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『採用基準』これからの時代に求められる能力とは

『採用基準』これからの時代に求められる能力とは

すっきりとシンプルに装丁された、伊賀泰代著「採用基準」(ダイヤモンド社/2012年11月9日発売)が今回のテーマ。タイトルだけ見ると「採用担当向けの虎の巻」のように思われるかもしれません。確かにそうした面もあるのですが、本書の核となるテーマは、実はまったく別のところにあります。

次の時代に求められる人材の資質とは

人のキャリアというものは、その人を測る有用な物差しになります。これまでの実績も、具体的な数値として評価材料になるでしょう。
「誰もが知っているグローバルカンパニーで、マネージャーとして活躍した」「全国トップの売上を上げた」。このような経歴を持つ人には、誰でも「すごいな」と感嘆するはずですし、採用や人材配置を手掛ける人事担当者にとっても、キャリアは重要な評価基準です。
そうした目で本書の著者を見てみると、かなり華々しいものがあります。
本書の著者プロフィールには、一橋大学法学部から日興證券に入社、その後渡米しMBAを取得。帰国後はマッキンゼーでコンサルタント、さらに人材育成・採用マネージャーとして17年活躍。2011年に退社・独立し、自社サイトをベースにリーダーシップ教育やキャリア形成についての啓蒙活動を行っている…とあります。人事担当者にとっては申し分のない人材でしょう。
その著者が本書で繰り返し訴えるのは、キャリアや実績に頼ることなく、常に自分の道を切り拓いていくための能力を身に付けること。その能力こそが「リーダーシップ」であると著者は断じています。
そう、本書は徹頭徹尾、「リーダーシップ論」に終始しています。決して「リーダー論」ではありません。そしてその核心にあるのは、組織に必要なのはリーダーという役割を与えられた存在ではなく、まさに「リーダーシップを発揮できる人材」なのだということです。

リーダーとリーダーシップの逆転現象

一般的な感覚では、リーダーとはさまざまな情報を基に決断し、組織を導いていく人のことです。そのポジションと業務には重圧がかかりますが、そのプレッシャーに耐えて組織を率いていかねばならない。それは、組織の中から選ばれた人であるべきだ…。これが、多くの人々がイメージするリーダーの姿でしょう。
日本では、多くの場合、リーダーは「役職者」を指します。課長、部長、さらに役員。他のメンバーから見た場合の「上司」です。確かに彼らには、長年の自社への貢献や、輝かしい数値実績があります。それによって評価を得るというのは、間違いではありません。ですが彼らの実績と、リーダーとしてふさわしい資質を持っているかということは、直接関連しません。
もちろん、リーダーシップは本人の資質だけではなく、経験や訓練によっても得られるものです。上司として多くの部下を束ね、大小さまざまな懸案事項に判断を下す。そうした経験は、リーダーシップを身に付けることにつながります。
ですが、それまで「リーダーシップとは何か」ということを十分に学んでいない人が、課長に昇進したからといって、すぐにリーダーシップを発揮できるでしょうか?いいえ、そんなことはありません。
「リーダーシップを発揮できる人間が、そのポジションに就く」というのが本来であるはずなのに、「リーダーと見なされるポジションに就いた人間が、リーダーシップを取る」という、理由と結果が逆転した形になっている。これが多くの企業の問題なのだと著者は語ります。そして、リーダーのポジションにいない個々のメンバーについても、リーダーシップの必要性を説き続けています。
こちらも併せてご参照ください

上司としてリーダーシップのある社員を育成するコツは委ねる・評価など5つ

あなた自身がリーダーシップを発揮せよ

著者は、自身が長く過ごしたマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社での実体験をベースとして、こうした理論を展開しています。そのため、読み進めていくうちに「それは、マッキンゼーだからできることだろう」と考える読者もいるのではないでしょうか。
どのような分野であっても、優秀な人材が集まり、国内だけでなく海外からも注目を集める企業というのは、やはり突出したものを持っています。パワーとスピードを兼ね備え、他の追随を許しません。そして大きな成果を上げています。
もちろん、その中にいるスタッフに求められるものもハイレベルですから、そのきびしさ、プレッシャーは相当なものでしょう。ですがそれは、ある日起こった突然変異の結果ではありません。成果を出すために最も効率が良いやり方を考え抜き、試行錯誤を重ねた末に出来上がったものであるはずです。
ならば、その考え方、その手法を採り入れない手はないでしょう。
リーダーシップの概念をどのように社員に浸透させるか。個々人の資質をどのように磨いていくか。それをどのように評価するか。それらの課題を、人事担当として考えてみるところから始めればいいでしょう。「リーダー」と目されている役職者から啓蒙していく、というのもいいかもしれません。
そしてそうしたアクションを、あなた自身がリーダーシップを発揮して声を上げ、推し進めていくのです。

リーダーシップが組織をパワフルに動かす

本書の主張に沿うならば、すべてのスタッフがリーダーシップを発揮すれば、組織はよりアクティブに、パワフルに動き始めます。そうした状況を実現するためには、さまざまな部署での意識の変革が必要ですし、その上で何をすべきかを考える必要があります。もちろん教育プログラムは必要ですが、それを補強するものとして、日常的なシーンの中ですべてのスタッフがリーダーシップを意識し発揮できるような、環境づくりが重要でしょう。
もちろん、人事担当者も大きな役割を担います。人事部は人材の入り口であり、その後の評価を受け持つ部署です。リーダーシップを測る物差し…まではなくても、リーダーシップを個人の評価に反映させる何らかのしくみがあれば、勤務年数や数値実績だけではない人材評価を行う素地ができます。
今すぐにその効果は表れなくても、将来的には「リーダーシップを発揮できる人材が、その能力を評価される」ということになるでしょう。そうすれば「リーダーにふさわしい能力を持った人をリーダーに推す」という、シンプルで実効的な人材評価を行えるようになるはずです。
そうなれば、すべてのスタッフがすべての業務により積極的に関わり、解決し、成果を出そうとする意識が育てられ、ビジネスを力強く前進させる原動力にもなりうるでしょう。

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