『人が辞めない会社がやっている「すごい」人事評価』
優秀な社員ばかり辞めていく、せっかく採用しても続かない……社員がいきいきと働けるように力を尽くしているつもりなのに、なぜ人が辞めていくのか?そうした悩みを抱える企業は少なくありません。そこで今回は、高橋恭介著『人が辞めない会社がやっている「すごい」人事評価』(アスコム/2017年7月7日発売)を取り上げます。
目次
社員に迎合する会社が人材を失う
空前の売り手市場と言われている昨今、人材不足に悩む企業が増えています。それにもかかわらず、コストをかけて採用した人員がどんどん辞めていく。会社としてみれば大きな痛手であり、社内の士気も下がる一方。こうした企業の悩みを「人事評価」によって解決しようというのが、著者である株式会社あしたのチーム代表の高橋恭介氏なのです。
社員をほめて伸ばそうとする、中途社員にも前職と同様の待遇を約束するー―ごくごく普通に行われているこうした傾向が社員を増長させ、生産性を下げる原因になっていると本書では語られます。ほめるという人材育成法は確かに一理あるものの、会社として人を育成する明確なポリシーなくしてはただ甘やかすだけになってしまいます。中途社員への待遇も同様です。実力も見極めずに評価を下すようなもので、古参社員が不満を抱き辞めていく原因にもなります。
結果を評価対象とする成果主義も、高橋氏が警鐘を鳴らすもののひとつ。社員の伸びしろに対する評価しなければ、将来性ある社員を失うばかりか社内にはギスギスした雰囲気が蔓延し、業績にも影響を与えかねません。
中でも高橋氏が「罪が重い」と断言するのが、人事への投資を怠ること。広告宣伝費や設備投資など、経営者は常に何に投資をすべきは判断を行っているわけですが、目先の利益ばかりを優先して人事への投資を怠れば、社員は疲弊し不満を抱き、業績も悪化していくという負のスパイラルが起こってしまうのです。それは人事に投資しないばかりにし、社員が「フェア・バリューで評価されていない」という意識を抱くのが大きな原因です。この「フェア・バリュー」というキーワードが、本書のカギとなります。
フェアな評価は働き方改革にもつながる
本書では「フェア・バリュー」について「高い能力に見合った評価」と定義しています。勤続年数に従って給与が上がったり、中途社員に前職と同じ待遇を保証したりすることはフェア・バリューには当たりません。高い能力を持つ社員をフェア・バリューをベースとした人事評価によって保護し、能力が高くない社員については能力向上を促すことが重要なのです。これは昨今、どの会社でも取り組みが始まっている働き方改革においても外すことのできない視点と言えるでしょう。
どんな仕事でも「報われた」と感じた瞬間の嬉しさは、それまでの苦労を吹き飛ばすほどの嬉しさややりがいを感じるものです。もっと力を尽くしたい、さらなる高い目標に取り組みたいと考えるようになるのも当然のこと。それを年功序列制によって毎年昇給していくことによって感じる時代は終わりました。高橋氏は「社員が実績を上げたらその時点で評価され、給与に反映されるべき」としています。これが21世紀型の「報われる」であり、それを実現するのがフェア・バリューによる評価だとしています。
「黒船襲来」をどのように会社になじませていくか
本書は、1冊の約3/4を事例紹介に費やし、「すごい人事評価」を導入して生まれ変わった10社を紹介しています。導入後、2億2,000万円だった売上を10億にまで伸ばした企業もあります。出会いたい顧客と出会えるようになったという企業もあります。成長途中の企業、崖っぷちの企業、IT化により危機にさらされた企業と状況はさまざまですが、注目すべきなのは「すごい人事評価」を制度として取り入れた際の反発や定着への道のりを、丁寧にすくい上げていることです。
年功序列制に甘んじてきた人や、現状の評価制度に不満を持たない人にとっては「自分の給料が下がるのでは」と危惧してもおかしくないのが評価制度改革。なかには「黒船襲来」とまで呼ばれたケースもあったのだそう。それでも導入に踏み切り、成果につなげたことは実際に導入する上で、非常に参考になるでしょう。ある会社はこうも言っています。「『社員の良いところ探し』も、人事評価制度があるからできる」と。これは冒頭で述べたような、さしたる評価基準もなくとにかくほめるといった人材育成法とは、対極をなす考え方と言えるでしょう。
単なる「人が辞めない」から業績向上まで。人事評価が会社を変える
高橋氏が代表を務める「株式会社あしたのチーム」の“あした”には、「経営者が社員と向き合うために一歩を踏み出す勇気や社員が日々改善を行っていくための小さな意識改革」、“チーム”には「仲間が思いをひとつにして輝かしいゴールに向かって進んでいく組織」という意味が込められているのだとか。
経営者は勇気を、社員は意識改革を。「人が辞めるのを防ぐ」というのは実は小さな問題であり、業績の改善や向上、社員がいきいきと効率よく仕事で力を発揮していくための働き方改革へのブースターとして、自社の人事評価を振り返ってみてはいかがでしょうか。