高度プロフェッショナル制度とは?メリット・デメリットや裁量労働制との違い、導入フローを解説
高度プロフェッショナル制度は、2019年に始まった新しい働き方に関する制度です。一定の要件をクリアした業務や労働者が対象で、対象者は労働時間と休日に関して労働基準法の規制から除外されます。
対象業務や対象者に関する厳密な要件が定められているため、企業が導入を希望したからといって導入できるものではありません。
本記事では、高度プロフェッショナル制度の仕組みや対象業務、適用要件、裁量労働制との違い、導入時のフローをわかりやすく解説します。また、高度プロフェッショナル制度の導入に当たり、人事担当者が対応しておくべき事柄についてもお伝えします。
目次
高度プロフェッショナル制度とは?
高度プロフェッショナル制度とは、高度なスキル・専門知識を有する労働者を対象として、労働基準法における“労働時間”を制限する規定を撤廃した制度です。
【定義】
■高度なスキル・専門知識を有する労働者:一定の年収要件1,075万円以上の専門人材
■労働基準法における“労働時間”を制限する規定:「労働時間」「休憩」「休日および深夜の割増賃金」に関する諸規定
働き方改革の取り組みの1つとして、2019年4月に施行されました。わかりやすく言うと、高度プロ人材の労働賃金を働いた”時間”ではなく、”成果”で評価する取り組みです。
※導入には、労使委員会の決議および労働者本⼈の同意が前提であり、年間104⽇以上の休⽇確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずる必要がある。
専門的な知識や技術を持つ人から、新たな知見を得たり、技術的改善によって新たな価値を生み出すために制定されました。
高度プロフェッショナル制度の対象者
高度プロフェッショナル制度は、企業や労働者が勝手に対象を決めることはできません。明確に対象となる労働者や職種・業務が定められています。
対象となる労働者
下記の条件をすべて満たす人が、高度プロフェッショナル制度の対象となります。
- 高度で専門的な知識・技術を有している
- 年間給与が1,075万円以上である
- 職務が明確に定められている
- 職務の範囲(業務内容・責任の程度・求められる成果)について、書面での同意が得られている
- 対象業務に常態的に従事している
高度プロフェッショナル制度を適用するためには、職務の範囲を明確に定め、その内容について労働者からの合意を得なければなりません。職務の範囲が不明瞭であれば、その他の要件を満たしていても制度を活用できません。
年収要件については、1年間に確実に支払われる給与の最低額です。予め支払や金額が明確に決まっていないボーナスや歩合給は含まれません。
対象となる職種・業務
高度プロフェッショナル制度の対象業務は、「働く時間帯の選択や時間配分について、広い裁量が労働者に認められている業務」に限られます。
つまり、使用者は労働者が対象業務に従事する時間について、労働者の裁量を奪うような指示を出せないということです。これは、業務量に見合わない期限の仕事を指示するなど、実質的に対象業務に働く時間の選択や時間配分を使用者側が指定していると判断される場合も含まれます。
具体的には下記のような、5つの職種・業務が対象となります。
- 金融商品の開発業務(資産運用会社)
- 金融商品のディーリング業務(証券)
- アナリスト業務(証券・銀行)
- コンサルタント業務(コンサル業界)
- 新たな技術や商品の研究開発業務(製造業)
ただし、これらの業務であっても、定型的な業務は制度の対象として認められません。
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制との違い
高度プロフェッショナル制度と混同されやすい制度に「裁量労働制」があります。裁量労働制とは、高度な知識を有しており、一定の業務に就く労働者を、労働時間の規制から一部外す制度です。
高度プロフェッショナル制度と裁量労働制は、労働者に広い裁量が与えられている点や、労働時間ではなく労働の成果で報酬が決まる点は共通していますが、制度の建て付けは大きく異なります。
ここでは、高度プロフェッショナル制度と裁量労働制との違いについて理解しておきましょう。
