人事ねた

リカレント教育とは?明快に解説!企業の導入事例、生涯設計やリスキリングとの違い

リカレント教育とは?明快に解説!企業の導入事例、生涯設計やリスキリングとの違い

社会の変化が激しく、職業やスキルの価値が急速に変わる現代社会において、仕事で求められる能力を磨き続けていくことがますます重要になっています。その中で注目を浴びているのが、リカレント教育という学びのスタイルです。本記事ではリカレント教育とはどのようなものなのか、導入事例、生涯設計やリスキリングとの違いについて明快に解説します。

リカレント教育とは?

リカレント教育とは、学校教育からいったん離れたあとも、それぞれのタイミングで学び直し、仕事で求められる能力を磨き続けていくことです。英語で「Recurrent」、繰り返す、循環するという意味があり、「繰り返す教育」、「循環教育」という訳になります。

リカレント教育の定義

文部科学省によると、リカレント教育は以下のように定義されています。

『学校教育を人々の生涯にわたって、分散させようとする理念であり、その本来の意味は「職業上必要な知識・技術」を修得するためにフルタイムの就学と、フルタイムの就職を繰り返すことである』

 

しかし日本では、諸外国と異なり長期雇用の慣行からなかなかフルタイムでの就学と就職を繰り返すということが難しい状況があります。そこで文部科学省では、本来のリカレント教育の定義を広げ、仕事を休まずに学び直すスタイルもリカレント教育に含まれるとしています。

リカレント教育が求められる背景と現状

なぜリカレント教育が求められているのでしょうか。その背景と現状について解説します。

リカレント教育が求められる背景

背景① 職業やスキルの価値が急速に変わる現代社会に対応するため

背景② 高齢化社会の進行による中高年層のスキル更新が必要なため

 

背景① 職業やスキルの価値が急速に変わる現代社会に対応するため
技術の進化やグローバル化により、労働市場が急速に変化をしています。それに伴い求められる職業や業種のニーズも変化しており、変化に対応するためには常に新しい知識やスキルを習得し、自己啓発をする必要性が高まっているという背景があります。

背景② 高齢化社会の進行による中高年層のスキル更新が必要なため
働く年齢層が高年齢化し労働人口の減少が大きな問題になっています。2021年に70歳までの就業機会の確保が努力義務になった現在、高年齢者の労働力はとても重要です。そこで社会の変化が激しくても、高年齢者の労働力を活用するため、中高年齢を対象とした知識やスキルのアップデートが求められているという背景があります。

リカレント教育の現状

セレクションアンドバリエーション株式会社が2020年にリカレント教育の導入に関して調査を行った結果、日本におけるリカレント教育の全体的な実施率は13.1%と低い水準であることがわかりました。2018年の世界水準の平均は26%であり、日本ではなかなかリカレント教育の導入に至っていない企業が多いという現状があります。

参考:セレクションアンドバリエーション株式会社 オフィシャルレポート要旨(2022年)

リカレント教育と生涯学習の違い

リカレント教育はよく生涯学習と混同されるケースがあります。「学ぶ」という共通点はありますが、目的がそれぞれ異なっています。

リカレント教育の「学ぶ」目的は『仕事に生かすための知識やスキルの学習』に対し、生涯学習の「学ぶ」目的は『生涯にわたり行うあらゆる学習』で、仕事に無関係なことや生きがいに通じる内容も含まれます。

【具体例】
●リカレント教育
・外国語
・資格習得系科目
・ビジネス系科目
・プログラミングスキル

●生涯学習
・学校教育
・社会教育
・文化活動
・スポーツ活動
・ボランティア活動

リカレント教育とリスキリングの違い

リスキリングとリカレント教育には大きく分けて3つの違いがあります。

違い① 定義
リカレント教育の定義は、フルタイムで就学と就職を繰り返しながら新たなスキルを習得します。リスキリングの定義では就学と就業を同時進行しながら新たなスキルを習得することができます。

違い② 学びの内容
リカレント教育では、学びが個人に委ねられるため必ずしも実践があるとは限りません。一方、リスキリングでは企業が社員に求めるスキルの獲得を促すため、実践重視の取組がメインとなります。

違い③ 学びの主体
リカレント教育での学びは個人に委ねられます。リスキリングでは企業が主体となり社員への新たなスキル獲得を促進しています。

リカレント教育、生涯学習、リスキリングの違い

関連記事としてこちらも併せてご覧ください

リスキリングとは?DXの時代に何を学んでもらうべきか、有効な資格・取り組み事例を紹介

リカレント教育のメリット

リカレント教育には個人にも企業にも多くのメリットがあります。

個人のメリット① 年収アップ

個人のメリット② 様々な業界・業種で働く選択肢が広がる

個人のメリット③ 補助金を受けることができる

企業のメリット① 生産性の向上

企業のメリット② 助成金を受けることができる

 

個人のメリット① 年収アップ
令和4年に発表された内閣府の年次経済財政報告によると、正規・非正規問わず、リカレント教育を受けた者は、リカレント教育を受けていないものと比較して年収が高いという結果が出ており、正規雇用者においては2017年以降継続して年収が高いという結果も出ています。

