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デュアルキャリアとは?アスリートが直面する課題から紐解くメリットと企業の考え方を解説

デュアルキャリアとは?アスリートが直面する課題から紐解くメリットと企業の考え方を解説

副業の解禁、転職の一般化、定年の延長。時代が移り変わる中でキャリアを取り巻く環境も大きな変化を遂げてきました。中でも、アスリート×ビジネスという新たな分野は大きなポテンシャルを秘めているのです。本記事では、アスリートキャリアの幅を広げる、そして、企業の人材課題を解決に導くデュアルキャリアの考え方について解説します。

デュアルキャリアとは?

デュアルキャリアとは、アスリートが競技活動と並行して競技以外のキャリアを形成することを指します。英語の“dual”は「二重」という意味を持ち、“career”は「職歴」を表します。デュアルキャリアはこの2つを組み合わせた造語であり、異なる2つの職歴を同時に積み重ねていくことを意味します。

デュアルキャリアが注目される背景

アスリートとしての競技人生は極めて短いものです。当然、アスリートとして長く活躍し、その競技一筋で生計を立てていけることが理想ではありますが、私たちが日々ニュースで活躍を目にする競技者は、アスリートの中でもほんの一握りです。実は、多くの競技者がアスリート引退後のキャリア形成に悩んでいます。

実際、オリンピック出場選手(オリンピアン)の平均引退年齢は29.9歳であり、競技だけで人生設計をすることはリスクを伴うということが分かります。そこで、競技生活と並行して、競技とは異なる分野でのキャリアを作っていくデュアルキャリアという概念が注目されているのです。

参照:笹川スポーツ財団 2014年度調査報告書【オリンピアンのキャリアに関する実態調査】
https://www.ssf.or.jp/Portals/0/resources/research/report/pdf/2014_report_27.pdf

セカンドキャリアとの違い

アスリートのキャリアを考える上で、デュアルキャリアよりも前に登場していたのがセカンドキャリアという考え方です。競技生活をファーストキャリアとして、競技生活終了後の第二にキャリアのことを指しています。セカンドキャリアとデュアルキャリアの違いは下記です。

■セカンドキャリア:アスリートとしてのキャリアの“その後”
■デュアルキャリア:アスリートとしてのキャリアと“両立”

どちらもアスリート以外のキャリアという点は共通していますが、競技生活との時間的な関係性に違いがあると言えます。セカンドキャリアは、競技生活とビジネスを完全に切り離した概念である点が特徴であり、デュアルキャリアは競技生活との親和性・連動性・適応力において有利に働く可能性がある点が特徴と言えます。

アスリートが直面する課題

では、アスリートは実際にどのような課題を感じているのでしょうか。本章では、競技生活の中で感じる【社会】に関する課題と、デュアルキャリアを形成する上での【両立】に関する課題に分けて紹介します。

【社会】に関する課題

経済的な不安

アスリートの世界は、活躍すれば収入が増える、活躍できなければ収入が増えないという完全成果主義の厳しい世界です。「5年総額30億円」「優勝賞金5,000万円」などといった超大型報酬を貰うアスリートばかりが我々の目に留まりますが、経済的な不安を抱えるアスリートの方が遥かに多いのがこの世界です。今や華やかな競技生活を送るアスリートの中にも、過去に経済的な不安を抱えながら競技を続けた経験がある選手も多くいるでしょう。

また、競技によって「知名度」「競技人口」「運営団体」「放映権」「競技寿命」など様々な要素で違いはあり、報酬に影響してくることは想像に難くないでしょう。経済面に関するアスリートの悩みは尽きない課題であると言えます。

ビジネスパーソンとしてのノウハウ不足

アスリートは、学生時代から継続してきた競技をプロフェッショナルとして更に極めているケースが多いです。そのため、社会人としてのビジネス経験が乏しく、基礎的なスキルやノウハウが身についていないことも見られます。中途採用では、経験者や即戦力人材を求められるケースが多く、アスリート以外の社会人と比較すると、新たな分野での挑戦を阻まれてしまうことが多くあるでしょう。

仕事に対するやりがい

長く継続してきた競技生活を終えて、すぐに異なる分野でのキャリア構築を前向きに捉えられるかというと、難しい面もあるでしょう。一方で、前述したとおり、アスリートは経済的不安の解消や社会的責任を果たすために、自分に合ったキャリアよりも短期目線の限られた選択肢の中からキャリアを形成してしまう傾向があります。

中長期的な目線でのキャリア形成ができず、やりがいをもって仕事と向き合うことが難しくなってしまうのです。

【両立】に関する課題

時間管理の難しさ

アスリートは、日々のトレーニング、食事、睡眠といったルーティンを徹底的に管理している他、大会への出場や遠征といった非日常的なアスリート特有のスケジュールがあります。勝ち進めば違う日程での大会出場が決まったり、大会直前はトレーニングメニューを変化させたり、競技と仕事との両立に関しては、どうしても競技優先でのスケジュール管理になります。そのため、スケジュールの調整や業務配分など、柔軟な働き方が求められます。

体調管理の難しさ

アスリートは、トレーニングでは計り知れない負荷がかかり、大会・試合では相当な緊張感の中で競技しています。肉体的にも精神的にも負担がかかり、業務に影響を与えることも考えられます。競技を続ける以上は、心と体の体調をしっかりと管理していく必要があるのです。

