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諭旨解雇と懲戒解雇の違いは?退職金や解雇予告制度は適用されるのか解説

諭旨解雇と懲戒解雇の違いは?退職金や解雇予告制度は適用されるのか解説

懲戒解雇処分に該当する従業員に対して行う温情措置として用意されている「諭旨解雇」。法令による具体的な定めのない解雇方法でもあり、あまり耳にしたことがないという人も多いはずです。

そこで本記事では人事担当者として必ず抑えておくべき諭旨解雇について、懲戒解雇との違いに焦点を当てながらご紹介していきます。

諭旨解雇とは?大きく分けて2種類ある解雇手段について

2種類
雇用契約の解消方法には、法律によって定められた2つの分類があります。
それぞれは解雇に至る理由によって「普通解雇」「懲戒解雇」に大分されており、前者の例外的措置として「整理解雇」が、後者の例外的措置として「諭旨解雇」があります。
少々複雑な解雇方法の種類についてご理解いただくために、まずは解雇の種類について見ていきましょう。
諭旨解雇と懲戒解雇の違いについてはこちらをご覧ください。

普通解雇の定義

普通解雇とは、従業員の能力不足や企業の経営状況などが理由となって行われる解雇のことを指します。従業員を解雇する際に普通解雇を言い渡す際は、次のケースが該当します。

●病気やけがによる長期欠勤があり、復職が難しい場合
●従業員が成果を出しておらず、能力不足だと判断できる場合
●組織立って業務できておらず、協調性の欠如が認められる場合

普通解雇を言い渡す場合、労働契約書に記載のある就業規則に定めた条件に当てはまらなければなりません。
詳しくは後述しますが、就業規則にない理由を用いた解雇が原因で「不当解雇」と見なされ、企業が従業員に対して賠償金を支払った事例も多く存在します。

整理解雇の定義

「整理解雇」は普通解雇に分類されるものの、例外的な立ち位置にある解雇方法であり、いわゆる「リストラ」手段の一つです。整理解雇が適用されるケースは次の通りです。

●企業の業績が悪く、余剰人員を削減する場合

整理解雇は会社側の事情による解雇であり、能力不足や協調性の欠如が主な理由となる普通解雇とは意味が異なるため、例外的措置として捉えられています。

これまで紹介した「普通解雇」や「整理解雇」は企業の業績に関わる解雇理由が適用されます。一方で本記事で紹介する「諭旨解雇」やそれに準ずる「懲戒解雇」では、企業から従業員に対するペナルティ・制裁を与える意味合いが強い解雇方法です。

懲戒解雇の定義

懲戒解雇は従業員が規約違反した場合に適用される解雇方法で、それに伴う制裁が下されます。懲戒解雇の主な理由には以下のような項目があります。

●重大な経歴詐称
●パワハラ、セクハラなどハラスメント
●長期間の無断欠勤など、業務上の問題
●犯罪行為

軽度の規約違反については注意指導や懲戒処分が下されますが、そのような措置を講じても改善が見られず、同様の行為を繰り返す場合にも懲戒解雇が下される場合があります。
また、普通解雇と整理解雇の場合、企業は少なくとも30日前に解雇予告を行う原則がありますが、懲戒解雇の場合は解雇予告なしに通達することができます。

なお、懲戒解雇が下された従業員には以下のペナルティが課されます。

1.履歴書、離職票、退職証明書などに懲戒解雇の旨を示すこと
(再就職が難しくなる)
2.退職金が支払われない可能性がある
3.失業保険に3カ月の給付制限期間が設けられる

諭旨解雇の定義

諭旨解雇は「懲戒解雇」の例外的措置としてある解雇方法です。
諭旨解雇が適用される理由は懲戒解雇と同様のものですが、企業の酌量で懲戒解雇よりも処分が軽減された解雇方法のことを指します。

諭旨解雇を適用するには、就業規則に諭旨解雇について明記されている必要があり、従業員の行動がその規則に当てはまらなければなりません。また、懲戒解雇と同様、従業員本人に弁明の機会が与えられていることも必要となります。

諭旨解雇と懲戒解雇の違い

違い
諭旨解雇と懲戒解雇の違いは、従業員に与えるペナルティ・制裁が軽度かどうかという点にあります。以下に「従業員を諭旨解雇した場合の懲戒解雇との違い」の代表例を記載します。

1.諭旨解雇は法令で定められた解雇方法ではない
2.解雇予告制度が適用される事が多い
(解雇30日前までに解雇予告しなければ、解雇予告手当を支給しなければならない)
3.退職金の全額または一部が支払われることが多い

また、諭旨解雇と懲戒解雇とを明確に分ける条件は、従業員に対して「情状酌量」が適用されるかどうかという点にあります。
企業が少しでも懲戒に対するペナルティを和らげようと思える余地が従業員にある場合にのみ、諭旨解雇が適用されるのです。
以下にて諭旨解雇と懲戒解雇の違いについて詳しく見ていきましょう。

諭旨解雇の場合、解雇予告制度が適用されることが多い

懲戒解雇の場合、実際のところは解雇予告制度を適用しない場合が多いです。
これは「懲戒解雇であれば解雇予告手当を支払う必要が無い」と法律で定められているわけでなく、労働基準法20条1項における「労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇」が適用されるからです。
例えば従業員が企業のお金を横領した場合、これは「労働者の責に帰すべき理由」に該当し、労働基準監督署長による認定を受けた上で、解雇予告なしに解雇できます。

一方で諭旨解雇の場合、懲戒解雇が適用される条件下であっても情状酌量によって温情を得ていることから、企業側がわざわざ労働基準監督署長へ即時解雇の申請を行わないケースが多いのです。したがって諭旨解雇のでは解雇予告制度が適用される場合もあるということになります。

諭旨解雇の場合、退職金の全額または一部が支払われることが多い

従業員を懲戒解雇した場合、本人への退職金については企業の就業規則に従って支払われないことがほとんどです。
一方で本人に情状酌量が認められ、諭旨解雇が言い渡される場合には、同じく企業の就業規則に従って退職金の全額または一部が支給されます。

結局のところ、諭旨解雇と懲戒解雇の違いを語る上でポイントとなるのは「企業の就業規則」にてどのような取り決めをしているか、ということになります。

諭旨解雇を決める情状酌量とは?

