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出戻り社員とは?優秀な社員を再び採用するメリット・デメリット・注意点・気になる待遇について解説

出戻り社員とは?優秀な社員を再び採用するメリット・デメリット・注意点・気になる待遇について解説

過去に在籍していた優秀な社員からの「戻りたい」という思いに着目して、出戻り社員(アルムナイ)を積極的に受け入れる会社が増えてきました。そこで今回は、出戻り社員とはどのような社員なのかを紹介し、出戻り社員の採用におけるメリットとデメリットを解説します。最後には、実際に起こり得るトラブル事例から解決策を導き出し解説していますので、ぜひ参考にしてください。

出戻り社員とは?

出戻り社員とは、一度退職して他社で働いたり、独立して働いたりした後、再び過去に在籍していた会社に雇用される社員のことを指します。

「出戻り」は「再雇用」という意味に言い換えることができますが、定年退職後に再雇用される継続雇用を目的とした再雇用制度とは区別する必要があります。つまり、“出戻り”という意味の通り、一度は外部の環境に移籍してから戻ってくる社員のことを出戻り社員と呼びます。

数字から紐解く出戻り社員の採用比率

実際に出戻り社員を採用したことのある企業は、どのくらいあるのでしょうか。まずは数字から見ていきましょう。

マイナビが発表した「中途採用状況調査2021年版」によると、2021年に出戻り社員の再雇用を実施している会社の割合は52.7%という結果でした。中でも、従業員が1,001人以上在籍する大企業では68.5%、上場会社に限っては73.6%が実施しているという結果が出ています。
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このように、現状では半分以上の会社が出戻り社員を受け入れていることから、過去に在籍していた社員の再雇用は一般的になってきていると言えるでしょう。

参照:「中途採用状況調査2021年版」マイナビ

出戻り社員が必要とされる背景

退職後、次なるキャリアを歩み始めた人の中には、
・異なる環境を経験してみた結果、自分には前職での環境が合っている
・独立して働いていたが、経済的な安定を求めて再び正社員に戻りたい
・育児や介護などの事情により退職せざるを得なかったが、年数が経過し復職して働きたい
このような理由で、以前在籍していた会社で再び働きたいと思っている人が存在します。

実際に再雇用のきっかけは「本人からの応募」が最も多く、このようなニーズに着目し積極採用を行う企業が増えていても不思議ではありません。他方、企業側も労働人口の減少による人材獲得競争に苦戦を強いられる昨今では、元々在籍していた社員が戻ってくることに対して、大きな抵抗はないことも挙げられます。

また、会社も生き物ですから、日に日に変化はあるものです。働き方の多様化に伴い、その変化のスピードも速くなっています。職場環境や社内制度が整い、復職したい社員をより良い環境で再雇用することが可能になっているのです。

出戻り社員の採用におけるメリット

①:即戦力としての活躍

②:他社での経験によるスキルアップ

③:企業風土・カルチャーの高い理解

①:即戦力としての活躍

出戻り社員を採用した後に、中途社員向けの通常研修をすべて実施する必要はありません。元々在籍していた社員ですから、在籍当時との変更点や特に留意すべき事項の研修を実施し、すぐに業務遂行を担ってもらう方がお互いにとって有意義な時間の使い方と言えます。

ブランクが空いている社員には通常の研修を受けてもらう必要もありますが、出戻り社員は在籍時の経験を思い出し、研修内容の理解が早い傾向にあります。

つまり、社内事情の把握や過去在籍時の同僚との関係性、業務の経験値より、出戻り社員は再雇用した日から戦力となるまでの期間が短いのです。ここに、“即”戦力と言われる所以があります。

②:他社での経験によるスキルアップ

出戻り社員は、過去に在籍していた時よりもスキルアップして戻ってくることでしょう。そのスキルが在籍時と同様でも異職種であっても、会社にとっては貴重な経験として重宝されるでしょう。

これは、業務に限った話ではありません。仕事の進め方の違いや社内ツールの活用経験、マネジメント方法など、環境を変えることで得られたノウハウを会社に還元できる点も大きなメリットと言えます。

③:企業風土の高い理解

実際に働いてみないと、なかなか会社のカルチャーや社風は分からないものです。中途社員は入社前の理想と入社後の現実とのギャップにより、早期活躍が出来ず、最悪の場合は早期離職に繋がってしまうこともあります。

一方で、出戻り社員は会社のカルチャーを良く理解したうえで、再び戻りたいと手を挙げている訳ですから、企業風土の不一致で仕事のモチベーションが下がることは極めて低いと言えます。