デュアルキャリアのメリット

デュアルキャリアを歩んでいくことで、アスリートが抱える課題をどのように克服できるのでしょうか。ここからは、デュアルキャリアのメリットを5つ紹介していきます。

経済的な不安の軽減

アスリートとしての成績や怪我に左右されない、一定の収入を確保できる点が挙げられます。生活費として必要になることはもちろん、アスリートとして結果を残していく上で欠かせないトレーニング費用や遠征費用に充てることもできます。その結果、アスリートとしての成績向上にも繋がり、少しでも長い競技生活を送るためのきっかけになるのです。

人脈の構築

競技以外の分野で人脈を広げていくことで、客観的な考え方を享受することができ、モチベーションの向上に繋がります。特に、人生のほとんどを競技に捧げてきたアスリートにとっては、異なる考え方に触れることは貴重な機会となるでしょう。

また、ビジネスパーソンとしてだけの関わりではなく、アスリートとしての一面にも好影響を与える可能性があります。例えば、後援会の設立による金銭的な支援といったような経済的な援助に繋がるメリットもあるのです。

ビジネスパーソンとしてのスキルアップ

1人の社会人として、“競技を続けながら”ビジネススキルを向上させることができます。前述したとおり、アスリートの平均引退年齢は29.9歳ですから、30代40代50代と続いていくアスリート生活よりも長く続くキャリアの基礎となるスキルをデュアルキャリアで習得しておくことができるのです。セカンドキャリアの考え方よりもスムーズに次のキャリアへ進むことができ、キャリアの選択肢も広がっていくことでしょう。

キャリアのリスク分散

アスリートに怪我はつきものです。競技者生命を脅かす大怪我を負う可能性が常にあり、予期せぬ引退と隣り合わせで生活しているのです。そのため、万が一に備えた生活を支えるための就業場所を確保しておける点も大きなメリットになります。

競技パフォーマンスの向上

アスリートの精神状態は繊細に管理されていて、不安はパフォーマンスにも表れてしまいます。本章で紹介した経済的余裕、社会的地位の確立、能力向上、リスク対策はすべてメンタルの安定に影響を及ぼし、結果的に競技のパフォーマンス向上に繋がっていきます。

アスリート採用における企業の考え方

ここまで、アスリートの視点から課題とデュアルキャリアのメリットを紹介してきました。では、企業視点に立つと、どのような観点から取り組みを促進していくべきなのでしょうか。本章では、企業がアスリートを採用する際の考え方について解説します。

多様性組織の構築

多様性組織とは、異なる属性・個性を持った人々が共存している状態を指します。ビジネスにおいては、国籍、性別、人種、年齢、宗教、学歴、性格などが主な属性として挙げられます。アスリートには、極めて高い集中力やチームプレーを重んじる姿勢などといった個々に特有の長所を持ち、多様性のある強固な組織の構築に重要な役割を果たしてくれるでしょう。

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柔軟な働き方の推進

競技とビジネスの両立をしていく上で、働く時間の柔軟性は欠かせません。とはいえ、アスリートだけが働きやすい環境を作るのではなく、全社員が効果的にパフォーマンスを発揮できる職場環境の構築を目指していく必要があります。

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地域貢献

アスリートを採用するだけではなく、就業のしやすさと競技のしやすさを追求していく必要があります。これは企業とアスリートだけで実現できるものではなく、地域(地方自治体)との連携も必要です。例えば、下記のような地域貢献が挙げられます。

■アスリートがトレーニングをするスポーツ施設を整備することによる地域住民の活用
■地方自治体・民間企業・アスリートが一体となりスポーツによるまちづくりや地域活性化
■スポーツ大会の開催
■合宿の誘致
■地域交流イベントの開催

スポーツを通じた地域活性化は大きな効果をもたらします。デュアルキャリアを目指すアスリートを採用し、地元市民との連携を強化することで、企業のブランディングにもなるでしょう。

デュアルキャリアアスリートの働き方

続いて、デュアルキャリアとして働くアスリートの就業イメージも理解しておくと良いでしょう。アスリートによって働き方は様々であり、トレーニングに充てる回数も時間も休息日もそれぞれ異なります。そのため、アスリートと企業の双方で、仕事と競技のバランスを把握し合うことが重要です。例えば、デュアルキャリアでは下記のような働き方が可能です。

■朝と夜にトレーニングを実施、日中に業務遂行
■午前中にトレーニングを実施、午後に業務遂行
■午前中に業務遂行、午後にトレーニング実施、夜に再び残りタスク遂行

デュアルキャリアとして就業するアスリートの働き方の例

アスリートが、競技と業務の両方に集中して取り組めるよう、アスリートと綿密にコミュニケーションを取りながらスケジュールの管理をしていきましょう。

デュアルキャリアを推進する企業事例

最後に、デュアルキャリアを推進する企業の事例を見てみましょう。

バリュエンスホールディングス

ブランド買取「なんぼや」を代表とする日本国内でブランド品・時計・宝石・貴金属などのリユース事業を展開している企業です。実は同社、元Jリーガーの嵜本晋輔氏が設立した会社であり、アスリートのデュアルキャリア採用には非常に力を入れています。

アスリートが社会人生活とアスリート生活の両方を本気で取り組むことができる仕事を用意し、100人採用(10競技×10人)を掲げています。

参照:【バリュエンスホールディングス】アスリートのためのデュアルキャリア採用
https://www.valuence.inc/athlete/

まとめ

人材不足が深刻化し、各企業で人材獲得競争が激化する中、見つめ直すのは「採用手法」だけでしょうか。探すリソースを広げることに加えて、働く人材の幅を広げることが今後は求められていくでしょう。スポーツとビジネスの相乗効果、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

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