情状酌量は刑事裁判において使用される用語で、「犯罪者の判決に当たって、犯罪に至った事情の憐れむべき点をくみ、刑罰を軽くすること」だと定義されています。(小学館 大辞泉)
例えばこれまで勤務態度が良好だった従業員が社外部で犯罪を起こしてしまった場合に、企業貢献度が評価されることで情状酌量が適用され、諭旨解雇となるケースなどがあります。

諭旨解雇の多くは規約違反を起こした従業員の貢献度や本人の将来などを踏まえて、本人が反省していることが明らかである場合に適用されることが多いです。
したがって、懲戒解雇に次ぐ重い処分ではあるものの、諭旨解雇の場合は退職金が支払われる場合もあります。

諭旨解雇に際する4つのポイント

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従業員を懲戒解雇ではなく、諭旨解雇とする場合には注意すべきポイントが複数あります。
諭旨解雇は法律によって定められたものではなく、あくまでも企業側が従業員の懲戒解雇を避けるために用意された処分です。そこに厳格な決まりはなく、各企業の就業規則に準じて処分が決定されます。
したがって企業の人事部は、諭旨解雇に関わる判例や条件などについて事前に確認した上で、十分に社内協議する必要があります。
本章では諭旨解雇を検討する際の4つのポイントをご紹介します。

1.情状酌量の余地があるかどうかを検討する

まずは、これから解雇処分する従業員に情状酌量の余地があるかどうかを検討します。本人のこれまでの勤務態度や企業への貢献度を吟味した上で、懲戒解雇処分を下すのか、諭旨解雇まで程度を下げるのか決定します。

2.諭旨解雇を適用させる理由を明らかにする

次に、従業員に対して諭旨解雇を言い渡す正当な理由を明らかにします。それは労働契約書や就業規則に明記されている必要があります。

なお、諭旨解雇を言い渡す理由が就業規則に準じたものであっても、それが客観的に「社会通念上」解雇理由として十分でないと判断されてしまう場合は、諭旨解雇が無効になってしまうケースもあります。
したがって、労働契約書や就業規則に諭旨解雇の適用条件が記載されていなかったり、懲戒解雇についての記述が甘かったりする場合には早急な改定を検討するべきでしょう。

3.退職金を支払う必要があるかどうか検討する

次に、諭旨解雇を言い渡した従業員に対して退職金を支払う必要があるのか、それはいくらなのか、厳格に検討する必要があります。
これについては企業の就業規則に諭旨解雇に伴う退職金についてどう定義されているかという点が論点になります。

諭旨解雇については法律で厳格な取り決めがないため、あくまでも企業の就業規則にてどのような取り決めが為されているかで全てが決まります。

4.諭旨解雇とはいえ、裁判に発展することもある

諭旨解雇を通告した企業側が「従業員に対して温情的な立ち位置にいる」という認識を持っていたとしても、解雇を言い渡された従業員本人が「会社都合で辞めさせられた」と不服を抱いている場合も少なくありません。
企業が雇用契約を一方的に打ち切る解雇を通告することにはリスクが伴い、その最たる例に従業員による訴訟トラブルがあります。実際に諭旨解雇処分を巡った判例を見てみましょう。

<鉄道会社員が行った痴漢行為を理由として諭旨解雇が無効となった事例>
鉄道会社にて正社員として勤務していた労働者が、勤務時間外に、当該会社の運行する路線で痴漢行為を行ったことを理由に諭旨解雇処分を受けたため、当該解雇処分が無効であるとして、地位確認及び未払賃金の請求を行ったというもの(中略)「原告が本件において原告に対する処分を決定する具体的な手続が進行していることを知らされず、このような中で原告が同手続において弁明の機会を与えられなかったことについては、本件処分に至る手続に不適切ないし不十分な点があったものと言わざるをえない」と指摘。

引用元:解雇(普通解雇、諭旨解雇、懲戒解雇等)に関する裁判例①

以上の例では諭旨解雇の判断基準及び解雇手続きに不備があったことが解雇無効の原因であったと判断できます。このような事態が起こらないよう、諭旨解雇に限らず解雇通告を出す際には、十分な事実確認をするべきでしょう。

まとめ

本記事では諭旨解雇と懲戒解雇の違いについてご紹介しました。
諭旨解雇は懲戒解雇とは違って、法律による厳格な定義のない解雇方法です。したがって、企業ごとの就業規則によって従業員に対する対応が大きく異なります。
人事担当者として従業員に諭旨解雇処分を検討している場合、まずは自社の就業規則を確認しなおす必要があります。その上で(1)明確な解雇理由と(2)解雇後の対応を洗い出し、事態が必要以上に拡大することの内容に努めましょう。

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