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出戻り社員の採用におけるデメリット

①:過去の経験と実績に固執

②:既存社員との待遇バランス

③:転職に対する価値観の崩壊

①:過去の経験と実績に固執

会社は常に進化を続けており、過去在籍時と再雇用時が同じ職場環境とは限りません。出戻り社員が過去在籍時に実行していた仕事の進め方が通用しない可能性もあるのです。

企業側が出戻り社員の仕事の進め方に合わせる必要はありません。しかし、出戻り社員が過去の経験や実績という固定概念が、“今”のやり方への適応を邪魔してしまう恐れが生じます。「完全なる新たな環境」ではないからこそ、出戻り社員が持つ特有の葛藤にも目を向けなくてはなりません。

②:既存社員との待遇バランス

出戻り社員を採用する際に、過去の実績と退職後の経験を加味してポジションや給与条件を好待遇で歓迎すると、既存社員から不平不満が出てしまいます。自社で懸命に努力をしてキャリアアップを目指していた社員にとっては、好待遇で歓迎されている出戻り社員の姿を良くは思わないでしょう。

これにより、社員同士のトラブル発生や会社への不信感が募り、既存社員の著しいモチベーションの低下につながってしまうのです。

③:転職に対する価値観の崩壊

出戻り社員を過剰に受け入れることで、既存社員が「一度退職しても簡単に戻ってこられる」と思うようになり、転職に対するハードルが下がります。“会社を辞める”という大きな決断のハードルが下がると、優秀な社員の流出を助長してしまいます。

出戻り社員の採用で起こり得る失敗事例3選

出戻り社員を採用する際に、どのようなトラブルが生じる可能性があるのでしょうか。本章では、出戻り社員の採用時によくある失敗事例を3つ紹介します。解決策も後述していますので、併せてご確認のうえトラブル防止に努めましょう。

①:出戻り社員の採用と既存社員の入れ替わり退職

“即戦力”となる出戻り社員を採用したことで、“現戦力”であった既存社員が退職してしまう入れ替わり人事が起きる事例です。この入れ替わり人事が起きてしまう原因には、下記の3点が挙げられます。

■自分が目指していたポジションに出戻りで帰ってきた社員が就いた
■出戻りで帰ってきた社員が偉そうな態度を取り、職場の雰囲気が変わってしまった
■出戻り社員に対する待遇が明らかに違う

中途採用社員の入社や人事異動など、会社は常に進化を続けています。そして、既存社員はこのような変化を受け入れたくない訳ではなく、公平な評価を受けていないと感じる環境を好まない傾向にあります。

以前の在籍時を知らない既存社員にとっては出戻り社員も中途社員の1人ですから、特別な待遇を受けているという感覚を持った時点で会社への信頼が薄れていってしまうのです。結果的に、優秀な既存社員は新たな環境を望み、退職に繋がってしまうこともあります。
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②:出戻り社員の再退職に伴う組織混乱

出戻り社員であっても、再び退職してしまうリスクはもちろんあります。過去在籍時の実績も知っているからと言って、出戻り社員をいきなり重要ポストに就任させ、マネジメント経験を積ませようと考えた経営者。しかし、出戻り社員で好待遇を受けることや、過去在籍時に仕事を共にした社員への特別扱いを快く思わない既存社員との人間関係が上手くいかず、退職を余儀なくされるケースも起こり得ます。

このようなケースでは、1人の社員が退職したという事実以上に、重要ポストの信頼回復と組織再編にかかる時間と手間といった大きな影響を及ぼします。また、出戻り社員の再退職が続くと、既存社員からは「また辞めるかもしれない」という出戻り社員に対する偏見が生まれ、社員間のコミュニケーションが希薄になってしまう恐れもあります。

③:選考基準の曖昧さが招くスキルアンマッチ

出戻り社員については、在籍時の実績も把握しているし、人柄も良く知っているから、通常の選考基準に当てはめず、適性検査も実施せずに採用を決定。しかし、いざ入社して働いてみたら思ったような活躍が出来ない。このような事例も実際に起こってしまいます。

中途採用の面接とは、スキルや人柄の見極めと同時に、お互いの理解を深める場としても重要な意味を持ちます。出戻り社員も「戻りたい」という感情よりも、「戻って貢献したい」という思いを強く持っているでしょう。そのため、過去の実績や人柄を知っているからと言って、出戻りしたい社員とのコミュニケーション機会を十分に取らないまま採用を決定してしまうのは大きなリスクを伴います。

会社も成長を続けている訳ですから、在籍時とまったく同じ環境に戻れるとは限りません。選考基準を曖昧にしてしまうことにより、出戻り社員が思い描いているキャリアと会社が任せる業務に齟齬が生じてしまい、出戻り社員にとってはキャリアを築いていく上で思わぬ傷を負ってしまう可能性があります。

