)が求められています。しかし、デジタルの知見と環境がなければ、DXは実現しません。デジタルレディネスが整った人材を活用することで、企業のデジタル化が進むことが期待されます。

就業レディネス

就業レディネスは、社会人となる準備が整った状態を指します。学生を卒業した新入社員が、社会人としての自覚や社会人としての自己理解を持つかが問われます。就業レディネスを持つ人材であれば、職場への早期適応と研修効果の最大化、早期の戦力化が期待できます。

職業レディネス

職業レディネスは、特定の業務・職種に期待される役割を果たすための準備が整った状態を指します。業務を遂行するための能力はもちろん、興味関心や知識、経験、信頼度など複数の要素が総合的に考慮されます。職業レディネスが整った人材であれば、円滑な業務遂行が可能です。ただし、業務内容によって向き不向きがあるため、本人の適性や性格に合わせて配置する必要があります。

レディネスが求められている理由

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100年以上前に提唱されたレディネスが、近年になって注目されるようになった背景には次の3つが挙げられます。

  • 離職の防止
  • 生産性の向上
  • 社会の変化に即した人材の育成

1つずつ詳細をみていきましょう。

離職の防止

労働人口が減少している現代の日本においては、人材確保が企業課題となっており、多くの企業が従業員の離職防止に動いています。

新入社員は、入社後に入社前との大きなギャップを抱きやすく、中でも特にネガティブな感情を「リアリティ・ショック」と呼びます。リアリティ・ショックは、新入社員の早期離職の原因となります。

企業にはリアリティ・ショックを防ぐため、新入社員が就業レディネスを整えるサポートが必要となっています。

リアリティショックとは?ヘッドハンティング採用では起きにくいのはなぜ?

生産性の向上

今は社会情勢から市場ニーズ、業務に使用するツールまで、何かと変化が激しい時代です。時代と共に働き方や価値観、人生における仕事の在り方も変わりました。

職業レディネスが整った人材であれば、自身の役割を明確に認識しており、必要なスキルや知識の習得など変化に伴って発生した業務を臨機応変に遂行できます。固定概念に捕らわれず、前向きに取り組めることから、イノベーション創出も期待されます。

結果的に、個人としても組織としても生産性を向上させることができるでしょう。

人材の育成

ゲゼルの実験からも分かるように、人は学習するための準備が整った状態であれば、効率的に学習を自分のものにすることができます。よって、企業が従業員のレディネスを高めることにより、迅速かつ質の高い人材育成を実現できます。

企業が、目標に対する準備が整った状態に持っていくサポートを行うことで、効率よく人材を育成できるのです。

客観的な指標となるレディネスレベルと各フェーズで必要な指導

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レディネスを駆使することで、部下に合わせたリーダーシップ・スタイルを検討する際にも活用できます。このときの指標となるのが、レディネスレベルです。

レディネスレベルにおけるレディネスとは、課題を解決するための準備が整った状態の程度を表します。レディネスレベルは、対象者の持つ知識・経験・スキルといった「能力」と、対象者の課題解決への自信・熱意・動機の強さといった「意欲」の2軸で測ります。

リーダーシップの執り方を考えるときには、現在のレディネスレベルの把握が重要となります。ここでは、部下のレディネスレベルに応じた指導方針をみていきましょう。

レディネスレベル1(低い能力・低い意欲)

レディネスレベル1は、レディネスに最も遠い、仕事をするための能力も意欲も低い状態を指します。そのため、環境を整えたとしても、自力で課題を解決することはできません。

具体的には、下記のような特徴がある場合はレディネスレベル1といえます。

  • 言い訳や不平不満が多い
  • 自己防衛的な言動が多い
  • 仕事が遅い
  • 指示通りに動けない
  • 過剰に失敗やミスを恐れる
  • 企業のビジョンを理解できていない

レディネスレベル1の社員に対しては、丁寧でこまめな説明を行い、プレッシャーをかけずに指導します。レディネスレベル1の場合、すぐにレベル4まで上げることはできないので、まずは教えることに集中し、少しでも改善が見られれば重点的に強化するとよいでしょう。

レディネスレベル2(低い能力・高い意欲)

レディネスレベル2の部下は、自力で課題を解決できる状態にあるとはいえないものの、課題を解決しようとする意欲はあります。上手に指導すればレディネスが整った人材に育てることが可能です。

具体的には、下記のような特徴がある場合はレディネスレベル2といえます。

  • 仕事に対して関心・積極性がある
  • 疑問に対して明確な説明を求める
  • 過程よりも結果を気にする
  • 表面的な受け答えが多い
  • 本質的な仕事の目的を理解できていない

レディネスレベル2の部下に対しては、どのような役割を担っているのか自覚させ、責任感を芽生えさせることが大切です。本人が納得した上で仕事に取り組むため、能力面の向上を図れます。コミュニケーションを密に取って、仕事の意義や目的、疑問点の説明を行いましょう。

レディネスレベル3(高い能力・低い意欲)

レディネスレベル3は、能力は高いものの、課題解決に対する意欲が低い状態です。メンタル面の問題を抱えていることが多い傾向にあります。

具体的に、下記のような場合はレディネスレベル3といえます。

  • 仕事に対して苦痛を感じている
  • 仕事へ取り組む姿勢が義務的でやらされ感がある
  • 指示に対して反発・抵抗する傾向がある
  • 仕事に取り掛かるまでが遅い
  • 自己肯定感が低い