残業代・割増賃金の違い
高度プロフェッショナル制度では、労働基準法の定める法定労働時間や休憩時間、法定休日の規制を一切受けません。また、業務に従事する時間も指定されません。そのため、時間外労働や休日出勤といった概念は存在せず、残業代や割増賃金も発生しません。
対して、裁量労働制は残業代も割増賃金も発生します。残業代は、実際の労働時間ではなく、予め合意のうえ定められた「固定残業(みなし時間)」で算出されます。加えて、一般的な労働者と同様に、22時~翌5時までの労働や法定休日の労働は割増賃金が発生します。法定労働時間を超える残業には、36協定の締結も必要です。
対象者の収入の違い
高度プロフェッショナル制度の対象者は、年収1,075万円以上であることが適用要件とされています。対して、裁量労働制の対象者は、年収に関する制限はありません。
対象者の職種・業務の違い
高度プロフェッショナル制度の対象は、高度な専門的な知識や技術を必要とする5業務に限定されます。
対する裁量労働制では、銀行又は証券会社において顧客に合併、買収等に関する考案及び助言をする業務(いわゆるM&Aアドバイザリー業務)と、企業の中枢部門での企画立案を行う企画職に限定されます。専門的な20業務には、厚生労働省令および大臣告示で定められており、研究開発・建築士・士業・デザイナー・コンサルタントなどが含まれます。対象職種は指定されていますが、高度プロフェッショナル制度より対象の範囲が広く設定されています。
労働基準法の適用の有無
高度プロフェッショナル制度は、労働基準法の適用を受けません。そのため、労働基準法によって定めがある残業代や割増賃金が発生しないのです。高度プロフェッショナル制度は、労働基準法の枠を超えた新しい働き方に関する制度といえるでしょう。
労働裁量制は労働基準法の適用を受けます。そのため、残業代や割増賃金が発生し、36協定の締結も必要になります。
高度プロフェッショナル制度を導入するメリット
高度プロフェッショナル制度が導入できる場合、下記のような効果が期待できます。
- 生産性が向上する
- ワークライフバランスが実現できる
- 従業員の不公平感を是正できる
制度を適用させるためにはさまざまな要件をクリアする必要がありますが、企業にとってさまざまなメリットがあります。
生産性が向上する
高度プロフェッショナル制度では、成果に対して報酬が支払われるので、労働時間の長さに関わらず自分の仕事が完了すれば報酬を受け取れます。労働者はより短時間で成果を出そうと、業務効率向上の意識が高まるため、個人と組織の両方の生産性の向上が見込めます。
また、制度の適用を受ける業務は、業務に従事した時間と成果の関連性が低いものばかりです。つまり、労働基準法の適応を受け、業務に従事する時間が制限されると、高い成果を残せない可能性があります。労働者が労働時間ではなく成果にフォーカスして業務に当たることができるという点からも、生産性の向上が期待できます。
ワークライフバランスが実現できる
労働時間に縛られた働き方だと、使用者が指定した時間に出勤・退勤しなければならず、業務に従事すべき時間数も明確に決められています。そのため、いくら効率的に仕事をこなしても、プライベートに使える時間の確保には限界がありました。
対して、高度プロフェッショナル制度の適用を受けて働ければ、労働者は出勤・退勤・休暇を自由に決めることができます。「子どもが学校に行っている間だけ働く」「家族の休みに合わせて休暇を取得する」「仕事の合間に家族の通院に付き添う」など、ワークライフバランスを実現させられるのです。
ワークライフバランスが充実している労働者は、仕事に対するモチベーションやエンゲージメントが高まるため、生産性の向上や離職防止に繋がります。
従業員の不公平感を是正できる
従来、仕事の効率性に関係なく、労働時間の長さに対して給与が設定されてきました。一見すると平等に感じますが、同じ業務量でも仕事が遅いとそれだけ労働時間が長くなります。そのため、短時間で効率的に仕事を進められる人のほうが残業代や割増賃金分の収入が低くなるという不公平が発生していました。
高度プロフェッショナル制度を導入すれば、短時間で効率的に仕事を進めた人ほど時間単価にすると高い報酬を受け取ることができ、自由時間も多く確保できます。成果と関係のない給与設定による不公平感が、高度プロフェッショナル制度によって是正できるのです。