出戻り社員を採用する際の注意点5つ

本章では、上記のような失敗事例を起こさないための企業が取り組むべき注意点を解説します。トラブルの原因から紐解き、解決策に結び付けています。

1.既存社員への周知・理解の徹底

“採用”には目的が必要です。特に中途採用においては、明確な期待役割を与えて採用決定をするでしょう。これは、出戻り社員でも同じことが言えます。しかし、前述したトラブル事例から分かる通り、既存社員の出戻り社員に対する意識を変えていく必要があります。

出戻り社員は中途採用と同様ですから、特別な周知方法を設定する必要はありません。既存社員には、「中途採用と同じく会社に必要な優秀な社員だから採用した」という事実が分かれば、既存社員から不満分子が出ることはないでしょう。

では、どうすれば既存社員に出戻り社員の採用に対する正当な理解が得られるのでしょうか。

2.選考基準の明確化

既存社員から出戻り社員の採用に対する正当な理解を得るためには、出戻り社員だからといって選考基準を曖昧にすることなく、中途採用時と同様の明確な基準のもと採用決定をするべきです。

失敗事例でも解説したとおり、出戻り社員だけ選考基準を曖昧にしてしまうと、出戻り社員のキャリアも傷つけてしまうにとどまらず、既存社員の会社への不信感にも繋がってしまいます。

少なくとも出戻り社員の“在籍時”と“現在”では、会社のフェーズや社員も違う訳ですから、現行の選考基準で採用の見極めをすることが望ましいです。出戻りを希望する社員が、退職後にどのような業務を経験してきたのか、仕事に対する向き合い方は以前と変わっていないかなど、“現在”の職場とのマッチングを判断する必要があるのです。そうすることで、給料・ポジション・労働条件・業務内容などの待遇面におけるトラブルは防ぐことができます。

3.退職理由となった問題の改善

出戻り社員を採用するということは、在籍時の活躍に加えて異なる環境で経験を積んできた優秀な社員を受け入れるということです。しかし、出戻り社員が退職した理由によっては、戻ってきても同様の問題が起こり、再び退職してしまう可能性もあります。そのため、退職理由や問題点を精査し、必要であれば改善しておく必要があります。

ここで注意すべきは、出戻り社員だけに特別な待遇を与えないことです。例えば、給料に不満があり退職した場合に、現在の人事評価基準と照らし合わせずにオファー額を設定してしまうと、人事評価制度や昇給のバランスが崩壊してしまいます。

一方で、長時間労働や休日出勤が原因で退職した場合、既存社員も同じ不満を抱えている可能性があるため、業務改善の対策が必要です。退職理由はしっかりとヒアリングし、継続的でより良い職場環境の構築に努めましょう。そうすることで、自然と優秀な社員が戻ってくるようになります。

4.受け入れ体制の構築

出戻り社員の受け入れ体制は、“意識”の問題です。出戻り社員が戻ってきた際に、居心地の悪さを感じると、パフォーマンスの低下や退職に繋がってしまいます。そのため、経営者や人事担当者は、既存社員が「出戻りを許す」ではなく、「出戻りを歓迎する」雰囲気を醸成する必要があります。

前提として、既存社員からの不満がない状態を作る必要がありますが、前述した3つの注意点を実践できれば、既存社員から出戻り社員に対する不満が生じる可能性は低くなります。こうすることで、自然と受け入れ体制を構築できるでしょう。

5.円満退職の仕組み化・アルムナイネットワーク

優秀な社員に戻ってきてもらうためには、退職時と退職後も継続して良い印象を持ってもらう必要があります。社員がキャリアアップを望んで退職を申し出ることは仕方のないことですから、将来的な出戻りも視野に入れた円満退職をしてもらうための「イグジットマネジメント」が重要です。
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イグジットマネジメントとは、“雇用の出口管理”を意味する人材マネジメントのひとつです。人材不足が著しい近年では、“雇用の入口管理”である採用と併せて、退職時の人材管理も注目を集めています。

そして、退職した社員との交流を絶やさないことも重要な取り組みです。これをアルムナイネットワークと言います。アルムナイとは、英語で“卒業生”という意味で、ビジネスシーンでは“退職者”を意味します。退職者とのネットワークが出来ていれば、採用ニーズが発生した際の企業側からの情報発信や社員側が戻りたいと思った際に企業への相談がしやすくなるのです。

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まとめ

今回は、出戻り社員の採用におけるメリット・デメリットから、注意点を解説してきました。他社を経験した出戻り社員は、多くの価値を与えてくれる存在になります。経営者や人事担当者は、組織の活性化や業績アップを図るための重要な人事戦略として、出戻り社員の採用における注意点を明確に理解しておきましょう。

また、退職した優秀な社員が戻ってくるための最適な組織作りは、既存社員の働きやすさと中途採用における会社の魅力向上にも繋がります。会社が成長するきっかけは、様々なところに隠されているのです。

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