企業が採用予定者に送付する「内定通知書」。採用活動のなかで、内定通知書は重要な役割を担っており、正しい知識を持っていないと内定者とトラブルになるリスクもあります。
今回は、採用通知書と労働条件通知書との違いについて説明し、採用プロセスにおける内定通知書の持つ役割と送付方法を解説します。意外と知らない基礎知識も、人事担当者ならぜひ知っておきたい内容です。テンプレートも用意しておりますので、ぜひご活用ください。
目次
内定通知書とは?
内定通知書とは、企業が採用選考に合格した転職活動者に対して内定を通知するための書類です。この書類は、内定を知らせる証拠として扱われています。とはいえ、内定通知書は法的に交付が義務付けられていません。企業によっては内定通知書がない企業もあるようです。その場合は、内定通知を口頭ないしはメールや転職エージェントを通じて知らせるケースがほとんどとのこと。しかし、口約束となると後からトラブルになる可能性もあるため、証拠として内定通知書を送付することが多いです。
ただ、交付義務のない書面をわざわざ送付するには理由があります。それを紐解くためには、「内定」の法的な定義を理解しておく必要があるのです。
そもそも「内定」とは?
■内定の定義
内定とは、企業が候補者の採用を決定することを意味します。ここで注意すべきポイントは、企業が候補者に内定を伝えた時点で、「労働契約」という雇用関係が成立する点です。労働契約には法的効力があるため、内定を通知した時点で、企業は内定者を従業員として扱う義務が生じます。
■内々定の定義
内々定は、内定通知より前に、「内定を約束する」ことを指します。つまり内定との違いは、労働契約が成立しない点にあります。書面での通知もなく、主に口約束による取り交わしです。
新卒採用の場合、内定から入社日まで一定の期間があるため、たとえば「10月に内定を出しますね」という口約束で内々定を通知します。中途採用においては、まず通常の選考プロセス通過に伴い内々定を通知します。その後、リファレンスチェック通過後に正式に内定を出す企業もあります。
先述した通り、「内定」を通知した時点で法的効力を持った雇用関係が生じるため、リファレンスチェックを実施して慎重に内定通知を行う企業も増えてきました。
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内定通知書を交付する意味
つまり、内定の法的効力を理解した上で内定通知書を交付する意味を紐解くと、下記の2点が挙げられます。
①トラブルの回避
②ライバル(他社選考企業)より先手を取った内定通知
内定は法的効力がある契約の取り交わしであるとお伝えしました。お互いのトラブル回避のためにも、企業側は物的証拠として内定通知書を交付する必要があります。
また、中途採用の場合、候補者は複数企業を選考されていることがほとんどです。そのため、採用におけるライバル企業より先に内定を通知し、回答期限を設けるなどの工夫をして、内定者の温度感を高めていくことも内定通知書の役割としては重要な位置づけでしょう。
採用通知書との違い
結論からお伝えすると、採用通知書と内定通知書に大きな違いはありません。採用決定を通知する書面という役割は内定通知書と同じです。ただし、企業によっては意味合いが異なる場合があるため、利用する場合はどのような意味を持つ書類なのかを、内定者側に明示することが大切です。
労働条件通知書との違い
労働条件通知書とは、内定者に労働条件を通知する書類です。内定通知書とは異なり、企業側は法的に交付が義務付けられています。オファー内容を記載している書類のため、オファーレターとも呼ばれます。
法律上は入社日までに候補者の手元に渡れば問題ありません。しかし、内定者が労働条件の確認なしに入社の意思決定をする可能性は限りなく低いため、実質的に雇用契約が成立する内定時に送付するのが望ましいです。
また、内定通知書に基本的な労働条件を記載するだけでは労働条件通知書とは認められません。労働基準法で定められた項目を記載した別途書類を作成する必要があります。
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新卒採用の場合は、内定から入社日まで一定の期間があります。したがって、内定時には内定通知書を交付し、入社日までに労働条件通知書を交付するケースが多いです。一方で中途採用においては、内定から入社日までの期間が短く人事担当者には迅速な対応が求められます。そのため、内定通知書と同時に労働条件通知書を交付する企業もあります。
内定通知における基礎知識
内定は、採用活動のクライマックスです。だからこそ、人事担当者には慎重さと迅速さが求められます。この章では、あらゆる展開にも冷静に対応できる術を持っておくために、内定通知の局面で起こり得る事例を紹介します。
内定承諾後の辞退可能性