新たなスキルや知識を習得したことにより、キャリアアップが実現し、結果として年収が上がる可能性があります。

参考:内閣府 令和4年度 年次経済財政報告

個人のメリット② 様々な業界・業種で働く選択肢が広がる
新たなスキルや知識を習得したことにより、働く業界・業種の選択肢が広がります。また近年多様な働き方を認め、副業を解禁した企業も増えつつあります。新たなスキルや知識を活用し、1社にとらわれず複数社で活躍できる可能性もあります。

個人のメリット③ 補助金を受けることができる
厚生労働省が行っている「教育訓練給付制度」という制度があり、指定されている約14,000講座の中から受講、資格取得をすると、最大で70%の受講費を国が負担してくれるというものです。受講する講座により給付率は異なりますが、全額実費ではなく補助金を受けることができる可能性があります。

参考:厚生労働省 教育訓練給付制度のご案内

企業のメリット① 生産性の向上
従業員がリカレント教育を使い仕事で生かせるスキルや知識を学んだ際、スキルアップして戻ってくるため企業にとって生産性の向上につながる可能性があります。また、リカレント教育を終えたばかりの従業員を採用することができれば、学んだスキルや知識を生かし活躍してくれる可能性があります。

企業のメリット② 助成金を受けることができる
厚生労働省では従業員の人材育成やスキルアップに助成金を出しています。
「人材開発支援助成金」は、訓練諸経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度となります。従業員が新たなスキルや知識を習得するためリカレント教育で学ぶという選択肢をとった場合、助成金を受けることができる可能性があります。

参考:厚生労働省 人材開発支援助成金

リカレント教育の課題

多くのメリットを持っているリカレント教育ですが、世界と比べて日本の実施率が低いのには理由があります。リカレント教育が抱える課題3つについて紹介します。

課題① 労働環境整備の必要性

課題② 学費負担の大きさ

課題③ 長期学習に対する周囲の理解

 

課題① 労働環境整備の必要性
リカレント教育を受けるため必要不可欠なのは学習時間の捻出です。仕事を継続しながらリカレント教育を受ける場合、労働環境の整備が必要になるという課題があります。学習時間と労働時間のバランスがとりにくい労働環境では、従業員の学びへの意識やモチベーションが低下する可能性があります。

働きながらリカレント教育を受けることができるよう、フレックスタイム制の導入や勤務時間内での学習時間の確保といった、労働環境を整備することが必要です。

課題② 学費負担の大きさ
令和4年に発表された内閣府の年次経済財政報告の中でも触れられていますが、リカレント教育を受けるとなった場合、学費の負担が大きな課題になっています。

補助金や助成金といった国からの支援はありますが、資格取得までにかかる時間を考えると短期間で効果が出るものではないため、学費の負担が大きく感じてしまう可能性があります。リカレント教育は長期的な学習で、すぐに成果が出るものではないということを理解し運用するべきでしょう。

課題③ 長期学習に対する周囲の理解
リカレント教育は長期的な学習のため、周囲の理解を得るという課題があります。
状況に応じ休暇を取得しなければならないケースや、学習時間を増やさなければならないケースもあります。そのような際、周りの従業員の理解を得ることが出来なければ、不満が溜まってしまい、長期学習に影響を出しかねません。従業員に事前にリカレント教育について理解をしてもらう必要があります。

リカレント教育の実践事例

リカレント教育を導入している企業では、どのように実践しているのでしょうか。パーソルキャリア株式会社とサイボウズ株式会社を事例にご紹介します。

事例① パーソルキャリア株式会社

パーソルキャリアでは、リカレント教育の一環として進学・留学をサポートする「FLASH制度」を設けています。FLASHとは、時短・休業/休職制度の活用を想定するシチュエーションとして下記5つの頭文字をとったものです。

【FLASH制度 5つの定義】
・Family (育児・介護・不妊治療)
・Learning (進学・留学)
・Avocation (趣味・余暇活動)
・Soccial (地域活動・社会活動)
・Health (治療・療養)

リカレント教育は5つの定義の中の「Learning (進学・留学)」に該当し、仕事の成果につながる勉強やインプットをしたいと考えている社員のための時短・休職制度です。

対象者要件を満たせば時短勤務、または最長2年間の休職が可能で、留学や進学といったスキルアップ期間に活用することが可能です。この制度により、進学・留学によって会社を離れることに対する不安が解消され、勉強やインプットへの時間が確保しやすくなっています。

参考:パーソルキャリア株式会社 人材育成の取り組み

事例② サイボウズ株式会社

サイボウズでは、リカレント教育の一環として「育自分休暇制度」という制度を設けています。どのような制度なのかというと、本格的に学校に入り学び直したい人や留学といった長期的な学習を行いたい人を支援する制度で、一度サイボウズを退職しても最長6年間は復帰が可能という制度です。

学びたいが会社を離れたくないという気持ちを持っている人を後押しする制度となり、長期学習を終えスキルアップした状態で再び復帰が可能なため、リカレント教育を受けやすい制度とも言えます。

参考:サイボウズ株式会社 多様な働き方へのチャレンジ

まとめ

リカレント教育とはどのようなものなのか、導入事例、生涯設計やリスキリングとの違いについてご紹介しました。日本では導入率が低い状態ではありますが、多くのメリットがあります。日々目まぐるしく変化し続ける社会に対応できるよう、従業員の学姿勢を企業としてサポートしてみてはいかがでしょうか。

こんな記事も読まれています