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技術革新で進む技術者ニーズの変化

技術革新で進む技術者ニーズの変化

ここ数年、自動車の「自動運転技術」が急速に進化しています。さまざまなニュースに加え、自動車メーカーのCMなどでもアピールされ、多くの人々に「自動車文化の進歩」が伝えられていますが、そうした技術革新によって「求められる人材」もまた、大きく変わろうとしています。

すぐそばにある未来、自動運転車

ハンドルも握らず、アクセルやブレーキを踏むこともなく、自動車が勝手に運転してくれる。半世紀前ならば「未来の乗り物」ともてはやされた自動運転車が、すでに現実の物となりつつあります。
すでに米国ではいくつかの州で規制緩和され、自動運転車の公道実証試験が認可されています。中でもIT企業の聖地であるカリフォルニア州・シリコンバレーでは、Google社による公道走行試験が頻繁に行われていることは、多くの方がご存じでしょう。
同地には、世界各国の自動車メーカー、さらに関連企業各社が研究所や試験設備を設け、自社内での試験研究に携わるかたわら、IT関連企業との協業を交えつつ、開発にしのぎを削っているといわれます。
雑誌「WEDGE(ウェッジ)」2016年6月号の特集記事「自動車産業が壊れる日 自動運転の”先”にある新秩序」では、そうした自動運転車の状況を伝えるとともに、変革を迫られている自動車メーカーの危機を伝えています。
ですが、ここで注目すべきことは、自動車メーカーの変革はすなわち、「求められる人材像の変化でもある」ということです。

日本の自動車産業に訪れた転機とは

自動車は、日本の物づくりを象徴する産業でした。高度経済成長期を支え、貿易黒字の上乗せに大きく貢献し、「メイド・イン・ジャパン」の真髄を世界に知らしめる大きな力でした。それは、日本車が「良き物」であり続けてきたからでもあります。
エンジンは高出力でコンパクト、しかも静かで低燃費。悪路をものともしない走破性を持つサスペンション。小さなサイズからは想像もできないほど広いキャビンとラゲッジスペース。主張しすぎず、誰からも受け入れられるデザイン。こうした良き物を作ってきたからこそ、日本車は国内のみならず世界で歓迎されてきました。そして、そうした良き物を作り出せる人材が、当時の自動車メーカーでは求められてきたのです。
ですがこうした傾向は、やがて転機を迎えます。工業製品としての車に要求される機能に、変化が起こってきたためです。

時代の花形はハードからソフトへ

1970年代のスーパーカーブームによって火が点いた高性能・高機能のトレンドは、20〜30年を経て行き着くところまで行ってしまったようです。「最高出力500馬力」「推定最高速度300km/h以上」「ワールドラリーグランプリを制した足回り」。そんなオーバースペックは、市販車には必要ありません。それよりも「常に燃費を抑えた運転ができるエンジン」や「急ブレーキでもスリップしない足回り」、さらに「車からの距離を測定して衝突を避けるシステム」などが、市場のニーズに合致した技術なのです。
そのため、自動車業界における技術者の花形は、ハードウェアエンジニアからソフトウェアエンジニアへと移行しました。
エンジンもシャーシもサスペンションも、すでにハードは円熟の域に達しています。それら完成されたハードを、どのように制御するのか。自動車業界の最前線は、すでにそこに移っていたのです。

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ソフトの先には何があるのか?

今、自動車業界で活躍しているのは、各種「ECU」(電子制御装置)に搭載するソフトウェアの開発者たちです。現在の自動車は、そのほとんどが電子制御となっていますから、彼らの活躍は自動車の性格までも左右するほどの影響力を持っています。急速に普及しているハイブリッドカーにしても、エンジンやモーターの電子制御が、その性能を左右するというわけです。つまり現代は、「ソフトウェアエンジニアが市場に求められる人材となった」というわけです。
また、さらに時代が進めばどうなるでしょうか。現在、実証試験が続けられている自動運転車が市場に投入されるころには、こうした傾向も大きな変化を迎えるはずです。
自動車という工業製品に対して、市場が何を求めるのか。そのニーズの変化に合わせて、これまで自動車業界は変革を繰り返してきました。「高機能・高性能」が求められていた時代から、「心地良く、便利に使える」ように制御する技術が求められる時代へ。そしてこれからは、自動車という物をどう使うのか、サービスの形と質が求められる時代になっていくのではないでしょうか。

ビジネスプロデューサーこそ次世代の花形

現在、実証試験が行われている自動運転車は、単なる自動運転車ではありません。その背後には、「この技術を、どのように使うのか」という課題があります。単なる技術開発ではなく、その技術を使ってどのようなサービスを提供するのか、というところまでを見据えているのです。「WEDGE(ウェッジ)」の記事によれば、その最前線にいるGoogle社は、「我々は自動車を作るつもりはない」ということを明言しています。つまり、スマートフォンと同じように、「自動車の再発明を行う」という宣言なのかもしれません。
そのような時代に突入すれば、自動車業界の花形は、ソフトウェアエンジニアからビジネスプロデューサーへと変化していくでしょう。ITテクノロジーをベースにして出来上がったものを使い、どのようなサービスを提供できるのか。そのアイディアを形にし、実現できるプロデュース能力を持つ人材こそが、「次世代の自動車産業界において求められる人材像である」というわけです。そうなると、Google社やApple社、さらにそれに準じるIT系企業の人たちにとっては、活躍の場が広がることにもなるでしょう。
世界中の自動車メーカーに加え、関連企業までもが研究開発施設の名のもとにシリコンバレーを目指すのは、そういった流れがあるからだと思えてなりません。

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