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「リテンションマネジメント」とは?社員の離職率を下げる導入事例や組織診断士のおすすめ本を紹介

「リテンションマネジメント」とは?社員の離職率を下げる導入事例や組織診断士のおすすめ本を紹介

人材不足や労働力不足が深刻な状況にある日本において、企業にとって優秀人材がより長く働くことができる環境づくりや離職率を下げることは重要な課題です。近年このような課題解決の取り組みとして「リテンションマネジメント」に注目が集まっています。

本記事では、リテンションマネジメントとはどのようなマネジメントなのか、なぜ注目が集まっているのか、導入企業事例やおすすめ本などをご紹介します。

リテンションマネジメントとは?

リテンションマネジメントとは、英語で維持・保持する意味の「retention」と人事管理を意味する「management」を組み合わせた言葉で、「今企業にいる必要な人材を保持して離職率を下げる施策」を意味します。

リテンションマネジメントに注目が集まる2つの理由

リテンションマネジメントに注目が集まる理由には、人材不足や労働力不足と社員の離職率上昇等の深刻な社会問題が影響しています。ここではこの注目が集まる2つの理由について説明します。

①人材不足・労働力不足
総務省統計局の調べによると2021年平均労働人口は6,860万人となり前年より8万人減少しています。少子高齢化の影響を受け労働人口は年々減少しており、人材不足に陥っている企業が目立つようになりました。また、2021年の有効求人倍率の平均が1.13倍と人手不足を感じてもなかなか採用に結び付かないという現状があります。

②優秀人材が定着しにくい
リスクモンスター株式会社が行った「社会人の転職事情アンケート」調査で20〜60代の社会人500人を対象にアンケートを行ったところ、「転職をしたことがある」と答えた人は過半数の56.6%にまで及びました[注1]。この結果を見てわかる通り、現代社会において転職は決して珍しいことではありません。
採用して間もない社員であって、組織の中枢として活躍する中堅からベテラン社員であっても、優秀な人材が自社に見切りをつけ、突然退職を切り出すケースも少なくありません。

[注1]リスクモンスター株式会社 調査結果発表:第1回 「社会人の転職事情アンケート」調査(リスモン調べ)

リテンションマネジメントの目的

リテンションマネジメントを取り入れる最大の目的は2つあります。

1.離職を防ぐこと
2・従業員に長く活躍してもらうこと

上記2つが最大の目的と言える理由は「リテンションマネジメントに注目が集まる2つの理由」でも説明しましたが、人材不足・労働力不足が原因となり人材の売り手市場が続き、求人をかけても人が集まらない、優秀人材の採用が難しい状況が続いているためです。

100社あれば100通りのリテンションマネジメントが存在

リテンションマネジメントの取り組みに興味はあるが、実際に何をするべきかわからないという方も多いのではないでしょうか。

リテンションマネジメントの目的は、「離職を防ぐこと」、「従業員に長く活躍してもらうこと」ですが、会社の状況に応じて何をすればいいのか、どのような施策を行えばいいのか様々です。そこでまずは改めて自社の状況を振り返り、分析をする必要があります。

Step1:従業員が離職する要因は何かをピックアップ
待遇、成長性がない、言いたいことが言えない、人間関係が悪い等、会社によって離職の要因はそれぞれ全く状況が異なります。まずはそれらをすべてピックアップします。

Step2:離職理由を分析
離職の要因がピックアップできたらどの要因での離職が多いのか、従業員がこうしたいと思っていることと、会社の状況が一番かけ離れている要因は何かを分析し、要因を順位付けします。

Step3:ワースト1から一つずつ改善
ワースト1になった要因から一つ一つ改善をしていくことが効果的な離職の抑制につながります。離職の要因や、離職理由の分析によって何をすべきか、どのような施策を行うべきか変わるため、リテンションマネジメントに特定の答えは存在しません。100社あれば100通りのリテンションマネジメント、改善方法が存在します。

リテンションマネジメントのメリット

リテンションマネジメントに取り組んだ結果、離職率が下がることで以下のようなメリットがあります。

① 離職、採用に伴うコストが抑えられる
社員が離職すると、育成するまでの時間と労力が水の泡となり、その穴を埋めるための新たな優秀人材を探さなくてはなりません。優秀人材が見つからなければ、その間は人材派遣会社などに高額な派遣料金を払い補う場合もあります。離職率を下げることができればそのようなコストも最低限に抑えられます。

② ノウハウや情報の流出を防ぐ
離職により、ノウハウや情報、知識が他社や個人に流出してしまうと、事業戦略の変更を余儀なくされる他、様々な問題を引き起こしかねません。優秀人材を定着させることで個々が積み重ねてきたノウハウを活かせます。

③ 長期的事業戦略を立てやすくなる
事業戦略を立てるには社内にどのような人材がおり、誰が適しているかなどを把握する必要があります。人材が定着していれば長年の観察に基づく確かな評価ができますので、長期的な事業戦略であっても適材適所に人材配置を行うことが可能になります。

④ 従業員エンゲージメント・満足度の向上
社内でのコミュニケーションを大切にし、良好な関係性を築くことは従業員エンゲージメントを高める要因になり、ハラスメントなどの防止にも期待ができます。また、リテンションマネジメントを行うことで人材の流出を防ぎ、従業員が長く働くことができる企業を目指すことにも繋がります。

