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うちの会社、大丈夫か?健全な危機意識を持つ人へ捧ぐ『組織は変われるか』

うちの会社、大丈夫か?健全な危機意識を持つ人へ捧ぐ『組織は変われるか』

事業はうまくいっているのに、退職者や休職者が増え続けている。疲弊し、働く喜びを感じられていない現場。そうした状況を変えようと社長がメッセージを発信したり、研修を増やしたりしても何も変わらなかった——そうした問題に直面し「うちの会社、このままで大丈夫なのだろうか?」と考える“健全な危機意識を抱く有志たち”に向けて書かれた組織開発の方法論『組織は変われるか』(加藤雅則/英知出版/2017年12月13日発売)です。

加藤氏は東証一部上場企業からオーナー企業まで、さまざまな業種において組織開発に取り組んできた組織コンサルタントです。コーチングやファシリテーション、コンサルテ−ション、ナラティブ・アプローチなどに基づく独自の対話手法を用いて組織を変えてきました。まさに今、問題を抱えた組織開発の担当者と語り合うなかで進められるストーリーは、思わず引き込まれてしまうほどにリアリティを感じる方も多いことでしょう。

なぜ、組織は変われないのか?

働き方改革、研修制度、マネジメント合宿……どの会社でも、経営企画部や人事部はさまざまな施策で従業員の働きがいを向上させよう、効率を上げようと取り組んできたことでしょう。成功した例も少なくないことでしょうが、上層部の思いに反して現場は疲弊し、「この忙しいのに研修か……」「これ以上何をするのか」といった雰囲気が蔓延。意識調査をしても数値は下がるばかり、というケースも少なくないようです。

なぜ変われないのか? その原因を、加藤氏は「変わりたくても変われない」とし、研修と現場の乖離を指摘します。では制度を改めれば良いのかといえば、多様化した現代の価値観を一律に制度で律することができるものでもありません。むしろ「制度でどうにかする」という発想は、むしろ捨てるべきと氏は主張します。

組織開発の三原則

組織開発の原則として加藤氏が挙げたのが、3つの原則です。
・経営トップから始める
・各層のコンセンサス
・当事者主体

トップの後ろ盾を得て、変化を拒む層を見極めて変わってもらう。そして何より、メンバー全員が「自分は問題の当事者であり、問題の一部が自分である」ということを認識、つまり「自分ごと化」していること、この3つが組織開発には欠かせないと言います。特に「当事者主体」ではなくコンサルタント任せの姿勢が見られる場合には、加藤氏自身が依頼を辞退することもあるのだとか。組織を変えたいと思って本書を手に取った人なら、この本気度には深くうなずく部分も多いかもしれません。

この三原則をベースに、「社長との対話」「役員との対話」「部長との対話」が順を追って書かれます。社長との対話では、社長が語る理想と現場が感じている現実のギャップを明確にし、社長の思いが徐々に引き出されます。役員との対話では役員合宿を通し、議論ではなく対話を通して社長の大局観とのズレをなくしていく様子が描かれます。途中、ワンマン型の役員が怒りだすシーンなどは誰しも、想像がつくシチュエーションかもしれません。そして現場のアクションにつなげるカギとなるのが、部長との対話です。

わかりやすいハウツーで対処するのではなく、各フェーズの人々に何を目的に、どのような対話を試みていくか。起こりそうな問題への対応や感情のマネジメントも含め丁寧に紐解かれる組織開発のプロセスは、組織を変えたいと思う人がその志を断念することなく貫くための、何よりのお手本となってくれるでしょう。

「楕円の思想」こそが組織マネジメントの本質

本書の最終章は「自分との対話」です。組織が変わったとしても、人はいずれその環境に慣れ、緊張感を失うこともあるでしょう。そこで繰り返し「このままでいいのか?」と組織を刺激し続け、「自走する組織開発」にしなければいけないと加藤氏は語ります。

では、加藤氏自身は組織マネジメントをどうとらえているのでしょうか。氏は「謝辞」にて、「楕円の思想」という言葉を用いて説明しています。曰く「機能体としての『効率性』を中心とする円と、共同体としての『信頼』を中心とする円。この相反するふたつの円を、バランスの取れた美しい楕円形で包含すること。これこそが、組織マネジメントの本質ではないかと思うのです」

効率性と信頼。企業がさまざまなかたちで「働き方改革」に取り組み、成果の有無や社員のモチベーションのありかなどが見えてきた今だからこそ役立つ、実践の書と言えるかもしれません。

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