レディネスレベル3の部下の場合は、メンタルに配慮しつつ、能動的に行動を促すことが必要となります。不安を感じないように、話を聞いたり仕事ぶりを褒めて、信頼関係を築きましょう。一方、仕事においては責任や意思決定を分担し、部下が1人でもチームの一員として機能するように育てることを意識します。

レディネスレベル4(高い能力・高い意欲)

レディネスレベル4は、能力も意欲も高く、1人でも課題を解決できる準備が整った状態です。上司が業務の遂行やメンタル的なフォローをしなくても自走できるため、安心して仕事を任せることができます。

具体的に、下記のような特徴がある場合は、レディネスレベルが4といえます。

  • 適切なホウレンソウが行える
  • 自律して業務を遂行できる
  • 他メンバーと協力・連携ができる
  • 他メンバーのサポートができる
  • 目標達成のための責任感と覚悟がある

レディネスレベル4の部下は、能力・意欲もあるため業務面で問題はありません。目標達成のための共通認識は持ちつつ、仕事を上手に委任しましょう。

ただし、自走できるからこそ、上司との関係性が希薄になったり本人のキャリアプランとのズレが生じたりすると、離職に繋がる可能性があります。そのため、中長期的な仕事のビジョンのすり合わせや信頼関係の維持に重きを置きましょう。

レディネスレベルを測定するレディネステスト

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レディネスレベルは、レディネステストで計測することができます。レディネスの種類ごとに内容が異なるため、測りたいレディネスに応じたチェックシートを用意しましょう。

レディネステストツールは購入することもできますが、場合によってはインターネットで入手することも可能です。例えば、仕事を辞める準備をしている状態「離職レディネス」にある社員に対して使用できる、チェックシートは厚生労働省が配布しています。

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引用:厚生労働省「離職レディネスチェックシート」作成例
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000198682.pdf

レディネステストを実施するときは、キャリアコンサルタントなど人材育成やキャリア支援に精通した人間が携わるようにしましょう。場合によっては、テスト結果を適切に分析できず、レディネスレベルを正確に測れなかったり、適切な対策・指導を講じられなかったりする可能性があります。

レディネスを活用して人材を育成する方法

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最後は、レディネスを活用していかに人材を育成していくのか、その方法について解説します。

  • 社員1人ひとりの詳細な現状分析を行う
  • 具体的な理想像を設定する
  • 実現までのプロセスを設計する
  • コミュニケーションを取りやすい環境を作る

レディネスを上手く活用できるよう、ポイントを確認しておきましょう。

社員1人ひとりの詳細な現状分析を行う

レディネスのレベルは個人で異なります。レディネスを活用した人材育成を考える時は、対象者が現在どのレベルにいるのか、正確に把握することが重要です。

把握したいレディネスに応じたテストを活用して、現在のレベルはもちろん、抱えている課題や不安、志向性まで詳細を把握するようにしましょう。

具体的な理想像を設定する

ビジネスにおけるレディネスはいくつか種類があるため、何に対するレディネスなのかを明確にし、目指すべき姿を設定しましょう。

ただし、現在のレディネスレベルに応じて、実現可能な範囲である理想像であることが求められます。あまりにも理想像が高すぎると、達成する前に挫折してしまう可能性が高くなります。

実現までのプロセスを設計する

理想像が設定できたら、どのように実現するのかというプロセスを設計します。レディネスレベル1の部下を一気にレベル4まで引き上げることは難しいため、段階的な変化の道筋を示してあげましょう。

このとき、心理学者クルト・レヴィン氏の三段階組織変革マネジメントモデルの活用が有効です。第一段階の「解凍」で現状に関する危機感や変化の必要性を共有。第二段階「変革」で変化の実現に向けた方向性や具体的な実行策を設計・実行。最終段階「再凍結」で変革後の状態を定着させます。

コミュニケーションを取りやすい環境を作る

レディネスレベルの把握や各フェーズに応じた指導を行うためには、上司・部下のコミュニケーションが最も重要となります。

例えば、職業レディネスを整える場合、悩みや相談事を話せる雰囲気、誠実なコミュニケーションといった心理的安全性が確保された環境でなければ、本音を引き出すことはできず、現状のレベルや業務への適性を把握できません。意思疎通に問題がある職場は、離職率も高くなるため、企業としてはコミュニケーション環境を整えることが先決です。

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レディネスは、心身の準備性を表す心理学の用語です。ビジネスにも応用でき、課題に対する準備が整っている状態であるかを把握することで、改善のプロセスを検討することができます。課題に応じたレディネスレベルをチェックし、適切な指導や対策を講じることで、個人・組織の生産性の向上や人材の定着率向上を実現できるでしょう。

ただし、レディネスは、あくまでも人の成長を促す際の考え方の1つであり、必ずしも先行してレディネスを整えることが正解とは限りません。特に学習分野では、成長を先回りした早期教育でも効果があるとして、今でも効果的な学習について議論されています。

その他の人材育成の考え方や手法を踏まえつつ、自社に合ったレディネスの考え方を取り入れ、組織の成長に繋げてみると良いでしょう。

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