⑤ 顧客満足度の向上
リテンションマネジメントによって離職率を下げることで、顧客にとっても信用に繋がります。「毎回同じ人が担当してくれるため、スムーズに話が進む」という安心感があります。他にも、先述した通り「従業員が長く働ける会社」は現代では「優良企業」という認識にも繋がり、イメージアップとして顧客からの信頼獲得になります。

リテンションマネジメントを取り入れている企業事例

リテンションマネジメントを取り入れ成功している企業としては、トヨタ自動車が有名です。2020年に年功序列制度を廃止し賃金の見直しを行った結果、若手社員や技能系社員の賃金水準が上がり、年功序列のカーブを緩めることに成功しています。他にもリテンションマネジメントを取り入れている企業をいくつかご紹介します。

事例① サイボウズ株式会社 「100人いたら100通りの働き方」

サイボウズ株式会社は、グループウェアやチームワーク強化メゾットの開発、販売、運用、提供を行っている企業です。「100人いたら100通りの働き方」があってよいという考えを大切にし、ワークスタイル変革を行い、社員の声に耳を傾けその中でも声が多かった3つを軸に変革を行いました。

・組織や評価制度の見直し
・ワークライフバランスに配慮した制度
・社内コミュニケーションを活発化する施策を実施

結果2005年過去最悪の離職率28%でしたが、変革後3%~5%の離職率にとどまっています。

参考:サイボウズ株式会社 ワークスタイル

事例② 株式会社鳥貴族 「外食産業の“当たり前”からの脱却」

株式会社鳥貴族は、焼き鳥で知られる飲食店「鳥貴族」を運営する企業です。外食産業では離職率が高いのは当たり前、残業が多いのは当たり前。そんな当たり前から脱却するため、鳥貴族は様々な施策、取り組みを行いました。

・数字を追わず、利益が出たら社員に還元
・入社して活躍する人だけを採用する方法
・部門を超えて早期離職者減少に取り組む
・理念の共有が働きやすい会社を作る
・無断残業NG

施策、取り組みを実施した結果外食産業の当り前からの脱却に成功し、離職率が低い企業へ成長しました。

参考:リクナビNEXTジャーナル 【定着率の裏に理念あり】離職率が業界平均を大きく下回る鳥貴族の秘密

リテンションマネジメントを学べる4冊のおすすめ本

リテンションマネジメントを学ぶためにはどのような本を読むとより理解が深まるのでしょうか。
弊社では2種類のサーベイ(ストレスチェック、当社同時質問)によって心身の健康、エンゲージメント、組織行動特性等の診断ツールと組織診断士のコンサルティングによるTFA(※)というサービスを提供しています。

TFA(Talent Fusion Assessmennt) ~離職を未然に防ぎ活性化した組織へ~

今回は、そのTFAの組織診断士がおすすめするリテンションマネジメントを学ぶための本をご紹介します。

■服部 康宏(2016)『採用学』-新潮社

おすすめ本 採用学リテンションマネジメントは採用から始まっています。「自社にとって良い人とはどんな人か」という定義に向き合うところから始まり、「採用」を科学的な手法で分析しています。
自社で行っている「採用」が本当に正しいものなのか、考えるきっかけをくれる1冊です。
 

■石井 遼介(2020)『心理的安全性のつくりかた』-日本能率協会マネジメントセンター

おすすめの本 心理的安全性のつくりかた離職要因を回避するという観点から、個人とチームのあるべき関係性が良好である必要性、施策だけでなく社員の心理的安全性の効果的な作り方などフレームワークを介し紹介しています。
あらゆる組織やコミュニティで実践できる内容も多く、リテンションマネジメントと同時に心理的安全性についても学べる1冊です。
 

■ テレサ・アマビール(著),スティーブン・クレイマー(著),中竹 竜二(監訳), 樋口 武志(訳)(2017)
『マネジャーの最も大切な仕事 : 95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力』-英治出版

おすすめの本 マネジャーの最も大切な仕事 : 95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力やりがいのある仕事が進捗するようにマネジャーが支援すると、メンバーの創造性や生産性、モチベーションや同僚性が最も高まるという「進捗の法則」を紹介しています。
日々の業務の上で最も関係性の深い上司の意識と行動を変えることによって離職の要素を排除することが可能になるため、マネジメント層におすすめしたい1冊です。
 

■菊池 裕太(2020)『自律型組織をつくるマネジメント変革』-日本能率協会マネジメントセンター

おすすめの本 自律型組織をつくるマネジメント変革従業員の離職には様々な要因があり、モチベーションの低下、数値主体のマネジメント、従業員の信頼の低下等多岐にわたっている中、現在のマネジメントスタイルでは現状を変えることが難しい状況になりつつあります。
これからは「個」に向き合っていくことで「会社が選ばれる時代」となっていくため、考え方の定義として新たなマネジメントスタイルを学び、自社の課題を整理できる1冊になっています。
 

まとめ

近年注目を集めているリテンションマネジメントについてご紹介しました。離職が少しずつ増えている、優秀人材により長く働いてほしい、そんな課題を抱えている企業にとって改めて今のマネジメントが正しく機能しているのか、従業員にマッチしているのか、まずは現状を正しく把握し、より適切な対応を求められている可能性もあります。離職率や優秀人材の流出といった課題解決のひとつに一度リテンションマネジメントを検討してはいかがでしょうか。

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