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インバウンド需要で活気を取り戻すホテル業界、需要が高まる即戦力人材と他業界からの人材獲得

インバウンド需要で活気を取り戻すホテル業界、需要が高まる即戦力人材と他業界からの人材獲得

コロナ禍では大打撃を受けたホテル業界も、今や開業ラッシュです。ホテル業界では慢性的な人手不足を抱える中、とくに30代~40代の「支配人クラス」を担えるミドル層や、20代の「マネージャー候補」になり得る若手優秀層といった業界経験のある即戦力人材の需要が高まっています。

本記事では、ホテル業界の変革に伴う業界の特徴的な動きを、人材面のトピックを中心に紹介していきます。ホテル業界のクライアントを多く担当するヘッドハンターに聞いた、インバウンド需要で活気を取り戻すホテル業界の人材動向について取りまとめました。

ホテル業界のヘッドハンティング依頼は増加

2020年の新型コロナウイルスの蔓延により宿泊者数は約半減となり、ホテル業界が著しく業績を落としたのは記憶に新しいでしょう。一方、インバウンド需要の回復に伴い、宿泊者数も2019年と同水準まで回復傾向にあります。弊社へのヘッドハンティングの依頼も、2019年と比較して9倍に増加しました。

日本国内の延べ宿泊者数の推移とホテル業界のヘッドハンティング問合せ推移の棒グラフ
データ元:【国土交通省 観光庁】宿泊旅行統計調査
https://www.mlit.go.jp/kankocho/tokei_hakusyo/shukuhakutokei.html

ホテル業界構造の変化

実は、ホテル業界の変革は、コロナに振り回された直近の4年だけではなく、2000年代から進んでいたのです。
1990年代までは、御三家(帝国ホテル 東京/旧・ホテルオークラ東京/ホテルニューオータニ)といった日系ホテルが業界をけん引していましたが、1990年代からは新御三家として外資系ラグジュアリーホテルが台頭し、2000年代以降も外資系ホテルが業界の中心となります。

御三家時代は利益の根幹が“宿泊”であったのに対し、新御三家以降の外資系ホテルでは、“娯楽”としてのホテルブランドを確立しました。当然、目的地ありきでの宿泊施設には変わりないですが、そこにラウンジやレストランといった付加価値を観光の1つとして提供することで、ホテル自体の存在意義を高めることに成功したのです。滞在そのものが旅の目的になる「ディスティネーション型ホテル」がその代表例です。

外資系ホテルの台頭は、運営方式にも変化を及ぼしました。ホテル運営を「所有」「経営」「運営」と区分したときに、以下4つの運営方式が存在します。

【所有直営方式】
1つの会社が「所有」「経営」「運営」すべての役割を担う

【フランチャイズ方式 *FC方式】
所有直営方式のホテルが、定評のあるホテルチェーン会社とフランチャイズ契約を締結

【リース方式】
1つの会社が「経営」「運営」を行い、別会社が「所有」する建物にテナントとして入居

【マネジメントコントラクト方式 *MC方式】
1つの会社(オーナー会社)が「所有」「経営」を担い、「運営」のみオペレーター会社に委託

ホテルの運営方式4パターンを説明した図

日系ホテルは運営資産をすべて管理する【所有直営方式】と【リース方式】でのホテル経営が主流であり、運営資産をすべて管理することから、新規開業やチェーン展開に時間を要します。一方、外資系ホテルは【フランチャイズ方式】と【マネジメントコントラクト方式】を主に採用し、経営リスクを抑えながら運営を委託することでスピード感のある新規開業とチェーン展開を可能にしました。これが、2000年代の外資系ホテル台頭の背景とも言えます。

タイトルアップを目指した人材流動が加速

外資系ホテルの台頭は、人材面にも影響を及ぼします。日系ホテルは他業界と比較して年収帯が低く、新卒から大手ホテルに就職してキャリアを積むことが一般的であったのに対し、外資系ホテルは待遇が良く、外資系ホテルを渡り歩くキャリアが生まれています。また、日系ホテルから外資系ホテルへの人材流出が散見されることになります。

ホテル業界の“タイトル”とは役職のことを指します。外資系ホテルは宿泊部、飲料部、宴会部、ブライダルといった各セクションに対してのタイトル数は決まっていて、上層ポジションが詰まっているためキャリアアップが出来ないケースが多く見られました。外資系ホテルでは、タイトルアップを目的に他のホテルに転職するということが一般的であり、日系ホテルとのカルチャーの違いも浮き彫りになりました。

異業界への人材流出、行き先は…

1社に勤め、キャリアを形成していくマインドの方も当然いますが、若手人材の異業界転職も相当数あるのが現実です。ホテル業界から異業界へ転職する場合に移籍先として多い業界は主に、サービス業界(外食含む)、自動車ディーラー、小売業界、人材業界、ブライダル業界が挙げられます。

一方で、異業界からの人材流入も見込めています。もともとリファラルでの採用が主流で、業界内での声かけが当たり前な業界だったため、慢性的な人手不足が解消されてこなかった背景もありますが、前述した経営方式および運営方法の変革は異業界のスペシャリストも興味を感じる方が多くいます。若手社員に関しても、今まではホテル系の専門卒業生のみを対象としてきましたが、今では大学卒業生の採用も増えてきました。

開業ラッシュに伴う人材ニーズ

インバウンド需要の回復に伴う宿泊施設の開業ラッシュで新たな人材ニーズも出てきています。開業ラッシュで最もニーズが高いのは開業ノウハウを持った人材です。弊社でも新規開業に伴う「不動産の専門人材」をサーチするヘッドハンティング依頼に対応しています。この分野に関しては異業界出身のスペシャリスト人材と相性が良いのです。

前述したとおり、業界内での声かけが当たり前な業界であったため、業界内全体で外部リソースを活用した採用経験が非常に少ない状況でした。そこで、ヘッドハンティングでのサーチを求める例が非常に増えています。最近では、不動産業界出身者の土地に関する知識やコンサル業界出身者のプロジェクトマネジメントの経験を求められることも増えてきました。今後は異業界出身の人材が日系ホテルの改革を進める日も近いでしょう。

インバウンド需要に対応するため、業界経験者の獲得に再び焦点

ホテル業界にはホテル業界のレギュレーションがあり、異業界出身の方がすぐに対応できるかというと、難しい部分もあります。経営方式の改革やM&A戦略、新規開業といった攻めの領域は異業界出身者との相性は良いですが、オペレーション的な部分である守りの領域はホテル業界経験者のスキルは買われます。ヘッドハンティングで寄せられる問合せでも、30代~40代ミドル層で「支配人クラス」のオーダーや、20代若手優秀層の「マネージャー候補」といったホテル業界経験者のサーチ依頼が増加傾向です。

ホテルは“宿泊”だけではない“娯楽”を提供することで存在価値を高めています。この業界改革をホテル業界内の人材にも魅力に感じていただければ、業界はさらに盛り上がるはずです。

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