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FA業界・いま求められるエンジニアとは

FA業界・いま求められるエンジニアとは

長年、日本を支えてきた製造業に欠かせない機械設計エンジニアですが、近年ものづくりの世界が変化しており、それに合わせて、機械設計エンジニア・電気設計エンジニアに求められるスキルが大きく変わりつつあります。日本や世界の製造現場で、一体何が起きているのでしょうか? この記事では、その点を少し詳しく説明します。

いま「IoT」が世界中の工場と製造業を大きく変えている

2018年1月、日本ロボット工業会は、2018年の日本の産業用ロボットの生産額が初めて1兆円に達する見通しだと発表しました。2017年は前年を3割上回るなど、近年急成長を遂げています。

実は、産業用ロボットは全体的に日本のメーカーが強い世界で、ファナック・安川電機をはじめとする多関節ロボットメーカー、ナブテスコなど多関節ロボットに欠かせない精密減速機メーカー、パナソニックや富士機械製造といった電機・電子部品ロボットメーカーなど、各分野に世界的メーカーが揃っています。さらに、世界的リーディングカンパニーの三菱電機を筆頭に、産業用ロボットなどを組み合わせて工場の自動化を図る「FA(ファクトリー・オートメーション)」のマーケットでも、日本は大きな存在感を発揮しています。

産業用ロボットやFAの発展は、「インダストリー4.0」や「インダストリアル・インターネット」、「産業用IoT」「中国製造2025」といった言葉で語られる、市場動向の変化です。インダストリー4.0はドイツ発、インダストリアル・インターネットはアメリカ発、中国製造2025はその名の通りですが、意味や目標はほぼ同じで、いずれも「IoTを導入した画期的な工場」の実現を目指しています。このIoTは、大きく8つの技術の組み合わせでできています。

1つ目は「センサー」で、あらゆる商品、あらゆる場所にセンサーを取り付け、そのセンサーが発するデータを集めます。2つ目は、それらのセンサーが発するデータを集める「ネットワーク(コネクティビティ)」で、3つ目は収集したビッグデータを格納する「クラウド」です。4つ目は、そのデータを円滑に処理するための「IoTプラットフォーム(基盤)」、5つ目はビッグデータを分析する「アナリティクス・ソフトウェア」で、ここに人工知能がどんどん搭載されており、6つ目の「アプリケーション・ソフトウェア」と組み合わせて使われます。残りの2つは、「導入サービス」と「運用サービス」です。この8つの技術がいま、世界中の工場と製造業を大きく変えているのです。(※参考資料:大野治『IoTで激変する日本型製造業ビジネスモデル』日刊工業新聞社)

「エンジニアは専門知識を磨き続ければよい」という世界は終わりつつある

実はいま、こうした工場・製造業の変化に合わせて、メーカーで働く機械設計エンジニア・電気設計エンジニアに求められるスキルも変わってきています。なぜなら、IoTによって「機械(ハードウェア)・電気・制御(ソフトウェア)の融合」が進んでいるからです。

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IoTの世界では、工場の工作機械や商品の機械と、電子部品であるセンサー、クラウド、ネットワーク、プラットフォーム、アナリティクス・ソフトウェア、アプリケーション・ソフトウェアといった一連のソフトウェアが、分かち難くつながっています。また、産業用ロボットやFAシステムも、機械と電子部品とソフトウェアが一体化した製品やサービスです。よって、エンジニアもまたつながる必要があるのです。

従来は、機械設計エンジニアも電気設計エンジニアも、非常に専門性が高く、自分の専門領域のことだけがわかっていればよかったのですが、今後はそうはいきません。これからの機械系エンジニアは、誰もがセンサーの基礎知識を学ばなくてはならないでしょうし、その先につながるソフトウェアの知識も身につけたほうがよいでしょう。電気設計エンジニアは、ハードウェアとソフトウェアをつなぐ存在として、制御技術の知見とIoT全体を見渡す力が必要になってきます。

いずれにしても、専門だけに詳しい「I字型人材」ではなく、専門に加えて全体の知識・ノウハウも持っている「T字型人材」が重宝されるようになることは間違いありません。もっといえば、最近は「ロボット倫理学」のようなまったく新たな専門分野も周辺に生まれてきています。

実は、こうした変化は、すでに現実になっています。例えば、大学では、純粋に機械だけを扱う「機械工学」から、機械の制御(ソフトウェア)や機械に関わるシステムなども含めて、機械を動かす仕組み全体を学ぶ「機械システム工学」へと、徐々に重心が移りつつあります。また、電気・電子の世界でも、最近は同様に、電気電子工学から電気電子システム工学へと名前を変えるところが増えています。

今後は、産業用ロボットだけでなく、家庭や病院などで使われるサービスロボットの市場も急成長が見込まれており、機械・電気・制御の融合はより一層進むものと思われます。機械系・電気系エンジニアの求められるスキルも、より総合的になっていくでしょう。大学や企業の教育・育成システムも、それに合わせて変わっていく必要がありますし、エンジニア個人の意識も変わっていかなくてはなりません。エンジニアは専門知識を磨き続ければよいという世界は、終わりつつあるのです。

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