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電子部品業界の市場変化と生き残り

電子部品業界の市場変化と生き残り

スマートフォンや自動車はもちろん、身の回りにある家電製品のほとんどに組み込まれている電子部品。私たちの便利な生活を支えてくれる、なくてはならない存在です。ですが、その業界は今まさに激動の渦の中にあります。現在の電子機器メーカーがさらされている状況や課題について見ていくことにしましょう。

スマートフォンに支えられた日本の電子部品業界

私たちの身の回りにある電気製品のほとんどは、程度の差こそあれ電子部品が組み込まれています。エアコンや洗濯機などの家電製品も同様です。スマートフォンに至っては、まさに電子部品の塊といえるでしょう。
日本の電子機器メーカーは、世界的にも大きな存在であり続けました。スマートフォンについていえば、アメリカ、韓国、台湾とともに、世界的に大きなシェアを維持してきました。例えば、アップルの主要な部品調達先200社のうち、およそ2割が日本企業であることや、「iPhone 5に使われている約1,000個の部品のうち、50%以上が日本製」などという話は、ご存じの方も多いでしょう。
もちろんこれは、アップルに限ったことではありません。アジア圏内である韓国や中国で生産されるスマートフォンについても、同様のことがいえます。長年の研究開発に支えられてきた日本製品は、電子部品の塊であるスマートフォンにとって、なくてはならない存在であり続けたのです。そして日本のメーカーは、そうしたスマートフォン需要によって堅調な出荷数を維持してきました。
ところが近年になって、こうした状況が大きく様変わりしています。スマートフォン需要の減少、そして中国メーカーの台頭です。

四大国を脅かす中国の台頭

これまでスマートフォン業界は、順調に出荷数を伸ばしてきました。それとともに国内外の電子部品メーカーは、軒並み過去最高の業績を記録したといいます。ところが2015年から、こうした傾向に陰りが表れ、2016年春には多くのサプライヤーが業績の下方修正を行っています。売れ続け、広がり続けてきたスマホ需要が、飽和し始めているのです。
世界的に見れば、スマートフォン需要にはまだ伸びしろはあるといわれます。中国に次ぐ総人口を持つインドやインドネシアなどの経済新興国では、まだスマートフォン需要の先行きに期待は持てます。ですが、これらの国々でも自国のメーカーが力をつけてきている上、アップルやサムスンなどの海外製品であっても、使用する電子部品の一定割合を、自国で調達するよう政府が要請するなどの動きが見られます。こうなると、これまで市場を四分してきた米韓日台への影響は否めません。
そこに輪をかけるように、中国メーカーがこのところ大きく躍進しています。世界の工場としての量産体制や競争力のある人件費、さらにM&Aによって巨大化した中国企業は、すでに日本・韓国・台湾に迫り、追い越さんばかりの勢いです。実際あと数年のうちに、電子部品大国の顔ぶれは今とは違ったものになるかもしれません。

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一見、好調な自動車業界だが…

電子部品メーカーにとってスマートフォンに並ぶ大きな市場、自動車産業はどうでしょう?
こちらはスマートフォン業界とは逆に、需要そのものは堅調で、将来性も悪くありません。環境意識の高まりを背景に、次々と発売されるハイブリッドカーや電気自動車、そしてさまざまな形でドライバーをサポートしてくれる「先進運転支援システム」(ADAS)。こうした流れは今後も加速していくでしょうし、そうなれば必要とされる電子部品もどんどん増えていきます。「最新の高級車には120個を超えるセンサーが装備されている」という話もありますし、これまでハイエンドモデルにのみ搭載されていたADASを、ミドルクラスにも導入する動きも見られます。自動車業界に関する限り、電子部品メーカーの将来は明るいように見えます。一方で、汎用化した電子部品については値下げ競争が激化しており、決して楽観視できる状況ではありません。
ですから、電子部品メーカーがこれから生き残っていくためには、「常に技術開発に注力し、独自の製品を開発し続けていくことが一番だ」ということになります。そしてそれとは別の、あるいは補助的なやり方として、「部品製造だけで完結するのではなく、設計やソフトウェア、分析評価なども含めた全体を、いかに最適化していくか」ということも考える必要がありそうです。

生き残りのために必要なものは

スマートフォンにしろ自動車にしろ、市場のニーズは常に変化し続けています。それは、エンドユーザーのニーズや意識に、どこまでも応えようとする各メーカーの姿勢の表れでもあります。そのため、必要とされる電子部品の機能や性能、仕様についても、短いスパンで変化を繰り返しています。そうした変化にどこまで対応できるのか。それは、電子部品メーカーが今後を生き抜く上で、大きな課題であるはずです。
その点、工場を持たない「ファブレスメーカー」は有利でしょう。コストの多くを有望な技術の研究開発にあてることで、新技術や新製品をタイムリーに市場に投入できます。
また、個々の人材という点からいえば、専門性の高いファクトリーオートメ―ション(FA)に関するエンジニアのニーズは、これから急速に高まっていくかもしれません。前述した値下げ競争の中でメーカーが競争力を維持するには、人件費の削減は避けては通れませんし、そうなればFA化は必須と思われるためです。さらに、部品の設計生産だけではなく、全体の最適化を図れるような広い視野を持つ人材の重要性も高まっていくでしょう。
いずれにせよ、電子部品が必要とされる最終製品は、その多くが時代の最先端にあります。それだけに、ユーザーは常に新しい機能やより優れた性能、従来品を超えるパワーを求めます。そうした要求に素早く応えていくためには、技術力はもちろんのこと、組織や人材についても、いかにフットワーク良く的確な動きが取れるかということが重要になりそうです。

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