内定通知書は、内定した事実を伝えるための書類なので、内定者の承諾意思は確認できません。そのため、内定通知書と同時に案内をしておくべき書類が「内定承諾書」です。内定者が内定を承諾する場合は、内定承諾書へ入社を誓約する署名と捺印をして、企業へ返送してもらいます。
しかし、内定承諾書には法的拘束力はありません。署名をもらったあとでも、内定者が労働契約を解約できることに留意しなければなりません。なぜなら、民法では従業員は入社から2週間前までに申し出れば労働契約を解約できると定められているからです。そのため、人事担当者は、内定承諾書にサインをもらった後も、内定辞退を防ぐためのフォローを積極的に行うことが重要です。
企業側の内定取り消しは不可能
内定者が入社日の2週間前まで内定を辞退できるのに対して、企業側は一度出した内定を簡単に取り消すことはできません。
法律上、雇用主は従業員に対して、客観的に見て合理的、かつ社会通念上内定取り消しが相当と認められるような重大な事由(理由や原因)がない限り、解雇はできません。先述のとおり、内定は通知された時点で法的効力が生じるため、正当な事由がない限り内定を取り消すことはできないのです。
ただし、内定通知によって成立するのは通常の労働契約ではなく、「始期付解約権留保付労働契約」という条件付きの労働契約です。「始期付解約権留保付」とは、入社までの間に“やむを得ない事由”が発生した場合は、企業側と内定者側が互いに解約権を有するという特別な契約形態のことを指します。
つまり、内定者による「健康状態や経歴、学歴の詐称」「虚偽申告」「(学生の場合)卒業できず留年」というケースでは、企業側から内定の取り消しが認められる可能性があります。ただし、経歴詐称も従業員としては適格と客観的に判断されるレベル、健康状態の悪化も短期で回復できるレベルであれば、やむを得ない事由として認められないこともあります。
不当な内定取り消しが疑われる場合、解雇権の濫用として厚生労働省による企業名公表というペナルティや、損害賠償訴訟を起こされる可能性があります。そのため、内定取り消し事由は曖昧な設定ではなく、明確な基準が必要です。
内定通知後のフロー
さて、候補者が内定通知書をもらいオファー内容を確認できた後、どのような行動が考えられるでしょうか。内定通知後の内定者の心理から、人事担当者がとるべき行動を確認していきましょう。
まずは内定者の心理から。
最終面接を終えてから内定通知書が届くまでは、自分が内定をもらえるのか、内定通知はいつくるのかを気にしています。
そして、内定通知を受けた後は、どのようなオファー条件なのか、入社日はいつなのかを確認します。入社日に関しては、退職交渉にも影響する重要事項のため必ず目を通すでしょう。条件面の確認と入社日の調整を終えてオファー内容に合意すれば、企業側に承諾の意向を返信します。
ここまでが、内定者側の大まかな流れです。
これらを踏まえた上で、内定承諾に効果的なクロージングをするため、人事担当者が気にしておくべきポイントは下記の2点です。
①他社選考企業の動向
②現職を退職するタイミング
①他社選考企業の動向
中途採用では、ほとんどの候補者が複数企業を併願して選考を進めています。仮に他社選考企業がなかったとしても、条件によっては現職に残るという選択肢は残されます。したがって、採用におけるライバル企業より先に内定承諾を得るために、内定を決定してから内定通知はできる限りスムーズに対応するべきでしょう。
また、内定という事実を通知するだけで内定者から承諾を得るのは難しいです。内定通知書の送付から労働条件通知書の交付までの時間も早めていく必要があります。
内定から入社までの期間が短い中途採用では、内定通知書の代わりに労働条件通知書を送付する企業も多くあります。または、1枚目に内定通知書、2枚目から労働条件通知書にしているケースも見受けられます。
内定通知と労働条件通知書の交付をスムーズに進めるためにも、候補者の希望条件の把握と、採用におけるライバル企業のオファー条件には常に目を光らせておく必要があります。
②現職を退職するタイミング
内定承諾後の内定者は、現職に“退職願”を提出して退職交渉を行います。
人事担当者ならご存じの通り、現所属先企業にとっては優秀な人材の離職は避けたいのが通常の心理であり、優秀な人材であるほど引き止めは必ず起こります。
また、引き止め以外にも、これまでお世話になった企業ですから、後任への業務引継ぎや取引先への挨拶メールなども丁寧に行う必要があります。そのため、入社日の調整は現職を退職するタイミングを計る上でも重要な判断基準になり得ます。内定者の事情も考慮しながら入社日を調整していく事で、内定者からの信頼も得られるでしょう。
内定通知書の送り方
ここまで内定通知書を送付する理由や目的、基礎知識についてお伝えしてきました。さて、実際に内定通知のタイミングになったら、内定者にどのように送付するのが良いのでしょうか。
社会環境や企業文化、内定者の心理状態から、自社に最適な送り方を実践してみてください。
■郵送での送付
