アカデミア・転職・研究 | 日本の雇用流動化に関する考察
日本の科学技術立国に向け、アカデミアと民間の雇用流動化の必要性。競争的資金、研究者の課題、転職における注意点を元アカデミアの現役ヘッドハンターが探ります。
目次
アカデミアとの結びつき
この記事原稿を書いている1月22日、日経平均の終値が3万6,546円となりました。2営業日連続でバブル後最高値を更新、実に34年ぶりのことです。同じ期間中、米国ダウでは株価が約13倍に。世界の背中はなお遠いようです。
日本の停滞を議論する際、私は科学技術的な側面から考えることが多くあります。トップ層には及びませんが、私自身大学院で博士課程まで進学して研究に邁進しました。博士号を取得後は民間に転身、しばらく大学界隈で仕事してきたこともあり、アカデミアへの思い入れは強いです。
アカデミアで先端領域や基礎領域の研究が活発に行われ、民間に波及・連携し、グローバルでも高い競争力を有する「科学技術立国ニッポン」。私も再来を心待ちにする一人で、微力ではありますが実現に向けて諸々の活動をコツコツ行っています。
雇用流動化の必要性
競争的資金の比率が増えて研究者が近視眼的・小粒なテーマしか取り組めなくなったとか、雑務が多すぎて研究者が研究活動に注力できないとか、指摘されている課題は様々ありますが、私が注目しているのは雇用周りです。
「科学技術立国ニッポン」の再来には、アカデミア・民間問わず一層の雇用流動化が必要です。
現状、アカデミアと民間の間で人材の行き来は少なく、一度アカデミアに行った人はアカデミアで、民間に行った人は民間でキャリアを終える方が大半です。さらに民間では(一昔前に比べれば大分マシですが)特にモノづくり領域で終身雇用の余韻が残り、「1社に長く勤めるのが良し」というバイアス・価値観があちこちに点在しています。
社会情勢の移り変わりや技術革新のスピードが速い昨今、競争領域に機動的に人材が集まらないと技術は陳腐化し、世界から置いてけぼりをくらいます。
例えば研究成果を社会実装するためにアカデミア研究者が民間に転身したり、民間の最新トレンドを吸収するためアカデミアが民間から相応のハイポストで人材を登用したり、民間の中でも新しい取り組みのために業種・職種を跨いで優秀人材が移動することが、もっとあっていいと思うのです。
(アカデミアでは職場が変わるのは良くあることですが、こちらは若手研究者が有期雇用職にしか就けずポストを転々とする別の問題があります)
キャリアの成長と変化
ただし、無闇に転職を重ねる事を勧めるわけではありません。新しい環境に適応するのは、それだけで時間的にも精神的にも負担です。人ひとりが持つリソースは有限なので、可能な限り新しい知見習得や事業推進に使いたいもの。
勤務歴が長いからこそできる経験・担える役割というのもあります。安易に辞めるといわゆる「辞め癖」がつきます。困難にぶつかった時に、乗り越えるのではなく職場を変えることで解消を図るようになってしまいます。
ただ人によってタイミングは違いますが、キャリアの成長曲線は必ずどこかで傾きゼロに漸近します。すなわち成長が鈍化する、下手をすると止まるということ。1組織から得られる経験だけで、40年50年の職業人生を乗り切れるほど今の時代甘くないので、どこかでキャリアチェンジは必要です。
チャンスをつかむ意識
大切なのは、自らのキャリアを会社任せにしたり、考えるのを後回しにしたりしないこと。常に自分ごととして意識し、どう在りたいかを熟慮し続けること。そして機が来たと感じたら、躊躇せず動くこと。目の前にチャンスが来たら、逃さず掴むこと。
ギリシャ神話に登場するチャンスの神様、カイロスは前髪しかなく後頭部は禿げあがっているそうです。チャンスは後から追いかけても掴むことはできない。
皆様は、チャンスをつかむ用意はできていますか?
常に準備万端、というのは難しいかもしれないですが、少なくとも好機に巡り会った際、変化を恐れて安易に現状維持を選ばないようにはしたい。私はそんな風に考えながら、日々過ごしています。