個人の努力や能力が待遇・報酬にそのまま反映されることで、従業員のモチベーションアップ・生産性向上・離職防止などが期待できるため、企業にとってもメリットがあります。
高度プロフェッショナル制度を導入するデメリット
いいこと尽くしに見える高度プロフェッショナル制度ですが、一部注意したいデメリットも存在します。
- 長時間労働になる可能性がある
- 明確な評価基準の設定が難しい
デメリットも理解したうえで、導入すべきか検討するようにしましょう。
長時間労働になる可能性がある
労働時間が考慮されず、成果のみで給与が決定されるということは、裏を返せば成果が出るまでは働き続けなければならないことを意味します。極端な話、休憩なしの24時間労働が合法的に認められてしまうのです。
長時間労働の常態化は、労働者の不平不満につながり、モチベーションの低下や生産性の低下、離職者の増加など企業にも悪影響を与えます。さらに、長時間労働は労働者の心身の健康を損ない、最悪のケースとして過労死につながるリスクも考えられるため、企業は行き過ぎた長時間労働を防止する措置を実施しなければなりません。
明確な評価基準の設定が難しい
高度プロフェッショナル制度の対象業務には、研究開発やコンサルティングのような目に見える成果が出るまでの時間が未知数なものが含まれます。成果が出なければ評価ができず、適切な評価基準を設定することもできません。
仕事が適切に評価されないとなると、労働者の不満が溜まるだけでなく、モチベーションの低下や生産性の低下、離職者の増加も考えられます。成果が出るまで時間がかかる業務や成果が目に見えにくい業務では、どのような評価基準を設けるのかが課題となります。
高度プロフェッショナル制度の導入フロー
高度プロフェッショナル制度の導入は、大きく下記の流れで行います。
- 労使委員会の設置
- 労使委員会での決議
- 労働基準監督署長への届出
- 対象労働者からの書面同意
- 対象労働者が業務実施
所轄の労働基準監督署への届出や定期報告も必要なので、導入時は計画的に進める必要があります。
1.労使委員会の設置
まずは労使委員会を設置します。労使委員会とは、労働者と使用者の代表で構成され、必要事項の決議を行う機関です。
労使委員会の要件には、「労働者の代表委員が半数以上を占めていること」「委員会の議事録が作成・保管され、他の労働者に周知されていること」などがあります。
2.労使委員会での決議
続いて、労使委員会で高度プロフェッショナル制度の導入に関する必要事項の決議を行います。決議では委員の5分の4以上の賛成を要します。
委員会で話し合い・決議を行うべき内容は以下の通りです。
【決議すべき事項】
- ①対象業務
- ②対象労働者の範囲
- ③対象労働者の健康管理時間を把握すること及びその把握方法
- ④対象労働者に年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること
- ⑤対象労働者の選択的措置
- ⑥対象労働者の健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
- ⑦対象労働者の同意の撤回に関する手続
- ⑧対象労働者の苦情処理措置を実施すること及びその具体的内容
- ⑨同意をしなかった労働者に不利益な取扱いをし
- てはならないこと
- ⑩その他厚生労働省令で定める事項(決議の有効期間等)
3.労働基準監督署長への届出
決議がなされたら、使用者が所定の様式にまとめ、所轄の労働基準監督署に届出を行います。
このファイルの閲覧者にはコメントや提案も表示されます。提出時に記入漏れや記入ミスを指摘され、修正が必要になることがあるため、労使委員会の使用者代表が持参するのがおすすめです。
提出をせず、高度プロフェッショナル制度を導入することはできません。
4.対象労働者からの書面同意
まず、労働者に対して下記について書面で明示しておく必要があります。
- ①⾼度プロフェッショナル制度の概要
- ②労使委員会の決議の内容
- ③同意した場合に適⽤される賃⾦制度、評価制度
- ④同意をしなかった場合の配置及び処遇並びに同意をしなかったことに対する不利益取扱いは⾏ってはならないこと
