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組織の人事を適正化する「360度評価」の意義は社員が公平だと感じられる評価を得やすくなることにあり

組織の人事を適正化する「360度評価」の意義は社員が公平だと感じられる評価を得やすくなることにあり

人事評価の方法に改善の余地を感じている人事担当者も多いのではないでしょうか。多くの評価方法が編み出されてきましたが、従来の方法よりも公平で実態に合った評価を下せる方法として「360度評価」があります。360度評価は従来の評価体制を変革し、企業に多くのメリットをもたらしますが、デメリットもあるため、その対策も兼ねた事前の準備が重要です。

360度評価とは上司に加えて同僚や顧客なども評価者として評価を行う手法

360度評価とは、上司のみならず、同僚や部下、他部署の社員、場合によっては社外の顧客までが評価者となり、多面的な評価を行う方法のことです。上司が部下を評価する従来の評価方法と比べ、被評価者との関係性が異なっている複数の関係者が評価することで、より公平で客観的な人事評価が可能です。そのため、被評価者も自分の評価に納得感を得やすくなります。
外資系人材会社のアデコが2018年に実施した人事評価制度に関する意識調査によると、勤め先の人事評価制度に満足していると回答した人は37.7%、不満を感じていると回答した人が、半数以上の62.3%となっています。人事評価制度に不満を感じる理由は「評価基準が不明確」が62.8%、「評価者の価値観や業務経験によって評価にばらつきが出て、不公平だと感じる」が45.2%と、評価基準の不透明さや評価者の価値観に依存する評価体制に大きな不満が出ているようです。[注1]

リクルートの調査でも、人事評価制度の改善希望について、「評価内容・基準の改善」「透明性・制度理解の促進」「評価者・上司への不満の解決」などが挙がっており、より透明性が高く被評価者にとって納得感の高い評価方法が求められていることが窺えます。[注2]
360度評価は、これらの不満に対する効果的な解決策となる可能性を秘めています。

360度評価導入のメリットは「社員が公平感を抱ける評価」と「社員の規範意識の高まり」

次に、360度評価のメリットについて詳しく見ていきましょう。
360度評価導入の大きなメリットとして、被評価者がより納得できる評価を下しやすくなることが挙げられます。被評価者は上司のみならず、複数の人々から総合的に評価されるため、より客観的で公平な評価を受けていると感じやすくなり、評価を素直に受け止められるようになるのです。

また、評価を下す上司側としても人事評価の負担を軽減できます。
マネジメント層のプレイングマネージャー化が進んで部下を評価するに十分な時間が確保できなくなっていること。上司と部下との間で専門性の相違が発生して正当な評価が困難になっていること。組織再編や人員削減により上司一人当たりが管理する部下の数が増加して管理しきれなくなっていることなど、上司一人が部下を適切に評価できる環境の確保は難しくなっているのが現状です。
このような状況においては、普段から被評価者に接している同僚や顧客の方が、より実態に即した適切な評価を下せる可能性もあります。

その他、360度評価を導入することにより、「上司の顔色のみを窺って仕事をする」社員の撲滅にも繋がっていきます。様々な立場の複数の人々が「評価」という権限を持つことにより、周囲の人々との関係性を考慮に入れながら、規範意識を持って自分が担う役割を果たそうと努力する効果までもが期待できるのです。

360度評価導入のデメリットは「評価に不慣れな社員」と「評価をめぐる社員間の取引の発生」にある

もちろん、360度評価にもデメリットがあります。
基本的に「評価する」ということに慣れていない社員が大半なので、客観的な評価方法などを研修で学ばせなければ、主観や好みで評価を行い、結果的に不公平感が高まる評価になってしまう可能性も否定できません。

また、同じ仕事に励んでいる同僚の評価は非常に有益なものになり得ますが、同僚間で評価をめぐる「取引」が生じ、お互いの評価をわざと高くつけたり、逆に足の引っ張り合いをしたりと、正当な評価が歪められる恐れもあります。
自分の評価を気にするあまり、部下に厳しく当たれない上司も出てくるかもしれません。給与や待遇に直結していく評価制度は、適切な運用が行われない場合はモラルハザードを引き起こしやすいため、十分な注意が必要となります。

360度評価を上手く取り入れるポイントは社員の理解を丁寧に引き出していくこと

それでは、上手く運用していくためのポイントはどこにあるのでしょうか。上記のようなデメリットを是正できない場合、360度評価の導入がかえって不公平感を高める結果に繋がりかねません。

そこで重要となるのが、360度評価への理解を促進し、評価する行為への不安を取り除くことです。そのためには、研修やミーティングなどを開催し、事前に360度評価の方法論や具体的なプロセスについて社員にレクチャーをしておくようにします。

具体的には、評価者となる社員に、制度の概要、評価項目、評価期間、評価表の記入法、評価提出時期、フィードバックの方法、評価が終わった後の行動などを事前に解説します。社員が質疑応答する場なども設けて、丁寧に社員の不安を取り除いて理解を促していきましょう。

なかには同僚を評価することを嫌う社員も存在します。説明会後も個別面談などのアフターフォローを実施して、社員の協力を仰いでいきましょう。評価者同士の情報交換の場やデモンストレーションなども不安を取り除く効果的な方法です。

360度評価は企業を変えていく可能性を持っている

360度評価は、より適正な評価を社員にもたらすだけでなく、働く社員の意識改革を促し、自己変革へと導いていく可能性があるほか、社員の意見サーベイなどにも利用できるため、社内環境をより良いものに発展させる重要な情報収集手段にもなり得ます。360度評価の導入は、企業を変えるポテンシャルを秘めているといえます。

[注1]アデコ 「人事評価制度」に関する意識調査              https://www.adecco.co.jp/power-of-work/062.html

[注2]リクルートマネジメントソリューションズ 働きがいを高める人事評価とコミュニケーションの鍵とは?  https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000572/

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