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食品業界の採用事情とは

食品業界の採用事情とは

その安定性が求職者にとって大きな魅力となってきた食品業界。その安定業界にあっても、こと人材採用に関しては、将来を見越した変動が起こりつつあるといわれています。業界の外側から、人材コンサルタントの目を通して垣間見える実情について、感じたままをお話ししましょう。

安定性ゆえに縮小していく食品業界

食品は、私たちが生きていくのに欠かせない物で、しかも人によって好みがあります。冷凍食品やインスタント食品、さらに調味料やパン粉・小麦粉といった粉物まで、ほとんどの人には「いつものお気に入り」があるものです。ですから、ある程度のシェアを持っている人気商品は、常に堅実な売上をキープできます。
こうした食品の特性から、この業界は急激な売上増が難しい代わりに、それが急に落ちるということも滅多にありません。近年では原料偽装などが取りざたされたこともありますが、それはあくまでもレアケースで、安定した業績を見込めるのが食品業界です。
ですが、その安定性のために、食品業界は縮小を余儀なくされています。理由は言うまでもなく、総人口の減少です。
日本の総人口は2010年の約1億2,800万人をピークに年々減少しており、出生率も下がる一方です。食品業界では人口減少を「胃袋が減る」という言い方をするそうで、実に的を射た表現だと感心しますが、業界にとっては死活問題でしょう。10年後、20年後には、現在よりも確実に国内市場が小さくなっているはずですから、その対策を今からとっておかなくてはなりません。
そのために、食品大手各社が今力を入れているのは、ひとつは健康志向商品の開発です。そしてもうひとつは、海外進出です。こうした業界の変化が、人材採用にも影響を与えています。

高まる健康志向の波に乗れ!

今に始まったことではありませんが、日本人は健康に対して、なかなか熱心です。体に良いとされるサプリや健康食品のCMは頻繁に目にしますし、薬局に行くとそれらの製品が棚を大きく占領しています。中には、同じような原料を使った同じような製品も見られるのですが、やはりここにも「いつものお気に入り」の法則が働くのでしょう。たとえ似たようなものであっても、それぞれに「これでなくては」という消費者が存在するものと思われます。
これらのサプリや健康食品は、それを使う人と使わない人が明確に分かれる傾向があるようです。日常的にはまったく使わないという人もいれば、数種類のサプリを毎日使うという人もいるでしょう。そこにかけるコストも、人それぞれです。
総務省統計局が発表した「統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)」(2013年9月15日)によると、1世帯(2人以上の世帯)あたりのサプリに関する年間支出金額は、30代で約4,600円、70歳以上となると約21,900円となっています。これは決して小さな数字ではありません。
ですから、消費者の健康志向に合わせ、付加価値の高い製品を市場に投入していけば、縮小していく市場の中でも生き残る道は見えてくるでしょう。そのため食品大手各社が、「トクホ(特定保健用食品)」をはじめとする健康志向商品に注力しているというわけです。人材採用の面では、高い専門知識を持った研究開発職が求められるということになります。

海外に活路を見出す日本企業

国内市場が縮小していくならば、海外に打って出ようという動きも活発化しています。
日本国内では少子化傾向が続いていますが、海外では事情が違います。特に、ASEAN諸国をはじめとする東南アジア各国では急速な経済成長に伴い、人口が増加している国々が多くあります。つまり「胃袋が増えている」のです。
そのため日本の食品大手各社は、拡大し続ける海外市場に向かって、盛んにアプローチをかけています。自社の販路拡大もそうですし、M&Aによって現地のメーカーを取り込み、自社の拠点とする動きもあります。
海外における日本の食品メーカーといえば、一般にもよく知られているのが味の素とキッコーマンでしょうか。いずれもかなり早い時期から海外に目を向け、現在では味の素が売上の6割、キッコーマンは営業利益の7割以上を海外で上げるというグローバル企業となっています。
海外市場でここまでの成長を遂げた理由は多々ありますが、その最大の理由は「現地の食文化と嗜好に合わせ、商品開発を重ねた」という点でしょう。そのため、醤油も旨み調味料も、現地の食生活にしっかりと根付き、人々に愛されています。
このように、海外に目を向けるとなると、必要なのは現地の事情に詳しい人材です。その国、その地域ではどのような味が好まれるのか。食に対するタブーはないか。そうしたことを理解した上で、開発にあたらなくてはなりません。これは営業職も開発スタッフも同様で、そうした知識を持つ人材がますます求められることになります。

自分と企業の特性がどこまで合致するか

いずれにせよ、現在とこれからの食品業界で求められる人材はおもに研究開発職であり、食品大手各社をはじめ、業界全体がその方向で人材獲得に動いています。そして、専門性の高いこの分野では、即戦力となる中途採用が主軸となります。
ただし、一口に「研究開発」といっても、職種によって採用基準は大きく異なります。
例えば基礎研究では、求職者の実験スキルはもちろん、その研究テーマが企業の目指す方向と合致していないと、採用はかなり難しくなります。一方、より製品に近い場所である商品開発の分野では、幅広い知識や経験が求められます。先ほどお話しした「健康志向という価値付け」や「海外進出」という動きをより強く推し進めていくためには、こうしたジェネラリストの活躍が必要でしょう。
また、企業の中には外部からの人材登用に消極的で、新卒を自社内で育成していくというポリシーを持つところも見られます。
安定した食品業界は求職者にとって魅力的な業界ではありますが、それだけに競争は激しく、さらに特定の職種では、企業側の要求がかなり限定されており、狭き門になっています。ですが、企業が求める方向性と自分自身の特性がマッチすれば、採用の可能性をかなり高めることができるはずです。
この業界で転職先を選ぶ際には、まず自分自身の特性を見極めるところから始めるといいでしょう。

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