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地方中小企業の人材採用戦略

地方中小企業の人材採用戦略

2014年に安倍首相が掲げた「地方創生」という言葉は、決して掛け声だけで終わってしまったわけではありません。むしろ政府は、積極的に地方経済の活性化を進めており、具体的な施策として内閣府が「プロフェッショナル人材事業」を推進しています。地域の雇用を生み出し、経済の発展を図るこの事業は、地方中小企業の人材採用戦略に、どのように作用しているのでしょうか。

日本の屋台骨を支える99%の中小企業

トヨタやホンダ、ソニー、パナソニックなど、日本には世界にその名を知られた大企業がいくつもあります。ですが、日本の企業のうちの99.7%以上は中小企業であり、その雇用者数は日本全体の約7割にも及びます。また、地方圏に限ってみれば約8割にも達します(総務省・経済産業省「平成24年経済センサス‐活動調査」)。ということは、地方における中小企業の雇用と経済活動を活性化することで、日本全体の経済を改善させ、押し上げる効果が期待できます。

こうした観点から政府が推進しているのが、「プロフェッショナル人材事業」です。この事業は、新たな分野、新たな事業を開拓しようとする地域の中小企業に、それを推進させられる「プロフェッショナル」な人材をマッチさせ、「人と仕事の好循環を生み出す」ことを目的としています。こうした政府の取組みによって、地域企業が新たな事業展開を果たしてきました。そこには、ビジネスの最前線で活躍してきたプロフェッショナルの力が作用したことはもちろんですが、その力を活かす企業側の戦略も大きく作用しています。

経営陣が強力に推し進めた意識改革と新事業開拓

内閣府が発行している「プロフェッショナル人材活用ガイドブック」から、この制度で新たな事業展開を始めた、廣瀬製紙株式会社を例に挙げましょう。

廣瀬製紙株式会社は大学研究室との共同研究で開発した不織布の生産技術をベースに、乾電池用のセパレーター(電池内でのショートを防ぐ隔離材)を開発しました。その技術力は評価が高く、市場においても大企業を相手に世界第2位のシェアを維持していました。ところが、2010年の時点で廣瀬製紙株式会社の事業はセパレーター製造のみ。また、競合他社の追い上げもあり、売上は減少傾向にありました。

危機感を抱いた経営者は新規事業の立ち上げを決意しましたが、「世界2位」という安定したポジションに安堵する意識が社内に浸透しており、新規事業に踏み出す必要性を感じる社員は少数派でした。経営者がその必要性を説き、社員を鼓舞しても、社内の反応は鈍いままです。

こうした状況を危惧した経営者が選択したのが、内閣府が進める「プロフェッショナル人材事業」です。廣瀬製紙株式会社はこの制度を活用し、外部から最適な人材を招き入れました。そして社内の意識改革から手を付け、賛同者を少しずつ増やすとともに、新事業の開拓を進めていったのです。

金融機関や人材事業者との連携で「攻めの経営」へ

前述したように、地方圏の経済活性化は日本にとって大きな景気浮揚効果を生み出すはずです。そのため多くの企業が新たな事業展開を検討しています。ですが「財務規模を考えると思い切ったチャレンジをしにくい」という中小企業は少なくありません。また、経済的に解決できたとしても、「新事業の開拓を任せられる人材がいない」ということも起こりえます。これらの問題を解決しているのが、「プロフェッショナル人材事業」なのです。

この制度について注目すべき点は、民間金融機関や人材ビジネス事業者と連携し、実効性を高めているという点でしょう。
「プロフェッショナル人材事業」では、まず企業側に従来事業から脱却する必要性に気付かせるところから始まります。そして、従来事業から脱却するために新事業や新販路の開拓を目指す「攻めの経営」に舵を切り、その戦略を実現する人材ニーズを掘り起こします。その後、人材市場でプロフェッショナルな人材とのマッチングを行い、採用までをサポートするというしくみです。

事業を成功に導く人材採用とは

企業にとって、人材採用は最大級の経営課題です。雇用した従業員の働き次第で事業の先行きが左右されることもあるのですから、当然のことでしょう。特に、これまで経験したことのない事業や、新たな販路を開拓するとなるとなおさらです。その場合、新たな業務を安心して任せられるプロフェッショナルな人材がどうしても必要で、これは社外から招聘するしかありません。

そのようなケースで必要なのは、明確で実効性のある人事採用戦略です。新規事業を円滑に進めるには、どのタイミングで、どのポジションに、どのような人材が必要なのか、人材のニーズを正確に把握した上で、合致する人材を採用するのです。

人材採用は、会社の課題を「人」によって解決する手段のひとつですから、どのような人材が必要なのか、正確にニーズを把握することが第一でしょう。その上でベストなマッチングができれば、事業の成功確率をより高めることができるはずです。そのために、「プロフェッショナル人材事業」のような、企業と人を結び付けるシステムが、新規事業を成功に導くための有効な手段なのです。

こちらも併せてご参照ください

人材獲得に有効な「攻め」の採用手法とは

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