- ⑤同意の撤回ができること及び同意の撤回に対する不利益取扱いは⾏ってはならないこと
引用:厚生労働省「⾼度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」
そして、使用者が決議事項について労働者に同意を取ります。同意を取るときは、下記の①~③について記載をした書面を作成し、労働者の署名を受ける必要があります。
- ①同意をした場合には労働基準法第4章の規定が適用されないこととなる旨
- ②同意の対象となる期間
- ③同意の対象となる期間中に支払われると見込まれる賃金の額
書面で合意を得ることで、初めて高度プロフェッショナル制度の対象者として労働者が働き始めることができます。同意を得るまでは、対象者とならないので注意してください。
5.対象労働者が業務実施
合意を得たら、対象労働者が業務に従事できます。高度プロフェッショナル制度の運用が始まったら、使用者は下記を実施しなければなりません。
- ①対象労働者の健康管理時間を把握すること
- ②対象労働者に休日を与えること
- ③対象労働者の選択的措置及び健康・福祉確保措置を実施すること
- ④対象労働者の苦情処理措置を実施すること
- ⑤同意をしなかった労働者に不利益な取扱いをしないこと 等
なお、使用者は決議から6ヶ月毎に、上記の①~③について、所轄の労働基準監督所に定期報告を行わなければなりません。
高度プロフェッショナル制度導入において人事が対応すべきこと
高度プロフェッショナル制度を導入する場合、人事担当者は公的な手続きや契約とは別に、「人事評価制度の見直し」と「労働者の健康管理」への対応が求められます。
高度プロフェッショナル制度のデメリットで紹介したようなネガティブな影響を出さないためには、社内の制度や体制を抜本的に再構築しなければなりません。
人事評価制度の見直しを図る
労働時間ではなく成果に対する評価に変更されるため、人事評価制度の見直しはほぼ必須といえるでしょう。仕事の成果を適切に評価してもらえないと、労働者は正当な報酬を受け取れず、モチベーションや生産性は下がり、最終的には離職してしまいます。
高度プロフェッショナル制度は、長時間労働が常態化しやすいことから、一部で労働者の使い捨てではないかという批判や不満も生まれています。1人ひとりの労働者を適切に評価できる人事評価制度を提示できないと、労働者の不信感を招きます。
どのような成果がどう給与や待遇に反映されるのか、明確にわかるよう、現場の労働者の意見も取り入れながら評価基準を見直していきましょう。
労働者の健康管理を徹底する
高度プロフェッショナル制度の導入時の労使委員会では、「健康管理時間の把握」「休日の確保」「健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置」といった労働者の健康管理に関する決議もなされます。労働基準法の枠を外れ、労働時間や休日の制限がなくなることで、労働者の心身の健康維持が難しくなるためです。
たとえば、健康確保措置には「労働者に年間104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日を与えること」がありますが、最低限の「年間104日、かつ4週間を通じ4日の休日」だけでは、夏季休暇や年末年始などのまとまった休暇は作れません。制度の仕組み上、長時間労働や過労死のリスクの拡大が懸念されていることもあり、健康管理のための対策が重要です。
まとめ
今回は、2019年から新たに始まった高度プロフェッショナル制度の仕組みやメリット・デメリット、導入フロー、導入時に人事が対応すべきことについてお伝えしました。
高度プロフェッショナル制度は、専門的な知識や技術を有する人が、より柔軟に働けるようになる制度です。労働者には、労働時間の裁量が大きくなり、ワークライフバランスが取りやすくなるメリットが、企業には生産性の向上や定着率の向上といったメリットがあります。
一方で、制度の仕組み上、24時間労働も合法的に可能になることから、長時間労働や過労死のリスクに対する懸念もあります。自社で導入を検討するときは、「適正に評価できる基準を提示できるのか」「労働者の健康を維持できるのか」といった点も含め、労働者側ともよく話し合う必要があります。