内定通知書を通知する際には、慎重さと迅速さが求められると先述しました。果たして、郵送での送付は、慎重さと迅速さを網羅できる通知方法でしょうか。
郵送の場合、内定から内定通知書が候補者の手元に届くまで時間がかかります。また、他の郵便物に紛れて確認されないケースもあります。時間が経つほど内定者は不安に思いますし、他社の選考を受けていれば入社意思が揺らぐ可能性もあります。
内定承諾書を同封できるため郵送する企業もありますが、承諾の意向が無ければ返送はされませんし、内定承諾書への署名には法的な拘束力はありませんから、大きなメリットにはなりません。家庭の事情で、郵送でのやり取りを敬遠する内定者もいるでしょう。
■メールでの送付
郵送に対して、メールでの送付はどうでしょうか。内定から候補者の手元に内定通知書が届くまでの時間は大幅に短縮できます。また、内定者に確認を促す際もメールか電話で連絡する訳ですから、通知ルートが2重にならず内定者にとっても分かりやすいでしょう。
内定承諾の意向は、内定承諾書の署名でもメールの返信でも意味は同じですし、何より承諾してあなたの会社でぜひ働きたいという気持ちに差はありません。ですから、人事担当者はメールを有効活用して、内定通知をなるべく迅速にお伝えする必要があります。
また、2019年4月1日の法改正により、書面での交付が義務付けられていた労働条件通知書の電子化も実現しています。メールによる内定通知書の送付ももちろん可能です。内定通知書だけではなく労働条件通知書も含めて、社会環境の変化に合った対応が求められています。
内定通知書の記載事項/テンプレート
最後に、内定通知書を作成する際に記載すべき項目を紹介していきます。内定通知書は労働条件通知書とは異なり、法的に決まった書き方やフォーマットはありません。また、あくまでも内定を通知する書面であり、給与・ポジション・役割などといった条件面は労働条件通知書(オファーレター)で通知するため、内定通知書に記載する必要はありません。
本章では、1つの見本として必要情報を記載したテンプレートを紹介します。記載事項の注意点も解説していますので、併せてご確認ください。
内定通知書に記載する必須項目
日付
用紙の右上には、「内定が確定した日付」、または「内定通知書を送付する日付」を記載します。この日付は大きな意味を持つものではないため、どちらを記載しても構いません。
宛名と差出人
用紙の左上には、宛名として「内定者の氏名」を記載します。旧字体や略字は使用せず、履歴書どおりに記載しましょう。名前を間違えることは、立場やシーンを問わず失礼にあたるため注意が必要です。
用紙の右上、宛名より下には、「会社名」と「差出人の名前」を記載します。差出人には、会社として内定を出していることが伝わるよう、会社の代表や社長の名前を使用するのが一般的です。会社名も略さず、正式な表記で記載する必要があります。
応募のお礼と内定決定の知らせ
本文では、自社に応募してくれたことに対する「御礼」と、内定が決まった旨の「お知らせ」を記載します。自由に文面を作成できますが、受け取った内定者の入社を少しでも後押しできる内容を意識しましょう。
内定取り消し事由
万が一に備えて、内定の取り消しにつながる“やむを得ない事由”も提示しておきます。
内定者側の“やむを得ない事由”のほかに、天災や経営状況の悪化など企業側に起こり得る“やむを得ない事由”も記載しておくとトラブル回避に繋がります。
解雇権の濫用とならないよう、解雇の理由として合理的かつ、法律的にも社会的にも認められる内容となるよう注意しましょう。
記書き
記書きでは、挨拶や主旨以外の内容を箇条書きにまとめます。内定通知書では、記書きで下記の項目を提示しましょう。必ず内定通知書に記載すべき内容ではないため、必要に応じて別項目を追加しながらご活用ください。
- 入社日
- 就業場所
- 内定承諾の回答期限
- お問い合わせ先
記書きの最後は、右下に「以上」と記載して締めます。
労働条件通知書を同時に通知する場合は、「労働条件」という項目を追加して、別途2ページ目参照と記載すると良いでしょう。
最後に問合せ先を必ず記載しましょう。ここでは、採用担当者の部署と氏名、連絡先を明記します。内定者が困ったときや質問したいときに相談しやすい環境を作ることも、内定辞退を防ぐ効果があります。円滑にコミュニケーションがとれるよう配慮しましょう。
まとめ
今回は、内定通知書に関わる情報をまとめて紹介しました。内定の定義から振り返り、法的観点から見た内定通知書の重要性をご理解いただけたのではないでしょうか。
内定通知書は出せばよい書類ではありません。内定通知書を送付する際には、内定者を不安にさせない迅速で丁寧な対応を意識してみてください。トラブル防止と内定辞退者の減少のためにも、内定者のフォローも忘れずに行いましょう。
内定通知書の送付は、選考プロセスのクライマックスです。最後まで、内定者が「この会社に行きたい!」と思えるような対応を心がけることが大切です。内定者には必ず、伝わります。